HMVインタビュー:J.Rocc

2011年4月4日 (月)

interview

J Rocc

西海岸を代表するターンテーブリストDJ集団、ビート・ジャンキーズのファンキーな社長、J・ロックが、“ミックステープでもない、DJアルバムでもない、ビートアルバムでもない、正真正銘のアルバム”と銘打つ『Some Cold Rock Stuf』をついにリリース。20年以上の経歴を持ちながら、これがデビューアルバムというのも実に意外だが、キルトのように綿密に編み込まれた入魂の超絶ドラムビートたちとは打って変わって、ゆるーくレイドバックなJ・ロックに、その想いを語ってもらった。
インタビュー/テキスト: Keiko Tsukada 塚田桂子 from the City of Los Angeles

--- いつ、どのように“ファンキー・プレジデント”というニックネームが生まれたの?

俺がビート・ジャンキーズを始めた人だったから、まあ、プレジデントってわけだよ。で、人に言わせると俺のDJってファンキーらしいからさ、そのふたつを繋げてファンキー・プレジデントになったのさ。

--- あなたの選曲やミックス・センスには絶妙なバランスがあって、キックスやスネアを重視するバトルDJ、ミックスDJ、同じBPMを使うパーティDJのいいとこ取りって感じで、それってすごくレアなクオリティですよね。どうやってその感覚やスキルを磨いたのでしょう? 生まれ持った才能? それとも練習で取得したもの?

それが俺が育った、俺のDJスタイルなんだ。子供の頃にKDAYっていうラジオ局を聴いて、87年頃にNYからよくテープを送ってもらって聴いていたんだ。DJを真剣にやり始めた頃だよ。仲のいい友達がNYにコネクションがあって、そいつに借りてダビングしてた。でもこれは練習して取得したものじゃないよ。スタジオに座って、“これとあれとミックスできるぞ!”とかって真剣に考えるのは好きじゃない。クラブに出かけて、“OK、こんな曲をかけるかな”って考えたりはするけど、選曲の背景に深い思考があるわけじゃないんだ。ただ自分が好きな曲をかけたり、他の人たちが好きな曲をかけるだけさ。

--- 『Some Cold Rock Stuf』のアートワークの中で、あなたと一緒に写真に写っている人は誰?

J・ディラだよ。秘密の写真さ。彼がDILLAっていうベルトを、俺が J ROCC ベルトを持っていてね、見せつけてるんだ。この時初めて、お互いにこのベルトを持っているって知ったから興奮しちゃってさ。イーゴン(ストーンズスロウ・レコーズのビジネス・マネージャー)に写真を撮ってもらって。最初はこの写真がアートワークの主要部分で、そこから作って行ったんだけど、大分時間がかかったよ。(ストーンズスロウのアート・ディレクター)ジェフ・ジャンクが制作して、俺が善し悪しを伝えて、また直しては持って来て見せてもらった。でもそんなに長い間言い争えなかったよ。だって彼はドープなデザインを作ってくるからね。ピンク・フロイドの『The Wall』を思い出すよね。カジモトの『Further Adventures of Lord Quas』みたいだっていう人もいるよ。このCDジャケットの中の写真は俺のホームスタジオなんだ。

--- オリジナル・ディスクの他に、何が入っているかお楽しみという”ミステリー・ディスク”なる2枚目のCDも入れるというのは、実にユニークな発想ですよね。このアイディアはどのように浮かんだのですか?

これもジェフ・ジャンクのアイディアさ。彼がこのパッケージをデザインしたんだけど、CDを入れる前に横長のパッケージを6面に作ったんだ。完成してみて、“あー、1枚のCD用にしちゃー、でかいよなー”とか言い出してさ。彼はまさに1から手作りで、切り取って、貼付けて、創り上げるんだ。これを創り上げるのにものすごく時間をかけた。で、完成してみたら2枚分のCDのスペースができちゃったから、“ヨー、ここに入れるアルバムCD、他にないのか? ミステリーディスクを作ったらどうだ?”って言うから、“じゃ、そうしようか”ってことで、またそこから6、7ヶ月かけて曲を仕上げたんだ。だから、それも全部入れたら3年かかったよね。メインディスクとアートワークとミステリーディスクでね。このミステリーディスクはパッケージによって中身が違うんだ。

--- ってことは、すべてのミステリーディスクを手に入れるまで買い続けないといけませんね(笑)。

2枚あるからね。同じ店で2枚連続同じのだったら、別の店に行けばいい。俺だってパッケージじゃ見分けつかないからさ。違うミステリーディスクを出すまでに3個開けたよ(笑)。



---このアルバムでリスナーに伝えたかったこととは?

リスナーのことは考えてないよ。俺はただ、アルバムを作っているだけ。聴けるような作品を作ってる、そうすればリスナーを得られるからな。人とは違うもの、聴き手が楽しめるような作品をね。つまらなかったり、繰り返しばかりじゃなくてね。いや、でもまじで、“リスナーにこの曲を聴いて欲しい……、きっとこの曲を聴きたいはずさ!”なんてことは、まったく考えてないんだ。

--- あなたのゴールは? 他に成し遂げたいことがあるとしたら?

もっと、もっと、音楽をやっていくこと。やりたいことがたくさんあるよ。まだ終わっていない。まだまだやることがある。リミックスも、次のアルバムもね。あと、最近じゃDJに転身するアーティストが多いだろ? だから俺は今度ラッパーになるよ。その逆を行って、DJの代わりにラッパーになるのさ(笑)。

世間が期待する”DJが創ったアルバム”という先入観を軽く超絶してみせた『Some Cold Rock Stuf』は、聴けば聴くほどに唸らされ、病みつきになり、その味わい深さが骨身に沁みる精魂込めたクラフト(傑作)だ。アルバムアートの中に広がる彼のホームスタジオを眺めながら、叙情溢れるJ・ロック・ワールドをじっくり堪能していただきたい。

新譜Some Cold Rock Stuf
伝説のターンテーブリスト・グループ、ビート・ジャンキーズの創立メンバーであり、DJ/プロデューサーとしてLAシーンを牽引し続けてきたMadlibやJ Dillaと並ぶ天才、J.Roccが遂に待望のファースト・アルバムを完成。昨年上旬にHMVオンラインに掲載した『Secondhand Sureshots』リリース時のインタビューで、本作について全曲インストで、ディスコやブレイク、ハウスを混ぜた自分のDJセットのようなアルバムになると発言しておりました。また、レーベル・サイトでも「this is not a “DJ album”. Not a “beat album”. Not a mix tape. This is an original work of instrumental hip-hop ... electronic music ... dance music ... smoke tracks ... assorted cold rock stuff.」(Stones Throwサイトより抜粋)と記載されており、彼の音楽への愛情を体現したような、オリジナルなインスト・ヒップホップ・アルバムとなっているようです。2枚組(+トラックリストの記載が無いmystery disc付とか?!)で12パネルのデジパック仕様。アルバムのイラストはGustavo Eandiが担当しており、Egonが撮ったJ DillaとJ.Roccの写真も掲載されております。