ハルカトミユキ

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    農夫  |  岡山県  |  不明  |  2020年10月03日

    ハルカトミユキの音楽を牽引しているのは、ハルカさんの物する歌詞であろう。だから聴き方として通常は「シニフィエ(意味)」重視の聴き方になるはずである。その一方で例えば眠れない夜に、部屋を暗くして横になって目をつむり、ヘッドフォンで睡眠への導入を期待してこのミニアルバムを聴くような場合はどうだろう。そこでは1回目、2回目…と、回を重ねるごとに「シニフィエ」から「シニフィアン(表象)」へと、聴こえ方が変質していくのである。音楽は時間の進行とともに脳の内部に音空間として現出する。そして記憶の助力を得てヒトは音階の変化やリズム等を含めた音楽の総体を認識する。それが、徐々に眠りに向かうにつれ、音楽は一体的に届くというよりは解体され、分析的もしくは部分抽出的に聴こえてくるようになる。歌声も言葉の意味を離れて一つの楽音となる。そして脳内の、更に言えば自我の内部の音空間内に、消えては現れる音の立体画像が描かれることになる。その観点から言えば、このミニアルバム中では特に03「マゼンタ」に顕著だが、音楽の合間にさまざまな質感の音が彩りを豊かにするように挿入され、「シニフィアン」の充実を感じ取ることができる。その繊細な表現によって何故か安心が生じ、聴き手としてはケアを享受している思いにすらなる。その一環として、拡がりのある音が一点に収束してフツッと消える「逆再生エコー」を彼女たちは好んで使用する。音の選択や組み立ては音楽家の腕の見せどころの一つであろう。ただし、01「世界」だけは趣が違って、ギターとピアノを除いて無彩色で平面的な音の壁であり、音の分析的な聴き方を許さない。この曲のみは「シニフィエ(意味)」専用の楽曲のようである。さて、次にその「シニフィエ」にも少しだけ触れてみたい。このミニアルバムの歌詞では視覚的な描写が目立ち、03「マゼンタ」はその意味でも美しい。空を駆けていく「最終列車」を地上で見送り、「マゼンタ(赤)」は「願い」と「後悔」の色、と歌われる。私には「最終列車」とは地球脱出の最終列車であり、「マゼンタ」とは地球を焼き尽くす大火の色、という情景が思い浮かぶ。更に05「バッドエンドの続きを」を03「マゼンタ」の続編と位置づけるならば「世界の終わりの続き」となる。歌詞の「二度と降りない駅の改札」とは「最終列車」が出た駅の改札口と見立てることができ、サイエンス・フィクションとしての具体性を獲得して取りあえず意味が安定する。だがしかし、そうであってさえ最後のフレーズは難解である。「いつか後悔が答えになると信じて、バッドエンドの続きを生きる」とはどういうことか。いま文節の順を通常文となるようにわざと入れ換えてみたが、これだけでも文意を損なう危険性はある。ここでの「後悔」を03「マゼンタ」の「後悔」と同一の後悔だと限定してさえ解釈は難しい(地球を脱出しなかったことへの後悔、若しくは地球環境を破壊した人類史への後悔)。この「後悔」とは、「後悔によって生じた新たな決意」に類似する内容を含意しているとしなければ、「信じる」と関係づけられないのではないか。何にしても普通に想像し得る心理作用ではないだろうからである。或いはある人々にとっては「バッドエンド」だとしても、その状況で生き続ける者にすればエンドでありはしないのであって、そこに逆説や矛盾が前提されることにもなり得る。ともあれ、世界とどう対峙し、その内側でそこからどうはみ出して観察者また当事者として生きていくかの模索が想起される。と、個人的な感受性の一局面を例に挙げたが、「マゼンタ」が夕焼けの色だとするとまた別な世界像が形成されよう。この二曲に限らず、曲ごとに省略や飛躍、象徴化や諧謔(06「ヨーグルト・ホリック」)等が方法として自在に用いられ、メビウスの輪のように捩じれていたりもする歌詞が聴き手に深読みを促す。猶予を許さぬ緊張感を孕む世界観が各曲の基底を成しているのは確かである。【「シニフィエ」「シニフィアン」は、ソシュールの記号論の浅薄な理解に基づく借用かつ恣意的な転用。「脳内の音空間」に関してはハンナ・アレント著『暗い時代の人々』(阿部齊=訳/ちくま学芸文庫)におけるブロッホに関する叙述に依拠していることをお断りしておきます。】

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