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グロテスク 下 文春文庫

Natsuo Kirino

User Review :5.0
(1)

Product Details

Genre
ISBN/Catalogue Number
ISBN 13 : 9784167602109
ISBN 10 : 4167602105
Format
Books
Publisher
Release Date
September/2006
Japan

Content Description

就職先の一流企業でも挫折感を味わった和恵は、夜の女として渋谷の街角に立つようになる。そこでひたすらに男を求め続けて娼婦に身を落としたユリコと再会する。「今に怪物を愛でる男が現れる。きっと、そいつはあたしたちを殺すわよ」。“怪物”へと変貌し、輝きを放ちながら破滅へと突き進む、女たちの魂の軌跡。

(「BOOK」データベースより)

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この本に登場する女を「絶対に友達になりた...

投稿日:2009/09/04 (金)

この本に登場する女を「絶対に友達になりたくないタイプの人間ばかり」と評した人がいる。酷いことを言う。この薄汚れた社会と愚直に向き合ってズタズタになった女たちにいとおしさを感じないのか。「欲求が高すぎるがゆえに苦しむ人たち」とも。はたしてそうか。幼少期から親や教師に「他人よりも優れるという絶対的な価値観」を刷り込まれ、生涯そのマインドコントロールに苦しめられる滑稽と悲惨、誰にも共通するのは寒々しいまでに孤独であるということ。私には痛ましいまでにわかるのだ、彼女らの気持ちが。彼女たちは認めてもらいたかったのだ、自分という存在を。「あなたの愚かさに私の心は痛みます」そう言って憐れんだ女の聖書を投げつけハイヒールで踏みにじる娼婦、和恵の凄絶な手記は涙なくして読めない。負けた者は劣等意識に苛まれ、勝ち続けた者も目的を見失い虚無感に襲われる。カネや学歴、美醜の織りなすこの酷薄な階級社会でもがきつづける彼女たちは他ならぬ我々自身の姿なのだ。それは誰をも幸せにはしない。著者は「この世のありとあらゆる差別を書いてやろうと思った」と述べている。何かに殉じることなしにこの不毛な堂々巡りは終わらない。胸に去来するのは福田恒存の名著『私の幸福論』にあった「ひとりでもいい、他人を幸福にしえぬ人間が、自分を幸福にしうるはずがない」という言葉、終にはそこに行き着くのだと思う。私が得たくて得られなかった家族の意義も、そこにあるに違いない。

recorda_me さん | 東京都 | 不明

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Book Meter Reviews

こちらは読書メーターで書かれたレビューとなります。

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  • ヴェネツィア

    最後は再び「わたし」の短い手記で閉じられるが、下巻の中核をなすのは和恵の日記であり、その前哨を形成するチャンの上申書である。これで上巻の「わたし」、ユリコを含めて4人の語りが揃ったのであるが、そのいずれもが極めて主観的なものであり、したがって強度にエゴイスティックでもある。おそらく、読者の多くはこれらの登場人物の誰にも共感を寄せて読むことはできないだろう。にもかかわらず、彼らの一人一人は読者である「私」でもあるのだ。すなわち、「グロテスク」は小説として外在化されていると同時に、私たちの内なる姿でもあった。

  • 明智紫苑

    再読。斎藤美奈子氏の解説では和恵の転落を「勝利」と見なしているが、それって要するに、本田透氏の本にあった「脳内勝利主義」だよね? だって、第三者目線から見れば明らかに色々な意味で「負け」なんだし。一番の勝者はどう見てもミツルだよ。それはさておき、この小説は女の怖さや醜さを描いているが、さらに重大な要素として「ヒエラルキー」と「レイシズム」がある。まあ、そもそもレイシズム自体が白人を頂点とするヒエラルキーの一種なんだけど、平田姉妹が純日本人だったらこの小説の様子がちょっと違っていたかもしれない。

  • zero1

    【悪意が迸る】登場人物はみな【信頼できない語り手】か。生きて負の遺産を増すだけ?遺伝より環境が人間を形成?下巻は殺人犯、張の上申書が長い。学力を誇ったミツルはその後どうなった?和恵の日記から人間関係の無いことによる飢餓や癒されない渇きを強く感じる。どれだけの取材を重ねたらこのような作品が書けるのか。その割にオウムをモデルにした新興宗教など欲張りすぎが残念(後述)。ベクトルの狂った悲劇で人の本質を示したが、正直くどい。これは長編が陥りやすい落とし穴で、せっかくの力作がもったいない。重いダメージが残る作品。

  • W-G

    ドロドロした本が読みたい時だったので面白かった。思春期特有のエゴやコンプレックスがごちゃ混ぜになった意地悪な目線の描写がとても上手で、女性ではなくても共感や納得出来る。『私』と『和恵』の鬱屈した感情が澱のようにたまっていく過程が本領。男性視点の中国の章は無い方が、存在の不気味さが引き立ったと思う。ユリコが堕ちていく過程をその分もっと詳しく書いて欲しかった。実際の事件を題材にしており、この事件は漫画や映画でも広く元ネタになっていますが、現実とあまりリンクしていない、過去や結末の部分こそ面白かった。

  • 鉄之助

    平成の『人間失格』に思えてならなかった。第7章「肉体地蔵(和恵の日記)」では一流会社に勤めながら、街娼に落ちぶれるドロドロの世界、転落の極みが繰り広げられる。全編、悪意や人間の醜さが溢れる。しかし、読後の爽快感は何だ! 太宰治の『人間失格』のよう……。主人公の「わたし」が妹の忘れ形見、甥の百合雄と一緒に街に立ち客を引く。「中年の娼婦と、17歳の盲目の女衒の組み合わせが生まれたのでした」 明日に向かって生きることの、力強さに勇気が湧いてきた。

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