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Schoenberg, Arnold (1874-1951)

CD Verklarte Nacht: Kantorow / Tapiola Sinfonietta

Verklarte Nacht: Kantorow / Tapiola Sinfonietta

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    伊奈八  |  茨城県  |  不明  |  05/November/2021

    シェーンベルク作品の、磨き上げられた演奏を楽しめるCDだ。浄められた夜op.4の弦楽合奏版、弦楽四重奏曲第二番op.10の弦楽合奏版。そしてボーナスCDに室内交響曲第一番op.9が収められている。とりわけ、弦楽四重奏曲第二番は名演である。 演奏は、ジャン=ジャック・カントロフ指揮する、フィンランドのタピオラ・シンフォニエッタ。ソプラノ独唱として、クリスティーナ・ヘグマンも加わっている。カントロフは、数多くのコンクールで優勝したヴァイオリニストだ。2012年に指揮活動への専念を宣言したが、2017年にヴァイオリンの演奏活動を再開している。このCDは1994年の録音であり、カントロフが指揮活動の可能性を模索していた頃のものであろうか。演奏は、カントロフの非凡な音楽観と人間性を証明するものとなっている。 まず、浄められた夜op.4の弦楽合奏版。驚くほど技術的に追い込み、完成度を高めた演奏だ。一つ一つのフレーズの、一音一音にまで丁寧に表情付けがされており「そこまでやるか?!」と驚かされる。アンサンブルの難しい場面を、稀に見るスピードで演奏させるなど、個性的な解釈も多い。ローカルな合奏団であるタピオラ・シンフォニエッタを、カントロフは鬼のように鍛えている。しかし、何度聴いても、聞こえてくるのはカントロフの「解釈」である。音楽のストーリーや感情が豊かに迫ってくるということが無い。皮肉を込めて例えると、これは弦楽合奏コンクールの課題曲演奏のような演奏である。できるだけ良い音質で美音に浸りながら、何も考えずに解釈の細やかさや演奏の上手さを楽しむのが望ましい鑑賞法だ。 2曲目は、弦楽四重奏曲第二番op.10の弦楽合奏版だ。シェーンベルクは弦楽四重奏曲を5曲(若い頃の1曲と、番号付きの4曲)書いている。いずれも素晴らしい作品だ。中でも、弦楽四重奏曲第二番の弦楽合奏版は、シェーンベルクの作品中最も美しい曲と言ってよい。カントロフの演奏は、「浄められた夜」と打って変わって大変素晴らしいものだ。とりわけ、クリスティーナ・ヘグマンの上手さには心底仰天した。カントロフの演奏は、緩急を大きくつけている。耳慣れたギュルケの演奏ほど音楽がスラスラと流れないので、最初は違和感があった。しかし、聴き馴染むほどに、ギュルケ盤や他の演奏よりも、曲のテーマに肉薄している名演だと気付いた。 この曲のテーマを理解する鍵はいくつかある。 一つは、この曲がシェーンベルクの家庭生活の危機を反映しているということだ。妻のゲルトルート(ツェムリンスキーの妹でもある)が、居候していた画家のゲルシュトルと家出したという事件である。ウェーベルンの説得でゲルトルートは家に戻ったが、ゲルシュトルは自殺した。 二つ目は、第二楽章に悲喜劇的に引用された「愛しのアウグスティン」である。 「ああ、愛しのアウグスティン、何もかもなくしちまった!」この喪失感が、曲の根底にある。 三つめは、第三楽章と第四楽章の、シュテファン・ゲオルゲによる歌詞である。どちらも現世の苦しみから逃れることをテーマとしている。 第一楽章は、嘆き、悲しみ、よろよろとした歩み、心のざわつき、自分を嗤う空虚な笑いである。カントロフの演奏は、「浄められた夜」と同様に美しく磨き上げられているが、現世での幸福を得られなかったシェーンベルクの悲しみが至る所から聞こえてくる。 第二楽章はスケルツォだが、あまり快活にしてしまうと、曲のテーマから逸れてくる。カントロフの演奏は、曲のテーマに迫っている。悲しみを隠して空虚におどけて見せる、道化の姿が聞こえてくる。 「ほらほら、これが僕の骨だ」と歌っているような、悲喜劇的な音楽なのだ。 第三楽章は、「連祷」という詩に曲が付けられている。神に、旅と戦いに疲れ果てたことを訴え、救いを求める詩だ。何の旅なのか、何の戦いなのか、最後の数行でヒントが与えられる。主人公は、現世での愛欲のために苦しんでおり、そこから逃れたいと切望しているのである。 クリスティーナ・ヘグマンの歌唱は、音程の驚異的な正確さ、歌詞に沿った表現の適切さで、他の全ての歌手を圧倒的に凌いでいる。無調に近いメロディーにとって、音程の正確さは絶対であり、さらに、そのメロディーの味わいをよく咀嚼して、理解していることが必要だ。ヘグマンの歌を聴いて、これまで聴いてきたエヴァ・チャポの歌がいかに不十分であったか、よく分かった。カントロフによる伴奏との音量バランスも完璧である。 第四楽章は、「脱世界」という詩に曲が付けられている。この詩は、「私は他の遊星の空気を感ずる」という言葉から始まる。人間界の苦しみから逃れ、仏陀の悟りにも似た、精神的な孤高に達したいという幻視を詠っている。心に傷を負った体験を、祈るような音楽を書くことで癒そうとする、作曲者の心情が痛々しい。 しかし、シェーンベルクには、不断に新しいものを生み出そうとする衝動があった。生きる苦しみを、芸術的に表現することで昇華させたいという衝動と、新しいものを生み出そうとする衝動とが、彼を突き動かし、結果としてシェーンベルクを生かし続け、前例のない音楽を生み出させたように思われる。 この楽章でも、ヘグマンの歌の素晴らしさは際立っている。この音楽の本質を知りかったら、是非ともこの演奏を聴かねばなるまい。ヘグマンは2021年現在65歳で、声楽家としては全盛期を過ぎていると考えられるが、彼女はこの曲で最高の名演を残したのである。 カントロフについては、「浄められた夜」での感情の入らなさと、弦楽四重奏曲第二番での感情移入の深さには大きなギャップがあると言わざるを得ない。カントロフ自身が、現世を離れた別世界に理想を求める人なのではないか?とも考えられるのである。 さて、このCDには、ボーナスCDがあり、室内交響曲第一番op.9が収められている。一枚のCDに入っていてもおかしくない三曲だから、二枚組であることに気付いたときは驚いた。実際、二枚目のCDには、21分程度の曲が一曲入っているだけなのだ。おそらく、当初は一枚に収める予定だったが、トータルタイムが80分を超えてしまったために、価格据え置きで二枚組としたのであろう。メーカーのBISは、少人数による小企業で、採算を度外視して良いものを作ろうとする会社らしい。このCDにも、そんなBISのこだわりが溢れていると言えようか。また、BISのCDは音質が良いことでも知られているが、此度のカントロフのCDは、何もせずに十分な音質が得られるものではなかった。 室内交響曲第一番の録音を最初に聴いたとき、あまりに響きがシンフォニックだったので、1935年のオーケストラ編曲版op.9bではないかと疑った。実際は、残響の多いホールで録音した為にそう聞こえただけで、本来の15人奏者によるop.9であった。だが、その厚みのある楽器の響きの重なりがうるさく聞こえて、演奏の良さが分かりにくかったのである。 最終的に、相当美しく響きを整えて、ようやくこの演奏の良さも分かった。カントロフの独自の解釈は、この曲に対する私のイメージを変える程のものだった。 私のこの曲に対し、前に前に進もうとする、革新的な力に溢れた曲というイメージを強く抱いていた。ところが、カントロフは、前に進もうとする力と、後ろを振り返り、進むのをためらう力との、葛藤のドラマとしてこの曲を描いたのである。緩急をつけた解釈自体はこれまでにもあったが、カントロフほど、進むのをためらう内向的な表現を打ち出した人はいなかった。ここにも、カントロフの独特な音楽観と人間性が現れている。大抵は、テンポの緩やかな部分は、ロマンチックな感傷として表現されていたのである。カントロフの解釈は、この音楽の内容を、より奥行きの深いものとしたと言えよう。 総括すると、「浄められた夜」に関しては、お薦めの演奏とは言い難い。カントロフは1992年にも同曲を録音しているので、そちらも聴いてみる必要はあるだろう。(LYR134という型番でHMVでも購入できる。2001年発売だが、実はBIS盤より録音は古い。)室内交響曲については、同曲の解釈に新たな一ページを開いており、聴く価値があるが、オーディオ的な難易度は高いように思う。弦楽四重奏曲第二番弦楽合奏版は、同曲の厭世的な性格をかつてないほど美しく描き出している。クリスティーナ・ヘグマンの完璧な名唱と相まって、是非とも聴くべき名演である。

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