WEB版 月刊PHILLY Vol.2

Monday, June 21st 2010

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WEB版 月刊PHILLY (6月号)

フィリー・ソウルに所縁のある著名人にお話を訊く「月刊フィリー」掲載のインタヴュー、このWeb版では冊子には収められなかった発言を含めた拡大版としてお送りします。第二回目は、ゴスペラーズのリーダーでソウル・フリークとしても名高い村上てつや氏。古いソウル・ミュージックには「後追い世代ゆえの憧れ」で接してきたというが、ヴォーカル・グループを率いる氏だからこそ実感できるフィリー・ソウルの粋について、その思いを熱く語っていただいた。
(インタビュー・文:林 剛)


 
   

WHY I ♡ PHILLY   村上てつや(ゴスペラーズ)

テディが亡くなる前々日にハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツのファースト・アルバムを聴き直していたんですよ

――まず、フィリー・ソウルとの出会いについて教えてください。

村上スピナーズとかですかね。大学でア・カペラのサークルにいながらリズム&ブルースの研究会にもいて、そこで取っつきやすかったソウルがフィリー時代のスピナーズ、それにハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツオージェイズで。どれもヴォーカル・グループですから、コーラスの勉強にもなりましたし。オージェイズの「For The Love Of Money」のベースラインを拝借して曲を作ったりもしました。フィラデルフィア・ソウルって、豪華なソウルじゃないですか。鳴ってる音はゴージャスで気持ちのいいものが多いですから、その芯を捉えて、ア・カペラとかヴォーカル・グループに持ってこられる味わいとかコアな部分をすくい取ろうとしてたんですよ。60年代のヴォーカルものより和声もカッコいいし。自分たちのファースト・アルバムスタイリスティックスの「Betcha By Golly, Wow」をア・カペラでカヴァーしてるんですけど、スタイリスティックスもデカイですね。当時(70年代初期)の彼らはPIRではないですけど。


――やはりソロ・シンガーよりはヴォーカル・グループものに耳がいく、と。

村上:ソロものに関してはスタックスとかハイの方が好きで。フィリー・ソウルは最初聴いた時、むしろカッコ悪いソウルっていう気が……。何て言うのかなぁ、「ソウル・トレインのテーマ」とか、あれはあれでいいんだけど、スリー・ディグリーズが出てきてジャッチャカチャ〜ン!ってやられても、懐メロじゃん、ていうね。逆にスタックスとかは、もっと古くてダサいものなのかもしれないけど、懐メロにはならないrawな感じがある。ただ、個人の趣味とは別に、グループとしてア・カペラっていう打ち出し方がウケたし、当時20歳の若者にとっては“ウケる”ってことはイコール楽しいですから、だったらウケるものをやりたい、と。もちろんテディ・ペンダーグラスやオージェイズのエディ・リヴァートはヴォーカルの凄さがあるから最初から好きでしたよ。

――テディ、今年一月に亡くなってしまいましたが。

村上:実はテディが亡くなる前々日にハロルド・メルヴィン&ザ・ブルー・ノーツファースト・アルバムを聴き直していたんですよ。あそこに「I Miss You」って曲がありますけど、ゴスペラーズにも同じタイトルの曲があって……。その曲をコンサートのためにリアレンジしようと思って、ブルー・ノーツのほうの「♪ミスユー ミスユー ミスユー...ドデ、ドデ」っていう印象的なフレーズをウチの曲のなかに取り込んで遊ぼうと。そう思って聴き直していたら、その2日後に訃報がきて……ビックリしましたね。


――何と……。

村上:とにかくブルー・ノーツのファーストはジャケットの素晴らしさ。青いバックに黒い肌の人たちが並んだだけで、何でこんなにカッコいいんだろうって。ブルー・ノーツは、ヴォーカル・グループ的に妙味があるかと言えばテディのひとり舞台であんまり面白くないですけど、ただ、意外に振付け系だったりするから楽しいっていう。そういえば、ハロルド・メルヴィンが亡くなる2ヵ月前(97年)にNYでブルー・ノーツのコンサートを観ていたんですよね。

――シャロン・ペイジが正式メンバーとなってからのブルー・ノーツ。

村上:そう。でも、やっぱね、男のグループは男だけでやらなきゃダメなんですよ、ホントに(笑)。女性は絶対入れちゃダメなんですよ、音として。リード・シンガーとしてフロントにいるんだったらいいんだけど、混ぜちゃダメ(笑)。唯一、男女を混ぜていいのはファミリー・グループだけ。それ以外はダメ。女性の声が入ってるだけで興醒めするんですよね。自分はもう、ソウル的には完全に男根主義者ですから(笑)。

――では、ジョーンズ・ガールズのような女性グループはどうでしょう?

村上: 好きですよ。特にジョーンズ・ガールズのPIRでの1作目『The Jones Girls』は。あのアルバム聴いてていつも思うんですけど、女性のアダルトなハーモニーが聴けるあのタッチの音楽は、今後日本ではもう永久に出てこないだろうっていう……ある種のノスタルジーというか。昔の日本だったら、ハイ・ファイ・セットとかサーカスは、そういうアダルト・ミュージックの素晴らしさがありましたけど。例えば「This Feeling's Killing Me」とか、曲のタイトルとか、その打ち出し方からしてハナから子供相手にしてないわけじゃないですか。“色気出しすぎない大人の女の色気”みたいなもので勝負したような。アメリカでもああいう音楽はジャズ・ヴォーカルみたいなところに残っているぐらいで。ただ、あのタッチは一時期までのアメリカのR&Bヴォーカル・グループの中では残っていたと思うんですよ。アン・ヴォーグとか、それこそエクスケイプなんかは「Who Can I Run To」をカヴァーしていたわけだし……わりとガチャガチャした人たちも、あそこ(アダルトな雰囲気)には憧れがあるというか。今、40歳前後の人は、ああいうアダルト・ミュージックというのが子供の頃の記憶として残っている。そういう音楽のPIRにおける代表格がジョーンズ・ガールズだと思うんですよね


――確かにそうかもしれません。

村上:男性で言うと、オージェイズの『So Full Of Love』にそういうタッチがある。あそこに入ってる「Brandy」とか、凄くいい曲ですよね。

――フューチャーズはどうですか?

村上:フューチャーズの場合はヴォーカル・グループの音作りのお手本なんですよね。自分自身が手本にしているのが、テンプテーションズドラマティックスフューチャーズ、この3グループが5人組の音作りという意味で凄く参考になるんですよ。自分の黄金律としては、モーメンツが歌いそうな曲を作って、それをテンプスとかドラマティックスとかフューチャーズのような感じにするっていう。そこが自分のツボであり、なおかつ、そういうふうにして作るとウケるんですよ。特にフューチャーズは(ゴスペラーズ同様)アルバム一枚の中にメンバー全員の見せ場がありますし。特に「Party Time Man」のコンセプトはゴスペラーズもパクっていて、BPM120ぐらいでディスコっぽく展開して、サビの手前でベース・ヴォーカルを一声入れるっていう。それを「Vol.」っていう曲でやってるんですけど。


――なるほど。フューチャーズといえば、レア・グルーヴ文脈で「Ain't No Time Fa Nothing」が人気を集めていたりもしますが。

村上:いや、あれはいいんだけど、若いDJがあれだけをかけるのは違うんだよなぁ〜って。あれはアルバムの2曲目として聴くんだよ、っていうね(笑)。確かにカッコいいし、聴いたことがない人が多いこともあって新鮮でカッコいい曲として残っていくとは思うので、そういう(DJたちの)使い方は否定できないけど、でも、2曲目で聴くともっといいんですよ、って。俺なんか、あのアルバムは絶対“通し聴き”ですからね。少なくともLPの片面は一気に聴きます。




ギャンブル&ハフの押しつけがましさ、所属アーティストに対する首根っこの押さえ方って、ウザいけど天才的でもありますよね。

――ところで、フィリー・ソウルの立役者であるギャンブル&ハフトム・ベルについてはどうですか?

村上:スウィート・ソウル・ファンっていうところに身を置いちゃうと、自分はトム・ベル派になりますね。 PIRが作っているものには理想主義者というか完璧主義者な面が出すぎていた部分があるのかなと。特に初期の頃にそういう感じが強かったから、そこで育てられた後期PIRの裏方も若干アタマでっかち系というか。例えばデクスター・ウォンゼルのサウンドとかも気持ちいいんだけど、不気味なオタクさみたいなのが残ってるんですよね(笑)。それは一般的なスウィート・ソウルのレーベルにはないもので、これはボスであるギャンブル&ハフのパワーかなと。

――音楽と同等にメッセージを尊ぶというあたりもギャンブル&ハフならではですよね。

村上:そこがPIRの一番ウザいところで(笑)。同じようなテーマの曲を全アーティストにやらせて、しかも同じアーティストの中にそうした曲がいくつも入ってくる。それがウザいっていうね。オージェイズとか、例えば『Family Reunion』なんか曲やサウンドは凄くいいんだけど、途中から面倒臭くなってくるというか(笑)。でも、ギャンブル&ハフの押しつけがましさ、所属アーティストに対する首根っこの押さえ方って、ウザいけど天才的でもありますよね。モータウンと違ってレーベル・イズムが最後まで残っていたのも特殊だし、ボスが首を取られずにずっとやれていたのは、それだけの強力なカラーやパワーがギャンブル&ハフにはあったんだな、と。権力者としての振る舞いはモータウンのベリー・ゴーディとかスタックスのアル・ベルとかのほうがあったと思うんですけど、ギャンブル&ハフには良くも悪くもビジネスマンとしてのしたたかさや凄味があったのかなって思いますね。それは今のネオ・フィリーの連中にも残っていて、例えばラリー・ゴールドのような当時(のPIR)の空気を知っている人がクエストラヴのような若いクリエイターと一緒にヒット・ソングを作っている。単に“リスペクトしてます”ではなくて、ボスに首根っこを押さえられていて、良くも悪くも、いや、良くもだな……そうやってミュージシャンを圧しとどめていて、しかも本当に人が(地元から)出ていかなかったという、そこがフィリーの凄さですよね。


――そういえば村上さんは、数年前にPIRを表敬訪問されたそうですが。

村上:ええ。バニー・シグラーとか故リンダ・クリードの部屋を見せてもらいました。あれは感激しましたねぇ。バニー・シグラーはフィリーの魔人っていうか、凄いマジックを持ってるんだけど、一般的には全然“来ない”人じゃないですか(笑)。ヴォーカル力は凄いんだけど、どんな声も出るタイプの人って感じで、ちょっと器用貧乏というか。でも、PIR時代の「Picture Us」とか大好きですね。あと、ギャンブル&ハフのスタジオ(※筆者註:シグマ・スタジオとは別の、PIR本社内にあるスタジオ)でノーマン・ハリスアール・ヤングが録ってたって話を聞いた時も感激しましたよ。ガラージとかゲイ・ディスコに流れていくフィリー・ソウルってのも凄く好きで、そのリズムの基礎を作ったベイカー=ハリス=ヤングのトリオは最高に好きだから。

――MFSB最高!と。

村上:影響力の大きさは一番だと思いますよ。ミュージシャンの個が立っているという意味では、(モータウンの)ファンク・ブラザーズや(スタックスの)MG’sの方が上かもしれないけど、今の音楽に与えた質感という意味で言うと、影響力、一番デカイんじゃないかと思いますね。アール・ヤングのドラムがハウスに与えた影響とか、アンダーグラウンドの音楽にもオーヴァーグランドの音楽にも影響を与え続けている。マニアの音楽でもあり、全然マニアでない音楽でもあり続けるという。それは凄く重要なことですよ。MFSBのリズム・セクションのムードは、いまだにいろんなところに影響を与えているんじゃないかと思いますね。

――ストリングスについては、どうでしょう?

村上:フィリーの弦はラインがいいんじゃなくて録音がいいっていうのが俺の評価で。雰囲気モノなんですよ。フィリーといえば弦って思うかもしれないけど、本当にいいのはベイカー=ハリス=ヤング。弦はシカゴ・ソウルの方がいいかもしれない。ただ、フィリー、特にPIRっていうレコード会社は、これは高級なんだよ、いいものなんだよ、っていうふうに見せるのがホントに上手かった。その雰囲気を体現したのがフィリーの弦だと思うんですよね。あと、レーベル名、それにジャケットのアートワークや写真も上質感があったし。で、それらとあのゴージャスな音が相まった時に一気に憧れに昇華されるというか。

――今回、70年代後半以降の後期PIRの作品がリイシューされることを喜んでいただいているようで。

村上:ええ。例えばスタックスにも前期と後期がある。あと、モータウンに対してのインヴィクタスのように、いかにもモータウンっていうサウンドが移動して、その進化形としてインヴィクタスが存在した。そうした後期の部分ってマニアしかいかない(聴かない)ところで、今回、PIRもそうした時代のものが復刻される、という嬉しさですよね。それも(後期PIRのスターだった)テディ・ペンダーグラスのお告げっていうか、テディの神託っていうか(笑)。テディも“もっと聴いてくれよ”っていう気持ちで逝ってしまったのかなぁって思いますよね。



 

Profile

村上てつや
 

村上てつや(ゴスペラーズ)

ゴスペラーズ:1991年、早稲田大学のアカペラ・サークル<Street Corner Symphony>で結成。1994年8月15日、ファイルレコードよりミニアルバム『Down To Street』をリリース。メンバーチェンジを経て、1994年12月21日、キューンレコードよりシングル「Promise」でメジャーデビュー。2000年8月リリースのシングル「永遠(とわ)に」、10月12日リリースのアルバム『Soul Serenade』が、記憶に残るロングセールスを記録しブレイク。2001年3月7日リリースのシングル「ひとり」が、アカペラ作品としては日本音楽史上初のベスト3入りとなる。2001年6月6日にリリースされたラヴ・バラードのコレクション・アルバム『Love Notes』が大ヒット。ミリオン・セールスを記録する。 以降、「星屑の街」「ミモザ」など多数のヒット曲を送り出す。2004年11月17日には、デビュー10周年を記念した初のベスト・アルバム『G10』をリリース。また、他アーティストへの楽曲提供、プロデュースをはじめ、ソロ活動など多才な活動を展開。日本のヴォーカル・グループのパイオニアとして、アジア各国でも作品がリリースされている。

⇒ゴスペラーズ オフィシャルサイト
⇒GosTV
⇒てつブロ露天(村上てつや公式ブログ)

 


 
 
文中出てきたアーティスト
* Vol.1に出てきたアーティストは割愛させていただきます。
 
 
  スピナーズ
時代にあわせスタイルを変えながら長きに渡り活躍したグループ。フィリー時代はフィリップ・ウィンがリードVo。
 
 
 
  スタイリスティックス
史上最高のファルセット、ラッセル・トンプキンス・Jr擁するグループで「愛がすべて」などヒット曲多数。
 
 
 
  スリー・ディグリーズ
「ソウルトレインのテーマ」や「荒野のならず者」で知られる女性3人組。細野晴臣&松本隆コンビの「ミッドナイト・トレイン」を歌ったりも。
 
 
 
  ジョーンズ・ガールズ
シャーリー、ブレンダ、ヴァリーの三姉妹から成るPIRを代表する女性ヴォーカルグループ。
 
 
 
  ハイ・ファイ・セット
抜群のコーラスワークと都会的な洗練されたアレンジで70年代後期から人気を博した男性2人、女性1人から成る日本のVoグループ。
 
 
 
  サーカス
アカペラもこなす歌唱力と温かみのあるコーラスで知られるベテラン4人組グループ。78年に「Mr.サマータイム」が大ヒット。
 
 
 
 
  アン・ヴォーグ
90年代R&Bを代表する女性グループ。華やかなルックスと思わず聴き惚れてしまう見事なハーモニーが魅力。
 
 
 
  エクスケイプ
ジャーメイン・デュプリのサポートで93年にデビューしたグループ。Jones Girlsの「Who Can I Run To」のカヴァーがヒット。
 
 
 
  フューチャーズ
バリトンとファルセットが交互に歌い、低音とバックコーラスが支えるプッシュ・プル・スタイルのお手本的グループ。
 
 
 
  テンプテーションズ
ヴォーカル・グループの代名詞的存在でモータウンを支えた。フィリー全盛当時は第二黄金期で、デニス・エドワーズがリード。
 
 
 
  ドラマティックス
スタックス傘下のVoltで活躍したヴォーカル・グループ。「In The Rain」「Whatcha See Is Whatcha Get」など名曲多数。
 
 
 
  バニー・シグラー
クリエーター集団「ヤング・プロフェッショナルズ」のひとりとして、フィリー周辺アーティストに楽曲を提供した才人。
 
 
 
  ベイカー=ハリス=ヤング
ロニー・ベイカー(b)、ノーマン・ハリス(g)、アール・ヤング(dr)のMFSBの中核メンバーでプロデューサーとしても傑作を次々輩出。
 
 
 
  MFSB
フィリーソウルの総本山、シグマ・サウンド・スタジオを拠点にしていたミュージシャン集団。グループ名義で作品も発表。
 
 
 
紙版 月刊PHILLY!
 
 

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WEB版 月刊PHILLY Vol.1
(松尾潔)

WEB版 月刊PHILLY Vol.1
 
 
 
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