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Review List of きんちょ 

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     2012/02/22

    ▲トレードマークであった「赤メガネにパンツスタイル」を「黒メガネにスカート」に変えるというイメージチェンジをしたことで 話題をあつめた 奥華子 待望の 6th アルバム。2012年 2月22日,約1年半ぶりにリリースされた。  ▲前作「うたかた」をひっさげての全国ツアー“4th Letter”の最終公演の直前に東日本大震災があり,その結果,ツアー最終盤で公開され,6月に次のシングルとなる予定であった『シンデレラ』は,「今,歌いたい歌ではない」との奥華子本人の判断により,セレクションアルバムにさしかえられていた。  ▲その後の活動は「スマイルライブ」と称した無料ライブと学園祭への出演が中心になり,『シンデレラ』のシングルとしてのリリースが発表されたのは10月になってから。年末の,奥華子史上初のオールスタンディングによるバンドライブツアーを経て,ようやく,アルバム制作と全国ツアーという活動のローテーションへ復帰することとなった。  ▲本作は,この,2012年 1月11日にシングルとしてリリースされた『シンデレラ』,カップリングの『卒業の時』の弾き語りバージョン,スマイルライブの核として歌われてきた『君の笑顔』の編曲バージョンのほか,2011年末のバンドライブで披露された2曲と,新曲7曲,提供曲のセルフカバー2曲の全14曲からなる。  ▲▲曲調を全体的にみると,奥華子史上,もっとも明るく,豪華な編曲がほどこされたアルバムとなった。『シンデレラ』が島田昌典の編曲で発表されたのも衝撃的だったが,今回のアルバム曲では他に,小林信吾,YANAGIMANという大物アレンジャーを新たに むかえている。また,スマイルライブで弾き語りをつづけてきた『君の笑顔』は『ガーネット』と同じ佐藤準の編曲。多彩なアレンジを楽しむことができる。  ▲さらに特筆すべきは,昨年末のバンドライブツアーのときのバンド編成で演奏された曲たち。『ロスタイム』,『TAKOYAKI』,『GOOD BYE !』に くわえ『愛してた』が それに ふくまれる。ツアーで醸成されたバンドメンバーとの信頼関係によるものだといえよう。  ▲一方で,奥華子がひとりでピアノ・キーボードの演奏をしている曲も4曲ある。この曲数もまた,従来のアルバムと比べて決して少ないほうではない。アルバムの曲順やどの曲をどのようなスタイルで演奏するかの決定は奥華子にまかされてたらしい。かなりの手ごたえが あったのだろう。本人も「満足のいく自信作となった」と かたっている。  ▲▲アルバムタイトルの「good-bye」は,収録曲が13曲まで でそろった段階で,それぞれの曲にある共通点に気がつき,それをタイトルにしたものだという。そして,タイトルをきめたあとで 14曲目の『GOOD BYE!』をつくり,追加した。いわゆる失恋ソングはもちろんのこと,家族や動物との別れ,卒業という人生の節目となる できごとなど,おおくの曲が何らかの別れをテーマにしている。だが,奥華子がこのアルバムで表現したいのは,悲しい別れではなく,別れを経て,あたらしい自分が うまれてくる すがただという。  ▲そのテーマは,震災後,被災地をまわって感じたこと,考えたことでもあり,同時に,奥華子の音楽スタイル自身が,転機をむかえ,本人が自分自身,再度,かわっていきたいと おもうようになったということの あらわれでもある。  ▲インディーズ時代の奥華子はライブハウスを中心に活動していたが,なかなかファンがふえず,のびなやんでいた。そんなときに現在のプロデューサーと であい,「このままで いいのか」と いわれ,歌いかたも,活動スタイルも,服装も,変えた。ノン・ビブラートの歌唱法も,路上で弾き語りをするようになったのも,赤メガネにジャージ,もしくはカーゴパンツというスタイルも,そうして うまれたもで,以後,コンサートツアーのスタイルも ほとんど弾き語りで とおしてきた。  ▲未成年の女性ファンが ふえ,『楔』のような失恋ソングに人気が集まったことから,「究極の失恋ソング」をつくってみようとして できた 10thシングル『初恋』がヒットしたことで,奥華子は いつのまにか「失恋ソングの女王」などと よばれるようになった。かつては社会派の歌,エコロジーをテーマにした歌,人生のさまざまなシーンをテーマにした歌などもおおかったが,期待にこたえようとライブでは『初恋』や『恋』をおおく歌うようになった。  ▲こうして実績をきずいてきた流儀の かずかずが,いつのまにか 「こうでなければならない」という おもいこみに かわってしまっていると感じるようになったのだろう。今回のアルバムが,本人いわく「ふしめとなる,新しい奥華子の出発」だというのは,そうした おもいこみをすて,いま,もっている自分の可能性を最大限に発揮しようとしたからに ちがいない。「いつか やろう」ではなく,「いま,やりたい」と おもうことで,不必要な こだわりは すてなければならないと気がついたのではないだろうか。  ▲奥華子自身は,恋愛において,うじうじするようなタイプではない。むしろ,「ふられたら,次!」というような きりかえをするタイプだという。『初恋』をつくったときも,最後に「悲しいけれど,のりこえて歩きだとう」というような意味の歌詞をつけようとしてみたらしい。そのときは,曲として,それでは徹底しないと判断したとのことだが,奥華子本人の性格と『初恋』の歌詞の世界との間には,ちょっとしたズレがあり,この曲がヒットしてしまったがゆえに,大切な曲だといい,ライブでは必ずといってもいいほど歌うわりには,どこか妙に,うまく歌えなかったこともあった。そう かんがえると,『シンデレラ』は,このギャップを解消するための曲に なっている。本人いわく,「失恋ソングだけど,明るくて前向き」な歌。このコンセプトは,恋愛の領域に とどまらず,喪失→再生という,『君の笑顔』にも つらなる 普遍性をもつ。(考えすぎかもしれないが,わたしは,イメージチェンジにあたって,赤メガネが「黒」になったのは,震災後の情況をうけて喪失のシンボルとしての「黒」を身につけながら,再生の歌を歌うという姿勢をあらわしたものではないかと おもったりもした。)こうした強いメッセージは『GOOD BYE!』の歌詞に はっきりと あらわれているし,「最後にお願い 好きな人の忘れ方を教えて」という『ロスタイム』に はじまり,「今 この胸にあなたが生き続けている … 幸せは なるものじゃなくて きっと心で 気づいてゆくものだから」という『足跡』で おわる,このアルバム全体をとおして きいたときの構成のなかにも 説得力をもって せまってくるものとしてある。  ▲▲魔法が解けたシンデレラは,そこから,自分の ちからで あるきだす。路上で急にCDが3倍うれるようになったという赤メガネは魔法アイテムだった。極端なまでにビブラートも,声色も つけず,感情すら こめないかのような うたいかたも,奥華子最大の武器であることには ちがいないが,それに たよって 売れようとするのであれば,ちょっと ちがうはずだ。そして,ひとりの路上,ひとりのステージ,ひとりの弾き語りというスタイルも,「自分で できることは自分で する」という姿勢としてなら立派だが,なにも楽曲のすべてをひとりでつくること自体に価値があるというふうに かんがえていたのなら,意味あいが ずれてしまっている。「うたかた」で編曲をこころみ,バンドライブツアーでメンバーと場所を共有し,協力して歌をつくり,見せていくことを体験し,おおくのミュージシャンやアーチストと であい,いっしょに作業をするなかで,そのとき,その場所で,その曲をつたえるために,自分が つかうことのできる方法は なんでも つかい,可能性を最大限,実現してみせることに,踏みだした。それは,あともどりでもなく,過去をすてることでもない。自分らしさに こだわっているわけでも,他人の まねをしているわけでもない。ひとりで弾き語りをするスタイルの4曲をふくめ,さまざまな曲のジャンル,歌詞の内容,演奏スタイル,曲によって選択できる歌唱法に開花したニュー華子の はじまりであると とらえたい。
    (人名敬称略)

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     2012/01/04

    ★★★★★★魔法が とけてから はじまる “わたし”の物語 /  
      キラキラしたサウンドも! じっとりシリーズも!★★★★★★ 
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     奥華子 待望の 12thシングルは,ポップな曲調の キラキラ・サウンド。
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     ジャケット写真をみれば わかるように,奥華子は この曲のために トレードマークであった 赤メガネを「黒」にし,メジャーデビュー後の6年半,プライベートですら はいていなかったというスカート姿で活動することにした。ポニーキャニオンも発売前からPVをフルコーラス公開するなど,強気の販売戦略。曲をきくために買うCDではない。曲をきいたからこそ買うCDである。
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     ラジオで,テレビで,街の有線で…。ながれてくる『シンデレラ』を すこしでも きけば,ノリのよいポップなサウンドが印象に のこる。編曲は島田昌典。aikoのインディーズ時代からの音楽プロデューサーであり,いきものがかり,JUJU,FUNKY MONKEY BABYS,秦基博などの楽曲をてがけている。いま “売れ線”の音をうみだしているのは この人だといっても いいだろう。その,ききやすい,いかにも きいたことのありそうなサウンドに のっているのは,「声だけで泣ける」と評され,路上ライブで10万人を止めた魔法の声。はじめて聞いた人でも,歌詞のすべてが はっきりと ききとれるはずだ。そして,しばらくすると,
    < 
       「あっ,これは失恋ソングなんだ」
    > 
    ということに気がつくだろう。
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     ● 
     奥華子本人いわく “まえむきな失恋ソング”。その あかるい曲調が 語るのは,ささやかな個人の ものがたりに すぎない。とつぜん ふれらて よわってしまった女性が やがて すこしだけ たちなおっていく。その,わずかな変化を歌にしただけのことだ。

      「わかれたくない」と いってほしくて /
      「わかれよう」と いったら /
      「いままで ありがとう」と いわれた…

    本人にしてみれば悲惨。だけど,どこか滑稽に みえる主人公が,おちこみは するのだけれど それでも がんばる。そして,自分をふった あいてに いつか自分も「ありがとう」と いえるようになりたいという話。歌詞のなかに「あなた」は でてくるけれど,歌詞が えがいているのは 最後まで「わたし」の内面である。だが,この歌詞は,マイナスな心がプラスに転じる瞬間を ていねいに きりとっている。歌いあげているのは,きずついた人間が自分をいやす ちからだ。キラキラしたサウンドは,そんな,心の底の みえないところで はたらいている ちからの躍動だと かんがえれば,いっけんミスマッチな歌詞との関係にも 納得が いくだろう。
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     曲のはじまりと おわりに ストリングスで 銅鑼のような音が はいっているのにも 注目してほしい。まるで,魔法が かかるときと,それが とけるときの音のようである。恋人が できて,つきあいはじめたときは,魔法が かかったように 世界が きれいにみえる。もちろん,それは すばらしいことだ。(奥華子には『魔法の人』という めずらしく しあわせな楽曲もある。) だが,それが魔法なのだと おもえば,失恋して世界が くらくなったとしても,自分をせめる必要はない。人は,魔法が とけてから,自分の ちからで あるきだす。その ちからこそ 根源的だ。実は,魔法だと おもっていたものも,その ちからから うまれてきた 花のようなもので,根や茎が しっかりしていれば,花は また さいてくれる。
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     奥華子が イメージチェンジのために 赤メガネをやめたというのも象徴的だ。路上ライブ時代に 赤メガネを つけて 歌ってみたら,その場でCDが3倍 うれるようになった。そんな実話から,これまで 赤メガネは奥華子の必須アイテムであると されてきた。まさに,奥華子にとっての赤メガネは シンデレラにとっての魔法のようなものだった。しかし,いうまでもなく,メガネの色だけで曲が うれるはずはない。すべては,楽曲そのものの ちからが あってこその話だ。今回,奥華子は みずから“魔法”をといて,新曲『シンデレラ』で勝負する決意をみせたといって よいだろう。
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     実は,『シンデレラ』は,2011年の春にリリースされる予定だった。はっきりとは あかされていないが,一度はレコーディングまで したらしい。それが延期になったのは,奥華子自身が,震災後のこの時期に この曲は歌えないと,つよく主張したからだという。周囲の迷惑をしりながらも,奥華子は計画を全部 変えた。つくりかけていた『君の笑顔』という別の曲を完成 (初OAは 4月16日) させ,2011年の夏まで被災地をふくめ,全国各地で スマイルライブと題した無料ライブをおこなった。
    ●全国ツアー 4th Letterの最終盤でグランドピアノ弾き語りで初披露された『シンデレラ』は,この スマイルライブの期間中,完全に封印された。それが ふたたび聞けたのは 7月11日の逗子海岸での「音霊」だった。なんと,パーカッションに演奏者をむかえ,手拍子をもとめての歌唱だった。●それからシングル発売まで さらに半年。11月19日のCD音源の初オンエアまででも4か月かかっている。時間が かかったのは,歌詞をてなおししたり、アレンジをやりなおしたということもあるが,その間も,奥華子は しばしば被災地をおとずれ,また,被災者のファンからのメッセージに ていねいに返事をかきつづけていたらしい。
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     ポップな曲調の この曲が 震災後の日本の状況に あわなくて 発売が延期されたという説明は うそでないだろう。そうであれば当然,では,つぎは どのタイミングでリリースするかということについて,スタッフも 本人も,真剣に なやんだはずである。そう おもって曲を聞き,メガネを黒くして歌うようにしたことを あわせて かんがえてみると,この曲じたいが,もっと ふかいところで,あちこちに ちらばった かなしみに よりそいながら,そんな状況のなかからも 勇気をふるって生きていこうとする人たちへの共感に なっていることに 気がつく。延期後のリリース時期の決定に あたっては,いまの この時期ならば,この “まえむきな失恋ソング”の,キャッチーなサウンドの下に こめられた思いが きっと うけいれられると考えたのではないだろうか。わたしは そう,想像する。
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     カップリングの『卒業の時』は,かなり前に つくられたが 未収録だった曲。10thシングル『初恋』の初回特典として,ワンコーラス分の携帯ダウンロードが可能になっていたが,今回,あらたに編曲されて,フルコーラスが収録された。ちなみに『初恋』は,それをもって「奥華子といえば 失恋ソング」と いわれるようになった ヒット作である。
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     『シンデレラ』の キラキラしたサウンドをきいて このCDを購入した人は,『卒業の時』で,普段の奥華子の曲調をしるだろう。シンプルなアレンジで,歌と声の ちからだけで きく人の心に ひびく曲。奥華子は,このような曲をたくさん うみだしてきた。
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     そして,もっとディープな奥華子の世界をしるためには,3曲目から5曲目のライブ収録音源をきいてほしい。2010-11年の全国ツアー4th Latterのコンサートでの佳境,“じっとり”シリーズの3曲である。路上ライブ出身の奥華子は,このような弾き語りのスタイルで支持をあつめてきた。たぶん、奥華子じしんにとっても、ながくファンである おおくの ひとにとっても,CDは ショーウインドウのようなもので,CDに ある楽曲を バンドのいないライブの ひとりの舞台で どのように弾き語りするかというところが注目のまとであるはずだ。曲が完成するのは,CDが でた 後なのである。ちょうど,シンデレラの魔法が とけた あとに,その人の自分の あゆみが はじまるように。
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     CDを買って,きいたら、つぎは ぜひ、ライブに でかけてほしい。そして よかったら、ライブ活動をささえるために、また つぎの2月22日発売のアルバムを買ってほしい。

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