僕らがいて、音が鳴ってる。それを聴いて、歌がはじまる。
何曲目、何回目、わかりようがないけど、いまはここ。
環ROY 2年ぶり4枚目のアルバム。全12曲のラップソング。
トラックメーカーには、三浦康嗣(□□□)、
蓮沼執太、Himuro Yoshiteru、
戸高賢史(ART-SCHOOL)、
ゴンドウトモヒコ が参加!!!
1stアルバム「少年モンスター」から飛躍の2ndアルバム「BREAK
BOY」を経て3rdアルバム「あっちとこっち」まで、環ROYの
独特のたたずまいはわれらを魅了してきた。しかし、その「独
特さ」は、ひとが思うよりも、ずっとずっと底が知れない性質の
ものではないだろうか。恐ろしく透明度の高い水をたたえる
南国の海を白昼みつめていても、いつまでもいつまでも底が
見えないような??。
もしやギミックというものを生まれてこの方知らないのか、と
まで思わせる無防備な率直さを、ライムとビーツの両面でみ
せつける。かと思うと、さまざまな分野のミュージシャンと実験
的なセッションをも繰り返す、環ROY。しかし、彼のその側面
は、大きくうねりはするが、しかし水面(みなも)の波にすぎな
いのでは。確かに彼は、いかにも華奢で、不良じみたところが
ない、「文化系」ラッパーの典型に見える。しかし、いつからか
バックDJも置かずに一人オーディエンスと対峙するあの姿、
単独ライヴでの孤高の姿に接した者は口々にこう言うのだ??
「鬼気迫る」「すさまじい」「力強い」、そして「意外だ」と。
何かに憑かれたようにマイクを握りライムを吐き出すその烈しさは、
他に類例をみない。ライヴ後の、一転したいつものあの笑顔
にふれて戸惑い、そこで、もう一度環ROY自身のアルバムに
立ち返ることにする。すると、その率直な純朴さと見えたもの
の底が割れ、奇妙な太々しさと強(したた)かさが湧いてきこ
えてくる。と同時に、その都会生活の等身大を叙情にくるん
で木訥に差し出したかのようなそのライムも、克明な思慮深
さと反抗の魂に貫かれていることに気づかされるのだ。無論、
環ROYは、その音楽・思考・反抗の「強さ」をあられもなくふ
りかざし、売り物にすることを拒む人だ−−その奇妙な含羞と
つつましさが、このアーティストの底の知れ無さを、池でも湖
でもなく、海のものにしている。
小学生のような幼いはしゃぎと、あけすけない言葉を発しつ
づけて周囲を呆れさせた次の瞬間、突然つめたい目をして、
するどい知性と批評性を垣間見せる科白を誰にむけてでも
なく口にする、実際の環ROYの姿と、その音楽はぴたりと一
致している。しかし、彼は「自然体」などという常套句もあの
独特の照れた笑顔で厭がるだろう−−「やめてくださいよ、俺
そういうの、ヤなんですよ」−−環ROYは、どこまでもそのよう
な「ありきたり」から抜け出ようとする。型にはめられようとする
瞬間、彼は遙か彼方に脱出しおおせている。しかし、そこから
出てきた作物は、まさに真っ向勝負の「ヒップホップ」なのだ。
しかも後からつけた甘みや不自然な匂いがしない、純乎とした、
そう、まるで乾ききった身体に降りそそぐ水のようなヒップホ
ップ。水のように澄んでいるが、水のように恐ろしく、水のよう
にどこにでもあるように見えるが、水のように底しれない。水の
ような男の音楽の、この不思議な逆説。しかしそれこそは、ヒ
ップホップという音楽そのものが孕む逆説ではないだろうか?
ヒップホップほど、既成の音楽と日々を生きる人々の生活
に忠実で、なかつ過激なまでに硬直を拒否し、変わり続けて
きた音楽があるだろうか? 環ROYは、この新たな「ラッキー」
で、またもそのヒップホップの本質を見せつけようとしている。
耳を澄ませ。それは必ず聴こえる。
(文 / 佐々木 中)
・プロフィール

環ROY (たまきロイ)
ラッパー。宮城県仙台市出身。2006
年に1stアルバム「少年モンスター」を
発表。
以降、これまでに、最新作「あっちとこ
っち」を含む3枚のフルアルバムを発
表する。
第15回文化庁メディア芸術祭大賞
受賞作品「スペースバルーンプロジェ
クト」へ参加、楽曲提供を行うなど広
告音楽の制作にも携わる。
FUJI ROCK FESTIVALをはじめとす
る様々な大型音楽イベントへ出演す
るほか、全国各地の屋内/外にて精
力的なパフォーマンスを行う。