「ベルリン・フィル・ラウンジ」第72号:ラトルが2018年までの現契約満了で、首席指揮者を勇退
2013年1月24日 (木)
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ベルリン・フィル関係ニュース
サー・サイモン・ラトルが2018年までの現契約満了で、首席指揮者を勇退サー・サイモン・ラトルが、ベルリン・フィルとの現首席指揮者契約(2018年夏まで)の満了とともに、同ポストを勇退することを発表しました。これは1月中旬に行なわれたオーケストラ総会で明らかにされたもので、ラトルは以下のようにコメントしています: 「2018年に、私は16年間ベルリン・フィルの首席指揮者を務めたことになります。その前には、18年間バーミンガム市響の首席指揮者でした。2018年の時点で、私は64歳になります。ビートルズは「Will you still need me, when I’m 64?(僕が64歳になっても、まだ必要としてくれるかい?)」と歌いましたが、リヴァプール生まれの者として、私にはこの問いは必然でした。2018年には、私以外の誰かが、ベルリン・フィルという素晴らしいチャレンジを受けて立つべきだと思います。この決断をすることは、容易いことではありませんでした。ベルリン・フィルを愛しているからです。しかしまさにそれゆえに、彼らに早い時期に、この決断を言わなければならないと考えたのです。私は、(5年前に発表することによって、オーケストラが将来の計画を立てる上で)十分な時間的余裕を持てることを願っています。同時に、今後5年、また任期満了後に、さらに巣晴らしい演奏会を行えることを楽しみにしています。そして、これまでに共にしてきたベルリン・フィルとの年月に、心からの感謝を捧げたいと思います」 オーケストラ代表ペーター・リーゲルバウアー、シュテファン・ドールのコメント: 「我々にとって、サイモン・ラトルの決断は、非常に残念なものです。同時に、彼の意向を尊重したいと思います。我々の関係は、お互いへの心からの好意と、敬意に満ちた芸術的、人間的なふれあいに満ちたものです。これは、今後5年の関係の基盤となるでしょう。我々は、すでに計画が進んでいる今後のプロジェクトを、楽しみにしています。我々の関係は、2018年以降も友好的で、親しいものであり続けるでしょう」 財団法人ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団インテンダント、マルティン・ホフマンのコメント: 「財団法人ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団とベルリン市は、サー・サイモン・ラトルの決断を残念に思います。彼がこの決定を下したことは、非常に立派なことです。ラトルの優れた音楽性と創造性は、日毎に人々を我々のオーケストラに惹きつけ、我々をベルリンの文化使節として印象づけました。私は今後ともラトルとの活動が、オーケストラと財団法人に寄与するものと確信しています」 プレス・リリースの全文(英語) 室内楽ホール25周年プロモーション・ビデオ「オリジナルを体験しよう!」すでにこのページでもお伝えしたように、フィルハーモニーの室内楽ホールは、2012年に創立25周年を迎えました。これを記念して、ベルリン・フィルでは、様々なプロモーション活動を実施。そのひとつとして、ベルリン・フィル団員が出演するビデオが制作されています。 内容は、ベルリン・フィル団員が、ベルリン市内の様々な場所で室内楽を演奏する、というもの。それはベルリン中央駅のエレベーター、街中の古ぼけた証明写真撮影ボックス、図書館の一角といった場所ですが、演奏が終わると、最後に「オリジナルを体験しよう!」という一言が入ります。ここで共通するのは、演奏される場所が小さな空間であるということ。ドイツ語では、室内楽とは「小部屋の音楽Kammermusik」(直接の語義)となりますが、「ベルリンの様々な場所もよいが、オリジナルの室内楽ホールKammermusiksaalでベルリン・フィルの室内楽を体験してください」というメッセージになっているわけです。 ベルリン・フィルの団員たちが、ユーモアたっぷりに演奏する姿を、ぜひご覧ください。ビデオは、これから数週間にわたってアップされる予定です。 「オリジナルを体験しよう!」のビデオ集
最新のDCHアーカイブ映像
シャイーの12年ぶりのベルリン・フィル定期は、メンデルスゾーンとブルックナー2013年1月11日 【演奏曲目】 メンデルスゾーン:交響曲第4番《イタリア》 ブルックナー:交響曲第6番 指揮:リッカルド・シャイー ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管の首席指揮者リッカルド・シャイーが、ベルリン・フィルの指揮台にカムバックしました。彼は、前回2001年に定期演奏会に出演していますが、2011年夏のヴァルトビューネ・コンサートに続き、当プログラムでフィルハーモニーに再登場しています。曲目は正攻法なもので、メンデルスゾーンの《イタリア》に、ブルックナーの「第6」。この曲目で、ヨーロッパ・ツアーも行っています。 この演奏会をDCHで聴く! ペライアが指揮者として登場!モーツァルトとシューベルトの夕べ2013年1月18日 【演奏曲目】 モーツァルト:ピアノ協奏曲第27番 シューベルト:グラン・デュオ(ヨアヒム編曲) 指揮・ピアノ:マレイ・ペライア マレイ・ペライアは、昨年ベルリン・フィルのピアニスト・イン・レジデンスを務めていますが、今回の演奏会では、指揮者としても活躍しています。シューベルトの4手のための「グラン・デュオ」(ヨーゼフ・ヨアヒム編曲)という、ピアノに関連した作品でのチャレンジです。一方、コンチェルトは、モーツァルトの最後のピアノ協奏曲。円熟したペライアの演奏に魅せられます。 この演奏会をDCHで聴く! レイト・ナイト第3回は、ハースの《イン・ヴェイン》!2013年1月18日 【演奏曲目】 ハース:《イン・ヴェイン》 ベルリン・フィル・オーケストラ・アカデミー団員 指揮:サー・サイモン・ラトル レイト・ナイト・シリーズ第3回では、ゲオルフ・フリードリヒ・ハースの《イン・ヴェイン》が取り上げられました。ハースは、1953年グラーツ生まれのオーストリアの作曲家。この作品では、微分音を駆使し、平均律で構成される12音のオクターブから離脱する音響世界を作り上げています。 この演奏会をDCHで聴く!
これからのDCH演奏会
ラングレが、オール・モーツァルト・プロでベルリン・フィルにデビュー!日本時間2013年1月26日(土)午前4時 【演奏曲目】 モーツァルト:《皇帝ティートの慈悲》序曲 交響曲第40番 カンタータ《悔悟するダヴィデ》 ソプラノ:ジェーン・アーチボルド メゾソプラノ:アン・ハレンベリ テノール:ヴェルナー・ギューラ ベルリン放送合唱団(合唱指揮:サイモン・ハルシー) 指揮:ルイ・ラングレ 現在モーストリー・モーツァルト・フェスティバルの音楽監督、ザルツブルク・カメラータの首席指揮者を務めるルイ・ラングレが、オール・モーツァルトのプログラムで、ベルリン・フィルにデビューを果たします。この作曲家のもっともポピュラーな作品のひとつである交響曲第40番と、逆に上演される機会が稀な詩篇カンタータ《悔悟するダヴィデ》。後者は未完のハ短調ミサ曲の素材を転用してまとめ上げられた、知られざる逸品です。 生中継:2013年1月26日(土)日本時間午前4時 この演奏会をDCHで聴く!
アーティスト・インタビュー
キリル・ペトレンコ(後半)「私にとっては、音楽があるところが故郷なのです」 聞き手:アレクサンダー・バーダー(ベルリン・フィル クラリネット奏者) 2012年12月22日 【演奏曲目】 ストラヴィンスキー:詩篇交響曲 シュテファン:ヴァイオリンと管弦楽のための音楽 1楽章の管弦楽のための音楽 スクリャービン:《法悦の詩》 ヴァイオリン:ダニエル・スタブラヴァ ベルリン放送合唱団(合唱指揮:カスパース・プトニンシ) 指揮:キリル・ペトレンコ 前号に続き、キリル・ペトレンコのインタビュー(後半)をお送りします。ベルリン・フィルの客演指揮者のなかでも、オケから好かれていると評判のペトレンコですが、このインタビューでも飾らない語り口を見せています。雄弁ではないのですが、訥々とした言葉に率直な人柄が表れており、音楽家としてのキャラクターの確かさを感じさせます。「故郷はない。音楽が故郷だ」という言葉も大げさではなく、率直な思いとして伝わってくるところが共感を呼びます。 アレクサンダー・バーダー 「あなたのリハーサルでいつも特徴的なのは、響きがどうあるべきか、非常に明快な考えを持っていることです。そしてそれが実現されるまで、非常に徹底して練習をしますね」 キリル・ペトレンコ 「私の考えが厳密すぎる、狭すぎると思いますか」 バーダー 「いえいえ、その逆です。それほど明快な考えを持っている、ということが素晴らしいのです。我々にとっても、作品にそれだけの色彩のヴァラエティがあるのだ、と知ることができます。ありがたいのです」 ペトレンコ 「私は家で勉強しているとき、スコアを自分のものにしようとします。1ページ毎に曲を歌って、それが私のなかである響き、イメージを持つようになるまで、内面化します。ある個所が、クレッシェンドであるべきなのか、デクレッシェンドであるべきなのか。ここのテンポはどうあるべきか、繰り返し試してみて、自分の考えとしてまとめます。ある曲の解釈は、そうして私の内面で成熟し、形を得てくるのです。もしそうした考えなしに、オーケストラの前に立ってリハーサルを始めたら、大変なことになります。100人の音楽家が弾くのですから、オケの側から沢山のエネルギー、解釈が波となって押し寄せてきます。自分の考えがなかったら、そこでなぎ倒されてしまうでしょう。明確な指針を持っていることは、必要だと思います。 それと同時に、ある響きは“私の”響きであるべきです。どの指揮者も、“自分の”解釈を提示することが仕事ですし、それが期待されています。私自身の響きが表れていることが重要なのです」
バーダー 「同様のことは、リハーサルのテンポについても当てはまります。だらだらと練習するのではなく、無駄なく先に進みますね」ペトレンコ 「もちろんリハーサルでは、沢山のアイディアを試したいので、細かいことに目移りしがちです。しかし練習時間は、同時にある種のリズムを持つべきだと思います。それどころか私の場合、練習時間の目標を設定するほどです。つまり“この30分でここまで進もう”と考え、そこに到達するように計画的に進めるのです。オーケストラにとっては、最初のうちは何も起こらず、最後になって急に曲を仕上げる、というのは困ると思います。本当に大事な点に手をつけないままで終わってしまう可能性があるからです。リハーサルのテンポは、非常に重要だと思います」 バーダー 「ペトレンコさんはリハーサルの時からエネルギーに満ちていて、演奏会ではそれがさらにパワーアップします。ものすごい精神力、体力だと思いますが、休養を取る場所、心を休めて力を養うような場所はありますか」 ペトレンコ 「いや、そういう場所は少ないですね。長い時間休暇を取っていたら、禁断症状になってしまうでしょう(笑)。冗談はともかく、私の場合、体力の問題はとても変わっています。リハーサルの後は、もう脱力状態です。リハーサル自体では、疲れません。しかし終わると、もう力を使い果たした、という感じになります。しかし、もう一度次のリハーサルのために力を集めて、集中的にいい仕事ができるように努力します。確かに大変ですね。今のところまだ力はありますが…」 バーダー 「休みは取らないのですか」 ペトレンコ 「最近は、あまり沢山のプロジェクトを入れないようにしています。ただ、今年の秋からはバイエルン国立歌劇場の仕事がスタートしますから、どうしても多くなってしまいますね。でも、他の指揮者の方々のように、毎週仕事を入れるというようなことはしません。それに、ベルリン・フィルのようなオーケストラに来たら、やりたいことのすべてを実現したいですから、力を取っておかなければならないのです」 バーダー 「ペコレンコさんは、オムスク(西シベリア)出身で、18歳の時にはオーストリアに移住されました。その後は、様々なドイツの都市やベルリンに住んでいるわけですが、“故郷”と呼べるような場所はありますか」 ペトレンコ 「それは難しい。多分ないと思います。もちろん家族が住んでいるボーデン湖や、ベルリンは住む場所としてはつながりがありますし、実際住みやすい。ベルリンを去るのは、本当につらいのです。イスラエルにも親戚がいますし、ミュンヘンに行ってもうまく生活できるでしょう。でも、ある場所が自分の故郷だとは思いません。オムスクでもありません。こう言うと大げさですが、私にとっては音楽があるところが故郷だと感じています。そこでなら、私は自由になれるのです」 この演奏会をDCHで聴く!
ドイツ発最新音楽ニュース
本コーナーでは、ドイツおよび欧米の音楽シーンから、最新の情報をお届けします。マリス・ヤンソンスがジーメンス音楽賞を受賞 マリス・ヤンソンスが、2013年のジーメンス音楽賞を受賞することになった。ジーメンス音楽賞は、「音楽のノーベル賞」と呼ばれる世界的な文化賞で、ジーメンスの創立者エルンスト・フォン・ジーメンスが創設したもの。賞金は25万ユーロ(約2,950万円)であるが、副賞を含めると総額3百万ユーロ(約3億5,400万円)に上ると言われ、ドイツ語圏やヨーロッパ諸国では極めて重視されている。これまでの受賞者には、カラヤン、ブリテン、ヘンツェ、バーンスタイン、アバドなどが数えられる。 1月11日にミュンヘンで行なわれた記者会見では、ヤンソンスは受賞を「身に余る栄誉」と感激の面持ちでコメント。また、当日のミュンヘン・ガスタイクで行なわれたバイエルン放送響の演奏会では、彼の登場と共にオーケストラと聴衆が立ち上がり、ヤンソンスに喝采を送った。 なおヤンソンスは、1月14日に70歳の誕生日を迎えている(写真:©BR)。 ゲルギエフがミュンヘン・フィルの首席指揮者に? バイエルン放送によると、ヴァレリー・ゲルギエフが、ミュンヘン・フィルの次期首席指揮者の有力候補に挙がっているという。ミュンヘン市文化省は、市議会に正式にゲルギエフを推挙することになっており、これが通れば、彼の就任が決定することになる。 ミュンヘン・フィルは、今シーズンより3年契約でマゼールを首席指揮者に迎えているが、これは最初から「当座の解決」であり、延長のオプションはない。ちなみにゲルギエフは、2011/12年シーズンに、ミュンヘン・フィルでショスタコーヴィチの交響曲を全曲指揮している。 ミュンヘン・フィルは、ミュンヘン市のオーケストラであるため、首席指揮者の任命と契約は市の管轄となる。オーケストラ自体ではなく、文化省が選出に当たっているのも、そのためである。 ムーティがシカゴ響のアジア・ツアーをキャンセル リッカルド・ムーティが、ヘルニアのために緊急手術を受けることなり、1月に予定されていたシカゴ響のアジア・ツアー(中国、香港、台湾、韓国)をキャンセルした。手術は1月21日にミラノで行なわれたが、シカゴへの再登場は4月になるという。なお、3月に予定されているローマ歌劇場での《ふたりのフォスカリ》を振るかどうかは、現在不透明である。 ムーティはこの1、2年ほど健康状態が優れず、リハーサル中に指揮台から転落するなどのトラブルが続いていた。 なおツアーは、マゼールを迎えて実行されるという。 オロスコ=エストラーダがヒューストン響の首席指揮者に就任 コロンビアの指揮者アンドレス・オロスコ=エストラーダが、ヒューストン響の首席指揮者に就任することになった。契約は5年で、正式なスタートは2014/15年シーズン。しかしこのシーズンから、それに準ずる立場で同楽団を指揮するという。 オロスコ=エストラーダは、現在ウィーン・トーンキュンストラー管の首席指揮者を務めているが、ケルン・オペラの音楽総監督に迎えられるべく、交渉が進んでいた。しかし彼は、「劇場の将来的状況が不安定なため」、ケルンのポストをキャンセルしたという。 次号の「ベルリン・フィル・ラウンジ」は、2013年2月15日(金)発行を予定しています。 ©2013 Berlin Phil Media GmbH, all rights reserved. |

サー・サイモン・ラトルが2018年までの現契約満了で、首席指揮者を勇退







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