デヴィッド・ジョージ・ハスケル

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ミクロの森 1・の原生林が語る生命・進化・地球

デヴィッド・ジョージ・ハスケル

Product Details

Genre
ISBN/Catalogue Number
ISBN 13 : 9784806714590
ISBN 10 : 4806714593
Format
Books
Publisher
Release Date
July/2013
Japan
Co-Writer, Translator, Featured Individuals/organizations
:

Content Description

ピュリッツァー賞 2013年最終候補作品、リード環境図書賞、全米アウトドア図書賞を受賞


“科学と詩の間にあるネイチャーライティングの新ジャンル”――エドワード.O.ウィルソン(ハーバード大学名誉教授) 


アメリカ・テネシー州の原生林の中。
1uの地面を決めて、1年間通いつめた生物学者が描く、森の生きものたちのめくるめく世界。


訳者あとがき
『コケの自然誌』に続き、幸運にも、ネイチャーライティングの秀作を訳す機会をいただいた。ちょうど本書の翻訳原稿があがったころ、二〇一三年のピュリッツァー賞の発表があり、受賞こそ逃したものの、本書は「一般ノンフィクション」部門の最終選考に残った三作品の一つである。ニューヨーク・タイムズ紙やウォール・ストリート・ジャーナル紙をはじめ、メディアによる評価も高い。これほど高い評価を受けるのはなぜなのだろう。  一平方メートルという、ほんの畳半畳ほどの広さの原生林をつぶさに観察することを通して、森羅万象の不思議に思いを馳せる─そのこと自体を、初め私はそれほど目新しいことと感じなかった。でもそれはおそらく、私が日本人であるからなのだ、と思い至った。私たち日本人はそもそも、小さきものを愛でることが好きだ。盆栽も、箱庭も、苔玉も、縮小された自然であり、世界である。大きくて複雑なもののエッセンスを、小さなものに見出す、という行為が日本人は大好きなのだ。だから、この一平方メートルの土地に、それが存在する森全体が、そしてその森が存在する世界全体が存在している、と考えることに、(少なくとも私は)何の不思議も感じない。


また日本には、春夏秋冬という四つの季節だけでなく、一年を二四の節気に分け、さらにそれを三つずつの「候」に分ける、「七十二候」と呼ばれる季節の呼び名がある。もともとは中国のものが日本に伝わり、江戸時代以降、日本の気候風土に合わせて改訂が加えられたという。七十二候の各名称は、そのころ、天候や自然界にどんなことが起きるかを短文で表わしたもの。たとえば太陽暦の三月二五日から二九日ごろは「桜始開(さくらはじめてひらく)」。五月五日から九日になれば「蛙始鳴(かえるはじめてなく)」。秋、一〇月一八日から二二日ごろまでは「蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)」。そして節気で言えば大寒の一月二五日から二九日は「水沢腹堅(みずさわあつくかたし)」といった具合だ。なんと美しい世界の捉え方だろう。七十二候の名称には俳句の季語になったものもある。季語が成立したのは平安時代だが、さらに古く、万葉集の時代から、日本の詩歌と季節は切っても切り離せないものだった。つまりそうやって日本人は、昔から季節に寄り添うようにして暮らしてきたのだ。


 本書の舞台となるテネシー州の森も、冬は雪に閉ざされ、春は花々が咲き乱れ、夏はホタルやセミが飛び交い、秋には落ち葉が地面を覆う、四季折々の変化が豊かな土地であることが本書からわかる。著者はここで、一年間、まさに移ろう季節に寄り添うようにして、彼が「曼荼羅」と呼ぶ森の中の小宇宙を観察し、読者もまた、一年間の季節の移り変わりを追体験することになる。


この場所を曼荼羅と呼ぶこと、またタオイズムや禅に再三言及していることからは、著者が東洋思想の影響を受けていることが明らかだ。また彼の文章が非常に詩的で、文学的な隠喩をちりばめたものであることも、詩歌に季節を詠みこんできた日本人との共通点を思わせる。ネイチャーライティングというジャンルが成熟しているアメリカで本書を際立たせたのは、まさにこの東洋的な(そして私たちにとってはあまりにも自然なことに思える)視点だったのではないのだろうか。


四季の移ろいを書き記すだけならそれは歳時記であるが、本書が単なる「英語で書かれた歳時記」ではないのは、著者の観察を裏づける圧倒的な科学的知見による。「蛙始めて鳴く」と観察するだけではなくて、蛙は「なぜ」この頃に鳴きはじめるか、それを解き明かすのが本書なのだ。鳥の飛翔の秘密、ホタルが光るメカニズム、森の植物同士のコミュニケーション……。まるで、パソコンのスクリーンに映し出された森の写真の、一輪の花を(あるいは一匹の虫を)クリックしたら、それに関する膨大な情報を提供する別のページに飛んだかのように、私たちが普段ごく当たり前に目にしているものの裏に、じつはどれほどの奇跡が隠されているかを鮮やかに見せてくれる。楽しい驚きの連続である。だから本書の真の価値は、自然という大きなものを曼荼羅という小さなものに縮めて見せた、そのことにあるのではなく、小さな曼荼羅を通して読者に見せてくれる世界の深さ、広大さにあるのだと思う。


さらにその科学的知見や観察された事象の解釈は、現代の動植物学の先端を行く、ときに一般的な科学の常識を覆すものでもある。シカの減少を食い止めるために人間がとってきたさまざまな手段は、じつは自然な森のあり方に反する結果を招いたのではないか。菌根に関する最新の実験結果は、森の木にあっては「個体」という概念は幻想であることを示唆する─。自然において他と隔絶されたものは存在せず、あらゆるものが関係し合い、繋がり合っている、というのは、本書に繰り返し登場する主題だが、これは精神世界的な文脈で「ワンネス(oneness)」と呼ばれる概念に近い。


ニューヨーク・タイムズ紙はハスケルを「生物学者のように思考し、詩人のように書き、自然界に対する彼の偏見のない見方は、仮説主導型の科学者と言うよりもむしろ禅僧に近い」と評している。普段は動植物学にまったく無縁の読者、動植物に詳しい人、科学者、瞑想者、詩人─どんな人が、どんな異なった「前提」を持って本書を手に取っても、きっとそれぞれに刺激を与えられることと思う。




【著者紹介】
デヴィッド・ジョージ・ハスケル : 米ユニバーシティ・オブ・ザ・サウス生物学教授。オックスフォード大学で動物学の学士号、コーネル大学で生態学と進化生物学の博士号を取得。調査や授業を通して、動物、特に野鳥と無脊椎動物の進化と保護について分析を行ない、多数の論文、科学と自然に関するエッセイや詩などの著書がある。米国最優秀教授賞を、2009年にテネシー州で受賞。South Cumberland Regional Land Trustの理事として、シェイクラグ・ホローの一部を、買収し、保護する運動を起ち上げ、指揮した

三木直子 : 東京生まれ。国際基督教大学教養学部語学科卒業。外資系広告代理店のテレビコマーシャル・プロデューサーを経て、1997年に独立。海外のアーティストと日本の企業を結ぶコーディネーターとして活躍するかたわら、テレビ番組の企画、クリエイターのためのワークショップやスピリチュアル・ワークショップなどを手がける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

(「BOOK」データベースより)

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Book Meter Reviews

こちらは読書メーターで書かれたレビューとなります。

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  • たまきら

    読み友さんの感想を読んで。何度も「曼荼羅」という言葉が出て来て、南方熊楠を思いました。そう、どこか視点が日本的というか、なじみのある表現なんです。「私たちは…私たちの内側にある別の生命によって生かされているのである」という表現は、最近細胞や細菌の集合体である「肉体」の在り方を調べていた自分にはとてもしっくりくる表現でした。面白く読みましたが、既視感があったのも事実です。

  • アナクマ

    直径1メートルちょいの、森の地面の観察日記。といってふんわり歳時記や、自然うんちく本の雰囲気ではなく、広範で堅い科学的知見に基づいた、「自然界に偏見の無い見方」に詩成分をまぶした文体(そこにちょっとクセがある。観察対象を曼荼羅と名づけるなど)。冬の朝の冴えた頭に効きそう。◉草食獣の適正数、木の根と菌、森とプラスチック、枝分かれの極意…。充分な洞察力と知識があれば、観察範囲は小さくても語れることが沢山ある、の好例。〈一粒の砂にも世界を/一輪の野の花にも天国を見〉(ブレイク)。

  • ykshzk(虎猫図案房)

    1uの庭を知るだけでも一生かかる、みたいなことを書いたのはソローだったか、ヘッセだったか忘れたけれど、本当にそう思う。これは、実際に森の中の1uの区画を1年間観察した日記のようなもの。内容は良いのに・・!欧米人らしい比喩表現や、ちょっと壮大すぎるたとえ、が度々出てくることに食傷気味に。こちらも森をじっくり観察する感じで落ち着いて読みたいのに、少し気が散ってしまった。でも、とにかく全部繋がっているのだということが分かる。あちこち行くのも良いけど、一つの山の四季をじっくり見てみるのも良いと思わせてくれる。

  • フジマコ

    「森の生態系がもつ物語は曼荼羅(直径1mの原生林)と同じくらいの面積の中にすべて存在していると私は信じているのだ」作者は、1年間曼荼羅に通い、起こったことを起こったまま伝えています。様々な動植物の生への営みに触れると、自然の中で自然と共に生きたいと思います。それは叶わないので、ひとまず、家の芝生ボウボウの小さな緑の庭が恋しくなります。

  • 月夜乃 海花

    曼荼羅の森に含まれる不思議。意識しないだけで自然は不思議だらけで、見事なサイクルが成り立っている。生態系の美しさを語ってくれた本。

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