ダニエル・ホープ/エスケープ・トゥ・パラダイス
ダニエル・ホープによるハリウッドにちなむ作品集。アルバム・タイトルの「エスケープ・トゥ・パラダイス」は、ハリウッドが、亡命ユダヤ系音楽家たちにとってのパラダイスだった時代、その地を目指してヨーロッパから多くの作曲家が脱出したことに由来しています。
彼らの多くはクラシック業界から映画業界に軸足を移して活路を見出し、その才能を発揮、数多くのすぐれた作品を発表することになり、映画界における音楽の位置づけを一気に高めることにも貢献することとなります。
ここでは亡命作曲家の書いた音楽を中心に収録する一方、モリコーネやジョン・ウィリアムズ、ニューマンという現役組の音楽にも範囲を広げ、「愛のテーマ」など特に美しい旋律を持つ作品を集めています。
目玉となるコルンゴルトのヴァイオリン協奏曲は、戦後のコルンゴルトが、再びクラシック音楽の世界に戻って作曲したものですが、旋律素材は彼が作曲した映画音楽から選りすぐられており、高度な作曲技巧を駆使して全編に移植された美しい旋律と後期ロマン派風のシンフォニックな響きが特徴ともなっています。
そして同じくコルンゴルトによる「セレナーデ」は、神童といわれていた11歳のときに書いたバレエ音楽『雪だるま』からの佳品です。
また、ハンス・アイスラーのメロディにスティングが歌詞をつけた『ザ・シークレット・マリッジ』の新アレンジ版では、スティングがボーカルでゲスト参加しています。
【ダニエル・ホープの一族とパラダイス】
このアルバムのメイン・コンセプトは、作曲家にとってのパラダイスであるハリウッドの音楽を取り上げるというものですが、そこには、ダニエル・ホープの一族のたどってきた歴史への感慨も込められているのかもしれません。
ダニエル・ホープの母方の祖父母は、ポツダムに暮らすユダヤ系ドイツ人だったため、ナチから逃れて南アフリカに移住しますが、彼らの娘の夫となったアイルランドのカトリック教徒であるダニエルの父が、アパルトヘイトなどに反対する本を出版すると、ダニエルの一家は国外退去を命じられてイギリスに移住することになります。
それはダニエルが生後まだ半年の1975年のことでした。その後、4歳よりヴァイオリンを始め、英国王立音楽大学と英国王立音楽院でザハール・ブロンほかに師事。10歳でイギリスのテレビに出演し、コントラバス奏者ゲーリー・カーとショスタコーヴィチの作品を共演するなどして話題となり、翌年にはメニューインの招きにより、ドイツのテレビでバルトークのデュオを共演、これがきっかけとなってメニューインとは60回を越す共演を重ね、最後のコンサートにも出演しました。
ダニエル・ホープはソリストとしての活動のほか、室内楽にも熱心で、2002年からは歴史あるボザール・トリオのメンバーとなり、2008年のグループ解散までプレスラー、メネセスらと共に名門トリオの有終の美を飾っています。
今回のアルバムは、こうしたダニエル・ホープの幅広いキャラクターをよく示すもので、パラダイスへの思いと、そのパラダイスを支えた音楽が並び、ユダヤの豪族の息子の話である『ベン・ハー』の愛のテーマに始まり、そして名画『カサブランカ』で一躍有名になった「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」で、どんなに時代が変わっても変わらない大事なことは何かと訴えかけて締めくくられるという構成になっています。(HMV)
【収録情報】
● ローザ(1907-):『ベン・ハー』〜愛のテーマ
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
アレクサンダー・シェリー(指揮)
● コルンゴルト(1897-1957):ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.35
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
アレクサンダー・シェリー(指揮)
● カステルヌオーヴォ=テデスコ(1895-1968):海のささやき
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
マリア・トッテンハウプト(ハープ)
● アイスラー(1898-1962):シークレット・マリッジ
スティング(ヴォーカル)
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
アレクサンダー・シェリー(指揮)
● ローザ (1907-):『エル・シド』〜愛のテーマ
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
アレクサンダー・シェリー(指揮)
● ツァイスル(1905-1959):メニューインズ・ソング
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ジャック・アモン(ピアノ)
● ワックスマン (1906-1967):愛しのシバよ帰れ
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ジャック・アモン(ピアノ)
ベルリン・ドイツ室内管弦楽団五重奏団
● ユルマン(1903-1971)&ケイパー (1902-1983):涙のヴァイオリン
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
マリア・トッテンハウプト(ハープ)
ジャック・アモン(ピアノ)
ベルリン・ドイツ室内管弦楽団五重奏団
● ヴァイル (1900-1950):スピーク・ロウ
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
アレクサンダー・シェリー(指揮)
● コルンゴルト(1897-1957):セレナーデ
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
アレクサンダー・シェリー(指揮)
● ローザ(1907-):『白い恐怖』〜前奏曲と愛のテーマ
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
アレクサンダー・シェリー(指揮)
● モリコーネ (1928-):『ニュー・シネマ・パラダイス』〜愛のテーマ
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
アレクサンダー・シェリー(指揮)
● ジョン・ウィリアムズ(1932-):『シンドラーのリスト』〜テーマ
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
アレクサンダー・シェリー(指揮)
● ニューマン (1955-):アメリカン・ビューティー
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団
アレクサンダー・シェリー(指揮)
● ヘイマン(1896-1961):世界のどこかで
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
マリア・トッテンハウプト(ハープ)
ジャック・アモン(ピアノ)
ベルリン・ドイツ室内管弦楽団五重奏団
● ハップフェルド(1894-1951):アズ・タイム・ゴーズ・バイ
ダニエル・ホープ(ヴァイオリン)
録音時期:2013年1月、2013年4月
録音場所:ストックホルム、コンサートホール、ベルリン、テルデックス・スタジオ
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)