「弦のBiddulph」からブロニスワフ・ギンペルの協奏曲集が登場。
ステレオのチャイコフスキーは特に注目。
ブロニスラフ・ギンペルは1911年にオーストリア=ハンガリー帝国のレンベルク(現在のウクライナ西部リヴィウ)でポーランド系ユダヤ人の音楽一家に生まれました。父親は劇場の指揮者で、かつてグスタフ・マーラーの指揮の下でクラリネットを演奏していたことがあるそうです。父が5歳のブロニスラフにピアノとヴァイオリンを教え始めたところヴァイオリンの上達が目覚ましく、8歳で地元の音楽院に入学し、同年メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を演奏。11歳の年にはウィーン音楽院に移り、14歳でゴルトマルクのヴァイオリン協奏曲を演奏しました。15歳の年にはピアニストの兄ヤコブとイタリアに招かれ、ジェノヴァでパガニーニが使っていたグヮルネリ・デル・ジェズで演奏、ローマではイタリア国王とローマ教皇の前で演奏する栄に浴しました。
その後、1928年にベルリンでカール・フレッシュのクラスに入学したギンペルは、1年学んだ後にフレッシュのアドバイスでヘルマン・シェルヘンが指揮者を務めていたケーニヒスベルク(現ロシア領カリーニングラード)の放送オーケストラのコンサートマスターに就任。その後エーテボリ交響楽団を経て、クレンペラーの招きでロサンジェルス・フィルのコンマスを務め、第2次大戦が勃発するとアメリカ空軍所属のオーケストラで演奏しました。戦後はアメリカの放送局ABCのオーケストラや自ら組織した弦楽四重奏団などでも演奏。1950年にはロンドン・デビューが大成功となってヨーロッパでの活動を再開し、英独を中心に数多くの演奏を行いました。1962年に訪れたワルシャワで旧友ウワディスワフ・シュピルマン(映画『戦場のピアニスト』の主人公)と再会すると意気投合し、デュオとピアノ五重奏団を結成してコンサート・ツアーを行い、録音も残しています。
原盤解説によれば、ここに収められた5曲は初CD化とのこと。ノイズの少なさと音の鮮度が両立しているのは復刻素材の状況が良かったことを想像させます。ベートーヴェンではモノラルながら音の奥行きまで感じさせます。第2楽章と第3楽章をつなぐ小カデンツァにフレッシュ作のものを弾いているのは師へのオマージュでしょう。
チャイコフスキーは当セット唯一のステレオ録音。ここでギンペルが弾いているヴァイオリンは、作曲者がこの曲に取り組んでいた時に助言したヴァイオリニスト、イオシフ・コテックが使っていた楽器で、ギンペルは「チャイコフスキーが聞いたのと同じ音だ」と自慢していたそうです。彼の演奏は5曲を通じて明晰さと力強さが前面に出ており、きびきびとした推進力のある楷書体の音楽と言うことができるでしょう。
ブックレットには歴史的ヴァイオリニストの演奏に詳しいタリー・ポッター氏による7ページの解説(英語のみ)に加え、15歳のギンペルや、1955年に撮られたヒンデミットとのツーショットなど、貴重な写真が掲載されています。(輸入元情報)
【収録情報】
Disc1
● ベートーヴェン[1770-1827]:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.61
カデンツァ:フリッツ・クライスラー/第2楽章から第3楽章への移行部のみカール・フレッシュ
I. Allegro ma non troppo
II. Larghetto
III. Rondo: Allegro
ブロニスラフ・ギンペル(ヴァイオリン)
バンベルク交響楽団
ハインリヒ・ホルライザー(指揮)
録音:1955年2月18日/音源:Vox PL 9340(モノラル)
● ラロ[1823-1892]:スペイン交響曲 Op.21
I. Allegro non troppo
II. scherzando: Allegro molto
III. Intermezzo: Allegretto non troppo
IV. Andante
V. Rondo: Allegro
ブロニスラフ・ギンペル(ヴァイオリン)
ミュンヘン交響楽団
フリッツ・リーガー(指揮)
録音:1956年4月4-6日/DGG 19 071(モノラル)
Disc2
● チャイコフスキー[1840-1893]:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.35
I. Allegro moderato
II. Canzonetta: Andante
III. Finale: Allegro vivacissimo
ブロニスラフ・ギンペル(ヴァイオリン)
バンベルク交響楽団
ヨハネス・シューラー(指揮)
録音:1960年/Opera 1187(ステレオ)
● ヴィエニャフスキ[1835-1880]:ヴァイオリン協奏曲第2番ニ短調 Op.22
I. Allegro moderato
II. romance: Andante non troppo
III. Allegro con fuoco - Allegro moderato (a la Zingara)
● パガニーニ[1782-1840]:1楽章の協奏曲(原曲:ヴァイオリン協奏曲第1番第1楽章、ヴィルヘルミ編)
ブロニスラフ・ギンペル(ヴァイオリン)
南西ドイツ放送交響楽団
ロルフ・ラインハルト(指揮)
録音:1956年/Vox PL 10.450(モノラル)
復刻プロデューサー:Eric Wen
復刻エンジニア:David Hermann
マスタリング:Dennis Patterson