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天国のマイルスに届く現代版TUTU

2011年5月18日 (水)

マイルス・デイヴィス86年作『TUTU』にテーマを置いたマーカス・ミラーの「TUTU Revisitedツアー」の仏公演を収めたCD & DVD。若手と共に新生したマイルス世界。

「お前、凄いヤツらしいが、カトンボの赤ん坊みたいだな。」
これは、マイルスがマーカス・ミラーに出合った当時、マイルスが発した有名なセリフ。

マイルスは、81年の復帰作『ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン』で当時22歳のマーカス・ミラーを起用、以来ツアー・メンバーにも同行させ、83年まで行動を共にしていました。そしてマイルスはマーカスの事を「俺がベースを弾いたと同じようにプレイする」とまで表現。

この間に培った信頼関係が、長年在籍していたコロムビアからワーナー・ブラザーズに移籍し、86年にリリースした『TUTU』へと繋がっていきます。

『TUTU』でマーカスは、ベースだけではなく、鍵盤を含む様々な楽器とプログラミング、作曲、そしてプロデュースまでを手掛け、マイルスとキャッチボールをするようにサウンドを構築していったと言います。

その後も『シエスタ』(87年)、『アマンドラ』(89年)と手掛け、マーカスのプロデュース・ワークはルーサー・ヴァンドロスやデイヴィッド・サンボーンなどと同様に一気に頂点を極めることとなります。

『TUTU』リリースから20年以上。そんな彼が、2009年9月の日本を皮切りに、「TUTU Revisited The Music of Miles Davis」ツアーをスタート。同ツアーは今年に至るまでロングラン公演が行われ、アメリカは勿論、ヨーロッパ諸国まで網羅されました。

その中で、2009年12月22日フランスのリヨンにあるオーディトリアムというホールで行われたライヴを収録されたCDとDVDがリリースされます。


Christian Scott

メンバーは、トランペットに、2006年のデビュー作『Rewind That』がいきなりグラミーにノミネートされ、コンコードより計4作品をリリースする現在28歳のクリスチャン・スコット。ジャズに留まらずR&Bやヒップ・ホップ等の要素も模索する彼が、ガレスピー・スタイルの上向きトランペットのミュート・プレイでフロントを努めます。

クリスチャン・スコット作品 

Alex Han

サックスは、なんとバークリー音楽大学在学中の2008年に、マーカスの目に止まりバンドに誘われた22歳のアレックス・ハン。ライヴでは、一見大人しそうに見えますが、スイッチが入るともう止まらない、超絶プレイを繰り広げる今後も注目の若き逸材のひとりと言えます。

Federico Gonzalez Pena

鍵盤には、1966年ウルグアイ生まれのフェデリコ・ゴンザレス・ペナ。ローズ・ピアノからシンセ・ワーク、サウンド・エフェクト、マーカスをフォローするシンセベースなど、まさにTUTUサウンドを支える存在。ミシェル・ンデゲオチェロのグループで注目されました。

Ronald Bruner Jr.

ドラムにはロナルド・ブルーナーJr.。マーカスのアルバム『シルヴァー・レイン』に参加する他、上原ひろみをフューチュアし今年のグラミーを獲得したスタンリー・クラーク・バンドにも所属する技巧派プレイヤー。重量級のプージー・ベルとは正反対に、キレ溢れるイケイケな今売り出し中の20代ドラマーです。CD/DVDではドラム・ソロも収録。

ロナルド・ブルーナーJr.参加のスタンリー・クラーク・バンド作品
(上原ひろみ参加。グラミー賞ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム受賞) 


鍵盤のフェデリコ以外は20代の若手をズラリと起用。ライヴ当時50歳だったマーカスとの世代を超えてのプレイの応酬と、「TUTUを作った当人」と「TUTUを聴いてきた」ミュジシャンが織り成す、新たな音楽の融合は、このライヴの最大の聴き所でもあり、単なる『TUTU』の焼き直しではない事も注目です。

収録曲は
アルバム『TUTU』から
「トーマス」
「バックヤード・リチュアル」
「スプラッチ」
「ポーテイア」
「ドント・ルーズ・ユア・マインド」
「TUTU」
「フル・ネルソン/パーフェクト・ウェイ」
と、『TUTU』収録全曲をプレイしている他、

『ウィ・ウォント・マイルス』で収録された
「ジャン・ピエール」

『マン・ウィズ・ザ・ホーン』収録の
「アイーダ」

『アマンドラ』収録の
「ハンニヴァル」

『ユーア・アンダー・アレスト』収録の
「ヒューマン・ネイチャー」

そしてモダン・ジャズ史の名曲
「カインド・オブ・ブルー」

マーカスのライヴでは御馴染みのエリントン・ナンバー
「イン・ア・センチメンタル・ムード」

で構成されています。

マーカスは御馴染みの70年代ジャズ・ベースとフレットレスの2本を使用し、抜群の音色で、スラップから指弾き、ディストーションからシンセベースアプローチまで、全編において圧巻のベースプレイを披露。



オリジナル・リーダー作は2007年『フリー』以来リリースされていませんが、スタンリー・クラーク、ヴィクター・ウッテンとのSMV、オーケストラと共演した『ナイト・イン・モンテカルロ』とプロジェクト作が冴えまくるマーカス。今回のマイルス・トリビュートはまずCDが先行リリース。そしてDVDでは細かな動き、表情をカメラが追った2分割画面を駆使するライヴ映像に加え、特典映像として、マーカス・ミラーが語るマイルス・デイビスについてのインタビューをボーナス収録。2作とも必聴必見作です。


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