山崎浩太郎　「いさぎよき白のムラヴィンスキー」

2003年11月21日 (金)

はんぶる・ドットこらむ　山崎浩太郎
第35回　今月のヒストリカル
「いさぎよき白のムラヴィンスキー」

　今月はムラヴィンスキーのＤＶＤを取り上げる。

　なんというか、いさぎよいＤＶＤだ。ムラヴィンスキーの指揮姿がいさぎよい。そして映像の撮りかたもまた、いさぎよい。

　特に最後の２曲、ショスタコーヴィチの交響曲第12番《1917年》とサルマーノフの交響曲第２番。カメラは舞台の後方から80歳のムラヴィンスキーの指揮姿を写しだしたきり、ほとんど浮気をしない。スツールに腰かけ、指揮棒を持たずに指揮する姿を、斜め正面からひたすらに撮りつづけるのである。

　かつてクレンペラーはテレビの映像について、ホルンが写り、指揮姿が少し、次にティンパニ、という切り替えが我慢できない、といっていた。ならば、かれもこのムラヴィンスキーの映像には満足するのではないか。

　確かにわれわれが見たいのは、何よりも指揮者の姿なのである。映画が発明された頃、大指揮者の指揮姿を正面から撮影して、その映像に合わせてオーケストラに演奏させてみたらどうかという計画があったそうだが、このムラヴィンスキーの映像などは、あるいはその目的に使えるかもしれないとさえ思えるくらい（もちろん現実にはそううまくいかないが）、いさぎよい撮りかたである。

　前半もまた、別の意味でいさぎよい。レニングラード・フィルハーモニーホールでの私服姿の総練習の収録らしいのだが、客ぬきのこのホールがまた、いさぎよいのである。

　白一色で色彩の飾りの一切ない内装は、まるで納骨堂のようだ。また整然と並べられた白木の椅子は、白骨製の墓標を想わせる。そこに響きわたる、ムラヴィンスキーとレニングラード・フィルの厳しい音楽。

　収録されている映像の月日などを日本ムラヴィンスキー協会作成のフィルモグラフィを参考に紹介すると、最初のベートーヴェンの交響曲第４番は、73年4月28日のレニングラード・フィルハーモニーホールでの演奏会のための総練習の映像らしい。

　ブラームスの交響曲第２番とウェーバーの《オベロン》序曲とシューベルトの《未完成》交響曲は、78年の同じホールでの総練習の収録らしいが、状況はよくわからない。５月から６月にかけてのイタリア〜オーストリア演奏旅行でこの３曲を演奏している（ウィーンでのライヴがＣＤ化）から、その準備のための練習を収録したものと考えられる。

　２枚目はすべて演奏会のライヴ収録。チャイコフスキーの《くるみ割り人形》組曲は、82年11月24日、モスクワでの演奏会のライヴ。白一色のレニングラードに対して木質のモスクワ音楽院大ホールが目に新鮮。《フランチェスカ・ダ・リミニ》は83年3月19日レニングラードでの収録で、オーケストラの創立100周年祝賀演奏会のライヴ。

　《1917年》は84年４月29日のレニングラードでのライヴ。ムラヴィンスキー最後の録音だという（演奏会は87年3月まで行なったが、以後はムラヴィンスキー自身が一切の録音を拒否したといわれる）。

　サルマーノフは、25日前の84年４月４日、同会場でのライヴ。なおこれらの映像は《未完成》以外はＴＲＩＴＯＮがビデオテープで発売したことがあり、《フランチェスカ・ダ・リミニ》と《1917年》の音声は別にステレオ音源でＣＤ化されている。

ムラヴィンスキー生誕100年特別企画
ムラヴィンスキーの芸術、第２弾。第１弾（DLVC-1111）のヒットを受け、第２弾緊急リリース。全曲のコンサートや、リハーサル、インタビューを通して、彼の音楽哲学や作曲者への思いを探る。ロシア・ナショナル・アーカイヴ。初ＤＶＤ化。


ＤＩＳＣ１　　
■ベートーヴェン：交響曲第４番　変ロ長調　op.60
　放送用ライヴ、リハーサル、インタビュー
　1973年　レニングラード・フィルハーモニーホール　　56分
■ブラームス：交響曲第２番　ニ長調　op.73
　放送用ライヴ、リハーサル、インタビュー
　1978年　レニングラード・フィルハーモニーホール　　64分
■ウェーバー：「オベロン」序曲
　1978年　レニングラード・フィルハーモニーホール　放送用ライヴ　9分
■シューベルト：交響曲第８番　ロ短調「未完成」
　1978年　レニングラード・フィルハーモニーホール　放送用ライヴ　33分

ＤＩＳＣ２　　
■チャイコフスキー：「くるみ割り人形」組曲
　1982年　モスクワ音楽院大ホール　ライヴ　41分
■チャイコフスキー：幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」op.32
　1983年　レニングラード・フィルハーモニーホール　ライヴ　25分
■ショスタコーヴィチ：交響曲第１２番　ニ短調　op.112
　1984年　レニングラード・フィルハーモニーホール　ライヴ　40分
■サルマーノフ：交響曲第２番　ト長調
　1984年　レニングラード・フィルハーモニーホール　ライヴ　30分


収録時間　２８５分
画面　アスペクト比4:3 カラー／白黒

　※ベートーヴェン：交響曲第4番　変ロ長調　op.60　内のムラヴィンスキーインタビューのみ（6分弱）白黒でほかはすべてカラーです。

音声　リニアＰＣＭモノラル
日本語字幕（原語：ロシア語）
２枚組　片面２層記録
リージョン　ALL

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