To The Little Radio

数多いＤＩＷの作品中、時代へのスピード、採り上げられた作品、さらに、演奏者と製作者との完璧なコラボレイションとどれをとっても、初期のデヴィッド・マレイの諸作に匹敵するハイテンションと、さらに多くのピアノ・トリオ・ファンをも惹きつける素晴らしいピアノ・トリオ作品。

70年を挟んだＥＣＭレーベルの設立以来、ジャズの音楽表現の革命が進行し、キース・ジャレットを初めとして多くのジャズメンがその恩恵に預かり、ハードバップの時代には考えられなかった空間的な表現を獲得した。本作はそうした「空間表現」とも言うべき、新しいジャズの演奏の「枠組み」自体を、作品のアレンジ〜演奏＝インプロヴィゼイション〜ピアノ・トリオとしての音の響かせ方の三つの要素で、「意識的に」行い。なおかつ、高いレベルで完成度を高めたアルバム。各曲のテーマ提示の部分での心憎いまでの「裏テーマの設定」。さらに原曲の詩情を日本」の和歌における本歌取りよろしく、変遷させる技。ヘルゲにおけるピアノ・トリオとしての究極の地平を極めたアルバムとなった。しかも、妖しい魅力ウに満ちた演奏には、今日ジャズを聴き始める音楽ファンの心を掴まえる「音の色気」が感じられるだろう。キース・ジャレットによって、開かれた「パンドラの函の蓋」は、ティエリー・ラングの流麗なピアノによってフランス、スイスまで運ばれ、さらに、いまや世界最高のジャズの人材を次々と生み出す極北の地、ノルウェイへと辿りついた。そして、復活なったオスロの「レインボウ・スタジオ」にヘルゲのピアノが響き渡った。その名も「To The Little Radio」となって。

Helge Lien (p) Frode Berg (b) Knut Aalefjaer(ds,perc): Recorded at Rainbow Studio,Oslo,Jan.3-6,2006