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源実朝「東国の王権」を夢見た将軍 講談社選書メチエ

坂井孝一

User Review :4.0
(1)

Product Details

ISBN/Catalogue Number
ISBN 13 : 9784062585811
ISBN 10 : 4062585812
Format
Books
Publisher
Release Date
July/2014
Japan

Content Description

建保七年(一二一九)一月二十七日、鎌倉鶴岡八幡宮社頭。大雪のなか右大臣実朝は甥・公暁の凶刃に斃れる。以来八百年、その人物像は誤解されつづけてきた。「文弱の貴公子」「憂愁と孤独の人」「北条氏の傀儡」…。しかし、歴史学の眼で和歌に向きあうとき、別の声が聞こえてくる。政治状況の精緻な分析と、歌句への犀利な読みこみが、青年将軍の真の姿と夢を明らかにする!

目次 : プロローグ 出でていなば主なき宿となりぬとも/ 第1章 擁立の舞台裏/ 第2章 成長する将軍/ 第3章 歴史家の視線で読む和歌/ 第4章 建暦三年の激動/ 第5章 未完の東国王権/ エピローグ 新たな実朝像の創出

【著者紹介】
坂井孝一 : 1958年、東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得。現在、創価大学教授。専攻は日本中世史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

(「BOOK」データベースより)

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『豊臣秀頼 (歴史文化ライブラリー)』と同...

投稿日:2014/10/20 (月)

『豊臣秀頼 (歴史文化ライブラリー)』と同様のコンセプトの本である。誤解され、軽視されてきた人物の復権の書。本書の主人公は鎌倉幕府3代将軍源実朝である。実朝は古くから無力で文弱、幸薄い悲劇の将軍という見方が有力だった。生母北条政子と執権北条義時に実権を奪われ、和歌・蹴鞠に耽り官位の向上のみを楽しみとした貴族趣味の持ち主で、最期は甥で猶子(養子)の公暁に暗殺され26年の短い生涯を終えた。彼の死によって源氏将軍は断絶し、幕府は北条氏専制の時代へと移っていく。実朝には非力で無能な歌人将軍というイ メージが定着していった。本書はこれまでの負のイメージを取り去り、政治家としての実朝の再評価を試みた一冊である。 実兄の2代将軍頼家の非業の最期を受けて将軍職を継いだ実朝、12歳の少年であったため生母政子や外祖父で執権の北条時政・義時らが政務を担ったが、成長するにつれ実朝も親裁を行うようになっていき、時政が失脚し義時が執権となってからは徐々に増えていく。実権が北条氏側にあったのは変わらないが、実朝も政務に意欲を示していたことを著者坂井氏は資料を紐解きながら説き起こしていく。当初は実朝のことを青二才と軽視していたらしい義時も一目置くようになったという。生母である「尼御台所」政子にはさすがに頭が上がらなかったようだが、それでも実朝は少しづつ独自色を打ち出していった。 実朝は歌人として優れた才能を発揮し、当代一の歌人藤原定家からも高く評価され『小倉百人一首』の一人に選ばれたほどであった。それゆえに「文弱」のイメージも付きまとったのだが、坂井氏はそれを否定する。歌集『金槐和歌集』をはじめ実朝の残した和歌を丹念に調査し「文弱」に見えて実はしたたかな政治家実朝の実像を炙り出していく。実朝が和歌に打ち込んだ真意、それは当時朝廷の「治天の君」であった後鳥羽上皇に範を求め、その上で幕府の長として朝廷の長である上皇と渡り合うためのツールとするためであった。当代随一の総合文化人であった上皇から伝統文化を吸収し、もって御家人たちの上に君臨し、さらに朝廷とも向き合う。官位を追い求めたのも幕府統治に必要だと考えたからであり、決して貴族趣味などという軟弱な理由によるものでなかった。 しかし、実朝の前途は多難であった。緊密な関係にあった幕府の重臣和田義盛が執権義時の度重なる挑発を受けて挙兵、いわゆる「和田 合戦」によって一族全滅となる。これにより義時は幕府に揺るぎない権勢を確立するが、その義時に担がれて幕府軍の象徴となった実朝 の権威も向上していく。実朝の官位は右大臣にまで上昇、将軍親裁の強化が図られていく。この頃実朝は唐突に渡宋計画をぶち上げ幕府 重臣で義時派の大江広元を慌てさせる、という行動をとる。従来この渡宋計画は実権を失い厭世的になった実朝の気まぐれ、現実逃避で はないか、と考えられてきた。しかし坂井氏は「将軍を支持するか否かをみきわめる試金石」であり「将軍親裁に抵抗する勢力への強力な 示威」ではないか、と指摘する。また実朝は「必ずしも自分の子孫が将軍職を継がなくてもよい」と発言するなど、なかなかしたたかな一面 を見せている。 歴史では実朝の死後、京都から摂関家の子弟や皇族を将軍に迎えるようになっていくが、元々の発案者は実朝その人であった。坂井氏は公暁の受けた衝撃は大きかったはずだ、と見る。自分が実朝の養子として次の将軍になれると思い込んでいたはずの公暁にしてみれば、ハシゴを外されたようなものだ。そして1219年、ついに公暁は鶴岡八幡宮において実朝を襲撃し殺害、自身もその日の内に討ち取られ、かくて源氏の嫡流は断絶することとなった。この暗殺事件については北条義時黒幕説、三浦義村黒幕説などがあったが、坂井氏は両説とも 否定、追い詰められてヤケを起こした公暁の単独犯行と結論づける。いずれにせよ、実朝は志半ばで無念の横死を遂げたのである。 「文弱の人」と見られてきた実朝のイメージに一石を投じた最初の人は正岡子規であった。子規は実朝の残した和歌に「文弱」では説明できない剛毅な精神性を感じとり「古来凡庸の人と評し来りしは必ず誤なるべく、北条氏を憚りて韜晦せし人か、さらずば大器晩成の人なりしかと覚え候」と書いている。実際は子規の見立て以上にしたたかで積極的な君主であったわけだが。 きわめて真面目な学術書であり、和歌の解釈に多くのページを割いているのでスラスラと読み通せる本ではないが読み応えは十分な一冊である。

金山寺味噌 さん | 愛知県 | 不明

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Book Meter Reviews

こちらは読書メーターで書かれたレビューとなります。

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  • 実朝暗殺の黒幕については北条氏も三浦義村の説も否定。筆者は実朝の後継問題について追い詰められた公暁が乱心して起こした単独犯とする。東国に独自の王権を作ろうと模索し、朝廷と関わり積極的に動いた実朝の姿が描かれていたのが新鮮だった。それは金槐和歌集を編纂し、百人一首にも選ばれた歌人としての実朝と相反するものでもないよなあと。あの頼朝と政子の子なのだから、ひたすら激しく、ひたすら強く弱く、ものすごく色々な面があって、才能があったのだと思う。それが一つ一つ潰されて絶望していった暗殺までの数年だったんだろうなあ…。

  • ジュンジュン

    源実朝は、鎌倉三代目将軍としては×、歌人としては◎らしい。著者は歴史学と和歌を用いて、そんな彼を積極的に評価しようとする。イメージを覆すのは難しい。マイナスを払拭しようとするあまり、過剰に評価するきらいがある。本書も然り。ただ、著者の愛着をひしひしと感じて、嫌いじゃない。それよりも、和歌を駆使した考察にびっくり!これじゃ史家というより”詩家”?

  • MUNEKAZ

    源実朝の評伝。読みどころは「金槐和歌集」をもとに和歌から実朝の内面に迫った部分。賛否もあると思うが、文弱で薄幸の人というイメージを覆し、父・頼朝を超えようと苦闘した将軍・実朝の像が導き出されている。また著者は「柳営亜槐本」の筆者を足利義政に比定しているが、そうだとすれば幼少で将軍になり、御家人の統制と自身の権威確立に努めた実朝の生涯を義政はどう眺めたのだろう。自らに重なる部分も多かったのではないだろうか。

  • 通りすがりの本読み

    昔読んだ本を登録。これまで源実朝のイメージが文弱で政治を投げ出して和歌に逃げたイメージを持っていたので武家の将軍なのにカッコ悪いと思ってましたが、本書を読ん政治に積極的だったりと武家の棟梁な一面を知れて一気にイメージが変わりました。おかげで鎌倉時代の推しの一人になりました。

  • 鈴木貴博

    源実朝について、文弱・傀儡・憂愁と孤独といったイメージに疑問を呈し、明確な将来の設計図も夢も持ち、非凡な指導力・実行力をもってその実現を目指した武家政権の指導者として人物像を見直す。いかに歴史は結果からの逆算や後世の粗忽な解釈に目隠しをされているか、当時の状況・常識に基づき虚心に見なければならないかがわかる。歌人実朝の偉大さも改めて理解できたが、技巧やら題詠やらが重んじられる新古今の時代だし、和歌の内容から歴史を解釈するのは注意が必要と思う。暗殺事件の状況整理と諸説検討、導かれた結論も興味深く読んだ。

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