60年代にPrince Busterのレーベルでレコーディングを経験した後、67年にニューヨークへと渡りサウンド・システムを始めたLloyd "Bullwackie" Barnes。70年代はじめには、ブロンクスに地下スタジオを建設。ここに、Wackie'sレーベルが産声を上げた。Lloydは、レーベルのオーナーとしての傍ら、自身もChosen Brothers、Bullwackie名義でアルバムをリリース。プロデューサーとしては、自身のレーベルでの活動以外にも、Lee Perryや小玉和文、国内外の名士達とのセッションでもその名を馳せている。
Wackie'sは、1974年頃から本格的に録音を開始し、ニューヨークで活動していたジャマイカ人シンガー、Wayne Jarrettやジャマイカからの有名なビジター、Horace Andy、Sugar Minottらの作品を吹き込んでいった。1977年に始まった『African Roots』ダブ・シリーズは、Wackie'sのセッション・クルーの主要メンバーであったClive Huntがブロンクスのスタジオ、Five Artsで制作したのが第1弾となり、2作目以降、Wackie'sからのリリースとなった。Lloyd BarnesとエンジニアのDouglas Levyは、Jackie MittooやLeroy Sibblesといったジャマイカの大物ミュージシャンと組んで、独自のサウンドを作り上げていった。「渋い」と一括りにしてしまうのはあまりにも乱暴かもしれない。人種の坩堝ニューヨークらしい洗練された雑多感もあり、また、したたかさやしぶとさをも携えたWackie'sの音塊たち。
この度めでたくCD化と相成るのは、Wackie'sダブの最後の砦とも呼ばれる『Black World Dub』。1979年にWackie'sの標榜レーベル=Hardwaxより極少数枚プレスされ、入手困難を極めた幻のダブ・アルバム。本アルバムは、Heptonesのリード・ヴォーカリスト/ベーシストであるLeroy Sibblesが、Wackie'sレーベルに残した音源や、彼のStudio One時代の名曲をWackie's Rhythm Forceの演奏、ダブワイズとして再演したものが収められている。
タイトル・トラックの「Black World」は、78年にBullwackiesレーベルより12インチ・リリースされたLeroy Sibbles「This World」のダブ・ヴァージョン。Horace Andyの同名クラシックの再演となる「Skylarking」は、パーカッションが打ちまくるヘヴィーなステッパーズ・ダブ。Heptones「My Guiding Star」を下敷きにした「Mornig Star」、Delroy Wilson、Dennis Brownの名唱で知られる「Rain From The Sky」のステッパーズ・ダブ・ヴァージョン「Rain From The Cloud」など、良い意味で「Wackie'sらしからぬ」ミリタント調の激しいステッパーズが目白押しだ。
純正ジャマイカン産レゲエ、あるいは英国製のそれとも異なる、ニューヨークはブロンクス・ゲットーの地下室から産声を上げた唯一無二、気宇壮大なロッカーズ・サウンド。ズッシリとした重量を持つリディム、にじり寄る凍てついた音像、そして、時に美しくメロウに転がるメランコリー。Wackie'sサウンドの真髄を知れば知るほど、その中毒性高き「スモーカーズ・デライト」的心地良さから逃れられなくなってしまうのだろう。