ルネ・シュメー/ビクター録音集
フランス生まれのルネ・シュメー[1887-1977]の米ビクター時代の録音を集めた1枚。先に発売されたHMV録音集と合わせて、長らく見過ごされてきたこのヴァイオリニストの魅力を蘇らせる貴重な復刻です。
1921年にカーネギー・ホールに於いてサン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番をメンゲルベルクの指揮で演奏、「フランスのクライスラー」と称賛されたシュメーはアメリカでも人気を確立し、ビクター(後のRCA)と契約。クライスラー、エルマン、ハイフェッツらと並び、看板アーティストの証であるレッドシール(日本での通称は「赤盤」)として録音をリリースします。
当CDでは、そのビクター時代の録音を復刻。アルバム前半にはクラシック音楽の小品を収録し、後半にはアメリカ市場を意識して、当時愛唱されていたポピュラー・ソングなどの演奏が収められています。モーツァルトのロンドでは、速い主部における無窮動風のスピード感とテクニックの冴えが中間部における典雅な歌と見事な対比を形作り、チャイコフスキーやヴィエニャフスキ、ピエルネなどの小品では自在なイントネーションとポルタメントの使用などにより、かなり濃密な情感の表現を聴かせます。ポピュラー・ソングはカルーソーらが愛唱していたものですが、シュメーは彼らの模倣に留まることなく、ヴァイオリンらしいイントネーションや重音の使用によって聴きがいのある小品に仕上げました。
彼女のビクターでの録音は1929年の世界恐慌発生を受けて終わりを告げてしまいますが、その後に収録された唯一の音源が当アルバムの最後に収められた『春の海』。1932年に日本を訪れたシュメーは宮城道雄の演奏する箏に強い関心を示し、箏と尺八のために書かれた彼の作品『春の海』の楽譜を借り受けると、一夜でヴァイオリンと箏のために編曲したと伝えられています。2人の共演で残された当音源が彼女の生涯最後の正規録音となりました。欧米の一流演奏家の来日がまだ珍しかった当時、この『春の海』はいわゆる「West meets East」の先駆的な例であると同時に、日本の伝統音楽やその楽器を「遅れたもの」と見ることなく二重奏としてとりあげたところに、シュメーの開かれた心を感じることができます。1940年代に入るとシュメーの消息は途絶えてしまいますが、先にリリースされたHMV録音集のブックレット(欧文)によれば、その後も日本の音楽家が何度もパリのシュメー宅を訪れていたと記されており、心温まるエピソードとなっています。(輸入元情報)
【収録情報】
● ヘンデル[1685-1759]:ヴァイオリン・ソナタ第6番ホ長調より
1. 第1楽章:アダージョ
2. 第2楽章:アレグロ
録音:1925年1月28日 原盤:Victor 6497(matrix C 31809)
3. ハイドン[1732-1809]:ピアノ・ソナタ ハ長調〜メヌエット(ハルトマン編)
録音:1925年11月9日 原盤:Victor 6609(matrix CVE 33771)
4. モーツァルト[1756-1791]:ハフナー・セレナード K.250〜メヌエット(クライスラー編)
録音:1925年1月28日 原盤:Victor 6497(matrix C 31812)
5. メンデルスゾーン[1809-1847]:春の歌
録音:1926年12月2日 原盤:Victor 1242(matrix BVE 37066)
6. チャイコフスキー[1840-1893]:夜想曲 嬰ハ短調(ハルトマン編)
録音:1925年11年11月9日 原盤:Victor 6609(matrix CVE 33770)
7. ヴュータン[1820-1881]:セレニテ Op.45-5
録音:1925年11月9日 原盤:Victor 1242(matrix BVE 31863)
8. ダンプロージオ[1871-1914]:ロマンス ニ長調 Op.9
録音:1924年4月21日 原盤:Victor 6473(matrix C 30001)
9. ボロフスキ[1872-1956]:崇拝
録音:1924年4月21日 原盤:Victor 6473(matrix C 29424)
10. フランシス・トーメ[1850-1909]:葉陰にて
録音:1927年1月19日 原盤:Victor 1228(matrix BVE 29429)
11. ピエルネ[1863-1937]:セレナード Op.7
録音:1927年12月29日 原盤:Victor 1302(matrix BVE 41713)
12. トセッリ[1883-1926]:セレナード Op.3-1
録音:1927年12月29日 原盤:Victor 1302(matrix BVE 41712)
13. ジェームズ・ブランド[1854-1911]:懐かしきヴァージニア
録音:1931年4月15日 原盤:Victor 1552(matrix BVE 53011)
14. サーロー・リューランス[1878-1963]:ミネトンカの湖畔
録音:1926年12月3日 原盤:Victor 1228(matrix BVE 29428)
15. チャールズ・マーシャル[1857-1927]:僕を呼ぶあなたの声が聞こえた
録音:1926年12月2日 原盤:Victor 1291(matrix BVE 37063)
16. ジェームズ・キャロル・バートレット[1850-1929]:夢
録音:1929年4月25日 原盤:Victor 1442(matrix BVE 51662)
17. ウェステル・ゴードン:One Little Dream of Love
録音:1925年11月10日 原盤:Victor 1132(matrix BVE 31865)
18. ギィ・ダルドロ[1858-1936]:ビコーズ
録音:1931年4月15日 原盤:Victor 1551(matrix BVE 53005)
19. ヴィクター・ハーバート[1859-1924]:ジプシー・ラヴ・ソング
録音:1929年3月1日 原盤:Victor 1402(matrix BVE 49831)
20. ハーバート:キス・ミー・アゲイン
録音:1929年2月4日 原盤:Victor 1402(matrix BVE 49833)
21. レジナルド・デ・コーヴェン[1859-1920]:Oh, Promise Me
録音:1927年12月30日 原盤:Victor 1328(matrix BVE 41715)
22. ヘイドン・ウッド[1882-1959]:ピカデリーのばら
録音:1926年12月2日 原盤:Victor 1291(matrix BVE 37062)
23. ウッド:愛する庭のばら
録音:1927年12月30日 原盤:Victor 1328(matrix BVE 41716)
24. 宮城道雄[1894-1956]:春の海(シュメー編)
録音:1932年 原盤:HMV 13220(matrix JVE 4374/75)
ルネ・シュメー(ヴァイオリン)
アーサー・レッサー(ピアノ:1,2,4)
ハリー・カウフマン(ピアノ:3,6,7,17)
ワルデマール・リアコフスキー(ピアノ:8,9)
アンカ・セイドロヴァ(ピアノ、ツィンバロム:5,10-16,18-23)
宮城道雄(箏:24)
復刻プロデューサー:Eric Wen
復刻エンジニア:Raymond?Glaspole
マスタリング:Andrew Walter