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ISBN 10 : 486624108X
Content Description
曲亭馬琴の江戸時代に始まり、清河八郎、中濱万次郎、福沢諭吉、イザベラ・バード、鳥居龍蔵・鳥居きみ子に至るまで。
人類の歴史は食を求めての旅であった。
私生活では、生真面目で酒を好まず、ほとんど外食もしなかったという馬琴。奇想天外な長編スペクタクルを生み出した原動力は、江戸を離れ、非日常の時空間に身をおいた数か月の体験にあったのかもしれない。ー 作家が旅した上方・曲亭馬琴
視野の広さと総合性で今なお高く評価される鳥居龍蔵の学問は、ともに歩いた妻子による台所からのまなざしに支えられていたともいえるのである。ー 人類学者のモンゴル踏査・鳥居龍蔵・鳥居きみ子
未知なる土地へ道を拓いた人々、その記録をたぐり寄せることで見えてくる食風景 ー
饗宴の際に必ず出される洋酒。グラスに浮かんでいるのは、氷である。(‥)時節は春の盛り。よもや氷があるとは思いもしない。驚愕の体験のひとコマである。ー 幕臣たちの文明体験・遣米使節団と福沢諭吉
意外なところで西洋料理を食する機会をえている。その店は秋田(久保田)にあり、ビフテキやカレーを堪能したイザベラは「眼が生き生きと輝く」ような気持ちになった。ー 異国人女性がみた明治の日本・イザベラ・バード
●はじめに●(一部抜粋)
人類の歴史は移動、すなわち旅の歴史でもある。数百万年にもおよぶそれは、食を求めての旅であった。いやまて、移動と旅は違う、と考える人もいるだろう。だが、日本語のタビは古語である。日本最古の歌集とされる『万葉集』にはタビを詠んだ歌がたくさんあるが、そこに描かれた情景は、遊興とは程遠い。山中でのわびしい食、それすら得られず、行き倒れの骸となるのもまれではない。古代のタビは、常に死と隣り合わせであった。
民俗学者の柳田国男は、タビの語源について、「給へ」の口語体であるトウベに通じるのではないかと推測している。語源については諸説あるが、柳田はここで、「給へ」すなわち「ください」と食を求めながら移動することを旅の初源としているのである。
旅と食とは分かちがたく結びついている。いうまでもなくそれは、娯楽としての旅と食の関係に限ったことではない。
旅を生きる術とした人にとっては、旅先での食がそのまま命をつなぐための糧にもなった。神仏の加護を願って身一つで修行の旅をする人には、食を乞うことが心身鍛錬の一過程でもあった。 そしてまた、未知なる土地へと道を拓いた人たちは、未知なる食にも遭遇し、これを口にした。
それぞれの旅には、それぞれの食がある。そのことを知る手掛かりは、旅人たちが残した記録にある。ただし、旅の記録に食の記録が伴うことは、実のところさほど多くはない。(中略)
それでも、そうした記録を掘り起こしてみると、旅の情景のなかに埋め込まれた食の断片が浮かびあがってくる。どんな旅人が、どこで、どんな食の風景と出会ったのか、本書では、それらをその人の生きざまや時代背景とともに紡ぎ合わせることを試みた。
【著者紹介】
山本志乃 : 1965年鳥取県生まれ。神奈川大学国際日本学部歴史民俗学科教授。博士(文学)。民俗学専攻。定期市や行商に携わる人たちの生活誌、庶民の信仰の旅、女性の旅などについて調査研究を行っている。著書に『団体旅行の文化史―旅の大衆化とその系譜』(創元社、第14回鉄道史学会住田奨励賞(第二部門書籍の部)受賞)、『行商列車―“カンカン部隊”を追いかけて』(創元社、第42回交通図書賞(歴史部門)受賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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