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『奇跡』 是枝裕和監督 インタビュー

Monday, March 19th 2012

interview
是枝裕和


『誰も知らない』以来、子供たちを主演に描いた是枝裕和監督オリジナル最新作『奇跡』がいよいよ11月9日にリリースされる。【初回限定版】のDVDは、特製スリーブ&特製インナージャケットで川内倫子さんの写真を使用した限定仕様となっている(数量限定につき、ご予約はお早めに!)。さらに本作で是枝監督は、第59回 サン・セバスチャン国際映画祭”コンペティション部門”で最優秀脚本審査員賞を受賞!本作の子供たちについて、音楽を担当したくるりについて、写真家の川内倫子さんについて・・・そして、10月1日より公開中のプロデュース作品『エンディングノート』へのお話も伺った。こちらの質問に一つ一つ丁寧に言葉を選びながら、そっと呟かれるその言葉たちを聞きながら、『奇跡』のきらきらした様々なシーンを思い出した。大げさではない希望に溢れた本作、ぜひご覧下さい。 INTERVIEW and TEXT and PHOTO: 長澤玲美


『奇跡』はとにかくここに映ってる子供たちが魅力的だからそれだけで十分かなって思ってます。「ああ、世界って捨てたもんじゃないなあ」っていう感じがあるんですよ、僕の映画では珍しく(笑)。


--- 本日はよろしくお願いします。

是枝裕和(以下、是枝) よろしくお願いします。

--- 11月9日に『奇跡』のBlu-ray&DVDがリリースされますが、『誰も知らない』以来の子供を主人公にした本作を監督、編集までされて、今改めて、どうお感じでしょうか?

是枝 とにかく子供たちが魅力的だったので、撮影自体も非常に楽しんで出来ましたし、映画の中で子供が成長していくのを目の当たりにすることが出来てすごくいい現場だったんです。それが作品の中にも表れていると思いますね。自分の映画の中にもね、映画によっては今観ると恥ずかしいなって思うものも結構あるんです(笑)。観直さないものもあるし。でも、『奇跡』は自分で時々観たくなるので、そういう意味ではすごく好きな映画ですね。

--- 特にどういうところがそう思わせていると思いますか?

是枝 何でしょうねえ(笑)・・・今回の映画は子供が映ってるだけでいいんですよね。「劇映画ではあんまり見かけないような子供の笑顔だったり、姿だったりを撮りたいな」っていうことは撮る前からずっと考えてたんですけど、ストーリーがどうっていうことは置いておくとしても、何かやっぱりね、(前田)旺志郎(永吉)星之介が笑ってるっていうだけでも観ちゃうし、(前田)航基が何か食べてるだけでも、バス乗ってたり、電車乗ってたりするだけでやっぱり何か考えちゃう。観終わった後にすごく元気になるというか。それは僕が自分で観た感想ですけどね。「ああ、世界って捨てたもんじゃないなあ」っていう感じがあるんですよ、僕の映画では珍しく(笑)。読後感が前向きなものにはなったかなと思うのでそれでだと思いますね、観たくなるのは。

--- とても明るい印象ですよね。

是枝 そうですね。それはたぶん僕がそうしたというよりは、主役の、まえだまえだの二人が思いっきり明るかったので彼らに寄せて脚本の書き直しを繰り返していたからそうなったんだと思いますね。


奇跡


--- 当初は、鹿児島を舞台にした幼い男女のラブストーリー・・・新幹線の始発がすれ違うのを見に行った二人が恋に堕ちるという話を想定されていたそうですが、まえだまえだの二人と出会ったことで、福岡と鹿児島で離ればなれに暮らす兄弟の物語として書き換えられたそうですが、「離ればなれ」というのはキーワードとしてあったんですか?

是枝 新幹線「さくら」(博多から南下)と「つばめ」(鹿児島から北上)のすれ違いというのは決めていたので、鹿児島に住んでる男の子と博多に住んでる女の子が見に行って出会うっていう話にはしてたんですけど、それを「鹿児島と博多で別々で暮らすようになった兄弟の話にしよう」っていう流れですね、変更の仕方としては。

--- 演技もすごく自然で本当に上手だなあと思いながら観ていたんですが、彼らのキャラクターがさらに生きるように「もっとこうして?」というような具体的な演出はされましたか?

是枝 旺志郎に関してはないですね。「もっとこうして?」というよりは、旺志郎の持ってるものをどう出してあげるか、解放してあげるかっていう方ですね。「トマト、もう一回食べて」とか(笑)、「たこ焼き、好きなの選んで?」とか、「お兄ちゃんをもうちょっとこういう感じでやりこめて」とかね、そんな感じですね。

--- 本木雅弘さんと内田也哉子さんの娘さん、内田伽羅ちゃんの存在感も圧倒的でした。樹木希林さんが出演されていることもあって、共演シーンはありませんでしたが、血が繋がっているところでのキャスティングに勝手に微笑ましく思っていました。

是枝 伽羅ちゃんはね、初対面でもう子供子供したところが全くなかったので、子役オーディションって感じでは全くなかったんですよね。「ああ、大人だなあ」と。逆に僕にいろいろ質問して来たんです。「わたしがこの役をやることになった時には、この恵美という女の子はどういう性格なんですか?」みたいな感じで。普通ね、子供ってオーディションでそういうことをあんまり聞いて来ないので、演じることに対しての明快な意識があったかどうかは別としても、「演じることへの興味があるんだな」という。あとはね、座ってる時の姿勢がよかった。背筋が伸びてる感じとかがね。だから、「ああ、この子を旺志郎の隣に置いたらおもしろいな」って思ったんです。でも、その時点で最終決定はせずに博多組なら博多組の四人を、伽羅ちゃんにも実際に博多まで来てもらったりして、組み合わせを見てみたりして。それで最終的に決めました。いろんな意味で旺志郎に引っ張られない・・・テンポもそうだし、言葉もそうなんだけど、ちゃんと自分の間とか言葉を持ってるし、そこはブレなかったから、「ああ、強いな」って思って。

--- 本作は子供たちのセリフがとても具体的で固有名詞なども織り交ぜられながら、奔放に?楽しまれながら言葉を選ばれているような印象がありました。例えば、「イチローは毎朝カレーを食べている」などといったエピソードが入っている是枝さんの作品は珍しいような気もしますし、明るい子供たちの活発な感じがそういったセリフでより生きているような感じがしました。子供たちと話し合いをして脚本に反映していったんですか?

是枝 そうですね。オーディションをしながら子供たちにいろんな話を聞くので、おもしろい話は全部メモして。例えばね、「お父さんからお小遣いを巻き上げるにはどうするか話し合って?」って言って、オーディションに来た子四人で話し合ってもらって。その中で「うちのお父さん、ウルトラマンの高いフィギュア持ってるから、あれを売れば全然大丈夫だよ」とかね(笑)、そういう話が出て来たりするのをメモして、後で使おうと。ああいうやり取りは具体的であればあるほどおもしろいですよね。欲を言えば、ローカリティーが出ればもっとおもしろいし。僕はもういい年なので子供のリアリティーが書けない部分もあるので。もちろん変わらない部分はあるけど、想像で書けるところとそうじゃないところがあるから。今の10歳なら10歳が、12歳なら12歳がどんな風に世界を見ているのか、どういう風に捉えているのか、言葉で。そういうのはリサーチしないと分からないので、オーディションをやるのはリサーチの意味が半分でもありますね。


奇跡


--- 本作でも是枝さんの作品ではおなじみのキャストの方々が出演されていますが、やはり使いたくなる俳優さんということなんですよね?

是枝 はい(笑)、繰り返し。今回はメインは子供なので脇にいてもらって、でも、僕が安心して観ていられるというか、僕が子供たちからどういうものを引き出したいと思ってるのかを理解してくれる人、演出側に回ってくれる役者さんを選んでるんです。それは『歩いても 歩いても』をやったりした中で僕がやって来たことを身近で見てくれてる人達なので。例えば、夏川(結衣)さんだったら、伽羅ちゃんのことをどういう風にリラックスさせて、彼女からどういう表情を僕が引き出したいと思ってるのかをもう十分分かってるので、それに加担してくれる人。だから、役者というよりは映ってるけど演出助手みたいなポジションでちゃんと振舞ってくれる人達ばかりを選んでるつもりです。演出部で名前を出さなくちゃいけないくらい・・・(笑)、本当にありがたいですね。

--- 「分かってくれている」という部分だけではなく、繰り返し使いたい理由としてはもちろん、他に魅力的な部分があってこそですよね?

是枝 単純に好きだっていうのと、(樹木)希林さんなんかはやっぱりね、また次なら次の作品で「もっと違う面を引き出したいな」っていうのもあるし、それは阿部(寛)さんとかに対してもそうだし。夏川さんは特にね、彼女で書き始めちゃうところもあるので断られると困っちゃうんですけど(笑)、彼女にもいろんなタイプの役をやってもらいたいなって思いますね。

--- 『歩いても 歩いても』に続き、亡くなられた原田芳雄さんも出演されています。本当にすごく残念な訃報だったのですが、是枝さんにとって原田さんはどんな方だったのかというのもぜひお聞かせ頂きたいのですが。

是枝 原田芳雄という人はですねえ、いろんな意味でとにかくかっこいい・・・かっこよかったねえ。全然威張らないんですよ、原田さん。偉そうにしないんですよ、スタッフに対しても、若い役者に対しても。だから自然とね、原田さんの周りには若い役者達が集まって楽しそうに話してました。そういう時に全然ピリピリしてなくてね、大人なんだよねえ(笑)。そういうあり方が非常にスマートで、チャーミングで、時に子供っぽくて。電車の話をする時とかなんて、本当に子供なんですよ(笑)。演じることに対しては当たり前だけど本当に真剣だし、やっぱり、日本のインディペンデントな映画を支え続けて来た人だから、僕なんかは本当にただの憧れですけどね。かっこいい、ワイルドな、男臭い原田芳雄を10代から観て来てるから。でも、逆に自分の映画に出てもらうなら、「ちょっと違う使い方をしたい」って気持ちもありました。男臭い原田芳雄はたぶんね、阪本順治さんとかが撮られた方が絶対いいので。そういう考えもあって、『歩いても 歩いても』では老け役をやって頂いたり(笑)、今回もちょっとね、原田さんで笑うみたいな変化球で出て頂きましたけど、非常に演技が柔軟ですよね。演出家のことをすごく分かっているし、自分がどう演じるかというよりは作品の中で自分がどういうポジションを担うのか、どういう風にいたらいいのかということを非常に上品に考えられていますし。本当に魅力的な方でしたよねえ。

--- 本作と『歩いても 歩いても』は夏の映画ですが、是枝さんの作品には夏のイメージも強いような気がするんですが・・・夏はお好きですか?(笑)。

是枝 夏、好きですね(笑)。ただ、『幻の光』も『空気人形』も冬の映画なのでそんなに偏ってはいないと思うんですけど、夏の日差しは好きです。特に自然光活かしで撮影する時には冬よりは夏の方が・・・でも、両方好きかな(笑)。夏の方が長く撮影出来るのでうれしいですね。サイクルで夏撮って、冬編集して公開、みたいな流れなんですよね。

--- 子供たちがメインで描かれているので、アイスを食べたり、花火をやったりというような夏休みっぽい感じもあって、子供が観ても喜びそうな、子供が好きな要素がたくさん入っている映画だと思いました。

是枝 全部、僕が好きなものっていうのもありますけどね(笑)。


奇跡


--- さらに是枝さんの作品では「食べること」ということに意識的に丁寧でありたいと思われている感じがするのですが、いかがでしょうか?

是枝 やっぱり、ホームドラマをやり始めてからは、「食べること」は一番大きな要素の一つですから、それは大事にしてます。ただ、本当言うとね、食べてる時間よりは作ってる時間とか片付けてる時間っていうのが意外とドラマが動くんです。食べてる時間は食べなくちゃいけないから、実はそんなに動かしようがないんですよ。食べてる時間のお芝居は役者もすごく大変なので。だから、『歩いても 歩いても』の鰻食べながらの希林さんのお芝居とかはやっぱりすごいですよね(笑)。希林さんは、「わたしは食べながらしゃべれる」ってご自分でおっしゃってますけど、それってなかなか出来ない。

--- 本当に上手い方じゃないと・・・。

是枝 そう、上手くないとセリフが言えないんですよね。だから、食事のシーンは撮るのがすごく大変なんですけど、観る方としてはそれほど特別なシーンに見えないという(笑)、ちょっと悲しいことはあるんですけど、料理を作ったりする中で人間関係が見えて来たり、食べてる時に決してみんなが仲良いわけじゃない感じとかね、そういう日常的な動作を巡って人間関係が見えてくるみたい感じが好きなんですよ、僕はきっとね。

--- 是枝さんは曾祖父さんが鹿児島出身ということもあって?本作には「かるかん(軽羹)」が登場しますが、小さい頃からお馴染みの食べ物だったんですか?

是枝 初めてかるかんを食べたのは、大学を卒業する前に一度鹿児島に行った時なので24くらいなんですけど、その時に食べてね、「ぼんやりした味だなあ」って思って(笑)。「なんじゃこれ!?」って思ってたんですけど、その後、繰り返し鹿児島にCMのロケとかで行って買って来て、「あ、アンコがないやつ、意外と上手いな」とか「不思議な食感だな」って気にはなってたんです。でも、子供が好きなお菓子では決してない。今回、主人公が意にそぐわない形で大阪という大都市から鹿児島に引っ越してみたら、(火山)灰は降るわ、じいさんばあさんは一緒だわ、学校の先生は大きいわ(笑)、いろんな理不尽なことに囲まれてる中の一つとして、「なんじゃこれ!?」っていうお菓子、鹿児島銘菓があるのはおもしろいかなって思ったんです。

※かるかん(軽羹) 鹿児島県をはじめとする九州特産の和菓子。名前の由来には諸説があるが、「軽い羹」という意味であるともされる。本来は棹物菓子だが、近年は饅頭状として餡を仕込んだ「かるかんまんじゅう」が一般的。原料としては、かるかん粉、砂糖、山芋を用いる。かるかん粉は米の粉であるが、特に軽羹用に鹿児島県を中心とした数社で製粉されている。
--- 本当にぼんやりした味なんですか?(笑)。

是枝 いや、上品なお味ですよ(笑)。甘さが上品なので、子供が食べると「甘いの・・・か?」っていう感じ?(笑)。大人が食べてもそんなに刺激的な甘さではないですし・・・まあ、山芋とお米と砂糖で作られてますからね。蒸しパンみたいなもんですよ。今は僕はすごく大好きですけどね。鹿児島でオーディションした時に集まって来た子供に聞いたんです、「かるかんって知ってる?食べたことある?」って。そうすると「知らなーい」って子と「おばあちゃんのお家に行った時に出てくるけど、全然おいしくなーい」っていう子がほとんどで、一人二人ね、「大好物」って言う子がいましたけど、ほとんどの子はピンと来てない感じだったので、そういう捉え方でいいんだなって思って。

--- 東京でも買えますか?

是枝 買えますよ!でも、これがですねえ、おいしいところとおいしくないところで全く味が違って、すさまじいくらいまずいところがあるんです(笑)。一応、何軒も回って試食したんですけど、「これが同じかるかんなのか?」って怒りたくなるものもあって。「明石屋」さんと「蒸気屋」さんっていう二軒が大きい会社でライバル店なんですけど、この二つのお店のものはやはりおいしいです。

--- かるかんに対する変なイメージが付く前に(笑)、それを「初かるかん」として食べてみたいと思います。本作を観た方はきっと、かるかんを食べたくなりますよね。

是枝 そうだよね?(笑)。おいしそうだもんね。橋爪功さんと航基のかるかん作り、あれはシーンにすると1分くらいですけど、全部の工程をやってもらってるので本当は丸一日かかってるんですよ。だから、労力はすごーくかかってるんですけど・・・まあね、おいしそうに見えたからよかったんですけどね(笑)。


奇跡


--- 本作の音楽・主題歌はくるりが担当されています。是枝さんは「鉄道がお好き」と伺いましたが、鉄道を愛する人というつながりもあって彼らに音楽を?

是枝 いや、僕は全然マニアではないので。電車って撮るのがすごく難しいけどおもしろいというか、大事なものなので撮るのは好きなんです、なかなか撮らせてもらえないですけど。だけど、岸田さんはもうね、本当のマニアだもん。

--- そんなにマニアですか?(笑)。

是枝 そんなにマニアですね(笑)。それはそれはすごいですよ。で、原田さんも本当に好きだから、あの二人の前で「電車が好きです」なんて言えない(笑)。今回はロードムービーで旅をする映画だと思っていたので、電車の移動ショットにどんな音をかけるか、あとは比較的多めに音楽を入れようと最初から思っていたので、子供の背中に何の音を重ねるかっていうことを考えた時に、脚本を書きながら、「くるりがいいかな」って直感で思ったんです。だから、「岸田さんは電車好きだからなあ」って言うのは後からです。「電車好きだから断らないんじゃないかな」っていうのはありましたけどね(笑)。

--- 「この人に音楽をやって欲しい」というアイデアは毎作品、是枝さんからあるんですか?

是枝 だいたいそうですね。いつもメインになる楽器を先に決めるんです。『空気人形』の時は、「アコーディオンだな」って思ったので、「アコーディオンを使ってるグループで誰かおもしろい人いない?」って、スタッフみんなに聞いてCDを持ち寄ってもらった中で、助監督の女の子がWorld’s End Girlfriendのアルバムを持って来てて、「あ、これだ!」と。そういう時もありますけどね。

--- 本作ではくるりに対して、要望はありましたか?

是枝 最初のうちは何も言ってない気がするんですけど、何度目かの打ち合わせで、「このシーンは音楽が背中を押したい」とか「ここでフェイドアウトしたい」とかそういう感じでは伝えましたね。あとは、実際には違ったんですけど、「すれ違いに向かって走っていくところでロックをかけたいです。ここは生ギターの方がいいです」とかね。でも、くるりにお願いして本当によかったですね。今回はやっぱり、音楽の映画とのマッチングが非常によかったので。


くるり 『奇跡』サントラ発売決定!

--- DVDの特典映像に岸田さんとの対談も収録されているそうですが、どんな内容になりそうですか?

是枝 まったりとした内容です(笑)。

--- まったりとした・・・(笑)。

是枝 まったりとしたいい時間でした。『奇跡』の話もしてるんですけど、半分以上は「震災の後、映画監督とかミュージシャンは何が作れるんだろうね?」っていうような話をぼそぼそしゃべってます(笑)。

--- ぼそぼそと・・・(笑)。

是枝 ぼそぼそと未来について語ってます。

--- 震災後、そのような質問が是枝さんにもたくさんあると思うのですが、この場では特にご意見は求めず、その映像特典を観て頂きたいと思います。

是枝 ありがとうございます。まだね、もやもやした思いが言葉に出来なくて。もう少しもやもやしたまま抱え込んでおいて、次の作品を作る時にもっと考えていこうかなって思ってるんですけどね。

--- 限定版のDVDは、写真家の川内倫子さんの写真を使用したヴァージョンであり、オリジナルポスターも封入されているようですが、『誰も知らない』のスチールも川内さんでしたよね?是枝さんのTwitterでも、川内さんとはお食事もされているようで・・・(笑)。

是枝 ええ、ええ(笑)。ご自宅に呼んで頂いて。すっごいおいしいんですよ、川内さんのご飯って。尊敬する。何かね、料理の一つ一つが気取ってないんですよ。味付けも塩振っただけとか。でもね、その塩がちょっといい塩だったり、味噌も4種類くらい組み合わせて作ったみたいな・・・何て言ったらいいんですか?(笑)。素敵!素敵でした。

--- そういった川内さんの人柄がもちろん写真にも出ていると思うんですが、是枝さんが思う川内さんの写真の魅力は特にどんなところでしょうか?

是枝 うーん・・・それはすごく難しいけど、一つは光の捉え方。もう一つは映ってる人間がすごく尊敬されて撮られているところ。それは子供でも当然のように。「子供だからこう撮ろう」とか「かわいく撮ろう」とか「おかしく撮ろう」とかいうことがなく、人間としてね、その子供の一番美しいものを引き出そうとしてる、尊敬して撮ってる感じがすごくするんですよね。それは風景に関してもそうなんですけど。前に対談した時に彼女が言ってたんですけど、すごくいい光に出会った時にシャッターを切ったあと、「何かに手を合わせて、感謝して頂いてくる感覚がある」って言ってて。いろんなカメラマンがいるからね、その風景を前にして、「俺の作家性でねじ伏せてやろう」って考える人もいるはずなんですよ。それは写真家だけじゃなくて、監督もそう。で、それはどっちもあると思うんですけど、僕もどちらかというと川内さんと同じで手を合わせて頂いてくるのが好きなんですよね。それは役者に対しても、子供に対しても。やっぱりね、その人が本来持っている内に秘めていた美しさだったり、豊かさだったりを解放出来る環境を作るっていう演出なので。もしくは、その人がそれを解き放てる場所へ連れて行くっていうのが演出だから。それが上手く彼らから出て来た時に「手を合わせてもらってくる」って感覚で僕は映画を作ってるつもりなんですよ。今回で言えばね、七人の子供が持ってるものを僕が演出したというよりは、あの七人の子供が持っているものをどう引き出せるかっていう形でカメラを向けているので。そういう意味で言うと、非常に川内さんの目線に対するシンパシーがあるので、今回もどこかのタイミングで「あの七人を撮って欲しいな」って思ってたんですよね。

--- それでこのジャケットに。

是枝 はい。それともう一つ言うとやっぱりね、構図。このスクエアの画面の中にどういう風に人を配置するのかっていうのがもうねえ、(しみじみと)非凡。自分でもローライを持ってて時々撮るんですけど、正方形って本当に難しい。普段、映画をやってるとどうしても長方形で考えるから、長方形だったらまあね、人をどう配置するかっていうのをそれなりにはやって来てるから見つからなくはないつもりではいるんですけど、正方形はねえ・・・怖くてね(笑)、つい真ん中に人物を置いちゃうんですよ。そうするともう何の変哲もないプロフィール写真になっちゃうんですよねえ。川内さんの場合はその中央に置かない感じがあざとくなく、中央じゃないところにポイントがあるんですよ。「何だろうね」って感じですね。こういうのを才能って言うんだとすると悔しいですけどね(笑)。

--- このお写真は『奇跡』の撮影中に川内さんが同行されて撮られたものなんですよね?

是枝 そうですね。コスモスと彼らを撮って欲しかったのでその撮影中に来てもらいました。黒田光一さんが撮ってくれたまえだまえだの二人の写真もすごくいいんです。撮って頂いたスチールはどれもよくて。映画の物語に寄り添って撮ってくれるから。あらすじを解説する時にちゃんとその場面写真として載せるのにはむしろ、川内さんよりもずっと的確なんです。ただ、一枚ぽんって出した時の強さが川内さんにはある。それはまた別の世界観だから。映画からは離れるんですけど、離れる分、強いんですよね。こちらの物語に沿うわけではないから。だから、キャラクターの中の恵美を撮ってるわけじゃなくて、伽羅ちゃんを撮ってるんですよね、きっと。今回は二人に撮影現場に来て頂いて、とても贅沢だったと思います。いいとこどりです(笑)。


奇跡


--- 是枝さんのお話をいろいろと伺っていると、原田芳雄さんのことも、川内さんのことでもそうなんですが、「さりげなくかっこいい」というようなところがある方がお好きなのかなあと思いました(笑)。

是枝 だって、そういう人って素敵だもんね(笑)。そういう人でいたい、そういう人になりたいと思いますよね。「さりげないよね」って言われたいよねっていう(笑)。だけど、そういうことを言われたいって思う時点でもうアウトなんですけど(笑)。いるじゃないですか?そういう、何かかっこいい人。例えばね、お土産の置いて帰り方がかっこいいとか、電話をかけてくるタイミングが抜群だとか、旅先から送られてくるハガキがすごくセンスがいいとか・・・「出来ねえなあ」って思いますよ(笑)。そういう人に憧れるなあ、やっぱり。あとね、友達が遊びに来た時にちょちょちょってありものですごくおいしい一皿が出来る人とかね、かっこいいよねえ。

--- 別作品ですが、是枝さんは10月1日から公開の砂田麻美さんの第1回監督作品『エンディングノート』に製作・プロデューサーとして関わられていますよね?

是枝 砂田はずっとね、演出補で3本かな?僕の作品に付き合ってくれてたんです。彼女が脚本を書いてきて、僕が見てダメ出しをして・・・みたいなことをずっとやっていて、険悪なムードになりかけてたんですよね(笑)。向こうはもっとそう思ってたと思う、「こんなにたくさん書いてるのに何でOKしないんだよ!」って。そんな状況の中、お父さんが病気になってあっという間に亡くなられてしまって。そこから彼女が「撮り溜めたものを編集したので観て下さい」って言うから観てみたら、正直言うとね、圧倒的におもしろかったんですよ。「ああ、これはすごいな」って素直に思った。癌で死んで行くお父さんを娘が撮ったっていう話なのに笑えるんだよね。笑えるし・・・病気の話ではなくて、家族の話だったり、生きることについての話だったり、いろんなことが考えられるんですよね。それはやっぱり、お父さんだけじゃなくて周りにいる家族と離れて暮らしてるおばあちゃんと孫と・・・そういう人間が世代を超えてつながっていく感じがきちんと撮れてるから。だから、「こんなものを見せられたらしょうがない。応援するしかないか」って思って(笑)、お金を出して、公開まで何とか着地出来るようにレールを引いたっていうくらいです。内容に関しては完全に彼女のものですから。多少の意見は言いましたけど、最初に見せられた段階でもう完成していたので、「なるべくイジるな」って言ったんです。むしろね、「イジって来たら怒るぞ。戻せ!」みたいなことの連続でしたね。


『エンディングノート』

--- 『エンディングノート』も、『奇跡』と同様に「家族」をテーマに撮られているようなので、是枝さんと通ずるものもたくさんあるのかなと思うのですが、是枝さんは今後も「家族」をテーマに作品を撮り続ようというお気持ちはありますか?

是枝 そうですね。一番身近なテーマだし、普遍的ですからね。母親がまだ健在で自分が子供だった時に作った『誰も知らない』と『歩いても 歩いても』みたいに両親が二人ともいなくなって作ったものと今回の『奇跡』みたいに自分に子供が出来て作ったものって、やっぱり変わって来てるんですよね。それはきっと自分が家族の中における位置が変わってるから作品も変わって来るのであって、それはおもしろいなって思ってるんです。そういう風に自分の日常の中での変化が作品に表れるっていうのは作り手としては幸せなことですしね。例えば、自分の子供が成長して行って、思春期を迎えた時にどういうものが作れるんだろうとか、孫が生まれるまで生きてられるかどうか分かりませんけど、その段階で何が出来るかなってことを考えていくと、この仕事って意外と長続きするな(笑)、飽きないなって。もちろんね、家族以外にもそうやって自分が変化することで見方が変わって来る・・・自分も変化するし、モチーフも変化していくっていうのは他にもあるんでしょうけど、日常の中でヒーローも悪魔も出て来ない、なるべく市井の人達の日常的な出来事をモチーフにした映画をこれからも作ろうと思っているので、そうなるとやっぱりね、家族の中で起きるちょっとした出来事が非常に大事なモチーフになっていきますよね?だから、そのためにはまず自分がしっかり生活をしていかないとって思いますよね。日々、反省してるところです(笑)。それがきっとね、映画に出ると思うので。

--- 最後になりますが、これからご覧になる方に一言ありましたら、ぜひお願い出来ますでしょうか?

是枝 とにかくここに映ってる子供たちが魅力的だからそれだけで十分かなって思ってます、自分では。「観て元気になって下さい」とかって押し付けがましくて嫌なので普段は言わないようにしてるんですけど、僕は元気になります、この映画を観ると。なので、僕は今後も時々観ると思います。だから、みなさんもお手元に置いて頂いて、時々観て下さい(笑)という感じですかね。

--- 大げさではない希望に溢れている映画ですよね。

是枝 無理なハッピーエンドにはしてないですけど、多分、だからこそ、余計に何か前向きなものが読後感としては残るのかなあって思ってます。

--- 本日はありがとうございました。

是枝 ありがとうございました。

(おわり)




『奇跡』 リリースインタビュー記念!是枝裕和監督直筆サイン入りプレス&オリジナルジャンボステッカーを3名様にプレゼント!


ご希望の賞品を選択後、「コメント欄」には本インタビューの感想、気になる公開予定作品等を全角でご記入下さい(いくつでも可)。続いて、必要項目をオンラインにて登録し、ご応募下さい。

※応募締切 2011年11月13日(日)

※1. 応募には会員登録が必要になります。
(新規会員登録は⇒コチラ
※2. 会員登録のお済みの方は、詳細と応募フォームへ

※応募の受付は、終了いたしました。たくさんのご応募、ありがとうございました。

※当選は賞品の発送をもってかえさせて頂きます。


『奇跡』 特製スリーブ&特製インナージャケット!写真家 川内倫子の写真を使用した限定仕様!



限定仕様


【初回限定生産】『奇跡:DVD(限定版)』

【封入特典】
●特典ディスク
・メイキング・オブ・奇跡〜是枝監督と7人の子供たち〜
・スタッフ・キャスト ロール集
・「奇跡」PV
・岸田繁(くるり)×是枝裕和対談

●「奇跡」 DVDライナーノート(4P)
是枝監督からのオリジナルメッセージも掲載!

オリジナルポスター画像

●オリジナルポスター

【映像特典】
●ショート予告 ●予告編 ●TVCM


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【映像特典】●ショート予告 ●予告編 ●TVCM


『奇跡:DVD(通常版)』

【映像特典】●ショート予告 ●予告編 ●TVCM


※内容はすべて予定です。商品仕様・特典等は変更になる場合がありますので予めご了承下さい。


是枝裕和監督、第59回 サン・セバスチャン国際映画祭”コンペティション部門”で最優秀脚本審査員賞受賞!


九州新幹線の一番列車がすれ違う時、奇跡が起きる。そんな噂がすべての始まりだった―。

九州新幹線全線開業の朝、博多から南下する"つばめ"と、鹿児島から北上する”さくら”、二つの新幹線の一番列車がすれ違う瞬間に奇跡が起きて、願いが叶う――。そんな噂を耳にした小学6年生の航一(前田航基)は、離れて暮らす4年生の弟の龍之介(前田旺志郎)と共に奇跡を起こし、家族4人の絆を取り戻したいと願う。二人の両親は離婚し、兄は母(大塚寧々)と祖父母(橋爪功樹木希林)と鹿児島で、弟は父(オダギリジョー)と福岡で暮らしているのだ。兄弟は、友達や両親、周りの大人たちを巻き込んだ壮大で無謀な計画を立て始める。そしてその計画は、人々に思いもよらない奇跡を起こしていくのだった。

監督:脚本・監督・編集:是枝裕和

音楽・主題歌:くるり (SPEEDSTAR RECORDS)

前田航基前田旺志郎大塚寧々オダギリジョー樹木希林橋爪功
夏川結衣阿部寛長澤まさみ原田芳雄
林凌雅永吉星之介内田伽羅橋本環奈磯邊蓮登

© 2011 「奇跡」 製作委員会

profile

是枝裕和(これえだひろかず)

1962年、東京都生まれ。87年、早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組の演出を手掛け、「しかし・・・福祉切り捨ての時代に」(91/CX)でギャラクシー賞優秀作品賞、「もう一つの教育」(91/CX)でATP賞優秀賞、「記憶が失われた時」(96/NHK)で放送文化基金賞を受賞する。95年、劇場映画初監督作『幻の光』がヴェネツィア国際映画祭金のオゼッラ賞他多数の賞に輝き、一躍世界にその名を知られる。続く『ワンダフルライフ』(99)でも、ナント三大陸映画祭、ブエノスアイレス映画祭のグランプリなどを受賞し、世界30カ国・全米200館で公開され、ヒットを記録する。2001年、『DISTANCE/ディスタンス』がカンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品される。04年の『誰も知らない』では、同映画祭にて、主演の柳楽優弥が映画祭史上最年少となる最優秀男優賞を獲得し、国際的なニュースとなる。06年、『花よりもなほ』で初の時代劇に挑戦。08年、自身の体験から生まれた『歩いても 歩いても』が国内外で絶賛を浴び、ヨーロッパ、アジアで様々な賞を受賞する。08年、Coccoのツアーに同行したドキュメンタリー映画『大丈夫であるように –Cocco終わらない旅-』を発表する。09年、業田良家の短編集を映画化して新境地を切り開いた『空気人形』がカンヌ国際映画祭「ある視点」部門を始め、トロント、シカゴ、ロッテルダムなど多数の国際映画祭に正式出品される。その他、最近ではAKB48の「桜の木になろう」のPVを手掛けた。さらに西川美和監督の『蛇イチゴ』(03)、『ゆれる』(06)など、若手監督作品のプロデューサーも務めている。リアリズムと独自の感性の融合により、国内外から唯一無二の存在として敬愛されている映像作家である。

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