102鍵のステファン・ポレロと、1890年製ブリュートナーを使用
モソロフ、ヒンデミット、ブラームス、シューマン作品集
アーラシュ・ロクニ(ピアノ)
2種類のピアノを用いたアルバム。20世紀作品のモソロフとヒンデミットでは、全長3mのステファン・ポレロ opus102(102鍵・平行弦/上の画像)を、ブラームスとシューマンでは1890年製ブリュートナー(88鍵・交差弦)を弾いています。演奏はイラン出身のピアニスト、アーラシュ・ロクニ。
モソロフ
「鉄工場」でおなじみのアレクサンドル・モソロフは若い頃はロシア・アヴァンギャルドの旗手で、ピアノ曲も迫力満点。「2つの舞曲」、「2つのノクターン」共にステファン・ポレロの澄んだ音と余裕のある雄大な響きが生かされています。
ヒンデミット
ノイエ・ザハリヒカイト(新即物主義)を象徴するのが第3曲「夜曲」でのヒンデミットの「Mit wenig Ausdruck(わずかな表情で)」という指示。ヴィオラ・ソナタでも使っていた指示なのでヒンデミットとしても効果ありと判断したのでしょう。
アーラシュ・ロクニはこの言葉に注目してひねりを利かせ、「
WITHOUT WITH A LITTLE EXPRESSION(無表情ではなく、わずかな表情で)」と英訳してアルバム・タイトルとして表示。ステファン・ポレロの怜悧な音が作品の全情報を引き出しています。
シューマン
「5つの音楽帳(アルブムブレッター)」は小品5曲から成る小さな曲集。シューマンが1852年に出版した未発表作品のコレクション「色とりどりの小品(ブンテ・ブレッター)」に含まれています。1890年製ブリュートナーの味わいのある音が夢幻的な作品によく合います。
ブラームス
幻覚・幻聴を経て一時は錯乱状態となって自殺未遂騒動まで引き起こしたシューマンは自宅療養を経て1854年3月に精神病院に入院。入院前日には20歳のブラームスがデュッセルドルフに到着して、シューマン家の手伝いを開始。家には妊娠7か月のクララと5人の子供たち(12歳のマリー、10歳のエリーゼ、6歳のルートヴィヒ、5歳のフェルディナント、2歳のオイゲニエ/8歳のユーリエは祖母宅)が暮らしており、使用人がいたとはいえ大変な状況でした。
ブラームスは前年10月にシューマン夫妻と知り合い、11月にはシューマンの推薦でブライトコップ・ウント・ヘルテル社と契約に漕ぎつけていたため、恩返しのような形で、2年後にシューマンが亡くなるまでデュッセルドルフを拠点としています。
「ロベルト・シューマンの主題による変奏曲 嬰ヘ短調 Op.9」は、1853年にクララが夫の誕生日祝いのために書いた「ローベルト・シューマンの主題による変奏曲 嬰ヘ短調 Op.20」に触発されたもので、1854年6月と8月に作曲。第10変奏にはクララが幼い頃に書いた「ロマンスと変奏」の主題が織り込まれ、クララも刺激を受けて自分の変奏曲の最後に同じ主題を挿入して改訂。ブライトコップ・ウント・ヘルテル社による出版は、ブラームスの提案で両作品とも1854年11月におこなわれています。入院中のシューマン送られた楽譜を見て称賛しています。
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演奏者情報
◆ アーラシュ・ロクニ(ピアノ)
1993年、イランの首都テヘランに誕生。子供の頃からピアノに親しみ、15歳からはテヘラン音楽学校でタマラ・ドリゼに師事。続いてアルメニアでジョルジ・ラファエロヴィチ・アバネソフらの指導を受けたほか、ライプツィヒ音楽大学でマルクス・トーマスに、ケルン音楽舞踊大学でクラウディオ・マルティネス・メーナーに師事。18世紀の演奏実践の分野にも興味を持っている彼は、ゲラルト・ハンビッツァーとアンドレアス・シュタイアーからフォルテピアノを、ミヒャエル・ボルクシュテーデからチェンバロの指導を受けてもいます。
ライプツィヒで行われた第21回ヨハン・ゼバスティアン・バッハ国際コンクールで第2位と聴衆賞を受賞したのち、ハンブルクのエルプフィルハーモニー、デュッセルドルフのシューマン・ザール、ライプツィヒのゲヴァントハウスで演奏し、以後、イラン、アルメニア、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、デンマークなど各地で、ソロと室内楽の両方で活動。また、教育活動にも取り組んでおり、ハノーファー音楽演劇大学の代理教授、ケルン音楽舞踊大学の助手も務めています。
CDは、Piano Classics、Ars Produktionなどから発売。
トラックリスト (収録作品と演奏者)
アレクサンドル・モソロフ [1900-1973]
◆ 2つの舞曲 Op.23/b
1 I. アレグロ・モルト、センプレ・マルカート 4:42
2 II. アレグレット 2:03
ヨハネス・ブラームス [1833-1897]
3
◆ R.シューマンの主題による変奏曲 Op.9 (1854) 17:59
パウル・ヒンデミット [1895-1963]
◆ 「組曲1922」 Op.26
4 I. 行進曲 1:38
5 II. シミー(舞曲) 3:38
6 III. 夜曲 6:26
7 IV. ボストン 5:18
8 V. ラグタイム 2:27
ロベルト・シューマン [1810-1856]
◆ 「色とりどりの小品」 Op.99〜「5つの音楽帳」(1841)
9 I. かなりゆっくりと 1:39
10 II. 速く 0:46
11 III. かなりゆっくり、非常にたっぷりと歌って 1:36
12 IV. 非常にゆっくりと 1:52
13 V. ゆっくりと 1:37
アレクサンドル・モソロフ [1900-1973]
◆ 2つのノクターン Op.15 (1926)
14 I. エレジアコ、ポーコ・ステンタート 3:44
15 II. アダージョ 3:53
アラシュ・ロクニ(ピアノ)
録音:2021年、フランス、ヴィルティエリー(モソロフ、ヒンデミット)、ケルン、クラヴィーアハウス・ショッケ(ブラームス、シューマン)
Track list
WITHOUT · WITH A LITTLE EXPRESSION
Alexander Mosolov 1900-1973
2 Dances Op.23/b
1 I. Allegro molto, sempre marcato 4:42
2 II. Allegretto 2:03
Johannes Brahms 1833-1897
3 Variationen über ein Thema von R. Schumann, Op.9 (1854) 17:59
Paul Hindemith 1895-1963
“Suite 1922” Op.26
4 I. March 1:38
5 II. Shimmy 3:38
6 III. Nachtstück 6:26
7 IV. Boston 5:18
8 V. Ragtime 2:27
Robert Schumann 1810-1856
5 Albumblätter from “Bünte Blätter” Op.99 (1841)
9 I. Ziemlich langsam 1:39
10 II. Schnell 0:46
11 III. Ziemlich langsam, sehr gesang-voll 1:36
12 IV. Sehr langsam 1:52
13 V. Langsam 1:37
Alexander Mosolov
Deux Nocturnes Op.15 (1926)
14 I. Elegiaco, poco stentato 3:44
15 II. Adagio 3:53
Arash Rokni piano
Recording: Mosolov and Hindemith 2021 at the Studio of Stephen Paulello, France and Brahms and Schumann at the Klavierhaus Schocke, Cologne, Germany