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【追悼】 アルトン・エリス

Tuesday, October 14th 2008

追悼 Alton Ellis


 
ミスター・ソウル・オブ・ジャマイカ。
アルトンの歌声は、まさにジャマイカの至宝、
いや、全レゲエ・ファンの心の拠り所でした。


2007年末、リンパ腺癌のために入院生活を余儀なくされていたアルトン・エリスが、自身で車を運転したり、娘ロヴェラ・エリスのプロデュースや、自身の最新録音を行いツアーに出る準備をしたりと、回復の兆しに向かっているという吉報を耳にしたばかりだったのですが・・・・2008年10月10日、ロンドン現地時間午前3時、10ヶ月に及ぶ癌との闘いに終止符を打ち、帰らぬ人となってしまいました。享年70歳。心よりご冥福をお祈り申し上げます。  

Soul Vendorsをバックに歌うAlton Ellis

所謂「ロックステディ期」と呼ばれる、レゲエ・ミュージックの歴史において、アメリカのソウルやリズム・アンド・ブルースとの距離が最も近かった時代。そんな60年代半ばから後半にかけ、1つの時代を築いたアルトン・エリスは、甘くシルキーな歌声で人々を魅了したレゲエ・シンガー。50年代後期にダンサーとして芸能活動に足を踏み入れたアルトンは、59年、15歳の時に、友人でシンガーのエディ・パーキンスと共に、Studio Oneのプロデューサーであるクレメント”コクソン”ドッドの下で初吹き込み(「Muriel」)を行いました。その後、コクソンの下を離れ、Treasure Isleのプロデューサー、アーサー”デューク・リード”に付き、数多くの楽曲を録音することになり、アルトン・エリス&ザ・フレイムス名義による「Dance Crasher」、「Cry Tough」、「Ain't That Loving You」、そして一番最初のロックステディ楽曲と云われている「Girl I've Got A Date」など、今も多くのレゲエ・ファンから愛される名曲を世に送り出しました。ジャマイカに流れるアメリカ南部のラジオを聴いて、ソウル色の強い歌風を見出したアルトンは、アメリカやイギリスのリズム・アンド・ブルース〜ドゥーワップ〜ソウルのカヴァーを歌うことで、徐々に突出したスタイルをものにしていきます。それまでスカが主流だったジャマイカを、ロック・ステディ一色に塗り替えた、まさに「ロックステディの父」であるわけなのです。もちろん、ボブ・マーリー、デニス・ブラウン、フレディ・マクレガーといった後出のシンガー達にとてつもなく大きな影響を与えたのは、言うまでもないでしょう。

当時の2大サウンド、コクソン・ドッド(Studio One)とデューク・リード(Treasure Isle)による、ロックステディ期の主導権の握り合いが激化した60年代半ば、アルトンは再びコクソンに引き抜かれ、Studio Oneへの録音を始めました。スカタライツを解散させた鍵盤奏者ジャッキー・ミットゥーを中心としたハウス・バンド=ソウル・ヴェンダーズの緩やかなリディムをバックにした楽曲は、たちまちジャマイカ国内で大ヒットを記録。67年には、名曲「I'm Still In Love With You」(2004年に、ショーン・ポールもカヴァーし大ヒット)、現在の多くのダンスホール・リディムの基盤となった「Mad Mad」、Treasure Isleにも吹き込まれた「Rock Steady」が生まれ、ロックステディという時代が満開となったその時期に、アルトンのキャリアも絶頂期を迎えました。プロコル・ハルムやビージーズのカヴァーなどを含む、記念すべき初アルバム『Sings Rock And Soul』が発表されたのもこの年になります。

翌68年には、商売敵でもあるTreasure Isleから『Mr. Soul Of Jamaica』をリリース。こちらは、トミー・マクック率いるスーパー・ソニックスや、リン・テイト&ザ・ジェッツがバックを務め、ホーン中心のゴージャスなリディムが際立つ素晴らしい1枚。69年には、三度コクソンの下からベスト・アルバム『The Best Of Alton Ellis』をリリース。バックには古典リディム「Real Rock」などの生みの親、サウンド・ディメンションが参加しています。   Alton Ellis

ジャマイカの音楽産業が飛躍的な発展を遂げたロックステディという時代は、70年代という新しい時代の到来と共に終わりを告げ、ジャマイカの音楽シーンは、いよいよ、ラスタファリ思想と連動した「ルーツ・ロック・レゲエ」の時代を迎えることとなります。プロデューサーの金銭不払い等の問題を機にカナダへ移住し、『Sunday Coming』(70年)というブラック・パワー〜アフリカ回帰色を取り入れたアルバムをStudio Oneからリリースしたアルトンは、その後、72年にロンドンへ移住。結果的に、そこが永住地となりました。また、77年当時まだ全くの無名だったジャネット・ケイとの出会いが、低迷しかけていたアルトンのキャリアに再び光を当てることとなり、アルトン自身が、サウス・ロンドンに立ち上げたレコード・ショップ/レーベル=All Toneからリリース(もちろんプロデュースも)した、ミニー・リパートン不朽の名曲のレゲエ・カヴァー「Lovin’You」は、たちまち世界中で大ヒットを記録しました。今に至るラヴァーズ・ロック・ブームの土台は、このアルバムで築かれたと云っても過言ではないでしょう。その後もアルトンは、『Still in Love』、『A Love to Share』、『Slummin'』、『A New Day』、『Daydreaming』、『Continuation』など、Studio One、Treasure Isle時代のリメイク楽曲を交え、70年代後期〜80年代にはコンスタントにアルバムをリリース。

92年のジャパン・スプラッシュをはじめ、90年代には4度の来日を果たし、'01年には、日本代表スカ・バンド、ドリームレッツを母体に、デタミネーションズのホーン隊などが参加したオール日本人の最強バンドを従え、熱いパフォーマンスを見せてくれたアルトン。同年、エゴ・ラッピンの森雅樹、ドリームレッツ、さらには、ダブ・エンジニアとしてドライ&ヘヴィーの内田直之が参加したシングル「Lovely Place」を制作し、日本のファンを喜ばせてくれました。'04年には、'02年3月のフランス公演を収めたライヴ盤『Working On A Groovy Thing』をリリース。「I'm Still In Love With You」、「Give I've Got A Date」、「Rock Steady」といった往年のロックステディ名曲を、心地良さそうに歌い上げていたのがとても印象的でした。

来年1月に延期となったものの、久々の来日公演も決まっていただけに・・・その死がいっそう惜しまれてなりません。

ロックステディ誕生以降現在に至るまでのレゲエ・シンガーに限らず、世界中全てのレゲエ・ファン、歌モノ好きの心の拠り所であったアルトン・エリスの甘く優しい歌声。

天国でもその歌声で、たくさんのレゲエ・ファンの心を温めてあげてください。  


Alton Ellis





Sings Rock And Soul

 
4 『Sings Rock And Soul』


コクソン・ドッドのプロデュースで67年にリリースされた初アルバム。ソウル・ヴェンダーズが奏でる完璧なリディムの上で、プロコル・ハルムやビージーズなどの時代を反映したカヴァーを披露。他にも、ショーン・ポールがリメイクし大ヒットした「I'm Still In Love」、Treasure Isle版も人気の「Get Ready(Rock Steady)」、定番リディムとなった「Mad Mad」など、ロックステディ期を代表する名曲をたっぷりと収録。



 




Mr Soul Of Jamaica
4 『Mr Soul Of Jamaica』


「ミスター・ソウル・オブ・ジャマイカ」。アルトンの称号をそのまま冠した、Treasure Isle(つまりデューク・リード)からの68年大名盤。「Willow Tree」、「Breaking Up」、「Aint That Loving You」、「You Make Me Happy」などなど、全曲が永久不滅のロックステディ歴史的名曲。バックには、スカタライツのトミー・マクック率いるスーパー・ソニックスと、リン・テイト&ザ・ジェッツ。   







Best Of

4 『Best Of』


69年にStudio One(つまりコクソン・ドッド)からリリースされたベスト盤。オリジナル・リリース作品中ここでしか聴くことのできないジャマイカ讃歌「Jamaica」をはじめ、R&Bシンガー、ビリー・スチュアートの名曲「Sitting In The Park」カヴァー、エディ・フロイドのメンフィス・ソウル大定番曲「Knock On Wood」カヴァー、シングル・ヒットの「Can I Change My Mind」など、こちらも上掲2作品同様、ロックステディ・フリークは絶対の1枚!







Sunday Coming

4 『Sunday Coming』


民族衣装を纏ったアルトンの姿でも分かるように、70年、Studio Oneからリリースされた本作は、米黒人ミュージシャンによるアフリカ回帰思想が強まりつつあった当時の風潮を反映した内容に。ファンキー・レゲエ・チューン「Altons Groove」のようなこれまでとは違う味わいの楽曲があるものの、「You Make Me So Very Happy」のようなセルフ・リメイク曲では、従来どおりのシルキーな歌声に酔うことができる。







Arise Black Man 1968-1978

4 『Arise Black Man 1968-1978』


ロックステディの始祖アルトンのアナザー・サイドを垣間見ると云ってもよい、かなりマニアックな選曲のレア・シングル集。ディープなキラー・ルーツ・オケで聴くアルトンもこれまたよし!「Blackish White」、「Rasta Spirit」といった、ここまで散々記してきたロックステディ云々な文脈とは1万光年以上かけ離れた、至極ラスタなタイトルを熱〜く歌い込む熱病のような1枚。ルーツ・ファンはマスト。







Legend

4 『Legend』


英Attackからリリースされた2枚組ベスト。Studio Oneプロデューサー、コクソン・ドッドの下で行なった初吹き込み曲「Muriel」をはじめ、「I'm Still In Love With You」、Treasure Isle期の名曲群「Ain'T That Loving You」、「Dance Crasher」、「Cry Tough」等々、今も全世界のロックステディ、スキンズ、シンガー・ファンの心に残る、温かくシルキーな歌声をたっぷりと30曲。







最近作/ベスト盤/その他の関連作



Soul Train Is Coming
4 『Soul Train Is Coming』

 アルトンのレコード・プロデューサーとしての能力を一望できる、自身のAll Toneレコードのショウケース・アルバム。収録曲のほとんどが今まで簡単には聴く事が出来なかった貴重な音源ばかり。アルトン本人と、妹のホーテンス、そして、アルトンより先に天に召されたスカタライツのトランペッター、ジョニー・ムーアの作品を集めた珠玉の全19曲。




Working On A Groovy Thing
4 『Working On A Groovy Thing』

 '02年3月フランス、ボルドーでのライヴを収録したライヴ盤。バックを務めるのは、ご当地の人気ジャマイカン・ミュージック・バンド=Aspo(アスポ)。「I'm Still In Love With You」、「Give I've Got A Date」、「Rock Steady」といったロックステディ・クラシックを心地良く歌い上げるアルトンの姿に、ボクは何度も救われました。




Lovely Place
4 Alton Ellis / Dreamlets / Naoyuki Uchida 『Lovely Place』

 ドラムンベース・レーベル=DrumWeedからリリースされた、2001年の来日時の録音。エゴ・ラッピンの森雅樹、ジャパニーズ・レゲエ・バンド、ドリームレッツ、さらに、ダブ・エンジニアにはドライ&ヘヴィーの内田直行が参加し、御大の健在ぶりを祝う。ジャケは、言わずもがな『Sings Rock and Soul』のリメイク。




25th Silver Jubilee
4 『25th Silver Jubilee』

 デビュー25周年を祝したメドレー企画盤、その名も「銀のアルトン」。「I'm Still In Love」、「Girl I've Got A Date」、「Rock Steady」、「Mad Mad」といった名曲を数珠繋ぎ。エディ”タン・タン”ソーントンがホーンで参加。




Jubilee #2
4 『Jubilee #2』

 上掲作品の続編となる、85年リリースの「金のアルトン」。こちらもデビュー25周年を祝したメドレー企画盤で、「Willow Tree」から「Jamaica」まで、おなじみの名曲を数珠繋ぎに。ジャッキー・ミットゥーが参加。




I'm Still In Love With You
4 『I'm Still In Love With You』

 米の再発レーベル、Heartbeatからリリースのアルトン黄金期の鉄板ベスト。妹で同じく同時期に活躍したホーテンス・エリスの音源が「たすきがけ」で収録(兄妹デュエットを含む)されているのもミソ。

  



Be True To Yourself
4 『Be True To Yourself』

 こちらも鉄板と云える、65〜73年までを徹底網羅した、Trojanからの究極の2枚組アンソロジー。内容についてはもう何も云うことはないでしょう。黄金期のベスト。2枚組56曲でこのお値段は、かなり良心的ということで、入門者は是非こちらから。

 



Many Moods Of
4 『Many Moods Of』

 フランスのMakasoundから届いたユニークなベスト盤。アルトンとは、およそ結びつかないリー・ペリー、プリンス・ジャミー、サイエンティストといったエンジニアを迎えたルーツ楽曲レア・テイク集。12インチ・ロング・ミックスなどで聴くアルトンもなかなかオツだってこと。




Cry Tough
4 『Cry Tough』

 古くから有名な、米Heartbeatからのベスト。数ある名曲を選りすぐって20曲で纏めると、こうなりますっていう良いお手本。




Hortense Ellis / Feelings
4 Hortense Ellis 『Feelings』

 アルトンの妹、ホーテンスは、64年に「ジャマイカ・ベスト・フィメール・ヴォーカリスト」賞を受賞し、その後、バイロン・リー楽団をはじめ、ケン・ラック、デューク・リード、コクソンなどで吹き込みを経験。こちらは、兄アルトンのプロデュースでAll Toneから78年にリリースされたアルバム。「Unexpected Place」や「He」などで、兄諸作同様、ロックステディの真髄をたっぷりと味わうことができる。




Noel Ellis
4 Noel Ellis 『Noel Ellis』

 アルトンの息子、ノエル・エリスのレアなカナディアン・スウィート・ダブ傑作(83年)。クラッシュのカヴァーでもおなじみ、ウィリー・ウィリアムス「Armagedion Time」のヴァージョン「Rocking Universally」を収録。ジャッキー・ミットゥーらに加え、ウィリー本人もバックに参加。




Janet Kay / Lovin You -Best Of
4 Janet Kay 『Lovin You -Best Of』

 アルトンのプロデュース・ワーク中最も有名で、英国産ラヴァーズ・ロックの何たるかを最も端的に表したジャネット・ケイ「Lovin' You」。このミニー・リパートンの極上ラヴァーズ・カヴァーが、日本に一大レゲエ・ブームを巻き起こしたのは懐かしいところ。本盤は、日本特別企画ベスト。






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