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Nellie Melba: Complete Gramophone Company Recordings Vol.4

Item Details

Genre
:
Catalogue Number
:
8110780
Number of Discs
:
1
Label
:
:
International
Format
:
CD

Product Description

はんぶる・ドットこらむ 山崎浩太郎
第42回 今月のヒストリカル
「メルバ、時代の変わり目に」

 ネリー・メルバは、アコースティック録音時代のプリマ・ドンナとして、最も名の知られた存在である。

 しかし、現代の音楽ファンにとっては、その録音を初めて聴いたときにこれほど戸惑う、耳を疑う存在は他にいないかもしれない。聴きなれた現代のイタリア風の発声法とは、あまりに異なっているからだ。

 ふわふわひらひらとした旋律の歌いかた、そして、ひどい言い方をすれば汽笛が「ぴーっ!」と鳴るような、その響き。

 ――いったい、これは何だろう?

 初めて聴いたとき、私は首をひねってしまった。貧弱な録音技術のせいなのか? 彼女一人の、独特の声なのか? これが、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパで圧倒的人気を誇った歌手の声なのか?

 ナマの声などはもう聴きようがないのだから、音質の正確性については論じようがない。ただ、それでもここには何割かの真実が残っているはずだから、それを見出す努力をしてみよう、と思った。

 生前の名声の高さという点で同じだからと、現代の名歌手の声から勝手に歴史的な歌手たちの声を類推して想像してしまうと、実際のレコードに残ったその声とのイメージの落差に、戸惑ったりすることがある。しかしその落差を「忘れる」ために、きっと録音が不正確なのだろうとか、きっともう衰えていたのだろうとか、そんなふうに耳からの印象を否定してみても、何も始まらない。

 以前は、熱心なカラス・ファンには(聴いたこともない)パスタやマリブランについて尊敬をもって語るのに、(録音のある)パッティやメルバのことは知らないふりをする、なんて人がいた。自分の中にある「プリマ・ドンナ」のイメージと、録音に聴くメルバたちの声の印象が、合わなかったからだろう。そこで、マルクス的な進歩史観を持ち出して、過去は全部ダメ、今は進歩中と言い出す人もいた。この場合、パスタたちは「尭舜の世」みたいな永遠の理想郷として、歴史から切り離されて理想化されることになる。

 自分に都合よく、口当りよく歴史を歪曲しても、何にもならない。都合の悪い史料を無視するのは、史料を鵜呑みにするのと同じように、誤った態度である。

 異なった価値観、異なった美意識をもつ時代と場所。第1次世界大戦前の英米の歌劇場が、現代とはどれほど異なる場所であったかを知ろうとするとき、メルバの歌声はその有力な「よすが」となる。

 そうして聴きなおしてみると、違和感が薄らいで、メルバの魅力が聴こえてくるような気がした。手のこんだ工芸品のような、微妙な味わい。それはボリュームを絞り気味にして、耳をすますようにして聴くと、芳しく漂ってくる。

 今回のメルバの第4集には、1926年のコヴェント・ガーデンへの告別公演のライヴが含まれている。第1次世界大戦によって失われてしまった旧世界への郷愁。《ボエーム》は、メルバが積極的に歌ったことで初めて、英米にその名を知られた作品である。そして皮肉にもこの作品の大ヒットをきっかけに、イタリアのヴェリズモ風の歌唱様式が英米にも浸透、美意識の変換がもたらされたのだ。

 さまざまな意味で、時代の変わり目を象徴するライヴである。

(やまざきこうたろう 音楽史譚家) 



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ナクソス・ヒストリカル・シリーズ - デイム・ネリー・メルバ(S)

ネリー・メルバ〜グラモフォン完全録音集 第4集

録音: 1921年5月12日 イギリス、ヘイズ、ミドルセックス
リムスキー=コルサコフ: 歌劇「サトコ」〜インドの歌「洞窟には無数のダイアモンドが」
ロナルド: 小川が流れる丘を離れ(SPでの未発売録音テイク)
あの森の中に
リューランス: ミネトンカの湖畔で
スコット夫人: アニー・ローリー(SPでの未発売録音テイク)
ビショップ: 埴生の宿(ホーム、スイート・ホーム)

録音: 1926年6月8日 ロンドン、コヴェント・ガーデン、王立歌劇場(ネリー・メルバのコヴェント・ガーデン告別演奏会でのライヴ録音)
ヴェルディ: 歌劇「オテロ」〜柳の歌「寂しい荒野に歌いながら泣く」(第4幕)(後半はSPでの未発売録音テイク)
同〜アヴェ・マリア(第4幕)(SPでの未発売録音テイク)
プッチーニ: 歌劇「ラ・ボエーム」〜お入りなさい…ロドルフォはいるの?(第3幕)
同〜あなたの愛の呼ぶ声に(第3幕)/同〜さようなら、朝の甘い目覚めよ(第3幕)
同〜ガヴォットだ!メヌエットだ!(第4幕)/同〜みんな出かけてしまったの?(第4幕)
同〜私、ムゼッタよ…なんてきれいでやわらかいの(第4幕)(SPでの未発売録音テイク(「あなたの愛の呼ぶ声に」以外))
オールダリーのスタンリー卿の演説(SPでの未発売録音テイク)
デイム・ネリー・メルバの別れの挨拶

録音: 1926年12月17日 ロンドン、スモール・クィーンズ・ホール
ヴェルディ: 歌劇「椿姫(ラ・トラヴィアータ)」〜お嬢さんにお伝えください
バンベール: 天使がやってきた
シュルツ: 月の光 Op.83-1
黒人霊歌(バーレイ編曲): スウィング・ロー・スウィート・チャリオット]

デイム・ネリー・メルバ(S, p)
ランドン・ロナルド指揮による管弦楽団
ランドン・ロナルド(p)
ヴィンチェンツォ・ベレッツァ指揮コヴェント・ガーデン王立歌劇場管弦楽団
ハロルド・クラクストン(p)
アウローラ・レットーレ(Ms)
ブラウニング・マメリー(T)
ジョン・ブラウンリー(Br)
フレデリック・コリアー(Bs)
エドゥアール・コトローユ(Bs)

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