基本情報
内容詳細
・ 現代文明と欲望論――仏教幸福論の視座から/ 川田洋一
・新しい地球文明と生命価値経済システム/ 八巻節夫
・21世紀の科学技術とその課題/ 山本修一
・グローバル・フェミニズムの潮流/ 栗原淑江
・「共生」に対する仏教からの視座/ 松森秀幸
・宗教と暴力―他者の非人間化と暴力への契機/ 平良直
・持続可能性にまつわる倫理――社会的公正と世代間倫理/ 柳沼正広
東洋哲学研究所『大乗仏教の挑戦』シリーズ9冊目となる本書は、2013年3月に行われた「地球文明の未来」と題する学術シンポジウムにおける諸発表を基に構成されており、研究所の研究員、委嘱研究員が、各専門分野の知見を生かして「持続可能な地球文明」への道を照らし出そうとする試みです。
各章概要は次のようになっています。
※ ※ ※
本研究所の川田洋一所長による第1章の私の「現代文明と欲望論――仏教幸福論の視座から」では、環境問題や経済や政治的行き詰まりをもたらしている地球上の現代文明の病弊が、人間自身のなかに潜在する「欲望」そのものから生じてきていることを指摘した上で、人間の「飽くことのない欲求」をどのように制御していくかということを仏教が説く欲望論から考察しています。そして、仏教で説かれる人間の煩悩とその悪循環を現代の心理学的知見に即して把握しながら、いかにして人間の幸福は達成されうるのかを「知足のライフスタイル」と真に豊かな社会との関係のなかで論じています。
八巻節夫氏による第2章「新しい地球文明と生命価値経済システム」では、現代の物質文明を支えてきた市場経済システムや伝統的経済学は人間の物質的欲望を最大限に引き出すことが目的となっており、このような文明は持続が困難であることを、エントロピー理論をもとに明らかにし、人間の欲望を満たすシステムである市場価値を生命価値中心のシステム、さらに生命再生産社会経済システムへと転換する必要性を論じています。その生命価値は生物的生命に限定されず、生の増進につながる価値全体、人間の幸福を指すことを論じながら、そのようなシステムへと移行する人間観を仏法の人間論のなかに探求しています。
山本修一氏による第3章「21世紀の科学技術とその課題」においては、現在の科学技術のめざましい発展は大量の核兵器の製造や、地球環境の破壊など人間の幸福にかならずしも結び付いてこなかった点を指摘し、現在開拓されつつある遺伝子技術などが今後どのように進展していくか、21世紀の科学技術の未来について論じています。そして、コンピュータ、ロボット、医療、脳科学の発展とそこにある課題について検討した上で、その技術革新がもたらす人間社会へのインパクトと変化について予見し、科学技術がますます発展するなかで我々がどのような対応を迫られているかを考察しています。
栗原淑江氏による第4章「グローバル・フェミニズムの潮流」では、女性をめぐる問題は、グローバル時代の政治・経済・環境などの地球規模で取り組まざるを得ない問題群と同様に現代世界の中心問題であるとした上で、従来、従属的、二次的な存在として虐げられてきた「女性」がフェミニズムの運動の展開のなかで、性差別とどのように戦ってきたかを「グローバル・フェミニズム」の潮流と展開の歴史をとおして描き出しています。そのなかで、女性の権利の獲得の問題が人間全体の人権闘争の歴史と連動する運動するものであったことを論じ、その運動がグローバル時代の問題群克服に大きなインパクトを与え続けていることを論じています。
松森秀幸の第5章「『共生』に対する仏教からの視座」では、仏教、特に大乗仏教は、インドから中央アジアを経て、中国、朝鮮半島、日本など東アジアに伝わる過程で各地の言語・思想を受容しつつ広がってきており、融和的な宗教であるといえるが、自身と異なる宗教に対して排他的な側面をもつことも否めないところがあることを指摘しています。そして、異なる他者と「共に生きていく」ことが求められている現代において仏教の「共生」の視座をどのように点に見出すことができるのかを、法華経の諸法実相、円頓止観を考察するなかで論じています。
第6章、平良直氏による「宗教と暴力――他者の非人間化と暴力への契機」では、宗教と暴力をめぐる現代世界の状況を、宗教が人間社会にコスミックな意味を付与する機能と関連させて論じています。そして、どのような宗教伝統も暴力を抑止する規範や道徳的規律を備えているにもかかわらず、なぜその倫理規範が機能せず暴力が正当化されてしまうのかを考察し、諸宗教の伝統に内包されるグローバルな倫理と暴力抑止の力を発現させ、暴力発動のメカニズムをいかに遮断することができるかについて論じています。
第7章、柳沼正広氏による「持続可能性にまつわる倫理――社会的公正と世代間倫理」では、地球環境の持続可能性に関する倫理的な問題、社会的公正の倫理的課題を取り上げ、先進国と途上国との対立を事例としながら、ピーター・シンガー、ジョン・ロールズ、アマルティア・センなど諸研究者が提起した諸問題を検討、吟味しつつ、世代間の倫理、特に未来の世代との倫理の課題と問題点について考察しています。
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