【HMVインタビュー】 パスピエ 『幕の内ISM』 -後編-

--- アルバム制作は大変でしたか？

露崎： 『演出家出演』で掲げたテーマとは、また違った事をやろうって言うのは当初からあって、そこから『幕の内ISM』に照準を合わせたデモを作っていったんです。最初のころからテーマがあったという意味では作りやすかったかもしれないです。とは言え常に完成形が見えていたわけではないので、試行錯誤しながらですけど。

三澤： 今回は今までよりも、結構悩みましたね。悩んで、みんなであわせて、うまいこと化学反応が起こったなっていう感じです。

やお： デモ段階では8ビートとか、四つ打ちのバスドラが入っているくらいなんですね。こういうフィルを入れて欲しいっていう指標はあるんですけど。基本的に僕はでしゃばりなので、「こういう事がしてみたい！」っていうことに対して「ダメ」、「じゃあこういうのは？」…の繰り返しで作り上げていく感じですね。自分としてはドラム単体でかっこいいとも言われたいですし、楽曲、バンドがかっこいいとも言われたいので、自分のエゴとバンドの音楽性との戦いというか。それを常に繰り返している感じです。

--- 楽曲もよく聴くと本当に細かいところまでこだわっていますよね？

やお： 常にリスナーを驚かせたいっていうのはあると思います。例えば「世紀末ガール」のギターソロとか。メタルっぽいフレーズをユニゾンで弾いてたりするんですけど。「これ面白いね、やっちゃおうよ」みたいな感じで進んでいったり。

三澤： 「こうやったら面白いんじゃないか？」っていうところから始まってて、それが難しかったらバンドで詰めて克服していく感じです。

--- なるほど、ではアルバム製作で、それぞれがこだわった部分ってどんなところですか？

露崎： 前回は、アグレッシブに動くようなメロディーっぽいラインが多くて、結構詰め込む事で、躍動感やうねりのようなものを出したんですけど、今回自分への課題といった意味では、シンプルな部分をもっと突き詰めたり、音色にこだわってみたり、シンセベースっぽいようなサウンドを狙ってみたりという部分。フレーズというよりかは、グルーヴだったり、音色でのバラエティーのつけ方に重きを置いて表現できたかなと思ってます。

三澤： 割とコアな話になってしまうんですけど、「誰？」っていう曲のギターソロは結構うまく作れたなと。

--- 「誰？」は本当に面白い曲ですよね。

三澤： 曲の構成がまず面白いんで、普通のギターソロじゃダメだろうっていうのがあって。

やお： ドラムに関しては、曲ごとにチューニングをかなり変えたりしましたね。あと、エンジニアさんが、『演出家出演』の時からお世話になっている方なので、関係値も上がって、音の面で話を出来る機会も多かったです。そういう面で、自分にとって勉強になる部分も大きかったです。

成田： 僕は今回、ミックスまで立ち会って作品を作らせてもらったので、最終的にどうすべきかっていうところまで考えながら作りましたね。前作はモノラル感とかインパクトを意識して作ったんですけど、今作はステレオ感というか。それはキーボードでワイド感を出すっていうのもそうだし、例えばギターが左にいた方がいいなっていう曲では、右側に寄せるように作ったりとか。スピーカーで聴いても面白いし、ヘッドフォン・イヤフォンで聴いても面白いような作品にするにはどうしたらいいかなってっていうことを考えながら作りました。キーボードは、それを担うひとつのツールといった感じで使いました。

--- 1曲の中で大きく展開する楽曲が目立つのも今作の特徴だと思うのですが、楽曲のメリハリに関して意識する部分は無かったですか？

成田： 僕は今の時代感みたいなことを考えていて。アルバム1枚を通して聴いてもらえる環境って昔よりも大分減っているだろうし、もっと言うなら1曲を通して聴いてもらう事も難しい時代だと思うんです。YouTubeで断片的に音楽を聴いたりとか、1曲の中でも気に入った部分だけを抜粋するような聴き方も多いんじゃないかなと。そんな中で、飽きさせない展開というか。「あれ？これ、次はどうなるんだろう？」っていう風に、リスナーの想像力をかきたてるように作りたいっていうのはずっと思ってて。なので、アルバム全体で見てもバラエティーある作品にしたいし、1曲1曲のどこを切り取っても一筋縄ではいかないようにはしたいなとは思ってます。

--- 今回のアルバムを聴いて色彩感が強いように感じるのは、そういうところかもしれませんね。同様にCDのジャケットも、白を基調としていたこれまでとは一転して色彩の強いはっきりしたイメージになっていますよね？

大胡田： ほんと今言ってくださった通りで、今回は曲を聴いていて“色”が浮かぶ事が多かったんです。歌詞を書く上でも、これまでは、デモ→歌詞→リハっていう流れだったんですけど、今回はリハーサルで合わせている間に浮かんできた“色”や“言葉”を書き留めて組み立てるっていう感じに変わったんですね。なので、バンドの音から受けた印象がダイレクトに歌詞、ジャケットに反映された結果かもしれないです。

--- タイトルは前作までは回文にこだわってた部分があると思うのですが。

大胡田： もうそれは、私が回文に満足したっていう（笑）
ひら仮名交じりの日本語『わたし開花したわ』、ローマ字『ONOMIMONO』、最後は漢字『演出家出演』で。これで私は満足だと思ったので次に移ろうと。今回はバラエティーに富んだアルバムの内容を本当に加味した上で『幕の内ISM』と名付けた感じですね。

--- 前回パスピエのレコーディングは朝早く、健全だという話を前回されていましたが、今回もそうでした？

やお： 今回も変わらず健全で（笑）

--- 何か今回のレコーディングでの出来事とかありましたか？

成田： 「ノルマンディー」っていう曲で、ピアノの弦の上にセロハンテープを乗せて弾きました。形が違うセロハンテープをいくつか並べて。鍵盤を叩くとハンマーが上がるんで、一瞬テープが浮いてカランって鳴るんです。ミュートもされて不協和音も出るっていうのが、曲の雰囲気を出せるかなと思って。

--- すごい発想ですね（笑）

成田： あと今回はエンジニアやスタッフと、各々楽器の相談は、かなりしてたかなと思います。そこから音のイメージが見える事もあったと思うし。

--- 全曲リード曲みたいなアルバムですが、その中でも気に入っている楽曲ってありますか？

露崎： 僕は「トーキョーシティー・アンダーグラウンド」っていう曲がすごい気に入っていて。今までやってこれなかったような曲が詰まったアルバムではあるんですけど、その中でもこの曲は特にアレンジの仕方、曲の世界観に、いい意味での化学反応が起きたかなと思っています。

成田： どのアルバムも後半3曲は割と僕が好き勝手に作っている曲なんですね。後半に行くに従って“遊び”が多い“深い”曲を配置しているつもりなんです。なので最後まで聴いて貰えたら、また新しい発見なんかもあるんじゃないかなって思います。

やお： 僕は「わすれもの」っていう曲。これは2〜3年前に仮録までして収録されなかった曲なんですけど、それに今回手を加えて完成させたんです。そういう思い入れも強いですし、唯一バラードに近い曲。ラスサビ前がすごい気に入ってます。

--- 過去の曲をもういちどっていうパターンもあるんですね。

成田： 今やったら出来るっていうものもあったりするんで。「わすれもの」は特にそういう曲だったと思います。

--- 三澤さんは、気に入っている楽曲いかがですか？

三澤： 僕は割と全部好きで、全部思い入れがあるんですけど、ひとつ選ぶとしたら「七色の少年」ですかね。なんていうか、音以外のものを連想させるCDが好きで。例えば音楽を聴いて風景が見えてくるようなものや、サイケロックやクリーム等の時代感が感じられる曲とか。結構、今回のアルバムにはそれがあると思うんです。それが最も強く感じられるのが「七色の少年」かなと思ってます。

大胡田： 私は「ノルマンディー」ですかね。この曲は、私が昔書いていた曲の歌詞だけを、成田さんに渡して、そこから広げて作り上げていった曲なので、この手順が始めてだったっていうのがあります。「この言葉からこんな曲になるのか」っていうのが楽しかったですね。最初は意外だったんですけど、作り上げている段階ですごくしっくりきて。

--- アルバム初回盤付属のDVDには、ライブ映像が6曲分も収録されるんですよね？初めてライブ映像を見せるわけですが？

やお： 買ってくれる人たちに楽しんで貰えたら嬉しいですね。あと普段ライブに来れない人にも。

--- 前回のインタビューで「売れたい願望よりも、残るバンドでありたい」といっていましたが、そこに変化はない？

成田： そうですね。僕はやはり「残るバンド」っていうのが今でも一番強くて。音楽シーンって今「ライブ」に重きがシフトしていると思うんですね。ライブはライブですごく大事だし、その瞬間その場所にいた人のみが味わえる空間だと思うんですけど、その瞬間の刹那で過ぎていくものに対して作品っていうのは、伝わり続けていけばずっと残っていくものだと思う。売れる、規模を広げるっていうのは、意図して作るものではなくて、ついてくるものかなと。だから作品に関しては、絶対にそこの芯はブレずに、いつ聴いても面白いなって思ってもらえるような作品を作りたいし、ライブに関しても、来てくれた人の記憶に残るような事をずっとやっていきたいですね。

--- パスピエは、いい感じで規模が大きくなっていると思いますが。

成田： 会場が広くなればなるほど、パフォーマンスのサイズ感も大きくしていかなきゃいけないと思うんですよ。いかに多くのお客さんに満足してもらえるか。その事を考えた結果、パフォーマンスも変化してきていると思います。
もっと大きな会場で出来ることになれば、その会場の人たちを満足してもらえるようなパフォーマンスを考えていくと思うし。

--- 「印象シリーズ」で対バン相手の楽曲をカバーするのも、そうしたところから出てきたアイデアなんですか？

成田： そうですね。「なぜこのバンドと対バンするのか？」っていう意義をお客さんに伝えたいっていう思いがあって。もちろん僕らなりの対バン相手に対する、尊敬、敬意もありますし。そのためにはカバーをするっていうのが、僕らなりの見せ方だとも思うし、対バンの方を見に来たお客さんにも喜んでもらえるんじゃないかなっていうのがあります。

--- そうですよね。1回のライブのためにカバーするのも大変だと思いますけど。

成田： 男性ボーカルの楽曲をキーあげてカバーしたり、キーボードがないバンドの楽曲にキーボード入れたり、ギターがないバンドにギターを入れたりとか。そういう試行錯誤はありますね。

--- 「印象シリーズ」は自分たちで対バン相手を選んで企画しているイベントだと思いますが、自分たちがキュレーターになってフェスを企画したいというような思いはありますか？

露崎： 単純に新しい事はどんどんやっていきたいとは思っていますけど…なんだろう、もしそういう話になったら、従来のものではなく今までにない形で「パスピエそんなアイデアあったんだ」みたいな驚きを提示していけたらなって思いますね。それがフェスと呼べるのかわからないですけど。

---最後に、『幕の内ISM』のレコーディングを経て、改めて「パスピエらしさ」って何だと思いますか？

露崎： 『幕の内ISM』は今までの作品の中で一番パスピエらしい作品になったと感じています。ライブコンセプトで作った『演出家出演』の楽曲を実際にライブで演奏する中で、お客さんの盛り上がりをつかんでいくことが出来た。『幕の内ISM』はロック的な要素以外で“踊れる”曲だったり、色が見える曲、バラードなど本当にバラエティーに富んでいるので、また違った形でライブの空間を自分たちのものにしていけたらって思います。

成田： 僕は常に違和感を残していきたいっていうのがあります。一口目で「これおいしい」ってならなくても、その時点で後に引く印象を残せるかが大事だと思ってて。どんな形でも最終的に記憶してもらえるようなものを作れたらなと思います。「こういうのって無かったな」とか「なんだろうこれ」っていう風に考えてもらえる事を音楽で表現できるバンドになりたいと思ってます。

やお： 『幕の内ISM』は“2014年パスピエ”そのものです。

三澤： これまでの経験を経て音楽の共通言語みたいなものが出来てきて、いろんな事がスムーズになってきているなって思います。

大胡田： パスピエらしさは多面的なところでしょうかね。今回はまたいろんなタイプの曲が出来たと思いますし、私もいろんな歌い方しましたし、ジャケットであったり、『幕の内ISM』のいたるところにパスピエらしさが表れているんじゃないかなって思います。

--- ありがとうございました。