ワーグナー:トリスタンとイゾルデ(3CD)
ニルソン、ヴィントガッセン、グラインドル
カール・ベーム&バイロイト(1962)
バイロイトへのカール・ベームのデビュー演目として、注目の録音。早めできびきびとしたテンポの中、ヴィントガッセン、ニルソンほかの素晴らしく強力な歌手陣が充実した演奏を繰り広げています。
1966年の演奏に匹敵する名演奏として待望の復刻です。音質は、モノラルのライヴとしては良好。(arbre)
【ニルソン・プロフィール】
史上最高のドラマティック・ソプラノとして知られるスウェーデンのオペラ歌手、ビルギット・メルタ・ニルソンは、1918年5月18日、スウェーデン南部の農村、ヴァストラ・カルプの農家に誕生。後年「歩くより前に歌い、夢の中でさえ歌っていた」と述懐する彼女は、歌うことがなによりも好きな子供で、村の教会の聖歌隊でも歌っていましたが、父親は、娘が一人っ子だったこともあり、彼女が農場を継いでくれることを望んで歌手になることに反対します。しかし、彼女と母親の懸命な説得についに父も折れ、1941年、23歳のときにストックホルムのスウェーデン王立音楽アカデミーに進み、1944年に卒業。
その後、第二次世界大戦のため、なかなかチャンスに恵まれなかったニルソンですが、1946年にスウェーデン王立歌劇場の代役出演の話が舞い込み、フリッツ・ブッシュの采配により『魔弾の射手』のアガーテ役でデビューします。この公演で成功を収めた彼女は、翌シーズンにはマクベス夫人と『薔薇の騎士』の元帥夫人を歌い、さらに1951年にはブッシュの薦めでグラインドボーンに出演、『イドメネオ』のエレットラ役で世界の注目を集めることとなります。
1953年にはウィーン国立歌劇場でワーグナーに挑戦、エルザとジークリンデで評判となり、以後、トスカ、アイーダ、アメリアなどとレパートリーを拡大、特にサロメは圧倒的な評価を獲得し、活躍の舞台もスカラ座、コヴェントガーデン、ミュンヘン、デュッセルドルフとどんどん広がってゆきます。
中でも1954年のエルザ役によるバイロイト初出演は重要な出来事といえ、以後、毎年バイロイトに招聘されてワーグナー歌手としての声望を高めることとなります。
アメリカ・デビューは1956年、ロサンジェルスとサンフランシスコからスタートし、シカゴなどを経て、1959年、メトロポリタン歌劇場におけるイゾルデ役で空前の成功を収めます。
世界で活躍したニルソンだけあって、日本にも1967(イゾルデ)・1978(リサイタル)・1979(リサイタル)・1980(エレクトラ)と、計4回来演しており、多くのファンを唸らせたことは有名。
1984年に引退してからは、後進の指導にあたるなどし、晩年は故郷の農場で静かな余生を過ごしていたということです。
ニルソンの全盛期は1950年代から1960年代と思われますが、1980年の公演でもその巨大な声は健在だったといいますからよほど体力にも恵まれていたのでしょう。
ニルソンはさいわいなことにレコーディングも数多く、その分厚いオーケストラを突き抜けるクリスタルな輝きを帯びた圧倒的な声を様々なレパートリーで味わうことが可能です。
得意の役柄は何といってもワーグナーやシュトラウスのヘヴィーな役で、それにトゥーランドット役が極め付きとされていました。 実際、デッカやPHILIPS、EMIなどに遺されたレコーディングの数々から聴こえてくるのは、劇的でありながら怜悧、透徹した叙情を漂わせる隔絶した美の世界であり、彼女が世界各地で最大級の賛辞を獲得したことも納得の歌唱がそろっています。(HMV)
【収録情報】
・ワーグナー:『トリスタンとイゾルデ』全曲
ヴォルフガング・ヴィントガッセン(トリスタン)
ヨゼフ・グラインドル(マルケ王)
ビルギット・ニルソン(イゾルデ)
エーベルハルト・ヴェヒター(クルヴェナール)
ケルスティン・マイヤー(ブランゲーネ)
ニールス・メーラー(メロート)
ゲルハルト・シュトルツェ(牧童)
ハンス=ハンノ・ダウム(舵手)
ゲオルグ・パスクーダ(水夫)
バイロイト祝祭管弦楽団&合唱団
カール・ベーム(指揮)
録音時期:1962年
録音場所:バイロイト祝祭劇場
録音方式:モノラル(ライヴ)