廃線跡の実地調査、古い資料や写真の紹介により、いまはなき「鉄道」を対象に「考古学」をする雑誌、消散軌道風景の第1巻。投稿日現在、第3巻までと、その続編にあたるものが「廃線系鉄道考古学」にタイトルを変えて1巻分、計4巻が刊行されている。本巻の目次は以下の通り。
はじめに 2
カラーダイジェスト 9
思い出の東京都港湾局臨海線 須永秀夫 14
知られざる軍都 赤羽周辺の失われし鉄路を求めて 前編 岡本憲之 20
chapter01 下河原線廃線跡を歩く 岡本憲之 30
chapter02 栃代川林用軌道跡をめぐる 竹内 昭 37
chapter03 “鉄聯”夢のあと 松本謙一 41
chapter04 太平洋石炭販売輸送臨港線の記録 情野裕良 48
Column 気象告知板ウォッチング 黒田陽一 62
chapter05 明治時代からの大事業・淀川改修工事鉄道を探る 竹内 昭 64
chapter06 神戸製鋼所所蔵アルバムから 須永秀夫 71
chapter07 富山地方鉄道の除雪モーターカー 黒田陽一 79
産業用鉄道カタログ&パンフレット〔第1回〕 84
Column 保守用車データベース「MCDB」を活用しよう! 黒田陽一 88
chapter08 面妖な荷物電車 縄田 允/名取信一 89
chapter09 たかがトロッコされどトロッコ・・・ 岡本憲之 92
街角探訪鉄道プラスα 山口雅人 98
chapter10 エル・バジェ鉄道 大脇崇司 100
Column 電車化された有蓋車 縄田 允/岡本憲之 108
chapter11 大井川鉄道 幻の本線 市原 純 109
Column 小長井製材所のいま 市原 純 118
Column 大井川鉄道 横岡支線廃線跡探訪 市原 純 119
chapter12 史上初!全国遊覧鉄道大全 半田亜津志と遊覧鉄道を愛でる会 120
A4変形版という大きめのサイズを用いており、地図など細かいものを引用に耐えるものとなっている。巻頭の「カラーダイジェスト」以外、白黒印刷なのが残念だが、内容はとても興味深いものばかりだ。
釧路市にあった「太平洋石炭販売輸送臨港線」は、太平洋炭鉱(釧路コールマイン)の運炭鉄道で、つい最近まで、国内唯一の現役の運炭鉄道であった。港湾までを結ぶ線路は、春採湖畔を通るなど、風景的に絵になる路線であった。しかし、当巻刊行の直前の2019年6月に運用を終了し、廃止となった。私はかの地を訪問したことがあるが、祝日だったこともあり、鉄道は運行していなかったが、降りしきる雨の中、ヤードに留置してある車両たちをながめることはできた。その味わい深い風景は、車両・線路ともども、印象深く、一度稼働中の現場を見学できないものかと思っていたのだが、ついにその機会を得ることができなかった。だから、当書で、その情報をまとめて美しい写真と併せて紹介してくれるのは、とてもありがたいことであった。
森林鉄道跡の調査をライフワークとしている竹内氏、狭軌鉄道全般に造形の深い岡本氏の報告は、やはりさすがだ。竹内氏のこのたびの報告は身延線甲斐常葉駅前から栃代(とじろ)川に沿っていた軌道に関する報告。もちろんそれも興味深いが、それ以上に私がインパクトを受けたのは「明治時代からの大事業・淀川改修工事鉄道を探る」と題した一編である。軌道は、河川改修等に際して、一時的に設置・運用される場合がある。それらは、一過性の存在であるため、きちんとした報告や記録がない場合がほとんどである。それゆえに、このたび掲載されている写真を中心とした報告は、貴重というだけでなく、かの地の歴史と日本の土木事業史の有意な一事を示すものであり、様々に留め置かれるべきものだと感じる。「たかがトロッコされどトロッコ・・・」と題した岡本氏の報告も素晴らしい。狭軌軌道に関する氏の深い造詣は当然として、さりげない場所に驚くほど印象深い世界が存在していた、そんな奇跡的と称したい風景が紹介されている。
「エル・バジェ鉄道」は、なんとスペインの鉄道の紹介だ。鉱物資源を搬送する同鉄道のユニークな車輛が紹介されている。
「史上初!全国遊覧鉄道大全」は表形式の資料であるが、いわゆる遊園地の現在稼働中の「豆汽車」類を総覧したもの。このようなテーマで、「大全」と称すべき資料が存することは、実にフアン心理をくすぐるもので、私もついつい見入ってしまった。