ANATHEMA インタビュー！

2014年6月3日 (火)

ANATHEMA

ANATHEMA

『Lost Song, Pt. 3』！

＜ヴィンセント・カヴァナー / ANATHEMA インタビュー＞

イギリスの誇る新世代インテリジェント・プログレッシヴ・ロック・バンド、アナセマが13年ぶりの日本盤となるニュー・アルバム『ディスタント・サテライツ』を6月4日に発表する。

ポーキュパイン・トゥリーのスティーヴン・ウィルソンも２曲ミックスで参加している本作、初回限定盤にはオーペスやカタトニアを手掛ける、イェンス・ボグレンによる5.1chサラウンドミックスが収録されたブルーレイオーディオが付属するなど、透明感あふれる抒情派メロディで世界的に高く評価されてきた彼らのサウンドを更なる高みへと引き上げる大作となっている。

しかしそんな彼らの音楽性は一朝一夕にして築き上げられたものではない。約20年におよぶバンドの軌跡について、ヴォーカリストでありプログラミング、ギター、キーボードを担当するヴィンセント・カヴァナーが振り返ってくれた。

--- アナセマはデビュー以来、幾つもの音楽性の変化を経てきましたが、『ディスタント・サテライツ』においても過去の作品にはない、プログレッシヴなアプローチが取られていますね。: ヴィンセント・カヴァナー（以下、V） :『ディスタント・サテライツ』はアナセマにとって10枚目のアルバムだ。ロックの歴史において、これほどドラスティックな進化を経てきたバンドは稀だと思う。このアルバムでは、インプロヴィゼーションの要素が強まっている。自分たちの内面から生まれるものを音楽にしているんだ。それでも我々にとって最も大事なのは、あくまで“ソングライティング”なんだ。“プログレッシヴ”であることよりも“ソングライティング”を重視している。
--- 1990年代初め、パラダイス・ロスト、マイ・ダイイング・ブライドと共に“UKデス／ドゥーム・メタル三羽ガラス”だった時代を、今になってどう考えますか？: V :3バンドとも同じ『ピースヴィル』レーベルから作品をリリースしていたし、みんなイギリス出身だったから、当時“三羽ガラス”と呼ばれたことは理解できる。もちろん彼らには最大の敬意を持っているけど、自分たちが特定の“シーン”の一部だと考えたことはないんだ。アナセマを始めたとき、俺たちはガキだったけど、自分たちがいずれ変化して、異なった方向に進んでいくことを考えていた。当時であっても、俺たちはデス・メタル・バンドよりもシド・バレットやボブ・ディランから影響を受けてきた。だから当時より今の方が、彼らの影響は判りやすくバンドの音楽に表れているかも知れないね。
--- 当時の音楽性については？: V :今やっていることとは異なるけど、誇りにしているよ。デビューEP『ザ・クレストフォールン』(1992)ではギターのハーモニーを重視して、ストリング・カルテットみたいに聞こえる、クラシック音楽から影響されたドゥーム・メタルをプレイしていた。ただ、メタル一辺倒ではなく、初期から実験的な要素があったんだ。ファースト・アルバム『セレナーデ』(1993)には「ドリーミング：ザ・ロマンス」という、アンビエント・トラックがあった。シンセサイザーや女声ヴォーカルを取り入れたフォーク・アコースティック、逆回転など、いろんなことをやっていたよ。
--- そんな過程で、大きなターニングポイントはありましたか？: V :我々は作品ごとに変化していったけど、大きな変化は、『オルタナティヴ4』(1998)だった。このアルバムで、我々はサウンドに幾重もの層を重ねるのを止めて、シンプルなソングライティングにシフトしていったんだ。ロジャー・ウォーターズがピンク・フロイドの『ザ・ウォール』でやったようにね。その時点で、曲の持つ“意味”を重視するようになったんだ。よりベーシックなサウンドを志向したことや、アルバム・タイトルのせいもあって、「アナセマがオルタナティヴ路線に走った」という批評もあった。それは正しくもあり、間違ってもいた。これまでやってきたことと“別の選択肢＝オルタナティヴ”であるという点では正しかった。でも決してアナセマがニルヴァーナになったわけではなかったんだ。
--- “アナセマ＝呪詛・嫌悪”というバンド名が音楽性とズレてきたため、バンド名を変えようとも考えたそうですが？: V :その通りだ。でも、これといった代わりの新バンド名もなかったし、周りのみんなに「変えない方がいい」と言われて、結局アナセマのままで活動を続けることにした。ポーキュパイン・トゥリーのスティーヴン・ウィルソンにも「最高のバンド名じゃないか！変えちゃダメだよ！」と言われたよ（苦笑）。
--- 『ディスタント・サテライツ』には「アナセマ」という曲が収録されていますね。: V :「アナセマ」は、もう一度バンド名と向き合う機会だったんだ。初期のダークな音にフル・オーケストラとピアノを加えた、過去と現代が交錯する曲調だった。歌詞も我々が経てきた喜びや苦しみ、そしてバンドの絆、去って行ったメンバー達についてのもので、「アナセマ」と名付けるのが相応しいと考えたんだ。アルバムのハイライトのひとつだよ。
--- アナセマの日本盤がリリースされるのは『ファイン・デイ・トゥ・エグジット』(2001)以来ですが、その時期からあなた達は“ネオ・プログレッシヴ”の旗手と呼ばれるようになりました。プログレッシヴ・ロックは昔から聴いていましたか？: V :俺の考えるプログレッシヴ・ロックというのはビートルズやピンク・フロイド、レディオヘッドなんだ。世間でいうプログレッシヴ・ロック、キング・クリムゾンやイエス、ジェネシスなどは、実はあまり聴いていない。この前プログレッシヴ・ロック・バンドが演奏するマイアミ〜バハマのクルーズ『プログレッシヴ・ネイション・アット・シー』に参加したんだ。（元イエスの）ジョン・アンダーソンも出演していて、俺たちのライヴ後に「良かったよ」と言ってくれたんだ。彼はとても寛大で、ユーモアのある人だった。「すみません、あなたの音楽はあまりよく知らないのですが、これからイエスを聴こうと思います」って心の中で謝ったよ！
--- これからアナセマはどんな方向に向かっていくのでしょうか？: V :真の意味でプログレス、前進していきたい。そして、最高の曲を書きたいね。『ディスタント・サテライツ』では最も理想に近い形で両者を実現できたけど、もっともっと良い曲をたくさん書きたいんだ。我々にとって、テクニックよりもソングライティングのほうが大事なんだ。アナセマのレコードにはギター・ソロがない。必要があればアルバム中で1回ぐらい入っているかも知れないけど、「どうだい、ギター・ヒーローだぜ！」なんてやっている暇があったら、良いメロディやコーラスを入れるよ。ダニー（ダニエル・カヴァナー）は素晴らしいリード・ギタリストだけど、それ以上に優れたソングライターだ。だからギター・ソロを弾きまくるよりも、良い曲をアルバムに入れたいんだ。