Nostalgique Armenie

歴史に翻弄されてきたアルメニア人ディアスポラ達が新天地で愛した古き良き故国の音楽

　2014年の『在りし日のヴェトナム 1937〜1954』（BDR-867）、2015年の『在りし日のエジプト1925〜1960』（BDR-8009）と、いずれもファンを唸らせる充実した内容を誇ったフランスBUDA社による〈Nostalgique（在りし日の…）〉シリーズ。前作から２年の月日が経ちましたが、その第三弾が遂にリリースされます。今回スポットをあてているのはアルメニア。南コーカサスの地で歴史に翻弄されてきたアルメニア人達の古典的録音が蘇ります。
　西にトルコ、南にイラン、そして北と東にはジョージア、アゼルバイジャンに囲まれたアルメニアは、ローマ帝国、ペルシア帝国、オスマン帝国、様々な列強に翻弄された歴史を歩んできました。悲劇的な歴史としてよく知られているのは19世紀末から20世紀初頭にかけて起こったオスマン帝国によるアルメニア人虐殺でしょう。当時オスマン帝国の少数民族だったアルメニア人が100万人以上も命を奪われたとされるこのジェノサイドは、現在でもアルメニアとトルコの関係に遺恨を残しているのみならず、多くのアルメニア人ディアスポラ（故国を捨てた人々）を生み出しました。度々ユダヤ人と比較されるように、アルメニア人ディアスポラ達は世界中に拡散し、その地でコミュニティを作り、主に商工業の担い手として活躍してきました。
　本作に収められているのは、ディアスポラとなったアルメニア人達が新天地で繰り広げた、アルメニアの伝統的な音楽のリヴァイヴァルを捉えた音源の数々です。故国を離れた彼らは新しい生活を営む中で、18世紀サヤト・ノヴァ（映画『ざくろの色』で描かれたアルメニアの吟遊詩人）の時代の文化・音楽を取り戻す事を、民族的アイデンティティの拠り所としたのです。サヤト・ノヴァのような吟遊詩人はアルメニアではグサーンと呼ばれ、コーカサスの人々に広く受け入れられてきました。こうした音楽が、世界中に分布するアルメニア人ディアスポラ達に向け、様々な地域でレコーディングされてきました。
　本作に収録されている中でも最も良く知られている音楽家はウードの名匠ウディ・フラントでしょう。虐殺発生の後もトルコに暮らし、そのウード演奏で名を上げていた彼は、1950年頃にアメリカに渡り現地のアルメニア人ディアスポラ達向けの多数の録音を残しました。他にも女性歌手のソニア・カラカクや「アルメニアのウグイス」と呼ばれたオペラ歌手ゴハール・ガスパリアンといった歌もの、ジヴァン・ガスパリアンで有名なアルメニアを代表する楽器で「世界で最も悲しい音色」と言われるドゥドゥク（横笛）のソロ、そしてサヤト・ノヴァの名を冠したアンサンブル等、多彩な演奏／歌唱を収録しています。
　悲哀に満ちたグサーンのメロディと、名匠達の即興演奏の素晴らしさ。本作はこれまであまり深く紹介されてこなかったディアスポラ・アルメニア音楽の決定版と言えるでしょう。初心者からベテランのファンまで幅広くお勧めします。
(メーカー・インフォメーションより)