道 -天職に巡り合うまで

プロローグ‥「日本出発」より

――　一九六三年十一月十六日　――
今から約六十年前、東京オリンピックの前年に、私は一人でオーストラリアのシドニーに向けて飛び立った。
「笑うのも英語よ、大丈夫？」
見送りに来てくれたたくさんの友人知人にからかわれながら、日本の唯一の国際空港である羽田空港からシドニーへと出発した。
カンタス航空二十二便。羽田空港発二十時三十分、シドニー空港着翌日七時五十分。
この空の旅が、これ以降数えきれないほど乗ることになる飛行機での、初めての旅だった。
私は友達と計画したカナダ遠征の山登りのために、三カ月間のオーストラリア語学留学をするつもりで日本を出発した。
だが、その時見送りに来ていた人々はもとより、私自身ですら想像もしなかったのだが、帰国したのは世界百余国を巡り終えた、なんと六年八カ月と十一日、日数に直すと二千四百四十五日後のことだった。
そして帰国後は、ジャルパックのツアー・コンダクターとなり、以来旅の日数は約七千日、旅の回数は約七百回を超えることとなる。

【著者紹介】
富井道子 : １９３５年東京中野区に生まれる。１９６３年日興証券を退社。オーストラリアへ、３ヵ月の予定で語学留学に出発。しかし帰国したのは１９７０年だった。１９７１年よりジャルパックのツアーコンダクターとして活躍をはじめ、９０歳のいまも続けている。ツアーの回数は７３０回に及び、２０２４年には世界遺産１０００ヵ所を旅した（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）