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『美代子阿佐ヶ谷気分』 公開記念!坪田義史監督インタビュー

Wednesday, September 2nd 2009

坪田義史 Tsubota Yoshifumi

多摩美術大学在学中、鈴木志郎康氏に影響を受け、「パーソナルな表現が映画になっていく現象に興味を持った」という坪田監督が初めて撮った商業映画が『美代子阿佐ヶ谷気分』である。そのきっかけとなったのは、安部愼一氏の漫画「美代子阿佐ヶ谷気分」。安部と美代子の愛情の遍歴が身体感覚が希薄な現代にどう響くのか・・・ぜひ、劇場のスクリーンでご堪能頂きたい。劇場公開初日の初回、渋谷・イメージフォーラムにてお話しを伺った。「モラルとインモラルのマージナルな部分が好き」などと、はにかみながらお話しして下さったインタビューを記念して、安部愼一さんの直筆サイン入りの原作本を5名様にプレゼント!
INTERVIEW and TEXT: 長澤玲美

カメラとヌードっていうのがすごく、相性のいい関係だというのを思っていて、ポルノを作っているっていう意識はないんですけど、この相性というのは使いたいって思いましたね。

--- 本日はよろしくお願いします。

よろしくお願いします。

--- 本日が公開初日になりますが、初回は立ち見になっていましたね。

そうですね。

--- ご自身で完成された作品を観て、改めて、どうお感じですか?

改めて・・・そうですね。ずっと何年も前から頭の中で思い描いていたことが具体的に具現化されて、僕的にはうれしい気持ちでいっぱいです。作品もいろんな人のクリエイティブな力が結集して力強い作品になったなって思ってます。

--- 周りからの反響はいかがですか?

反響は・・・今日初日でまだ上映されてないから聞こえてこないんですけど、試写ではいろんな声を聞かせてもらっていて、安部愼一さんのような一個人が作った極私的なものがじわじわと広がっていくことを企んでいるので、そうなっていけばいいなって思ってます。

--- 弊社のONLINE上で、『美代子阿佐ヶ谷気分』の劇場鑑賞券のプレゼント施策を展開させて頂いたんですが、その応募の声と致しまして、年配の方からは、「安部愼一さんの世界観が映画で観れるのはうれしい」とか「あの時代の空気が蘇ってくるようで懐かしい」という声がありました。逆に若い世代の方からは、「つげ義春さんは知ってるけど、安部さんの存在は知らなかった」というような声が多かったです。安部さんのことをこの映画をきっかけに、新しく知った方も多いですよね?

そうですね。知られざる作家というか、幻の作家というか、知る人ぞ知る作家というか。そういった、安部愼一という作家の70年代だけじゃなくて、90年代以降も彼は「私漫画」と言われる「私小説」風の作品を作っていて、時代を超えて、なお執着している「私生活」みたいなものを作品に反映しているじゃないですか?そういったものを伝えたいなというか。安部と美代子の2人を軸とした愛情の遍歴のようなものを映画『美代子阿佐ヶ谷気分』では年代記風にまとめてるんですけれども。ノスタルジックな気分でも観れる年配の方もいるだろうし、若い世代が知ることも出来るだろうし、幅広い年齢層に観て頂きたいと思ってるんですけどね。

--- 安部さんの作品は「ガロ」で連載がスタートされて、ワイズ出版さんから2000年に出版された復刻版がきっかけで、坪田さんは改めて、安部さんの作品に魅了されていったんですよね?

そうですね。再発されたものがきっかけですね。それから調べていくと他にもいろいろな短編漫画がありまして、そういった漫画をコラージュするような形で1つの話にしていったんですけど。

--- つげ義春さんが「安部愼一作品が甦えるのを誰よりも願っています」とコメントされていて、つげさんからの愛も伝わって来ました。

そうですね。そういったモロ商業主義的なものではないというか、もっと表現に純粋な漫画、それがすごく極私的な本当に一人の個人が作ったものがね、水の中に石を入れた時に広がる波紋のようにね、ぶわーって広がっていくっていうのがいろんな人に浸透していく感じっていうのはいいことだなと。

--- 坪田さんは、「私漫画家」や「私性」など、私的な表現というものに昔から興味がおありなんですか?

僕は大学が多摩美(術大学)なんですけれども、私の師が鈴木志郎康(しろうやす)という詩人で、映像作家で、個人映画を大学で学び、影響を受けていて。僕もそういったパーソナルな表現みたいなものが映画になっていく現象ことに興味があって。今度はそれを客観的にそういった作家を商業映画として、劇映画として、作ってみたいというところから始まったんですね。

--- 今回、町田マリーさんが美代子を演じることになりましたが、このキャスティングの決定は?

キャストとして探している時に、プロデューサーから紹介して頂きまして、それで毛皮族の芝居があったので、2つほど観に行かせてもらって、それですごく何て言うか・・・悲劇と喜劇の入り混じったような芝居のニュアンスを僕は求めていて、「彼女なら絶対出来る」って思って、オファーしたんですけれども。裸の多い映画なので、聖と俗の境界線上にあるようなヌード、ナンセンスなヌードをこの映画は狙っていたので、俗としては、商業漫画としていやらしい漫画として見られる人も必ずいると思うし、それをまたアートとして捉える人もいると思うんで、その中間にある身体っていうのを探していて、町田(マリー)さんの身体性の能力の高さみたいなものを舞台を観ていて感じたので、彼女になったんです。

--- 「主演だし、映像として残るし、脱いで、それがおもしろくなかったら絶対にイヤだなって思っていたので、最初はかなり悩んだ」とインタビューで答えられていたんですが、その時に坪田さんが「安部さんの生活に裸は必要だけど、裸が目的の映画ではないし、わかりやすくエッチなヌードを撮るつもりはない」とはっきり仰ったそうですね?「映画をイメージする写真や絵もたくさん熱心に見せて頂いて・・・」ともあったのですが、具体的にどのような写真や絵を見せられたんですか?

僕が好きなアラーキー(荒木経惟)さんが撮った写真集とかですね。

--- 安部愼一さん役には水橋研二さんですが、具体的にどのような演出をされていったんですか?

安部さんのものまねをするわけではなく、映画の中のオリジナリティーみたいなものを探していて、共犯者になれるように、彼は僕と同い年なんで、すごく密にコミュニケーションが取れていろんな話しが出来て。彼は僕よりも、映画に対する役者としてスキルみたいなものもあるから、僕は商業映画初めてなんで、そういったものも彼が持ってる引き出しみたいなものを探りながら、この映画の安部愼一像を2人で作っていったっていう感じなんですよね。

--- 水橋さんの演技では、坪田さんが感じる安部愼一さんというのをすごく体現されてましたか?

ただの2枚目ではない・・・すごく深みのある、複雑な表情をする役者で、それが僕はいいと思っていますね。嘘がないような芝居、すごく素直な飾りのない芝居をしてくれるおもしろい役者だと思ってますね。

--- 漫画を原作にされているということで、役者さんに「棒読みをして下さい」というような演出をされているのかなと思ったんですが。

いや、そんなことはないですね(笑)。

--- 70年代っぽくというところから、テンポやセリフが少ないっていうところもあるかもしれないんですが、いわゆる、セリフを言っている感じがしないような気がして。そこがいろんな意味で違和感を覚えたんですが。

僕としては、セリフが多いくらいの映画だと捉えてるんですけどね(笑)。あとそのナレーションの多さというか。当時の70年代の作品を観て、タイムラグみたいなもののおもしろさみたいなものが僕の中にはあったんです。古臭さと日本のユーモアみたいなものがあると思うので。

--- 他にも、「ガロ」ゆかりの方々が多数ゲスト出演されていますよね。佐野史郎さんはやっぱり、つげ義春さんの漫画「ゲンセンカン主人」が映画化された際に主演されていることもあって、今回の出演につながったんですか?

佐野(史郎)さんは知識も豊富だし、その時代の風景も見てるし、最初お会いした時もその年代の時に阿佐ヶ谷に住んでいたみたいな話しもしてもらって、もう本当、僕が演出したというよりは教わるような形で。佐野さんの芝居というのがすごく、洗練されているというか無駄なことが一切なくて。足し算ばっかりするような役者が多い中でね、抑揚というか、引き算のお芝居というか、それはもう惚れ惚れしましたね。

--- 具体的に佐野さんから「70年代の阿佐ヶ谷はこういう感じだった」ということで、印象に残っているお話しはありましたか?

「高円寺がブルースだったら、阿佐ヶ谷はジャズだ」みたいな話しはすごく、分かりやすくて。

--- 林静一さんの出演というのは?

林(静一)さんの出演もプロデューサーのつながりで紹介して頂いたんですけれども、僕も会う前は漫画はもちろん読んでたんですけれども、本当に大当たりというか、これが初めての映画出演とは思えない・・・。

--- 堂々とされていて。

そうそう(笑)。

--- 貫禄さえありましたよね。

しかも、当時の「ガロ」を知ってる生き字引のような人なので。

--- インパクトもあり、個人的に好きだったのが三上寛さんが出演されていたシーンなんですが、三上さんのそのシーンというのは、物語とは外れた、急にぽんっと展開が変わるような場面でしたね。

安部さんの漫画の中の酔っ払いが珍入してくる部分があって、珍入者という・・・何かこう、フリーキーな(笑)。突然変調する音楽とカットアップというか(笑)、ハプニング性が欲しかったので、三上(寛)さんがすごくマッチしてるなって思って。で、ライブを観に行ったんですけど、まあ・・・超かっこよくて(笑)。

--- 超かっこいい・・・(笑)。

うん(笑)。荻窪あたりの小さなライブハウスで、石塚(俊明)さんがドラマーなんですけど、2人でやってるライブがあって、すごいかっこよかったなあ。

--- 観てかっこいいって、頭で考えることではないと思うんですが、坪田さんはどういう方に魅力を感じられるのかなあと思いまして。

僕が惹かれるのはやっぱり、芸術家ですね。やたら自分を大きく見せようとかする人っていっぱいいるじゃないですか?そういうんじゃなくて、存在自体がアーティストみたいな人が僕は惹かれます。役者の選別とはまた違ってね、趣味趣向の話しですけど。

--- 美大に在学されていると、作品にも、また周りの環境的にも表現者が多いと思うんですが、日々刺激は受けますよね?

そうですね。本当に道端のゴミ捨て場とかから、インスピレーションを受けることもありますね。“ゴミ神様“って言ってるんですけど、“ゴミ神様“を見つけると、ちょっと1日うれしくなるんですよね(笑)。

--- “ゴミ神様“というのは具体的に?(笑)。

誰かが食べたフライドチキンの骨とかが風化してて、1つの骨としてアスファルトの上にあるとか(笑)。そういう瞬間、「わあー」ってなりますね。とか、とんぼが秋口にそのままの形で死んでたりすると、また、「わあー」って(笑)。

--- 「わあー」って(笑)。“ゴミ神様”のお話しからのつながりで・・・なんですが、わたしは大竹伸朗さんをすごく尊敬していて大好きなんですけど、大竹さんがおっしゃっていたのは、「カラスのコラージュには敵わない」って(笑)。

確かにね(笑)。あと僕は、茶の間のブラウン管・・・液晶テレビになってからその体感はないんですけど、テレビに流れてる映像が家族がいて・・・みたいな状況下で、唐突なヌードとかが出てくるっていうのはすごく、その風景っておもしろいですよね(笑)。

--- 今はそういう風景が少なくなってきてますよね。気まずくなって、チャンネルを変えるとかそういうことですよね?(笑)。

そうそうそう(笑)。そこに何か、おもしろみを感じちゃうんですよ(笑)。モラルとインモラルのそういうマージナルな部分が好きなんですよね。

--- 「身体感覚が現代は希薄だ」とおっしゃってましたが、それは特にどういうところで感じますか?

例えば、メールで文章を書いてるとか、コピペとか、携帯で電話するとか。ものすごくスピード感はあるんですけど、身体はじっとしているような。身体は止まっているんだけれども、意識の中ではめまぐるしく動いているような。実際、ものすごい高速な感じで身体は動いてるのかもしれないけど、実はゆっくりみたいな時間感覚みたいな・・・何か、ショートカットするところで出てくる不具合みたいなところと。まあ、たぶん僕がアナログな人間なんだろうなって思うんですけど、それに身体が耐え切れなくなっているんじゃないかみたいなことは感じますね。

--- 日頃、違和感を感じられることは多いですか?

違和感というか、精神的に病むっていう状態はあんまりよくないんじゃないかなって思いますよね。だから、脚本とかを書くのもずっと座ってる作業なので、そうやってると頭おかしくなるんで、歩きながら書くみたいなね。企業でも、歩きながら会議するとかやってるみたいですね。歩きながら電話で会話するのと、やっぱり違いますからね。

--- 身体感覚を『美代子阿佐ヶ谷気分』では、全面に出せたといいますか。

僕はカメラとヌードっていうのがすごく、相性のいい関係だというのを思っていて、ポルノを作っているっていう意識はないんですけど、この相性というのは使いたいって思いましたね。何か・・・超えたいですね(笑)。そこにしか真実がないんじゃないか・・・猥褻さとか神聖なるものとか、いろんなものを乗り越えていかないと辿り着けないものがあって、それを倫理とかテレビで流せないとか、そういったハードルがあると思うんですけれども、そういうところを超えたところで・・・それがこの映画館、イメージフォーラムでかかるっていうのがすごい、おもしろいなって思いますね。

--- これから先も、カメラとヌードの相性のよさというものを映像で撮るということは続けられそうですか?

興味あります(笑)。またそれは、その時によってですね。

--- 安部愼一さんの2人の息子さんも参加されている、SPARTA LOCALSさんが主題歌を担当されていますが、この決定というのはプロデューサーさんのご意見があってのことだったんですか?

そうですね。でももちろん、僕もそういった現実が映画に突然入ってくるっていうのがすごくリアリズムがいきなり入ってきて、どういった変化を起こすのかなみたいなものに興味があるので、そこはトライしたいなと思いましたね。すごく思い入れのある、「水のようだ」っていう曲を使わせてもらえることになったんでよかったなって思ってます。

--- 思い入れのあるというのは?

SPARTA LOCALSから何曲かリストでデモ版をもらって、一番「もうこれだな」って。そこにはまだ、歌詞も付いてない状態だったんですけど。

--- 音のイメージが。

うん、そうですね。

--- 最後に安部愼一さんご本人が出演されますよね?映像で拝見して、「こういう方なんだ」ということを知ったと同時に、緊張したといいますか、はっとしました。安部さんは出演に対しては好意的に?

そうですね。本当はあの映像を入れるか迷ってた時期があって、安部さんの方から電話がかかってきて、「実は僕は出たがりで・・・出してくれないか」みたいなことも言って頂いて、それで何度か編集の中に安部さんのポートレイトみたいな感じで使えたらなって。そしたらすごく、SPARTA LOCALSの曲とマッチして、深みが出たなあと(笑)。

--- お父様で息子さんですもんね。すごい縁が・・・といいますか(笑)。

そうそうそう(笑)。

--- 今日から公開になりまして、これから東京では1ヶ月くらい上映される予定なんですよね?

それはね、成績次第なんですよね(笑)。

--- トークショーも予定されてますよね?

そうですね。(坪田義史監督×各日ゲストありのトークショーは、連日19:10の回上映前です。24日(金) 大久保賢一さん、25日(土) しまおまほさん、26日(日) 吉川スミスさん、27日(月) サミー前田さん、7月28日(火) 佐々木誠さん、7月29日(水) 高野愼三さん、7月30日(木) 竹馬靖具さん、7月31日(金) 内田春菊さん、8月1日(土) 工藤冬里さんが決定!)

--- その後、広がりを持って、全国で上映されるかもしれないという。

そうですね。

--- 「これだけは最後に伝えたい、言っておきたい」というようなことがありましたら、坪田さんのお言葉でお聞かせ頂きたいのですが。

この映画が放つ波動みたいなものを感じてもらえたらいいなって思いますし、もちろん、その波動を受け取った・・・何ていうか、すごい分かりやすいメッセージではないんですけど、まともに時代を生き抜いてサバイブしようという、何か1つの力みたいなものを感じて欲しいなって思います。

--- 上映がいろいろなところでされることを陰ながらですが祈っておりますので・・・本日はありがとうございました。

ありがとうございました。


中央線凱旋ロードショー! 【東京】 8月29日〜9月11日 ポレポレ東中野 
※9/5 16:10の回上映前 原マスミさん、シバさん、坪田監督によるトーク&シバさんライブ

以下地方公開劇場

【名古屋】 9月12日〜9月25日 名古屋シネマテーク、【沖縄】 9月12日〜9月18日 桜坂劇場、【仙台】 10月3日〜16日 桜井薬局セントラルホール、【大阪】 10月3日〜30日 第七藝術劇場、【新潟】 10月24日〜11月6日 新潟シネウインド、【福井】 11月7日〜11月13日 メトロ劇場、【福岡】 KBCシネマ 時期未定
美代子阿佐ヶ谷気分
プレゼント原作者 安部愼一さんのサインが入った「美代子阿佐ヶ谷気分」を抽選で5名様にプレゼント!

※応募締切 2009年8月31日(月)
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