1954年(昭和29年)に北海道各地の私鉄群を訪問し、記録した写真等をまとめた貴重なレポート。著者は東京学芸大学教授である青木栄一氏。上下巻に分かれているが、下巻は56ページからなり、下記のように項目分けされている。「雄別炭鑛鉄道釧路埠頭線」「北海道殖民軌道雪裡線」「釧路臨港鉄道」「雄別炭礦鉄道」「根室拓殖鉄道」「雄別炭礦鉄道尺別専用線」「十勝鉄道」「芦別森林鉄道」「三井芦別鉄道」「三井奈井江専用鉄道」「美唄鉄道」「北炭夕張化成工業所」「夕張鉄道」「そして-帰京」「札幌市電のこと」「函館市電のこと」。末尾に札幌市電、函館市電について、当時の様子がそれぞれ1ページずつ紹介されているが、こちらは著者の一連の紀行とは別に編集されたものとなっている。前編のレビューでも紹介したが、引用されている時刻表なども含めて、きわめて貴重な資料であり、掲載されている写真にも美しいものが多く、はっとさせられる。また、当時の旅の情景等を簡潔にまとめた文章も好ましい。掲載されている鉄道は、いずれも北海道の開発と、殖産興業の時代を背負った一種の象徴のような存在で、その歴史の中で役割を果たして去って行ったものに、今となっては切ない情緒を感じる。釧路臨港鉄道については、一部が現在も“現存する国内唯一の炭鉱”である釧路コールマインの専用線として生きており、ユニークな形状の機関車が行き来しており、フアンには有名な路線だ。また、十勝鉄道については、2012年6月まで、その一部である日本甜菜製糖と帯広駅の間の6kmほどが、貨物専用線として利用されていた。札幌市電、函館市電については、一部が現役である。他方、他の路線はいずれも昭和期にその使命を終えたものだ。現在ではその廃線遺構などが探索されているが、往時の写真は、その鉄路が確かに生きていた時代の刻印と呼べるもので、感慨が深い。実際、北海道は、開拓・開発の歴史の中で、実に多くの鉄路が建設された歴史がある。森林鉄道、鉱工業専用鉄道、あるいは拓植鉄道などその性格も様々で、今でも山中の道路など通るおり、気を付けてあたりを見ると、一見用途不明な使われていない橋脚などが廃墟をして姿を現す。芦別森林鉄道なども、びっくりするほど人里から離れた山奥にその痕跡を残しており、経緯をしらないものには、まさに謎の廃墟として映る。本書には、各鉄道の主力機関車や、編成、主要駅の様子が的確に収められている。また、添付されている時刻表を見ると、多くの軌道が停車時間を含め、時速20km/h程度の走行であったこともわかる。この時刻表がすでに、軌道が現在の幹線のような高規格で作られてはおらず、蒸気機関車が主流で客貨車混合列車が多く、駅では貨物の出し入れも行われていた、そのような物流形態の時代の一面を雄弁に物語るものと言えるだろう。この書を片手に、これらの廃線跡を探索してみたいと思わせてくれる一冊だ。これらの廃線跡の多くがその痕跡さえ薄めていく現在であるが、人為的に保護された史跡以上に、歴史の語り手として、何かを私たちに伝えてくれるものであると思う。