イタリアの名手によるストラヴィンスキーの多様性表現
ストラヴィンスキー:ピアノ曲集
エマヌエーレ・デルッキ(ピアノ)
ストラヴィンスキーのピアノ曲は用途も傾向も多種多様。ここでは一族の広大な地所で過ごしたロシア帝国時代の「4つの練習曲」や、ポピュラー音楽の要素を使った「ピアノ・ラグ・ミュージック」と「タンゴ」、古典派とバロックのイディオムを凝縮した「ピアノ・ソナタ」、 ドビュッシー追悼のための「断章」、10インチSP2枚組アルバムのために最適化作曲した「セレナーデ イ調」、そして50頭の象のための「サーカス・ポルカ」など収録。
演奏はホロヴィッツも降参したゴドフスキーの超難曲「パッサカリア(未完成交響曲の冒頭主題による44の変奏曲)」を15分6秒で鮮やかに弾き切っていたイタリアのデルッキです。
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作品について
4つのエチュード Op.7 K009
1908年7月、ロシア帝国ウスチルクで完成。現在の西ウクライナに位置するウスチルク(ウスティルーフ)は、ストラヴィンスキーの母の姉夫婦が数十㎢の地所を所有していたところで、ストラヴィンスキー家の別荘もあり、ストラヴィンスキーは8歳の頃から夏に頻繁に滞在。大学を卒業した1905年には従妹のエカテリーナと同地で婚約を発表し、1906年に結婚、1907年に長男、1908年に長女が誕生し、同年には自身の設計した家も完成、部屋の壁には日本の版画なども飾ってありました。ストラヴィンスキーは戦争の始まる1914年までこの地で多くの時を過ごし、4つのエチュードのほか、星の王、パストラール、葬送の歌、交響曲第1番、バリモントの詩による2つの歌曲、そして春の祭典などを作曲しています。
5本の指で K037
1921年完成。「5つの音に基づく8つのとてもやさしい小品」という副題を持つ子供用の作品。シチリアーナやカマリンスカヤ、タンゴの要素も反映された佳作で、40年後に対旋律とカノンなど加えて「5人の奏者のための8つのミニアチュア」として編曲されています。
ピアノ・ラグ・ミュージック K032
1919年6月完成。ロシア内戦によってロシアからの送金手段を失い困窮したストラヴィンスキーに対し、アルトゥール・ルービンシュタインは5千フランを送って支援しますが、その返礼として書かれたのがこの作品。ヨーロッパを席巻していたアメリカのジャズやラグに影響を受けたということですが、実際にはブラジルのダンス音楽「マシーシ」の影響が強いという説もあります。
ピアノ・ソナタ K043
1924年10月完成。第1楽章はソナタ形式で速度は「♩=112」。第2楽章はアダージェット。3部形式で主部では多用される旋律の装飾が印象的で、中間部ではモーツァルト40番第2楽章のパロディのような楽句が面白いです。第3楽章はトッカータで速度は第1楽章と同じ「♩=112」。目まぐるしく拍子が交錯し、最後は第1楽章第1主題が回帰。
ドビュッシー追悼のための管楽器サンフォニーからの断章
1920年11月20日に完成。フランスの音楽誌「ルヴュ・ミュジカル」が、ドビュッシー追悼のために10人の作曲家(ストラヴィンスキー、デュカス、ルーセル、マリピエロ、グーセンス、バルトーク、フローラン・シュミット、ラヴェル、ファリャ、サティ)にピアノ小品の作曲を依頼しその楽譜を掲載するという企画に応えたもの。
セレナーデ イ調 K044
1925年完成。アメリカで10インチSP2枚組アルバムのためにおこなったレコーディング用に書いた作品。讃美歌、ロマンス、ロンドレット、カデンツァ・フィナーレの4曲で構成。
サーカス・ポルカ K064
1942年完成。振付師バランシンがサーカスのためにおこなった50頭の象と50人のバレリーナによるバレエ公演のために作曲。2年後には管弦楽用に編曲。
タンゴ K062
1940年ハリウッドで完成。ストラヴィンスキーの人気曲。室内オケ用にも編曲されたほか、他者によるジャズ編曲、ヴァイオリン編曲などもあります。
演奏者について
エマヌエーレ・デルッキ (ピアノ)
1987年11月18日、イタリアのリグーリア州ジェノヴァ近郊に誕生。ジェノヴァ音楽院でカンツィオ・ブッチャレッリにピアノを師事し、イーモラ・アカデミア・ピアニスティカでリッカルド・リサリティにピアノを師事したのち、ボルツァーノのモンテヴェルディ音楽院でダヴィデ・カバッシにピアノを師事し2009年に首席で卒業。その後、2016年に作曲のディプロマも取得しています。
デルッキはこれまで、イタリア、ドイツ、フランス、イギリス、ギリシャ、スロヴェニア、クロアチア、メキシコなどでリサイタルをおこなう一方、オーケストラのための「リチェルカーレII」など作曲活動もおこない、M.A.P.社とDA VINCI PUBLISHING社から出版されてもいます。
レコーディングではゴドフスキーの作品で特に注目されていました。
CDは、Piano Classics、Brilliant Classics、Toccata Classics、Da Vinci Classics、Dynamic、Musica Vivaなどから発売。
収録作品と演奏者
イーゴリ・ストラヴィンスキー[1882-1971]
4つのエチュード Op.7 K009 [1908]
1. コン・モート 1'13
2. アレグロ・ブリランテ 2'52
3. アンダンティーノ 1'47
4. ヴィーヴォ 2'03
5本の指で K037 [1921]
5. アンダンティーノ 1'10
6. アレグロ 0'58
7. アレグレット 1'05
8. ラルゲット 1'25
9. モデラート 0'45
10. レント 1'21
11. ヴィーヴォ 0'27
12. ペザンテ 0'56
12. ピアノ・ラグ・ミュージック K032 [1919] 3'13
ピアノ・ソナタ K043 [1924]
14. ♩ = 112 2'49
15. アダージェット 5'27
16. ♩ = 112 2'35
17. ドビュッシー追悼のための管楽器サンフォニーからの断章 [1920] 2'03
セレナーデ イ長調 K044 [1925]
18. 讃美歌 3'22
19. ロマンス 2'49
20. ロンドレット 2'44
21. カデンツァ・フィナーレ 2'09
22. サーカス・ポルカ K064 [1942] 3'39
23. タンゴ K062 [1940] 3'04
エマヌエーレ・デルッキ(ピアノ)
録音:2021年4月23、24日、キアヴァーリ、マルコ・バレッタ・スタジオ