【インタビュー】坂本美雨 pt.2
Thursday, May 13th 2010
自分の体の中に棲んでいるリアルなファンタジー
- -- 音の方に話を戻しますが、The Shanghai Restoration ProjectのDave Liangとの共同制作ということで、 そのきっかけをお聴きしたいんですが。
坂本 きっかけは、iTunesでThe Shanghai Restoration Projectと、彼がプロデュースしたDi Johnstonのアルバムをすごく好きで聴いていたんですね。 声の扱いを、打ち込みの人としては意外なくらい大切にしているなと思い、全然知らない人とコラボレートしたかったので、myspaceからメールを送ったら思いがけなくすぐに(自分の曲を)聴いてくれて、声を気に入ってくれたみたいで。 そこからトントン拍子に「やりましょう」っていう話になりましたね。 ニューヨークでも住んでたところが近くって、会いに行ったらとても気の合う方でした。
- -- 作業の前に直接会いに行ったんですね?
坂本 そうですね。まず普通に会ってお茶して。
- -- どういう方なんですか?Daveさんは。
坂本 すごく頭が良いです。そして仕事が速いです。 アーティストの側面と…、“ビジネス”と言ってはなんですけどそういう側面の両方を持っていて、とてもバランスが良い人ですね。 自己満足ではなく、自分が作ったものをどういう人達に聴かせたいか、宣伝方法としてどう伝えるかまでを、最初から考えていて。 ニューヨークに住んでるミュージシャンは、いろんなことを全部自分でやっている人も多いですし…、そういうことを当たり前に考えているところが勉強になりますね。
- -- 実際の作業はどのように行われたんですか?
坂本 去年の8月に彼が来日して、その時に2人だけで1週間スタジオに入ってプリ・プロダクションをしまして。 その時の作業がとてもスムーズに運んで、5日間ぐらいでこのアルバムの骨格が出来上がったんです。 その時期から、この「1日の始まりから終わりまで」っていうイメージは変わってないですね。 そこから彼が音を持ち帰ってトラックを作って、私が歌詞を書いて、11月に日本で歌録りの時にまた彼が来てくれて。
- -- その間のやりとりっていうのは、どういう感じだったんですか?
坂本 メールとネットですね。たまにスカイプとか。合間で私もニューヨークに行って打ち合わせたりもしました。
- -- トラックメイキングは、ほぼ全面的にDaveさんがやっていたわけですね。で、坂本さんが歌詞を書かれて。 メロディーに関してはどうですか?
坂本 トラックとメロディーの作業が全く同時で、プリプロの時に…例えばDaveが1つコードをぽーんと弾いたら、その上で私が「ラララ〜」と(笑)。「じゃあそれだったらこのリズムでいこうか」っていうキャッチボールでした。
- -- 詞の方なんですけども、作詞の際に気を付けていたことはありますか?
坂本 言葉を優先してリズムを止めるよりは、流れ、フロウを優先させる。基本的にはそっちの考え方でした…けども、その中でもインパクトのある日本語は使いたかったし…、響きの美しさは譲れなかったですね。
- -- では、これまでのアルバムとの大きな違いは何ですか?
坂本 大きな違いは、自分個人の感情で書くというよりは、イメージする架空の人の気持ちになったりとか、誰かの役に立ちたいとか、自分じゃなくてベクトルが人に向いてた…っていう、それが初めてだったかもしれないですね。普通に自分で歌詞を書いてたら出てこない言葉とか、積極的な姿勢とか(笑)が臆せず出せた、と思います。
- -- これまでの作品よりも、単純に音の響きがポップだなと感じたんですけども、その辺りはやはり意識されていたんですか?
坂本 そうですね。一番最初にDaveに言ったことが「明るいアルバムを作りたい」だったんですよ。 今までそういうモノを作ったことがないので、「あなたの力を借りて明るいモノを作りたい」と(笑)。 彼の中では、もっとミステリアスだったりオリエンタルだったりというのもあると思うけど、 明るくポップで、そしてヴォーカルを大事にするっていうことはずっと崩れずにあったんじゃないかなと思います。
- -- ではここからは、アルバムからちょっと離れた質問をさせていただきたいんですけども、 twitterの方でデジカメをなくされた、とつぶやかれていましたが…。
坂本 出てきました(笑)。書かなきゃと思ってたんですよ(笑)。
- -- (笑)。どこにあったんですか?
坂本 (恥ずかしそうに)う〜ん…、ベランダ(笑)。
- -- ベランダですか(笑)!
坂本 たぶん寝ぼけてたんですけど、朝日の入り具合がすごく良くって「あー撮らなきゃ!」と思ったらしくて。 で、ベランダにポンと置いたみたいなんですよね。そのあと「ない!ない!」って大騒ぎしまして(笑)。
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-- 良かったですね〜(笑)。
では次ぎの質問ですが、最近気になったニュースはなんですか? 坂本 気になったニュース…、いっぱいあるなぁ。動物の虐待とが増えてたり、っていうのはすごく気になってて。 虐待を個人で減らしてゆくのは大変なんですけど、“free pets”っていう団体が今立ち上がろうとしてて(※インタビュー時4/20現在)、まずはこのペットブームのダークサイドや、一年に30万匹ともいわれてる、殺処分される犬猫達に関しての現状を広く知ってもらったり、日本ではペットに関する法律自体がちゃんとしてない部分もあるので、専門家も含めてそういった活動を始めようとしてます。
急にそういうニュースが増えたと思いません?ずっとあったとは思うんですけど、ニュースとして取り上げられるのが多くなってきた気がして。-
-- つい最近もありましたね。僕も気になってしまいますね、家にネコがいるので…。
(※しばしネコ談義)
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「FreePets〜ペットと呼ばれる動物たちの生命を考える会」(愛称:ふりぺ)
twitter上の会話から始まった有志の会であり、音楽関係では坂本美雨/坂本龍一/信藤三雄/もりばやしみほ、などの他、さまざまな分野からもメンバーが参加。 人間も動物も幸せになれる社会の実現を目指し、ペットや動物に関する情報を知り、それを発信しみんなで考える。 現在Webサイトを公開中。 twitterではハッシュタグ「#freepetsjp」を入れることでつぶやきを共有できる。
http://freepets.jp/
- -- また話は変わりますが、雑誌『SWITCH』5月号で「わたしの国のアリス」という特集に寄稿されてらっしゃいますね。
坂本 そうなんです。自分の好きなシーンを抜粋して翻訳をしまして。原本の絵が添えられて、可愛くなりました。
- -- 元々のルイス・キャロルのモノから変えていたりするんですか?
坂本 いや、けっこう忠実です。ただ、ちょっとした言い方とか…、アリスのキャラ設定が個性的なので、 現代っぽくしたらどんな言い方するかな?とか。語尾とかでその女のコのイメージはずいぶん変わりますよね。
- -- なんとなく『ファントムガール』と近い感じもしますね。「その女のコの持つ別世界」というか、 「普段ではない自分」というところで。
坂本 そうですね。今回の新しい(ティム・バートン監督の)『アリス・イン・ワンダーランド』の、大人になったアリスの方が近いんですけども、あれは「あ、夢だった」っていうことじゃなかった、っていうそのコンセプトが近くてすごく嬉しくて。 夢じゃなくて、でも現実世界でもないけれども、確かにその世界が存在していて、現実の彼女もちゃんとその世界と一緒に生きてゆくという、そこに感激しましたね。
このアルバムも、イマジネーションとかファンタジーというモノは、つらい現実から逃げ込むためのモノ、と捉えているのではなくて、本当はそっちの方が現実として、確かにその人の中にあってその人を作っているモノなんじゃないかと。 それを思い出すことで、現実と呼ばれているこの社会の中でも、ちゃんと喜びに満ちて生きていけるんじゃないかなって思ってるんです。 だから、逃避ではなくて、本当に自分の体の中に棲んでいるリアルなファンタジーを「ファントム」に込めました。- -- なるほど。それでは最後に、リスナーの皆さんにメッセージをお願いします。
坂本 そうですね、聴いても観ても、ほんのすこし一日の中でビタミンになるようなモノを目指して作ったつもりなので、一人ひとりの日常の中にこの音楽が入っていけたら嬉しいなと思います。是非特設サイトやyoutubeでミュージックビデオの方も観て下さい。
- -- ありがとうございました!
- 新譜 坂本美雨 『 PHANTOM girl 』
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iTunes Storeのエレクトロニックチャートでアルバム・ランキングTop5にランクインするなど大きな注目を浴びている、ニューヨーク在住のエレクトロニック・ミュージックの新鋭、The Shanghai Restoration Projectのデイブ・リアンをプロデューサー/コンポーザーとして迎えた、坂本美雨のオリジナルNewアルバムが完成。
ニューヨークと東京で行われたゼロからの共作コラボレーションは、デイブ・リアン特有の東洋と西洋をMixした心地良いエレクトロニック・トラックと、坂本美雨の限りなく美しいヴォーカルが見事に融合。しっとりとした内に秘める芸術性をもとめた前作から、外に飛び出す衝動を表現した軽やかで心地良い音楽性へと大きな変貌を遂げた、エレクトロニカ・ポップと言える仕上がり。幾重にも声を織り重ねる坂本美雨従来のヴォーカルワークの魅力をそのままに、ポップフィールドで軽やかに響く新境地をもたらしました。
初回盤は「Phantom Girl’s First Love」PVとアルバムダイジェスト・ビデオを収録したDVD付き。
TV SPOT (15sec)
※クリックでプレーヤーが起動します
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- PHANTOM girl(初回限定盤)
坂本美雨 - 2010年05月19日発売
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- PHANTOM girl(通常盤)
坂本美雨 - 2010年05月19日発売
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- Zoy
坂本美雨 - 2008年11月05日発売
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- 朧の彼方、灯りの気配
坂本美雨 - 2007年12月12日発売
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- Harmonious
坂本美雨 - 2006年05月24日発売
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- 詩画集aqua
坂本美雨 - 2003年09月発売
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- ネコがよろこぶ ゴロゴロのツボ(cd付)
- 2003年11月発売
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- 人生がうまくいくネコの9つの習慣(cd付)
- 2003年11月発売
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- Zodiac
Shanghai Restoration Project - 2009年07月15日発売
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- Instrumentals: Day -Night
Shanghai Restoration Project - 2008年08月05日発売
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坂本美雨 [MIU SAKAMOTO]
1997年1月Ryuichi Sakamoto featuring Sister M名義で「The Other Side of Love」を歌う。 1999年映画「鉄道員」の主題歌「鉄道員(TETSUDOIN)」をリリース。 同年6月、現地の高校を卒業すると共に、本格的に音楽活動を開始。 1999年9月アルバム「Dawn Pink」リリース。 2005年11月ホンダ企業CM環境・安全編に使用される『The Never Ending Story』リリース。 2006年5月アルバム「Harmonious」リリース。 2007年3月YEBISUのビール「YEBISU THE HOP」のTVCM出演、話題となる。 2007年12月アルバム「朧の彼方、灯りの気配」リリース。 2008年11月アルバム「Zoy」リリース。 音楽活動と平行して、舞台出演、他アーティストへの歌詞の提供、テレビのナレーションや、ラジオのナビゲーター、またエッセイや映画評などの執筆活動などを行う。 2003年、初の詩画集『aqua』を出版、ネコの絵本の翻 訳本を2冊出版。2007年には絵本「せかいでいちばんあたまのいいいぬ」を母・矢野顕子と共同で翻訳。 2003年より自らのジュエリーブランド『aquadrops』のプロデュースも手がけている。 また、舞台「竹中直人の匙かげん」やダンス公演に出演するなど、演劇活動も行う。
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