メインはピアノによる重奏であるが、テノールによる歌唱が、ちりばめられており、印象を深めている。この作者のロマンチックで人懐こい表情は、聞き手を魅了する。

「ほどけたリボン」という素敵なタイトルに牽かれた。プルーストとアーンにはずっと関心を持っていたこともあるが、アーンとシャブリエのピアノ二重奏をブラレイとル・サージュが弾いているということに、さらに強く牽かれた。他愛のない旋律が紡がれていく、ブラレイとル・サージュをもってしても、こんな軽い感じなんだと初めは思った。ところが、聴き進めるうちに、こんなちょっとお洒落な世界があってもいいではないか、これも人生の粋な本質ではないか、少しずつ魅了されていった。ピオーの「私はこの唇を当てたから」に至り、このアルバムが逸品であることを確信した。最後の「傷病兵の眠りのために」は間違いなく一級品だろう。単なる小粋なアルバムではない。

まさにベルエポック！という感じのアルバム。この歌手は知らなかったが、広い声域と柔らかな美声で、こういうのを「バリトン・マルタン」というのだろうか、アーンの歌にぴったりだ。女声にふさわしいと思っていたアーンの歌だが、この歌なら飽きずに聴き続けられる。