優れたピアニストでもあった作曲家ドホナーニが書いた作品を、
彼が所有していた歴史的ピアノで演奏した1枚
ハンガリーの作曲家エルンスト・フォン・ドホナーニ(ドホナーニ・エルネー)は優れたピアニストであり、楽器の発明や改良にも強い関心を持っていました。彼はとりわけ半円を描くように湾曲した鍵盤を備えたピアノが気に入り、1909年から1910年頃にはこの楽器の推進者となりました。この方式の鍵盤は、高音、中音、低音のどこを弾く時も体の中心からの距離がほとんど変わらないため、体を動かすことなく演奏できるのがポイントで、1820年代に開発されると、オーストリア、ロンドン、ドイツで競って実用化が行われた後、オーストラリアの音楽家・発明家のフレデリック・クラッサム[1869-1934]が1907年12月に特許を取得しました。クラッサムは1908年末もしくは1909年初頭にベルリンで新楽器を発表するとともに、著名ピアニストやピアノ・メーカーに協力をもちかけ、ドホナーニも有名なピアノ製造社「イバッハ」製の楽器を演奏、普及に尽力しました。その後、各地の音楽大学に納入される予定でしたが、実際に購入されることはほとんどなかったようです。
ドホナーニ自身はこの楽器を長らく愛用し、1910年10月の室内楽演奏会から、1913年4月に開催された演奏会に至るまで、プログラムとレビューには「ルドルフ・イバッハ社のクラッツァム鍵盤付きのコンサートグランドピアノを使用」との注釈が載っていました。 このアルバムに収録された作品は第一次世界大戦前に作曲されたもので、この独自のピアノを念頭に書かれたものと推測されます。
ソフィア・ギュリバダモヴァが演奏するのは、1910年製ベーゼンドルファー社製の楽器。同社はドホナーニのために2台のクラッサム鍵盤付き楽器を制作したとされており、1台は自宅用、もう1台はコンサートに用いていたと彼の2番目の妻エルザが語っています。自宅用の楽器は彼の死後、リスト音楽院の教授フェレンツ・ファルカシュの手を経て現在はブダペスト音楽史博物館に所蔵されています。当録音に際してレストアが行われ、そのユニークな外観とは別に、あたたかみのある響きが作品に絶妙にマッチしています。(輸入元情報)
【収録情報】
● ドリーブ/ドホナーニ編:バレエ音楽『コッペリア』〜ワルツ
● ドホナーニ:ハンガリーのクリスマスの歌によるパストラーレ(1920)
● ドホナーニ:古い様式による組曲 Op.24
1. Prelude :Allegro
2. Allemande :Andante espressivo
3. Courante:Vivace
4. Sarabande:Adagio
5. Menuet:Allegretto
6. Gigue:Presto
● ドホナーニ:ハンガリー民謡による変奏曲 Op.29
● ドホナーニ:3つの小品 Op.23
1. Aria
2. Valse Impromptu
3. Capriccio
● ヨハン・シュトラウス2世/ドホナーニ編:喜歌劇『ジプシー男爵』〜宝のワルツ
ソフィア・ギュリバダモヴァ(ピアノ)
使用楽器:1910年製ベーゼンドルファー、クラッサムの湾曲鍵盤付き ブダペスト音楽史博物館所蔵
録音時期:2022年7月19-21日
録音場所:ハンガリー、ブダペスト音楽史博物館
録音方式:ステレオ(デジタル/セッション)