ドイツの復刻系レーベル、メンブラン。
その中でも往年の演奏家の版権切れ音源を10枚に集めたボックスは人気が高く、一時期は月に2〜3枚も立て続けに発売されたほど。
殆どが著名な演奏家によるものだが、たまに他所ではCD化されてない様なマニアックな演奏家のBOXが出ていたりする。
本BOXのオットー・アッカーマンも、その1人と言えるだろう。
アッカーマンはこんにちではEMI系列に吹き込んだオペレッタの録音や著名なソリストの伴奏者として知られるが、交響曲や管弦楽曲の録音も行いLPとして発売されたが、それらはCD時代になってほぼ無視され、こんにちでは伴奏指揮者アッカーマンとして知られているに過ぎない。
しかし、伴奏からアッカーマン主役の音源までを集めたこのBOXはCDとしては多分初のアッカーマンのアルバムであり、この指揮者の実力を伺い知れる貴重なアルバム。
CDの簡単な紹介と感想は以下に。
CD1→モーツァルトの作品集である。
ソロモンをソリストに迎えたピアノ協奏曲第15番は、ソロモンのニュアンスに富んだ演奏を聴くべきなんだろうが、それに合わせて見事にサポートするアッカーマンを聴くべきだろうか。
ピアノ・ソナタ第11番はアッカーマンは全く登場せず、ソロモンのソロ。
トルコ行進曲の推進力のある演奏は聴きどころ。
尚、アッカーマンは他にもモーツァルトの伴奏を残しており、名演集なのだからそれらを持ってくれば良いのだが、何故ピアノ・ソナタを持ってきたのかは不明だが、こういう組み合わせのレコードがあるらしく、それをそのまま入れたのだろう。
2つの序曲は初CD化だろうか、オーソドックスながらも明快な演奏。
CD2→オランダ・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したモーツァルトの初期交響曲集。
アッカーマン主役の音源はコンサート・ホール・ソサエティに結構な数がある様だが、この音源の出どころもその辺りだろうか。
正統派の演奏といった感じで、しみじみとした味わいの演奏である。
CD3→同じくオランダ・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したモーツァルトの交響曲集で20番代の作品を収録。
演奏の感じも前巻と同じだが、22番の終楽章など推進力があってなかなかの演奏である。
CD4→ゲサ・アンダのピアノによるリストがメイン。
アンダのピアノが聴きどころであるのは間違いないが、アッカーマンの名伴奏も聴くべきで、ニュアンスの豊かな演奏とフィルハーモニア管弦楽団の技術力はなかなかの物。
ワーグナーはボーナス扱いで、チューリッヒのトーン・ハレ管弦楽団の演奏。
こちらはフィルハーモニアに比べオケが散漫な感じであり、正統派の演奏ではあるがそれ以上の物はない。
CD5→ドヴォルザークの作品集で、交響曲第9番とチェロ協奏曲を収録。
チューリッヒ・トーン・ハレ管弦楽団との録音でかつて他のレーベルから復刻されていた事もある音源です。
交響曲はスタンダードな正統派の解釈ですが、メリハリのついた演奏で、普通に名演と言えるもの。
チェロ協奏曲はトルトゥリエをソロに迎え、トルトゥリエとアッカーマンの息のあった骨太な演奏。
CD6→メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を、オランダ・フィルハーモニー管弦楽団と録音したもの。
共演はアメリカのヴァイオリニスト、ルイス・カウフマンである。
この演奏、オケはちょっと緩いし、ヴァイオリンの音色も甘いB級的演奏であるが、時折聴き返たくなる演奏。
ショパンのピアノ協奏曲第1番はチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団とリパッティとの録音、ピアノはもちろん、オケもゆったりとしたテンポが良く、伴奏上手なアッカーマンの才能が見事発揮されているが、大変音が悪いのが残念。
CD7→バッハの2つのヴァイオリン協奏曲とヴァイオリン協奏曲第2番はコーガンとギレリスのソロを迎えた音源で、オケはフィルハーモニア管弦楽団。
そしてボーナス扱いのグリーグのピアノ協奏曲を、モイセイヴィチのピアノとフィルハーモニア管弦楽団との録音で。
やはりそれぞれのソリストが目立つが、それを支えるアッカーマンとフィルハーモニアも注目。
CD8→シュヴァルツコップと競演した、ウィンナ・オペレッタの独唱集。
シュヴァルツコップの絶頂期の歌は昔から名盤と名高いだけあって、何度聴いても素晴らしい。
音質も本家とそんな違和感はない。
R.シュトラウスはアッカーマンとシュヴァルツコップが自信作としていた録音だそうで、確かにこれも先のオペレッタに勝るとも劣らない名演。
CD9、10→アッカーマンの名をこんにちまで伝えているオペレッタの録音から、シュトラウスの『ジプシー男爵』を収録。
この曲の名盤にはボスコフスキー盤やホルライザー盤等旧EMIへの録音が多く、これは最も古い部類。
シュヴァルツコップやゲッダ、プライと豪華な歌手が出ており、歌唱のほうも抜群。
しかし、アッカーマンのシュトラウスのオペレッタなら、こうもりの録音を入れて欲しかった。
同じEMIならカラヤン旧盤の録音があるせいと、歌手がちょっと地味なせいで目立たないため知名度も低くアッカーマンのオペレッタ録音では1番復刻率が悪いが、著名な名盤らと肩を並べる演奏だからである。
前記の中に特に記載が無ければ1950年代の録音としては聴きやすいだろう。
名演集という事で、見知った音源も多いが、珍しい音源もあり、アッカーマンの才能を存分に聴ける一枚だろう。
アッカーマンらが活躍した時代、こういう伴奏や廉価盤の録音を中心としていたせいで、CD時代になって、無視されたマエストロも多く、例えば同じフィルハーモニア管を振っていたアルチュオ・ガリエラや、コンサート・ホール・ソサエティで活躍した、ワルター・ゲール、テレフンケン系のフランツ・アンドレ、名教師としても名高いハンス・スワロフスキー、他ハンス・ユルゲン=ワルター、ハインリヒ・ホルライザー、クルト・ヴェス、ヴィルヘルム・シュヒター、イオネル・ペルレア等々、パッと思いついただけでこれぐらいいるが、メンブランにはこういうマエストロの10CD名演集も出してほしい。