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祝☆「Jazz The New Chapter」 重版記念放談 〜DJから見た現代ジャズの地平

2014年5月21日 (水)


「Jazz The New Chapter」 放談


21世紀以降のシーンを網羅した世界初のジャズ本
「Jazz The New Chapter」

 「Jazz The New Chapter:ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平」 (柳樂光隆・監修)

Jazz The New Chapter:ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平
名門ブルーノートの「今」を体現する風雲児ロバート・グラスパーを主人公に据え、稀に見る盛り上がりを見せつつも体系的にまとめられることのなかった2000年代以降の海外ジャズ・シーンに特化して紹介する1冊。もちろん世界初の試み!

【Contents】
■PART 1:ロバート・グラスパー以前・以後のパースペクティヴ / ジャズ新時代を担うワイルド・チャイルドの歩み / Discography:Robert Glasper / 真価を発揮するエクスペリメントのライヴ・レポート / ジャズmeetsヒップホップを巡る変遷と更新 / 規格外な“実験”バンドの顔ぶれ / エクスペリメント成功の鍵を握ったドラムの進化論・・・ ほか
■PART 2:新世紀に花開いた新しいジャズの可能性 / Blue Note Frontline 由緒正しき名門による格闘の記録 / Jose James/Gregory Porter/黒田卓也 / Jazz+More ジャンルの融合と解体を巡るいくつかの考証 / “今”を彩る100枚のアルバム / 注目度の高い14レーベルを厳選紹介 / ワールド・ジャズの新しい勢力地図・・・ ほか






祝☆「Jazz The New Chapter」重版記念放談

柳樂光隆(ジャズ評論家)×大塚広子(DJ)×小浜文晶(ローソンHMVエンタテイメント)

 ありとあらゆる感性が、FacebookやYouTubeで繋がり、その理解を深め合っていくことで真新しいスタンダードが産声を上げる。そんな時代に、はたして「ジャズ」と呼ばれるべき音楽にとって必要なリアリティとは何なのか? その答えを明確に、そして広角的に導き出したともいえる、唯一の現代ジャズ書典「Jazz The New Chapter」。ここには、新しい感覚をまとい、激しく研ぎ澄まされた、あらゆるフィギュア/フォームのリアル・ジャズがページ狭しと散りばめられている。

 ジャズが、ユニバーサルな”バイ・ミュージック”として首尾よく機能する時代が来たのか否か。がしかし、とりわけ、ヒップホップ、エレクトロニカ、テクノ、アンビエント、ビート・ミュージック、インディーロックとの密な親睦は、ひなびた歴史主義との戦いを意味しているのかもしれない・・・と、そんなお堅い話は抜きにして。
 今回、監修者の柳樂光隆さん、さらには DJの大塚広子さんをお迎えして、テーマはざっくりと「DJから見た現代ジャズの地平」と銘打ち、ユルユルと対談を行ないました。

小浜文晶 (ローソンHMVエンタテイメント)


小浜文晶 (以下、小浜):「Jazz The New Chapter」、発刊から3ヶ月ぐらいが経過したんですけど、周りの反応なんかはどうですか?

柳樂光隆 (以下、柳樂):全体的にウケはいいみたいなんですけど・・・ DJ方面からの反応がイマイチ掴みづらくて・・・

大塚広子 (以下、大塚):この本の存在自体、気になっているDJもすごく多いですよ。私も、以前からこういう本が出るっていうのを聞いていたから、待ってました! って感じだった。ただひとつ思うことは、実際に掲載されている作品を聴く機会がほとんど無いんじゃないのかなって。

小浜:この手の音源は、入手するためのインフラがまだちゃんと整っていないというか。クリス・デイヴ&ドラムヘッズみたいなミックステープCDや、ダウンロード・オンリーの音源も比較的多いし。

大塚:気になるけど判断できない、みたいな。あと、例えば“DJ聴き”をするような人にとっては、分かりやすいアンセム、「コレが推し曲なんだ」っていうような明確なインプットがあると、もっと入り込みやすいんじゃないのかなって。だから、その辺は一度整理してちゃんとセットを組んで、まずは耳に残るようにしていきたい。曲単位で。

柳樂:実はコンピを作るっていう話もあるんですよ。より伝わりやすくするっていう意味では、そういう流れになるのはごく自然なんですけど。いずれにしても、「ムジカ・ロコムンド」みたいに、ディストリビューションやリイシューのきっかけになってくれればいいなって。

 で、この本に関しては、割とリテラシーが要求されるというか。実際、執筆してもらう人を選ぶのがまず大変だったということもあって。ジャズだけじゃなくて、ロック、ヒップホップ、クラブ・ミュージックにまんべんなく理解がある人にお願いするっていう点で、それに該当するライターがいなかった。だから一見ライトではあるんだけど、リテラシーはそれなりに要求するんですよね(笑)。

大塚:(笑)たしかに、クラブ・ミュージックだけを聴いているような人にも、ちょっとハードルが高いかも。

小浜:ただ、リテラシーは高めなのかもしれないけど、別に高圧的な感じではないですよ。

柳樂:これでも頑張ってライトにした方なんですよ。でも、“オッサン”たちを納得させなきゃいけないっていうミッションもありつつ(笑)、結果こういった内容になったというか、僕も原(雅明)さんもガツンと重いものを書いたから。コラムでもM-BASEとかは、ガチのジャズファン向けですよ。

小浜:(笑)“オッサン”っていうのは・・・具体的に誰とか?

柳樂:ま、オッサンっていうか、後藤(雅洋)さんなんだけど(笑)。

大塚:(笑)J・ディラとか後藤さんおもしろがってなかったっけ?

後藤雅洋(ごとう まさひろ)・・・四谷の老舗ジャズ喫茶「いーぐる」店主。ジャズ評論家。近著に「一生モノのジャズ名盤500」(小学館101新書)、「ジャズ耳の鍛え方」(NTT出版)、「ジャズ・レーベル完全入門・増補版」(河出書房新社)など。”親子ほど年の離れた”柳樂氏とも交流がある。


小浜:世代間の歩み寄りもそれなりにある・・・この本の中の対談「ロバート・グラスパーとは何なのか?(村井康司×原雅明×柳樂光隆)」とかおもしろいなって。

柳樂:評価はしているみたいなんだけど、ホントそれなりに。ちなみに、オフレコも多いんですよ、あの対談。僕も原さんも村井さんも結構余計なこと言っちゃうんで(笑)。

小浜:この本は、レアグルーヴやフリーソウルという言葉を使わない方法で書かれているのがすごく“今っぽい“。便宜的には使いやすいワードなんだけど、あえてというか、アンチというか。

柳樂:レアグルーヴとかフリーソウルとはまた違ったラインをそろそろ作らないとっていう考えが個人的にあって。だから、これまでのクラブ経由のジャズの語り方とは違う本なんですよ。ジャズの歴史と繋げる意識を明確に持ってやっていましたからね。

大塚:私も含めて、多くのDJがレアグルーヴを通過してきたのは事実だけど・・・それも極端になりすぎてまったから、今は良い意味で“レアなレコードの魔法”から解き放たれているような気もする。そういったときに新しく入っていきやすいものが、この本に載っているミュージシャンたちの作品だったり、もしくは最近のブルーノート・アーティストの作品だったりするのかなって。例えば、アル・グリーンがちょっと前にこんなことをやっていたとか、そういう発見があれば入っていきやすいし、しかもキーになる人がいるのといないのでは全然違う。もっと繋がりやすい。あとは、純粋に曲だけのインパクトにしても、よく聴くとしっかりあるんですよね。

柳樂:大塚さん、今回の本に沿った形で実際にプレイリストを作ってきてくれたんですよね?

大塚:そうなんですよ。とりあえずこんな感じなんですけど・・・ さっき話したようなことを踏まえて、分かりやすさをひとまず重視してみました。


DJ 大塚広子・選
「Jazz The New Chapter」プレイリスト



01. Ahmad Jamal / Autumn Rain (from 『Blue Moon』
02. Gretchen Parlato / Holding Back The Years (from 『The Lost And Found』
03. Vijay Iyer Trio / Mystic Brew (from 『Historicity』
04. Steve Coleman & Five Elements / Sinews (from 『Functional Arrhythmias』
05. The Claudia Quintet / September 20th Soterius Lakshmi (from 『September』
06. Mary Holvorson / Smiles of Great Men (No.34) (from 『Illusionary Sea』
07. 挾間美帆 / Tokyo Confidential (from 『Journey to Journey』
08. Derrick Hodge / Dances with Ancestors (from 『Live Today』
09. Common / Time Traveling (A Tribute To Fela) [feat. Vinia Mojica, Roy Hargrove, Femi Kuti] (from 『Like Water For Chocolate』
10. Chris Dave / Drumz & Cream (from 『Chris Dave and the Drumhedz Mixtape』
11. Marc Cary / Blak is Back (from 『Abstrakt/Blak』
12. Ben Williams / Moontrane 〜 The Lee Morgan Story [feat. emcee John Robinson & Christian Scott] (from 『State of Art』
13. Esperanza Spalding / Crowned & Kissed (from 『Radio Music Society』
14. Q-Tip / Life Is Better [feat. Norah Jones] (from 『The Renaissance』
15. Jonathen Blake / The Eleventh Hour (from 『The Eleventh Hour』
16. Kris Bowers / Forget-Er [feat. Julia Easterlin] (from 『Heroes + Misfits』
17. Becca Stevens / Weightless 〜 You Can Fight (from 『Weightless』
18. Sao Paulo Underground / Jagoda's Dream (from 『Tres Cabeças Loucuras』
19. New Zion Trio / Hear I Jah (from 『Fight Against Babylon』
20. 黒田卓也 / Afro Blues (from 『Rising Son』
21. ERIMAJ / Nothing Like This (from 『Conflict Of A Man』
22. Tim Berne / Huevos (from 『Science Fiction』
23. Kurt Rosenwinkel / Blue Line (from 『Heartcore』
24. Marcus Strickland / Virtue(from 『Open Reel Deck』
25. Kneebody / Cha-Cha (from 『The Line』
26. Roy Hargrove / Strasbourg 〜 St. Denis (from 『Earfood』
27. Maurice Brown / Good Vibrations (from 『The Cycle of Love』
28. Gregory Porter / Om My Way to Harlem (from 『Be』
29. Al Green / Just For Me (from 『Lay It Down』
30. Kenny Garrett & Pharoah Sanders / Happy People (from 『Sketches of MD: Live at the Iridium』


小浜:あ、おっしゃっていたとおり、アル・グリーンの「Just For Me」が入ってますね。これ、ブルーノートからのアルバムでしたよね。

大塚:クエストラヴとジェームス・ポイザーのプロデュースですね。それこそこの辺の曲が、もろに“レアグルーヴ以降”なんじゃないかなって。アル・グリーンっていうネームバリューからも繋がりやすいし、広がりやすいし。

小浜:普段のセットリストに入っているものも何曲かあったり?

大塚:ありますよ。今回にしても、普段旧譜中心でやるときとほぼ同じような感じで流れを作れましたし。そもそもクラブでは、あまりストレートなジャズばかり並べるのは避けるようにしているんですよ。最近のジャズの中でも、リズムがおもしろいもの、グルーヴが際立ったもの、あとはヒップホップとの親和性があるものなんかをメインにかけたりしてるんで。デリック・ホッジの「Live Today」、Qティップとエスペランサ・スポルディングの「Crowned & Kissed」とか、このへんはもう定番化してます。

柳樂:しかもちゃんと、コモンの「Time Traveling (A Tribute To Fela)」、Qティップ「Life Is Better」にそれぞれ繋がっているっていう。

小浜:スティーヴ・コールマンって現場でのウケはどうなんですか?

大塚:かけ方だと思います。あの変なリズム、ハマる人はハマるから、チョイチョイ間に入れるんですよ(笑)。この感じがCD一枚丸々続くと正直キツいと思うんですけど、間にうまく挟めると、ちょっと変で気持ち悪いけど、でも意外と気持ちいいかもみたいな(笑)。気になって、「あの曲何ですか?」って聞いてくる人も多いし。リストの中でも結構大事なポイントになってますね。

スティーヴ・コールマン

柳樂:アクセントにはいいよね。スティーヴ・コールマンって、昔のアルバムをジャイルス・ピーターソンとかもオールタイム・ベストで選んでた気がする。海外ではめっちゃ評価高いんですよ、M-BASEって。

小浜:別にリヴァイヴァルとか再評価とかじゃない。

柳樂:むしろ勢力が広がっているぐらい。最近アメリカで強いのは、スティーヴ・コールマンとアンソニー・ブラクストンの一派。その二人の教え子たちは勢いがありますね。白人だとフレッド・ハーシュ、ダニーロ・ペレスの生徒たち。facebookを見ていると、ヴィジェイ・アイヤーとかが、M-BASEの過去の音源のYouTubeを貼り付けて「この曲サイコー!!」なんて書いてる。それにジェイソン・モランが「当たり前じゃん」みたいな(笑)。そういうおもしろいやりとりがあったりする。

小浜:いかんせん日本だとM-BASEって一昔前のイメージだけど。

柳樂:そうそう、終わったもの扱いですよね。でも、カサンドラ・ウィルソンだって、ミシェル・ンデゲオチェロだって、出自はM-BASE。ジャズ以外にもしっかり繋がっていく。だから、この本にはスティーヴ・コールマン・チルドレンがかなり出てくるんです。

大塚:私、2、3年前に、DIWレーベル(ディスクユニオン)のミックスCDを作らせてもらって、そのときにこの辺相当聴き込んだんですよ。90年代からの動きを知るきっかけになったM-BASEが、今こういう感じで繋がるっていうのが個人的にもすごくおもしろい。




グラスパーを読み説くことで、視界がクリアになって、地平が一気に広がった (柳樂光隆)


小浜:本を書くにあたり、大局的なブラック・ミュージックの傘の中にこういうものがあるんだっていうコンセプトみたいなものってありました?

柳樂:結果的にそうなったって感じですかね。しいて言うならば、グラスパーが出てきて、ネオソウルの意味が分かったっていうか。このタイトルだと、グラスパーが、昔のマイルスやコルトレーンみたいなポジションで、今のジャズの中心っていうイメージっぽいんですけど、そういう意味じゃないんですよ。グラスパーを真ん中に置いてみると、過去も、未来も同時代も繋がって、ジャズを含むアメリカの音楽ミュージックが読み解きやすくなるよって本なんです。グラスパーを読み説くことで、視界がクリアになって、地平が一気に広がったなって。

小浜:15年ぐらい前は、よく「ヒップホップの中にあるネオソウル」みたいな文脈が取り沙汰されていたけど、その意味ですら、グラスパーの出現でもっとしっかり咀嚼することができたような気もするし。ただ、そもそもネオソウルって現場のDJ、リスナー的にはどうなんだろうっていうところはありますけど。

柳樂:ジル・スコットやエリカ・バドゥなんかは、アフターアワーズ的にプレイされたり、友達のDJがくれるミックスCDに入ってたり。そういうイメージかな。

ロバート・グラスパー 小浜:ヒップホップ・サイドのネオソウル、例えばコモン、ルーツ、スラム・ヴィレッジ、いわゆるソウルクエリアンズものに関しても、アフターアワーズ的な印象は今も強いかも。Qティップにしても、『Amplified』なんかはよく大バコでもかかってたけど、カマール・ジ・アブストラクトになると、本当にごく一部の“すきもの”にしか届いていなかったと思う。オリジナルのプロモEPが出た当時は。でも今回のように、グラスパーやエスペランサの作品を並べて見てみると、カマールの立ち位置や狙っているところがハッキリしたというか。

大塚:Qティップの”レコード焼けちゃった事件”から、ミュージシャンを起用しはじめた流れとかですよね。当時はやっぱりサンプリングが主流だったから、ちゃんと理解されて聴かれていなかったけど、割と今になってDJたちも「なるほどな」って気付いてきたような気がする。誰がどんな音やっているとか、その本当のおもしろさが分かってきたというか。

柳樂:例えば「ロバート・グラスパー」っていうキーワードがあって、チャンネルが変わって、聴こえてくる音が変わったっていうのはあるかもしれない。ジャズっていう意識が少し乗ってるわけだし。

大塚:それぞれの作品には色々な人が参加していて、それぞれがジャズに繋がってくるし。

小浜:デリック・ホッジ、マーク・コレンバーグ、カリーム・リギンスの存在だったり。それこそコモンの『One Day It'll All Make Sense』、『Like Water For Chocolate』、『Be』、イエスタデイズ・ニュー・クインテット『Yesterdays Universe』なんかの聴こえ方が少し変わってきた気がします。

柳樂:そういう流れもあって、最近使えそうなものは増えている気がする。グラスパー絡みだったらシェウン・クティとか。もろDJユースって感じ。

大塚:こういった作品がアナログ化されるといいんですけどねぇ。そうでないと、ある層は動かないんで・・・(笑)とにかくアナログで出ると現場感が強くなる。

柳樂:エリマージは、EPだけアナログあるよね。グラスパー、ホセ、エスペランサも出てる。黒田卓也さんの『ライジング・サン』もアナログで出せばいいのにね。


ロバート・グラスパー
『Black Radio 2』
(2013)

Black Radio 2 ジャズとヒップホップを自在に体現し、音楽シーンに旋風を巻き起こしてきたピアニスト、ロバート・グラスパー。2012年発売の『Black Radio』は、彼がリスペクトするヒップホップ/R&Bの豪華ゲストを迎えた作品として各方面で話題を呼び、第55回グラミー賞「ベストR&Bアルバム」を見事に受賞。その続編となる本作。ゲストには、コモン、パトリック・スタンプ(フォール・アウト・ボーイ)、ブランディ、ノラ・ジョーンズ、ジル・スコット、フェイス・エヴァンス、アンソニー・ハミルトン、スヌープ・ドッグ、ルーペ・フィアスコ、エミリー・サンデー、ドゥウェレ、マーシャ・アンブロージアス、レイラ・ハサウェイ、マルコム=ジャマル・ワーナー(俳優)と、前作よりさらに豪華な顔ぶれが揃い、エクスペリメントがさらなるネクストレベルへと進む。


エスペランサ・スポルディング
『Radio Music Society』
(2012)

Radio Music Society Qティップとの共同プロデュースによるポップでラジオフレンドリーなアルバム。前作『Chamber Music Society』では、盟友レオ・ジェノヴェーゼ(key)、テリ・リン・キャリントン(ds)、さらにゲスト・ヴォーカルとしてミルトン・ナシメントを迎えて制作されたが、本作ではそのキャストを格段に広げた。ジョー・ロヴァーノ (sax)、ジャック・ディジョネット (ds,p)、ビリー・ハート(ds)といった巨匠を招き、共同プロデューサーとしてふたたびQティップとタッグを組んだ。さらに、アルジェブラ・ブレセット、レイラ・ハサウェイ、グレッチェン・パーラト、リオーネル・ルエケといった個性豊かなヴォーカリストが参加し、花を添えている。



Qティップ
『The Renaissance』
(2008)

The Renaissance 『Amplified』以来9年ぶりとなる2ndソロ・アルバムは、アメリカ大統領選の日に照準を合わせたかのように発売されたメッセージ性の高い作品。ゲストにはラファエル・サディーク、J・ディラ、ノラ・ジョーンズ、ディアンジェロ、アマンダ・ディーヴァらをフィーチャー。サウンドはメインストリーム作品のような派手さはないものの、絶妙なサンプリング・センスとジワっとハマる生ビート、そしてリラックスしたスタイルで繰り出されたティップのラップという、ATCQ時代からのファンには実に嬉しい作りに。ノラとのミディアム・メロウ「Life Is Better」には、両者の”相思相愛”ぶりが如実に伝わってくるラヴリーでリラックスしたムードが漂っている。







同世代のレアグルーヴ・パーティをやっていた人たちでも、それこそグラスパーなんかがきっかけで、この辺を調べたり掘ったりしている人はいるんですよ (大塚広子)


小浜:こうした今のジャズのプレイリストに共感を持っているDJって実際結構いるんですか?

大塚:いますよ。地方のDJとか結構早くからかけてるんですよね。グラスパーとかグレゴリー・ポーターの12インチとかで盛り上がってる。でもそれって、やっぱりアナログでリリースされているからなんですよ。たとえ内容がよくても、CDだけだと現場の”時差”がちょっとあるかなって。あとは、さっき言ったように、分かりやすいキャッチーな曲があれば動くわけで。だから、そういう曲をDJサイドから作り上げていけたらいいですよね。クラブで何曲もプレイしたり、そういうパーティがあると盛り上がり方も違うかな。

小浜:逆に、何の前置きもなくガツンとかけちゃうのはリスクが大きい?

大塚:おもしろさをリアルタイムに共有できないんですよね。でも、もちろん話題にしている人は少なからずいるんで、そこをもっと広げるために、ちょっと解説を入れたレジュメを配布して、かける。以前、そういうことを地方で企画してみたことがあるんですよ。そうすることでよりたくさんの人に興味を持ってもらえましたね。プレイリストと参加ミュージシャンも載せて、例えばQティップだったりみんなが知っている情報と繋げていくとスムーズに反応してくれました。

 同世代のレアグルーヴ・パーティをやっていた人たちでも、それこそグラスパーなんかがきっかけで、この辺を調べたり掘ったりしている人はいるんですよ。レア盤の話だけじゃなくて、ジャズの新譜の話も増えてきている。それは実感してます。ただ、それはまだまだ個々レベルの動きっていう感じなので、もう少しそこに共感できる人たちが見えてきて、繋がってくれればおもしろくなるのかなって思いますけどね。

小浜:ヒップホップと絡むジャズって、どうしてもネタ文脈のレアグルーヴに寄って、古典に偏っちゃう部分があって・・・ごく一般論的には、ジャズそのものがそういう考古学チックなものになってしまうのかもしれないですけど・・・

柳樂:こないだニコラ・コンテの新譜『Free Souls』を聴いたんですけど、ニコラの方がグラスパーよりもジャズっぽいんですよ。ジャズの”デフォルメ”っていうか。モダンジャズを凝縮したっていうよりは、デフォルメっていう感じ。だから、こっちの方がジャズを感じられるのかなって思うし、ジャズDJ的にも使いやすいのはよく分かる。昔の黄金時代のモダンジャズをトレースして、リズムもあまりアップデートはせずにそのままの質感を残したまま四つ打ちを組み込んでる。残せるものを全部残して、フロア向けにしてるってのは、すごいセンスがあるし、使いやすいんですよね。

小浜:ジェラルド・フリジーナとか、そういう感じでリワークなんかを作ったりして。イタリアならではというか、そういうのやらせると異様なまでのこだわりやセンスの良さを発揮しますもんね。

柳樂:ただ、コンテンポラリーなジャズとはまた別なものになっちゃう。

大塚:ジャズっていうよりは、やっぱりクラブジャズだから、四つ打ちですよね。この本に出てくるようなJ・ディラ経由のものとはちがいますね。

小浜:クラブジャズとの距離の測り方というか、この本には、レアグルーヴ、フリーソウルに続いて、クラブジャズ的な文脈もほぼ入っていないわけですよね。

柳樂:入れてない理由はあるんですよ。本の中心をアメリカのメインストリームのジャズにしたかったんで。実際、クラブジャズ・シーンってヨーロッパとか日本だから、アメリカのメインストリームに繋がらないんですよね。小さい接点はあるんだけど。

 そういえば、ブッゲ・ウェッセルトフトもクラブジャズから離れたじゃないですか。彼も今は、ヘンリク・シュワルツとやっていて、ニルス・ペッター・モルヴェルにしても、モーリッツ・ヴォン・オズワルドとやっている。今は、クラブジャズからは離れて、ミニマル・テクノとか、そういうのと繋がっていく流れがある。きっと、それはECMからヴィラロボスのリリースがあったことと同じ流れなんでしょうね。でも、それは例えば、e.s.t.とブラッド・メルドーとの関係みたいな感じで、アメリカとパラレルに存在するヨーロッパ・ジャズの流れなんですよ。そのことは、この本にも欠かせない流れだったんですよ。

 だから、HEXは意図が分かったんですよね。松浦俊夫さんは、その辺が見えていたんじゃないかな。松浦さんだから、クラブジャズっぽい音にはなるんだけど、やりたいことはクラブジャズとは違うっていうか。あれ、モーリッツ・ヴォン・オズワルドとかに思いっきり当ててそうな曲とかあるし。

小浜:マニュエル・ゲッチングみたいな曲とかね。

KAN SANO 柳樂:そうそう。それをあえて、KAN SANOと伊藤志宏でやるっていう、その意図が何となく分かったんですよね。アメリカのジャズ・シーンは、ブギーとかやらないしね。大塚さんは、mabanuaさんやKAN SANOさんとかと接点あるの?

大塚:mabanuaさんとは昔から親しいですね。イベントのライヴ・セッションにも参加してもらったり、現場のファンがすごく多い。SANOさんは早くから目を付けてました(笑)。最初はビートものの印象が強かったんだけど、waxpoetics レーベルからの音源(Bennetrhodes名義のアルバム『Sun Ya』)ですごくジャズの要素を感じて、そこから仲良くなって誘ってくれたピアノトリオのライヴが本当に素晴らしかったんですよ。今まで日本人の若い人でクラブ・フィールドでアピールしつつ、ちゃんとジャズやってる人を見たことがなかったから、かなり共感できました。2年前にも自分のイベントで、ピアノソロとトラックものの両方をライヴでやってもらいましたし。柳樂さんも言っていたけど、それって、今考えてみると完全にグラスパーの『Double Booked』なんですよね。

柳樂:SANOさんってバークリーだよね。そういう若い人たちは、各々表現方法は違うけど、グラスパーとかがやってることに近いものがあると思うんですよ。クロスオーヴァーの仕方とか。しかも演奏もうまくて、トラックも作れて、双方の事情もわかってて、混ぜモノになってないっていうか。そういう新しいジャンルの音だと思う。DJ的には、そこが入り口になりやすいのかなって思ったり。SANOさんの新譜もそういう意味でヤバかったしね。

 あと、mabanuaさんがトロイモアの前座をやってたでしょ? エリマージとか、今のアメリカのミュージシャンがちょっとチルウェイブっぽさを取り入れてて、一方トロイモアはバンドになって、ソウルっぽい感じを出してたりして。mabanuaさんって、そういう交わってる部分に入ることができるミュージシャンだと思うんですよね。彼は、ジェシ・ボイキンスVともやってたし。そういう部分もエリマージやクリス・ターナー辺りと繋がるし。日本にそういう人が出てきているのが、僕的にはすごいなって思うんですよ。あの辺の若手の動きは日本らしい。アメリカそのままではなくて、もっと軽やかで、どこにも属さない自由な感じが実に日本的っていうか。


HEX
『HEX』
(2013)

HEX 90年代初頭より日本のクラブシーンを牽引し、ジャズを踊る音楽として日本から世界へ発信してきたDJ 松浦俊夫の新プロジェクト「松浦俊夫 presents HEX」のデビュー作。次世代ソングライター/キーボーディスト 佐野観(KAN SANO)、SOIL&"PIMP"SESSIONSのドラマー みどりん、ジャズ、ラテン、そして映画音楽までを手がけるピアニスト 伊藤志宏と、ミュージシャンから絶大な信頼を誇るベーシスト 小泉P克人が参加。さらにレコーディング・エンジニアにzAkを迎え、六角形(Hexagon)を意味する”HEX”の名のもとに、現在進行形のジャズを東京から世界に向けて発信する。ゲストに、EGO-WRAPPIN'の中納良恵、グレイ・レヴァレンド、エヂ・モッタ。



KAN SANO
『2.0.1.1.』
(2014)

2.0.1.1. HEXのキーボーディスト&共同プロデューサー、またmabanua、Ovallのキーボーディストとしても活躍する他、佐藤竹善、Chara、Twigy、COMA-CHI、TRI4TH、Eric Lau、ゲントウキ、羊毛とおはな、Hanahなどのライブやレコーディングに参加。ピアニスト、トラックメイカー、リミキサーとしても世界中から注目される佐野観の新作。クラブ・カルチャーが根底にありつつも全てのジャンルを取り込み、シームレスに渡り歩き、ひとつのポップス作品として昇華。時代・場所を問わず誰もが聴けるエヴァーグリーンな名盤。ベニー・シングス、Monday 満ちる、Marter、マヤ・ハッチ、長谷川健一らがゲスト・ヴォーカルとして参加。



mabanua
『only the facts』
(2013)

only the facts OvallやGreen Butterとしての活動でも幅を広げる一方、数々のCM音楽や大ヒット・アニメ『坂道のアポロン』への楽曲提供などで活躍する、日本を代表する次世代クリエイター mabanuaが、溢れ出す才能とあくなき探究心で創り上げた2ndアルバム。まるでビートルズもヒップホップも同列に並べ吸収し、その全てを吐き出したようなスタイルで、今までありそうでなかった新感覚ミュージックを創り上げた。ジャンルを超え、全ミュージックラヴァーの愛聴盤となるであろう珠玉の10曲。ジェシー・ボイキンス三世、J・デイヴィ、ニコラス・ライアン・ガント、タヒチ80のフロントマンであるグザヴィエ・ボワイエなど個性派揃いのゲスト陣にも注目。






日本でほとんど浸透しないっていうパターンについては、結局、タテの繋がりばかりを重視して、同時代的なヨコの繋がりをおろそかにしているのも原因じゃないのかなって (小浜文晶)


柳樂:そうだ、大塚さん的に挾間美帆ってどう?

大塚:プレイリストにも入れた『Journey to Journey』。このアルバムがすごくタイプで、新しいジャズをもっと広めたいって思うきっかけにもなったかな。「Tokyo Confidential」とか、ノリもいいしウケますよ。

挾間美帆 柳樂:どういうのと繋ぐの?

大塚:ラージ・アンサンブルのトラッドなものとかにこの曲をバシッとリズムを取って入れると、音質的にはすごく現代的になって、しかもリズムチェンジもできる。そこからハードバップにもいけるし、クロスオーバーなジャズファンクや四つ打ちとかにもいける。

小浜:アルバム『Journey to Journey』自体はどんな印象ですか?

柳樂:ストリングスが目立っているんだけど、使い方が面白くて、いわゆる弦楽っぽくない。あまり聴いたことない感じ。フィリーソウルのそれとも違って、スタイリッシュな疾走感があるんですよね。

大塚:去年の夏にニューヨークで挾間さんとお話したときに、お互い初めて聴いた洋楽はアース・ウィンド&ファイアだったって盛り上がった(笑)。フュージョンからクラブ・ミュージックまで広く理解があって、しかもPerfumeが好きだったり、そういう感覚が最初から彼女の中にあって、楽曲にもしっかり反映されている。他にも、マリア・シュナイダー、ブライアン・ブレイド、ジェイソン・リンドナーのことなんかを話していたんですけど、ベッカ・スティーヴンスのことは特にオススメしてましたね。現地でもすごく人気があるって。

小浜:ベッカ・スティーヴンス、柳樂さんの中でもかなり大きいんですよね?

柳樂:今のニューヨークでは重要な存在だと思います。

大塚:私もすごく好きで、家でも聴くしプレイもするんですけど、若い子、特に女子の反応がすごくいい。これは何かあるなって(笑)。音色とか、リズムとか、フォーキーな感じとか、新鮮で引っかかる要素があるんだと思う。

柳樂:アニマル・コレクティヴのカヴァーもやってるしね。エスペランサもグラスパーも、ベッカ・スティーヴンスのことは特別に思っているみたいで、みんな口を揃えて「ベッカが超ヤバイ」って。

 ネクスト・コレクティヴってあるじゃないですか? ジャマイア・ウィリアムス、クリスチャン・スコット、クリス・バワーズとかがやってるユニット。彼らのアルバムは、USのiTunesストアだとCDより4曲多くて、同時代の人気曲をカヴァーするっていう企画なんだけど、グリズリー・ベアー、ミッシー・エリオット、ステップキッズのカヴァーに混じって、ベッカの曲もカヴァーされてる。あの世代の中では、コンポーザーとしてもかなり特別な存在なんだっていう。USで活動していたミュージシャンに話を訊くと、ベッカのライヴを観に行ったことがあるっていう人がホントに多い。ミュージシャンにとってそういうのは大事で、バッドプラスにインタビューした時、彼らが若かった90年代は、マーク・ターナーやカート・ローゼンウィンケルのライヴを同世代のミュージシャンたちがよく観に行っていたって話してた。そういう同時代のミュージシャンによる評価や影響力っていう意味でも、ベッカはすごいなって。

ベッカ・スティーヴンス 小浜:ベッカ・スティーヴンスの『Weightless』って2011年のリリースだから、ちょっと前ですよね。

柳樂:当時は、バイヤーさんとかで熱心に売ろうとしていた人はいたんだけど、その熱意ほどは売れなかったみたい。

小浜:向こうで評価が高くても日本じゃほとんど浸透しないっていうパターンについては、どんなジャンルでもあることだけど・・・結局、タテの繋がりばかりを重視して、同時代的なヨコの繋がりをおろそかにしているのも原因じゃないのかなって。あるいは、導火線が長くて、途中でシケったり。とにかく、なかなか火が着かないっていう部分でも、やっぱりこういったディスクガイドっていうのは必要なわけですよ。ある種強引なまでに上座にすわらせることによって、そこから火が着くこともあるっていう。

大塚:本当にそうですね。それこそ会話に出てくるだけでも全然違うし、そうするとプレイもしやすいし。

柳樂:DJのプライベート・ミックスみたいなものを入り口にするとか、そういうことで全然変わってくるから。この本でも書いてもらったクワイエットコーナーの山本(勇樹)さんとかはずっとそういうのをやってるんだけどね。何だかんだで山本さんが一番早い。この本で、一つ文脈を出せたというか、作れたのは大きいなと思っていて、あとは、同じ音楽の違う文脈が増えるといいなって思う。そういえば、挾間さんは、ジェイムス・ブレイクとか好きなんでしょ?

大塚:普通に聴いてるって言ってました。

柳樂:ニューヨークのミュージシャンもみんな、ジェイムス・ブレイクとかフライング・ロータスは好きだし。ヨーロッパでも、e.s.t.以降のミュージシャンには多い。そういうのが、DJに炙り出されたりね。

 以前、ピアニストの吉澤はじめさんが言ってたんですけど、「ミュージシャンがDJやっても、曲のコードやリズムの拍とかで繋いじゃったりするから、完成度は高いけど、つまらない。でもDJの人は、直感でそういうのを嗅ぎ取って、意外な楽曲の相違点をプレイで教えてくれたりするし、理論に拠らない接点みたいなものを見つけてくれたりする。そういうところがDJの魅力だ」って。だからそんな風に、DJがグラスパーとかから何かを発見して新しい文脈を作ってくれたら、すごくおもしろいですよね。ニューヨークのミュージシャンたちはそれを望んでいる気もするし。発見されるのを待っているっていうか。    

小浜:プレイだけでなく、「リミックス」にしても同じことが言えそうですよね。実際グラスパーは、『Black Radio』をトラックメイカーたちに再構築させて、そうした”違う文脈”で語られた自らの音楽をサードパーティ的な立場で楽しんでいましたから。そして、スピナやピート・ロックなんかともよくつるんでる。

柳樂:モス・デフ、スピナ、グラスパーは仲いいみたいですよね。そういえば、黒田卓也さんもスピナにリミックスを頼んでいたし。黒田さんはホセに紹介されて、ダブステップのマラと知り合って、彼にインスパイアされた曲を書いたりしているし、意識的ですよね。でも、ヴィジェイ・アイヤーがフライング・ロータスのカヴァーをやってたり、今はミュージシャン側からの、DJやダンスミュージックに対してのアプローチって本当に多い。他にも色々あるんですよ。だから、逆を待っているのかなって感じですかね。


挾間美帆
『Journey To Journey』 (2012)

Journey To Journey 2010年、ジャズ・コンポジションを学ぶためニューヨークに留学。2011年、ASCAP ヤングジャズコンポーザーアワード受賞。同年、オランダのメトロポール・オーケストラのアレンジ・ワークショップに参加。2011年度の文化庁新進芸術家海外研修制度研修員にも選ばれたジャズ作曲家/ピアニスト、挟間美帆。そのデビュー・アルバム。本人のピアノ演奏は2曲のみにとどめ、ニューヨークで研鑽を積んだ「ジャズ作曲家」としての才能にフォーカスを当てた作品。自ら集めた13人のオーケストラによって鮮烈かつ躍動的なサウンドを表現する。レディ・ガガのカヴァー1曲を除き、全曲挾間のオリジナル曲。タイトルチューンを含む2曲では自身がピアノを演奏。



ベッカ・スティーヴンス
『Weightless』
(2011)

Weightless ブラッド・メルドー、テイラー・アイグスティなどとも共演するベッカ・スティーヴンス、大注目のデビュー作。カントリー・テイストも多分に滲んだコンテンポラリーなヴォーカル作品ながら、オリジナル・コンポジションとアレンジのセンスが随所に光る一枚。カヴァー曲の消化の仕方も興味深く、スミスの名曲「There Is a Light That Never Goes Out」は、ヴォーカルの重なりで切なさと危うさを表現。エレクトロなアニマル・コレクティヴ曲「My Girls」は、80年代のパット・メセニー・グループのポップな感じをもイメージさせるヴィジュアライズなヴォーカル曲に。グレッチェン・パーラトも1曲でゲスト参加。これが初リーダー作品なだけに今後もその飛躍が大いに期待される。



黒田卓也
『Rising Son』
(2013)

Rising Son N.Y.を拠点にホセ・ジェイムスのバンド・メンバーとしても活躍している日本人トランペッター、黒田卓也のブルーノート移籍作(日本人として初めてUSブルーノートと契約)。ジャズをベースにヒップホップ、アフロビート、ゴスペル、ファンク、ラテン、ソウルと様々にクロスオーヴァーした、全編盟友ホセのプロデュースによる入魂作。コーリー・キング(tb)、クリス・バウアー(rhodes,synth)、ソロモン・ドーシー(b)、ネイト・スミス(ds,per)といったバンドメイトたちも主役のメジャーデビューを祝すかのように、息の合ったタイトな演奏でバックアップ。ロイ・エアーズ「Everybody Loves The Sunshine」カヴァーにはホセがヴォーカル参加。







挟間美帆〜クローディア・クインテット〜ヴィジェイ・アイヤー・トリオっていう流れには、リズムの感覚の共通点はあるかも (柳樂光隆)


柳樂:大塚さん、クローディア・クインテットとかも選んでるね。確かに挾間美帆とはつながるサウンドだよね。

小浜:ストレンジ・オーケストラ系というか。

柳樂:ミニマル・ミュージック的な感覚っていうか。挟間美帆〜クローディア・クインテット〜ヴィジェイ・アイヤー・トリオっていう流れには、リズムの感覚の共通点はあるかも。質感もタイト&クールだし。きれいに繋がるっていうか、その間にパット・メセニーのスティーブ・ライヒ作品集を混ぜたり、挟んだりしてもいいかもしれないとか。だったら、ヘンリク・シュワルツを挟めるかもしれないとか。

大塚:ファンクとは違う反復のビートみたいな。ジャズDJによるミニマル・テクノ(フィーリング)・ミックスみたいな方向ってことですよね? おもしろそう。

柳樂:ニック・ベルチュがローニンで、現代音楽のミニマリズムと、ファンクとかのミニマリズムの並列みたいな音楽をやっているじゃないですか。あれを間に挟んで、違うミニマリズムが途中でクロスするとかね、そういうの想像しても楽しくなる。前半はめっちゃクールなんだけど、後半はファットでアクが強くなるってのもいいかも。

小浜:アメリカから日本を経由してドイツへ、みたいな流れで捉えてもおもしろいですね。

柳樂:最後にアフリカ行ってもいいかなとか。ライヒもアフリカものあったよね。クリス・デイヴのアフロビートもあるし。こうやって色々話してると、使えそうなネタは沢山ある気がしますね。

大塚:単純に踊れるっていうよりは、知的好奇心みたいなものも刺激してくれて、いろんな場所へ連れて行ってくれるようなミックスって考えると楽しそう。

柳樂:Shhhhhさんとかコンピューマさんがやっているような表現も面白いなって。大塚さんもオーネット・コールマンとかアーサー・ブライスとかかけてるし、楽勝じゃない?

小浜:洋邦問わず、ゴリゴリのフリージャズからディープファンク、エレクトロまでイケるし。

デリック・ホッジ 大塚:バランスは気を付けないといけないんですけど、色々かけちゃいますね。

柳樂:デリック・ホッジはどんな感じでかけるの?

大塚:彩りを出すときにかけるかな。叙情的な雰囲気を出せるし、いい感じで揺らぎとかグルーヴがあるから、違和感なく後ろノリのリズム感で前後キープしながら引っ張っていける。

柳樂:チルアウト、アンビエントっぽいよね。

小浜:そのデリック・ホッジの『Live Today』。前評判と全然違って、もっと黒くてパキッとしたものになるのかと思っていたから、届いた音を聴いて結構ビックリしました。

柳樂:ディレイとかかけてないのに、全体に揺らぎがあるんですよね。デリックは、クラシックの作・編曲もやっていて、さらに映画音楽も作っている。最近の人達は音大で勉強しているからなのか、映画音楽に携わっているケースが多いんですよね。食っていくためっていうのもあるんだろうけど。だから映像的な曲作りも学んできてるのか、総じて上手いですよね。そういえばマーク・キャリーはどんな感じ? デリック・ホッジが喜んでたんでしょ?

大塚:デリックとは1月の来日で一緒だったんだけど、ブルーノート東京の前座でDJしたときにマーク・キャリーをかけてたら、バンドメンバーみんな喜んでて。「マーク・キャリーだろ? 最高だよな」って。

小浜:たぶん、ニューヨークではかなりのプロップスを得てるんでしょうね。日本では考えられないぐらいの。

柳樂:そもそもゴーゴーのシーンから出てきたんでしょ?

小浜:マーク・キャリーは、なぜここまで表に出て来なかったんだろうって。やっていることというか、志は、グラスパーなんかとほぼ同じだと思うんですけど。

柳樂:ちょっと早すぎた部分もあるんじゃないかなって。『Rhodes Ahead』っていうアルバムではディープハウスをやっていて、しかもジョー・クラウゼルと一緒にやったり、ハウスのレーベルから音源を出したり。普通のジャズ・ファンが付いていけないのは当然なんだけど(笑)、ただやっぱり、ジョー・クラウゼルとQティップ、両方とやってるっていうのはヤバイ。

マーク・キャリー 大塚:2006年の『Abstrakt/Blak』は特に使える。2曲目の「Blak is Back」なんか、エレピとビートの跳ねてる感じとかすごくかっこいい。だからヒップホップの流れでもかけれるし、ドラムが打ってる感じのマイナーなジャズとも合うんですよ。ストラタイーストのチャーリー・ラウズとかと一緒にかけちゃいますね。

柳樂:エレクトリック・マイルスっぽいし。切り口は多そうですよね。一番新しいアルバムはラーガっぽい感じもある。ディープハウスとか、トライバル系のサウンドと合いそう。

小浜:ホントに才能有る人だと思うんだけど、ゆえに万人には受けにくいというか・・・アイデアに溢れているから聴き手がよく理解できないまま翻弄されちゃう感じもする(笑)。乱暴だけど、いっそのことブルーノートが契約しちゃえばいいのにって思いますけどね。うまくコーディネイトしてくれそうな意味でも、すごく今のブルーノート向きだと思う。

 柳樂さん、この辺のミュージシャンのインタビュー色々いってますけど、インディーロックやポストロック系の話なんかも出てきます?

柳樂:レディオヘッドがダントツだけど、フリート・フォクシーズとか、ボン・イヴェールの話が出てきたりしますよ。あと、みんなグリズリー・ベアが好き。こう書いてると普通のインディーキッズって感じですね。

小浜:それって単純に世代だったり?

柳樂:黒田さんが言うには、YouTubeを見せ合って、楽屋とかで情報交換したり、その辺の事情に詳しいヤツから話しを聞いて、そこで気に入ったものをブックマークしておいたり、それだけでかなり詳しくなれる感じだって。

小浜:情報交換は、60〜70年代とかにもあったことだと思うけど、どこか違いますよね。

柳樂:そうですね。それをアウトプットしたいっていうのが見えるのも特徴だし、今はビジネス的な受け皿があって、さらにインターネット上に受け皿があるのもやっぱり大きいみたい。色々と変わったことをやる中で、それを認めてくれる人が世界のどこかに一定数いるんだっていうことが見えているのは、やっぱり大きいかなって。


クローディア・クインテット
『September』
(2013)

September アヴァンギャルド界隈で活躍するジョン・ホレンバック(ds)を中心に、ドリュー・グレス(b)、クリス・スピード(ts,cl)ら鬼才を擁するクローディア・クインテットの通算7作目。ジャズの即興性を、現代音楽、ミニマルビート、ナレーション/ヴォイスなどとの配合の中で新しいオーケストレーションとして昇華。哀愁のアコーディオン、クールなヴァイブラフォンを生かしたその緻密なサウンドは、唯一無二のプログレッシヴな世界を創り出しながら、いずれも美しさとたおやかさを持って展開する。ミニマル、チェンバー・ミュージック、ストレンジ・ビッグバンド好きにもオススメ。





デリック・ホッジ
『Live Today』
(2013)

Live Today ロバート・グラスパー・エクスペリメント、ケンドリック・スコット・オラクル、テレンス・ブランチャード・グループでの活動やマックスウェルのミュージック・ディレクターとしてもおなじみ、ジャズの新世紀をリアルにパフォームするジャンル・ブレンディング・アンカーにして非凡な才持つベーシスト/コンポーザー、デリック・ホッジ。ブルーノートから届けられたリーダー・デビューアルバム。表題トラックでは、コモンがカンヴァセーショナルなライムをデリヴァリー。その諸作品に参加してきたデリックにとって、コモンこそが自らの初陣を切るにこれ以上なく相応しいナフ・リスペクトMCだったということ。ジャズ、R&B、ヒップホップ、SSW、クラシック、映画音楽・・・多方面に亘る楽曲制作と数多くのアーティストのパフォーマンスを下支えしてきたデリックの現在とルーツと野心が、リアルなスナップショットとしてここにハッキリと映し出された。


マーク・キャリー
『Four Directions』
(2013)

Four Directions ロバート・グラスパーも多大なるリスペクトをおくる、90年代半ばからブラック・ミュージック/コミュニティの結束力を見せつけてきたニューヨークのポストバップ・ピアニスト/コンポーザー、マーク・キャリー。自身の「Focus Trio」名義による最新ピアノトリオ作品。新ベーシストに、ラサーン・カーターを迎え、さらにゲスト・ベーシストとして、グレッチェン・パーラトやジャッキー・テラソン・グループなどでの活動でもおなじみのバーニス・トラヴィスが参加。ヒップホップ・フィーリングのみにとどまらず、エレクトロニカ、アンビエント、ラーガなど様々なエレメンツが練り込まれたサウンドは、まさにジャズの最前線におけるその可能性を探っているかのようだ。








たまにどこかで「新しいジャズのセットです」みたいな感じでイベントやってくれるといいなって (柳樂光隆)


大塚:ケニー・ギャレットなんかはどうですか? 昔と今を繋いでる感じしますよね。リストにも挙げたけど、ケニー・ギャレットがファラオ・サンダースとやっているアルバム。そんなにDJの間では話題になってなかったんだけど、ビートもおもしろいし、フロア栄えすると思う。これ、ドラムがジャマイア・ウィリアムス。

ケニー・ギャレット 柳樂:この曲はケニー・ギャレットがいた頃の80年代マイルスっぽいんだよね。アルバム全体でファラオがガツガツ吹いてて、スピリチュアル・ジャズって感じでカッコいいんだけど、この曲だけ変(笑)。

大塚:このアルバムだったら、DJとしては、「JAZZ NEXT STANDARD」の感じから、「Jazz The New Chapter」まで繋がってくると思うんです。でも、ケニー・ギャレットまでは認知されていないのかもしれない。

小浜:ケニー・ギャレットってやや軽視されている感じはありますよね。

柳樂:めちゃくちゃ凄いんだけど、凄すぎて(笑)。この人、意識高いんで、ジャズマタズとかともやってるしね。

小浜:Qティップやミシェル・ンデゲオチェロともやってましたし。マイルス目線で見ると若干味が薄くなるけど、実際は凄く濃い人ですよね。

大塚:最近のマック・アヴェニューからのアルバムもちゃんとアナログで出てますしね。何でもっと話題にならなかったんだろう? 数年前にスピリチュアル・ジャズにハマっていたDJとかは、ここから関連人脈をチェックしたら分かりやすくておもしろいんじゃないかなって。

柳樂:今のシーンから遡った方が断然おもしろい。クリス・デイヴ、ジャマイア・ウィリアムス、ブライアン・ブレイドをフックアップしてるのも大事だけど、出自の最初はマルグリュー・ミラーやアート・ブレイキーとやっていて、しかもマイルス・バンドに在籍。パット・メセニーともやれば、ラテンやアジア系の民族音楽だってやる。つまり、どこからでもいける。


ケニー・ギャレット
『Sketches Of MD: Live At The Iridium』
(2008)

Sketches Of MD: Live At The Iridium ケニー・ギャレットが、ナット・リーヴス(b)、ジャマイア・ウィリアムス(ds)、ベニート・ゴンザレス(p,key.synth)を引き連れて行なったニューヨークのイリディウム・ジャズ・クラブでのライヴ盤。カルテットに加え、ファラオ・サンダースをゲストに迎えた注目のパフォーマンス。ミンガスの「Goodbye Porkpie Hat」を想わせるオープナー「The Ring」、アフロ・ゴスペルな「Intro To Africa」、マイルスへの想いを馳せた「Sketches Of MD」、『Triology』収録の「Wayne's Thang」、おなじく自作『Happy People』の表題曲など新旧のナンバーで構成。ファラオとの白熱のプレイをこれでもかと堪能できる。



ケニー・ギャレット
『Pushing The World Away』
(2013)

Pushing The World Away 揺るぎなき存在感を放つケニー・ギャレットの2013年Mack Avenue第3弾。50歳を越え、ギャレットには2つの大きなテーマが見えた。一つは、自身にとってのヒーロー、尊敬するミュージシャンへのトリビュート。もう一方は、数々の才能溢れるミュージシャンの抜擢と未来の開拓および、その創造。本作では現在の核となる活動メンバーの他にも優れたミュージシャンをフィーチャー。2人のピアニストと3人のドラマーを起用し、見事その思いを結実させている。レギュラー的なメンバーで作品を創ってきた過去とは異なり、新旧メンバーが入り交っての鎬の削リ合いは何ともエネルギッシュで迫力がある。ギャレット、またジャズ史にとっての偉大なるマイルストーンとなるべき一枚。



ミシェル・ンデゲオチェロ
『Dance of the Infidel』
(2006)

Dance of the Infidel ケニー・ギャレット参加作品から。比類なき才能を持った女性ブラック・マルチ・クリエーター、ミシェル・ンデゲオチェロ 念願のジャズ・プロジェクト・アルバム。カサンドラ・ウィルソン、レイラ・ハサウェイ、ウォレス・ルーニー、ケニー・ギャレット、オリヴァー・レイク、ロン・ブレイク、オラン・コルトレーン、ドン・バイロン、マイケル・ケイン、ニール・エヴァンス、ブランドン・ロス、ジャック・ディジョネット、ジーン・レイク、ミノ・シネルなどなど、彼女の呼び掛けにより総勢25名のジャズ・ミュージシャンが集結。ヒップホップ、R&B、クラブ・ミュージックを消化した「21世紀のスピリチュアル・ジャズ」作品。ギャレットは、「Al-Falaq 113」、「Papillon」、「Dance of the Infidel」の3曲に参加している。







小浜:アル・グリーンの『Lay It Down』もそうなんですけど、2000年代以降の新しいブルーノートってDJでよくかけるんですか?

大塚:イイと思ったものはかなりかけますね。よく聴き込んでいると実はおもしろい曲って結構あって。でも、2000年代当時って旧譜を追うのに一生懸命で、新譜に目がいかなかったのは事実。これって今思うとすごくこの当時のひとつの象徴だったというか、周りにも「新譜のジャズってワケわかんないし、デザインもダサめだし・・・」っていう人が多かった(笑)。カッコいいDJが紹介している旧譜の方が探し甲斐があるっていう文化になっていた気がする。

小浜:ソウライヴなんかが盛り上がったのも、いわゆるレアグルーヴ的な旧譜からの流れでって側面もありましたよね・・・ 90年代のグレッグ・オズビー、ドン・バイロンなんかのブルーノート作品もこの流れに沿って聴いてる人結構いたかも。ドン・バイロンの『Nu Blaxploitation』とか。あの人も才人だと思いますけど。

柳樂:アメリカのユダヤ文脈を掘り起こしているみたいな。インテリすぎて盛り上がれなかった(笑)。ヒップホップにも手を出してましたね。メデスキ、マーティン&ウッドなんかも、DJカルチャーとは遠いですよね。DJロジックがそもそも距離あるしね。小浜さん、新しいブルーノートに関してはどうなんですか?

小浜:個人的には、ロック〜S.S.W.方面のアーティストの”取り込み”も実は気になっていて。ドクター・ジョン、エイモス・リー、最近だと、復帰したヴァン・モリソン、アーロン・ネヴィル、ベンモント・テンチ、ロバート・ランドルフとか。そういえば、ガバメント・ミュールもブルーノートと契約したみたいで。サウンドは基本ルーツロック〜サザンロック系なんだけど、要所でダブやレゲエの要素も取り入れている、実にドン・ウォズ好みの連中。ノラ・ジョーンズも、ジョニー・キャッシュ、ザ・バンド、ニール・ヤングのカヴァーソングを中心にしたガールズ・バンドでアルバムを出すみたいだし。

 ジョニー・キャッシュの娘のロザンヌ・キャッシュや、ちょっと前のプリシラ・アーン、バード・アンド・ザ・ビーなんかのフォーキーな路線もそうですけど、2000年代に入ってからのブルーノートは、広義のソウル・ミュージックを抱き込んでコレクトすることに意味を持たせているというか。そういう物の考え方って、実は日本でいうところの“フリーソウル的”な感覚に結構近い気もしていて。セグメントやジャンルのバリアフリー度合いで言うと。もちろんDJ的な部分では扱いづらい楽曲ばかりだと思うし、「Jazz The New Chapter」的にもまったくの余談になってしまうのかもしれませんけど(笑)。ただ、コステロ&ルーツのアルバムは、今回のテーマに最も近いものになっていた。

柳樂:クエストラヴ絡みのソウル系ですよね。他にもアニタ・ベイカーとか。DJ的には、この辺がきっかけになりそう。グラスパーもリミックス盤ではクエストラヴがリミックスしていたり。デリック・ホッジのアルバムでは実際にジェイムス・ポイザーが演奏しているし。

大塚:ソウルクエリアンズ。コモン、ディアンジェロ、この辺は昔からDJ的にマストですしね。デリック・ホッジのライヴの楽屋でも、「コモンは毎回かけてたな」って話になった。デリックにしても、マーク・コーレンバーグ、キーヨン・ハロルドにしてもみんな「俺らはコモンから影響を受けてるし、とてつもなくリスペクトしてる」って言ってました。

小浜:ポイザーは、このシーンのキーマンですよね。

ホセ・ジェイムズ 柳樂:デリックはポイザーに影響を受けた話をしていたし。そこにビラルやJ・ディラがいたっていうのが何より大きい。ネオソウルって、クラブジャズの人が取り上げていたじゃないですか? 普通にホセ・ジェイムズはそっちの人なわけだから。ホセは、ニコラ・コンテやティモ・ラッシーのほかにも、オーノー、ムーディマン、MITSU THE BEATSともやってる。ムーディマンの新しいアルバム『Moodymann』には、ホセとビラルが参加していて、さらに、さっき話したニコラ・コンテの新しいアルバムにも参加している。

小浜:そうなると、アンプ・フィドラーやアンドレス(DJデズ)なんかとも繋がってくる。

柳樂:ホセから広がる現代ジャズの地平。ちなみに、ホセのファーストでは、ストラタイーストからもアルバムを出してるビル・リー(スパイク・リーの父親)の曲をやっていたり。そう考えると、ホセは日本のクラブジャズっぽい流れを汲んでますよね。フレディ・ハバードの「レッドクレイ」をサンプリングしたフリースタイル・フェローシップのカヴァーをやっていたり。そうだ、ニコラのひとつ前のアルバムにはグレゴリー・ポーターも入っていた。

小浜:グレゴリー・ポーターは、ホセとはまた違ったスタイルで。クラブジャズの文脈には短絡的に結び付かないけど、ネオソウル〜ヒップホップとの距離の近さを個人的にはすごく感じさせるかなと。

グレゴリー・ポーター  去年、新宿のブルックリン・パーラーにグレゴリーが出たとき、ジェフ・ブラウンがホストDJをしていて、いわゆるニューヨーク・アンセム系のヒップホップ、R&Bクラシックをガンガンかけていた。登場するときはたしかメアリーJの「MJB DA MVP」で。NEW ERAキャップを被っているホセより、グレゴリーの方がそういうムードとものすごく相性がよくて、深く調和している印象を受けたんですよ。しかも、さっき話しに出た2000年代ブルーノートのアル・グリーン×ジェイムス・ポイザー的な匂いもさせるという。

柳樂:グレゴリー・ポーターは、スピリチュアル・ジャズと、オーガニックなジャジーソウルの中間っていう感じで。DJ的には、ホセとグレゴリー、どちらも使いやすそう。そういうのが使われてるミックスとか、現場があると面白いなって。

大塚:この辺は現場感ありますね。グレゴリーはファンク、ソウル系DJもかけてるし、ダンサーも踊りますよ。ホセはそれこそ、ジャイルスやMITSU THE BEATSさんの流れで以前からかかってますし。

柳樂:エスペランサもジャネル・モネイとかとやってるし。ブルーノマーズとかね。そういうところを使ってみるDJがいたらなって思う。ジャズと色々なジャンルの”挟間”にあるものって、ちょっとタイプは違うけど、デトロイト・エクスペリメントとか、インナーゾーン・オーケストラとかがあったじゃないですか?

大塚:インナーゾーン、今もよくかけますね。

柳樂:トーキンラウド的な方向に行くのか、ビートダウン的な方向に行くのかみたいな。最近だとテラス・マーティンとかもDJ的には面白いんじゃないかな、L.A.はやっぱり。

大塚:L.A.といえば、ビルド・アン・アークとかのスピリチュアル・ジャズ・リバイバルって落ち着いた感じがあるかも。カール・クレイグとトライブ・レーベルの繋がりとか。「デトロイト人脈でやりました」っていうのは一段落して、一部はもうクラシックになってる。最近DJ界隈で話題だったのはデクスター・ストーリーかな。アナログ買い逃したって騒いでるDJ 結構いましたね。でもこれ、ある企画のとき、いーぐるでかけたら「もろアースだな」って言われちゃって(笑)。


ホセ・ジェイムズ
『While You Were Sleeping』 (2014)

While You Were Sleeping ブルーノート移籍第1弾アルバム『No Beginning No End』で各方面から絶大なる支持を得たホセ・ジェイムズ。ブルーノートの75周年というメモリアルイヤーに通算4作目となる新作をリリースする。プロデュースはホセとブライアン・ベンダー。ギターを加えた新たなバンド編成で、オルタナティヴなロックとエレクトロを、ジャズやR&Bソウルとミックスした新境地サウンドが詰め込まれている。昨年逝去したルー・リードに捧げたヴェルヴェッツ「Who Loves The Sun」のカヴァーはかなり新味。また、ベッカ・スティーヴンスのゲスト参加にも注目。国内盤ボーナストラックには椎名林檎をフィーチャーした「明日の人」を収録。



グレゴリー・ポーター
『Liquid Spirit』
(2013)

Liquid Spirit 第56回グラミー賞「ベスト・ジャズ・ヴォーカル・アルバム」を受賞。ホセ・ジェイムズと並び、現在進行形の男性ヴォーカル界を牽引する旬の男性シンガー、グレゴリー・ポーター。社長ドン・ウォズを骨抜きにしたソウルフルなバリトン・ヴォイスがみたび震える。満を持してリリースされたこのブルーノート初アルバムでも、グレゴリーのシンガー、ソングライター、そしてパフォーマーとしての力量が十分に発揮されている内容となった。福音を招くかのような、軽快なハンドクラップが高揚したアンサンブルの輪郭を形作るタイトル曲をはじめ、他に類をみない抜群のソウルがはじける。また、グレゴリーのクリエイティヴィティにはいつだって鋭い洞察と、それに対する真摯なメッセージが込められているのだ。


テイラー・マクファーリン
『Early Riser』
(2014)

Early Riser 名曲「Don't Worry, Be Happy」で知られるジャズ界のレジェンド、ボビー・マクファーリン(本作にも参加)を父にもち、ホセ・ジェイムズやロバート・グラスパーら新生ブルーノート勢との共演でその名を馳せてきたシンガー/ビートボクサー/マルチ・プレイヤー、テイラー・マクファーリンの1stアルバム。60〜70年代のソウル、現代のビート・ミュージック、黄金時代のヒップホップ、エレクトロニックの影響が響き渡る本作は、新たなフェーズへと突入しはじめたジャズ本来の姿をさらにモダナイズ。マーカス・ギルモア(ds)、サンダーキャット(b)というジャズ〜クラブミュージックを忙しなく往復するリズム陣に加え、ロバート・グラスパー、エミリー・キング、セザル・カマルゴ・マリアーノ、ナイ・パーム(ハイエイタス・カイヨーテ)、ライアットといった個性豊かで豪華極まりないゲスト勢が参加。






小浜:ブレインフィーダーやラスGなんかは?

柳樂:ラスGのDJは、ホントに凄かった。「リー・ペリー meets サン・ラ」みたいなキャッチコピーであるじゃないですか。まさにそんな感じ。その二つを組み合わせて、ビートを超ぶっとくして、大音量にして、めっちゃエフェクトかけましたみたいな(笑)。

小浜:ジャイアン・リサイタル(笑)。

柳樂:かっこいいジャイアン・リサイタル、最高だった。DJであんなに感動したことないかも。L.A.のその辺って、包容力があるっていうか。色々なものがあるから、それをどう感じ取れるかっていうところで、新しいものとの接点が出るのかなって期待してたり。オースティン・ペラルタが亡くなる直前にEP出して、サン・ラを使ってどうにかしようとしてたけど、サン・ラつながりで言うと、以前キンドレッドにセオ・パリッシュやマッドリブが参加したサン・ラのトリビュート盤もあったり。

大塚:キンドレッドはDJ支持高いから、一気に広がる感じがする。

柳樂:グラスパーのバンドのケイシー・ベンジャミンも、ヘヴィってユニットでキンドレッドやBBEからリリースもあるし。そういう意味では、テクノやヒップホップや、クラブジャズ的なものとも繋がる入り口は沢山ありますよね。シンセ、ローズ、プロフェットとかを使っているから、80年代っぽい音とかにも合うだろうし。

小浜:今は、意図的に80年代っぽさを出すのがアリだし。そういうサウンドやビートも多い。それこそブギーだったり。

テイラー・マクファーリン 大塚:アリですね。一気に現場っぽい。

柳樂:デイム・ファンク的なね。そういうので、ビラルとかもエレクトリックでサイケデリックな感じっていうか。

小浜:ニューウェイヴ・テイストもあって。ティオンベ・ロックハート絡みのものとか。

柳樂:DJ的には使えるチャンネルがかなりあると思う。最近、テイラー・マクファーリンっていうジャイルスも絶賛していたビートメイカー/ヒューマンビートボクサーがブレインフィーダーからアルバムを出したんですけど、それにはグラスパーやサンダーキャットが参加しているんですよ。

 完全にブレインフィーダーのテクスチャーなんだけど、ドラムがヴィジェイ・アイヤー・トリオのマーカス・ギルモアで、今のニューヨークのジャズの雰囲気もガッツリ入っている。オースティン・ペラルタやサンダーキャット以上に、ジャズとビート・ミュージックを同じセットでプレイしやすくなる、そのきっかけになるかもしれないって個人的には期待しているんですよね。

 実際、先日の「LOW END THEORY」(ダディ・ケヴが立ち上げたL.A.の大規模クラブ・イベント)で、DJがテイラーの音源をプレイしていたらしいし、その日は『Black Radio』なんかも自然にプレイされてたらしいんですよ。そういうのが今後、日本でも増えたらいいですよね。たまにどこかで「新しいジャズのセットです」みたいな感じでイベントやってくれるといいなって。

大塚:分かりやすくね。ミックスCDとかで音を聴ける機会もしっかり作りつつ。

柳樂:結局、DJの人たちが「使える」って思わないとダメなんで、そういうのを実践してもらえたら、この本を書いた“甲斐”があるかなって。


ということで・・・



5/27 新宿ブルックリンパーラーで、
DJ大塚広子×Jazz The New Chapter DJセット企画決定!

重版された「Jazz The New Chapter」、および関連CDの販売とあわせて、DJ大塚広子が最新系ジャズの音を紹介します。

5/27(火) 19:30〜22:00
新宿 Brooklyn Parlor
DJ:大塚広子
Charge:free


大塚広子 その他の出演スケジュール

5月26日(月) 20:00〜 大阪ラジオFM802(80.2MHz)「Beat EXPO」にて関連作のDJ MIX放送決定!
6月7日(土) クリス・デイヴ来日 ビルボードライブ大阪公演にて大塚広子DJ出演決定!
 
  柳樂光隆 プロフィール
(なぎら みつたか)

1979年生まれ。東京都在住、島根県出雲市出身。音楽ライター/ジャズ評論家。元珍屋レコード店長。ジャズ専門誌、音楽誌を中心に、主にジャズ、もしくはジャズっぽいものについて寄稿。最近では、シャイ・マエストロ、クリス・バワーズ、エリマージ、テイラー・マクファーリンのライナーノーツを手がけている。監修・著書に『JAZZ The New Chapter ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平』 (シンコーミュージック刊)がある。



  大塚広子 プロフィール
(おおつか ひろこ)

2004年以降、ワン&オンリーな"JAZZのグルーヴ"を起こすDJとして年間160回以上のDJ経験を積んできた。徹底したアナログ・レコードの音源追求から生まれる説得力、繊細かつ大胆なプレイで多くの音楽好きを唸らせている。 渋谷の老舗クラブTheRoomにて13年目に突入した人気イベント「CHAMP」など日本中のパーティーに出演。また音楽評論家やミュージシャンを巻き込んだライブハウスやジャズ喫茶でのイベント・プロデュースなど、世代やジャンルの垣根を越えたその柔軟なセンスで音楽の様々な楽しみ方を提示している。
日本のジャズ・レーベルである、「トリオ」(ART UNION)、「somethin'else」(EMI MusicJapan)、「DIW」(DISK UNION)、「VENUS」(Venus Record)のMIXCDと、スウェーデン・ジャズを中心とした、スパイス・オブ・ライフ・レーベルのコンパイル作品「Music For Reading」(ディスクユニオン)を発売。過去リリースCDの売上数は延べ1万枚を超える。
2010年、スペインでのDJ招聘、「FUJI ROCK FESTIVAL2010」の出場。2012年、老舗ライヴハウス新宿PIT INNのDJ導入を提案し、菊地成孔と共演(TBSラジオ出演)。BLUE NOTE TOKYOにて日野皓正らとの共演。総動員数3万人に及ぶアジア最大級のジャズ・フェスティバル「東京ジャズ2012」にDJとして初の出演。2013年、ニューヨークでののDJ招聘等。
「JAZZ JAPAN」等の雑誌でのアーティストインタビュー、レビュー執筆の他、web連載、ディスク・ガイドブックやCDライナー執筆など音楽ライターしても活躍中。




橋本徹の『Free Soul〜2010s Urban-Mellow Supreme』座談会 
2010年代のアーバン・メロウ・ソウル、ジャズ、フォーキー、アンビエントR&Bの至高の名作を収録した『Free Soul〜2010s Urban-Mellow Supreme』の発売を記念した特別座談会が実現!


柳樂光隆の「インディペンデント・ブラック・ジャズ・オブ・アメリカ」書評 
世界最高峰の黒いジャズ・カタログ「インディペンデント・ブラック・ジャズ・オブ・アメリカ」。著書「Jazz The New Chapter」が話題の音楽ライター 柳樂光隆氏がこのドス黒き書典をご紹介します。


【インタビュー】 ロバート・グラスパー 
前作以上の豪華ゲスト陣が参加したロバート・グラスパー・エクスペリメント新作『ブラック・レディオ 2』。そのリリースを前に、来日公演を行なったグラスパーにお話を伺ってきました!


【インタビュー】 グレゴリー・ポーター  
2013年No.1男性ジャズ・ヴォーカル・アルバムに、グレゴリー・ポーター『リキッド・スピリット』を挙げる方も多いのではないでしょうか? かくゆう私も1票です♪ グレゴリー・ポーター・インタビューをどうぞ!


【インタビュー】 黒田卓也  
新生BN75周年アニバーサリーイヤーの口火をきって、ホセ・ジェイムズ・バンドの一員でもある気鋭・日本人トランペッター黒田卓也のUSブルーノート・デビュー作がいよいよ登場! 黒田さんにたっぷりとお話しを伺ってみました。