ずっとヒッピーでいられるわけでもなく、スーツを着て企業に就職するか、農場や工場に散って行った若者たちが支持したのが、70年代後半のフリートウッド・マックだと思います。このデュオ作、間違いなくマック起死回生のきっかけとなったアルバムで、若者の恋愛、疲れ、楽観主義を表現しています。家庭的とも言えるデュオ作をつくりあげたのが当時貧乏生活者だったバッキンガムとニックスです。ここでバッキンガムの技能と才能を見抜いたミック・フリートウッドも大したものながら、この二人が米国を代表するパフォーマーに成長する余力をまだまだ残していたことに驚きます。言い換えると習作、でありながら何十年も語り継がれる印象的な音楽なのです。
リンジー・バッキンガムは綺麗なフォーク・ギタリストではありません。6. Don’t Let Me Down Again を聴いてもらえばわかりますが、(ピックなしで)ぐいぐい弾きまくるワイルドなギタリストです。スティービー・ニックスもいわゆる典型的なウエスト・コースト・シンガーではありません。彼女の特長は地声で通すことで、ドスを効かせることではエタ・ジェイムズに近いと思っています。このデュオ作が売れなかったのは、プロモーションがなかっただけの理由でなく、二人の個性をまだ見抜ける人が業界にいなかったことによるのでしょう。
ところが聞き分ける人はいるもので、ライ・クーダーはニックスの個性を見出して映画「ストリート・オブ・ファイアー」に彼女のデモ曲を起用しているのです。同時にウエスト・コースト音楽の飽和状態を見越して、ティーンズより上の世代にアピールする音楽をつくったキース・オルセンにも確信があったのでしょうね。以後カリフォルニアだって暗いし、恋愛はしんどいし、でも生きて行かなきゃならないよね、というウエスト・コーストの基調が生まれたと思います。
くやしいのがCD後半で音程が不安定になるところ。マスターが原因と説明されていますが、わたしは信じていませんし、マスターがだめなら盤起こしすればよろしい。