ハイドンが腕によりをかけて編曲した
スコットランドの伝統の旋律
ハイドンは、スコットランドの伝統的なメロディ(「エア」と呼ばれる)を数多く編曲しました(約375曲)。新しい伴奏や、時によってはオブリガート・ヴァイオリン、通奏低音などを加えたかたちで編曲しています。どれもがハイドンらしいウィットにとんだものですが、その多くは演奏される機会に恵まれないものとなっています。
ハイドンは、1791から1795年にかけて2度イギリスを訪れており、「ロンドン・セット」交響曲集などの傑作を書いたわけですが、このころにスコットランドの伝統的なエアにも出会ったと考えられます(スコットランドの伝統的な音楽には、古くはパーセルやC.P.E.バッハも影響を受けており、特有のリズムや旋律を取り入れた作品を残しています)。はじめの100曲は当時深刻な経済危機にあった印刷会社を助けるために無料で提供、1792年に出版されました。この盤におさめられているのは、そのあと、1800〜1804年にかけて手がけられた、より意欲的な編曲コレクションからのもの。この編曲の大部分を依頼したのはジョージ・トムソン[1757-1841]。アマチュア音楽家で、退職したあとはスコットランドのエアの楽譜を出版していた人物。ハイドンは『四季』などを作曲していたころで、まだまだ彼の書く力も権力もピークにあったころ。ハイドンはそれぞれのエアを腕によりをかけて編曲しています。
なお、エアから歌曲へと編曲される場合、その歌詞の内容も変えられることが一般的でしたが、ハイドンは依頼されたときにそれぞれのエアにどのような新しい歌詞がつけられるかわからないまま作曲したものもあったそうですが、こうした歌曲の歌詞は、良家のサロンで演奏されるにふさわしい適度にセンチメンタルな内容のものが多いため、特に問題はなかったと考えられます。古くから多くの作曲家たちを魅了したスコットランドの伝統的な旋律を、ハイドン流の楽しいしかけいっぱいの編曲でたのしめる1枚です。(キングインターナショナル)
【収録情報】
ハイドン:スコットランド歌曲集
・リー・リグ(The Lea-Rig) Hob.XXXIa:31bis
・モラグ(Morag) Hob.XXXIa:143bis
・眠っているの、それとも起きているの?(Sleep'st thou, or wak'st thou) Hob.XXXIa:157
・おおかしこき勇敢なウィリー(O wise and valiant Willy) Hob.XXXIa:227
・三重奏曲ハ短調 Hob.XV:27よりアレグロ
・それは暗い真夜中のときだった(Twas at the hour of dark midnight) Hob.XXXIa:31bis
・ジェニーのボービー(Jenny's Bawbee) Hob.XXXIa:252
・メリーの夢(Mary's Dream) Hob.XXXIa:1bis
・三重奏曲ハ短調 Hob.XV:27よりアンダンテ
・夜に喪服を着て(The night her silent sable wore) Hob.XXXIa:219bis
・ウィリアムとマーガレット(Willian and Margaret) Hob.XXXIa:153
・ベッシー・ベルとメリー・グレイ(Messy Bell and Mary Gray) Hob.XXXIa:38
・三重奏曲ハ短調 Hob.XV27よりプレスト
・とある小娘がいた(There was a lass) Hob.XXXIa:4bis
・孤立した谷(Highland Air: The Lone Vale) Hob.XXXIa
・彼女は私の恋人だがまだ小娘だ(My Love she's but a lassie yet) Hob.XXXIa:194
ヴェルナー・ギューラ(テノール)
クリストフ・ベルナー(フォルテピアノ/Collard & Collard)
ユリア・シュレーダー(ヴァイオリン)
ロエル・ディールティエンス(チェロ)
録音時期:2012年3月
録音場所:ノイマルクト、ライトシュターデル
録音方式:ステレオ(デジタル)