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Pianist さんのレビュー一覧 

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     2011/06/07

    演奏はともかく収録内容とジャケットのデータ表記にいくつか疑問あり。1950年7月の「ジュネーヴ放送」の録音だというワルツ集はEMIのセッション録音で、確かにジュネーヴ放送局での録音だが、この表記だと新発見の放送音源かと誤解してしまう。続く二枚目のもう一種類のワルツ集は1950年2月7日のライブだというが、どう聴いてもブザンソン告別コンサートと同じ。50年2月7日というのはアッカーマン指揮のショパンのコンチェルトがライブ録音された日付なので、単純な記載ミスだったのかもしれない。1947年9月の録音だというワルツ第二番にも疑問がなくはないが、バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」のように別録音で演奏時間もほぼ同じという例もあるので、詳しい研究者のリポートを聞きたいもの。リパッティは残っている録音が少なく、主だったものは既にEMI、Decca、アルヒフォンなどで出ているが、ショパンのコンチェルトの演奏会のアンコールの内、ノクターン八番は初出かな…という気もする。演奏そのものはリパッティならではの美音とセンスに満ちたもので問題なし、素晴らしいものばかり。だがこうした歴史的録音は詳細なデータや確実な音源を、精査の後にリリースしてほしい。Andrmedaはおおむね良心的なタイトルを出しており、フルトヴェングラーの戦後HMV録音を独自にリマスターしてセットにしたりもしているが、このリパッティ集もその系統。音質については水準医あるが、EMI盤との差は好みによる。価格を考え合わせるならお買い得だが、ちょっと混乱させられ、録音の少ないリパッティゆえにデータの記載違いがフルトヴェングラー以上に「もどかしさ」を感じさせられた。

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     2011/05/24

    何と素晴らしい名演。月並みな書き方しかできないが、正にそうあるべき名演奏なので仕方がない。クルト・トーマスに関心を持ち、その偉大さをはっきりと聴き取ったのがこのカンタータ82番だった。キリッとした造詣、厳しさと同時に対照的な温かさと包容力を持つ演奏。H.プライの歌い口も見事。かつて国内盤ではEMI系からリリースされ、最近でもEMIのH.プライ集成のコフレBoxではこの82番が入っていた。それほどの違いはなかったが、EMIの方が僅かに音が明瞭かな…という気もした。世評高いリヒター盤よりも上位に置きたい一枚。作品そのものの素晴らしさを伝えてくれ、聴く者に無常の感動を与えてくれる。こんな作品、レコードは決して多くはない。この上はクルト・トーマスのDecca時代の大曲を再発して欲しいし、トーマス・カントル時代のコンサートライブもCDリリースを期待する。オーケストラやオペラに比べて、バロック期の宗教曲の往年のライブなど滅多にCD化されないのが残念。日本でも放送されたという1960年の「マタイ」など是非聴いてみたいのだが…

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     2011/05/09

    出来不出来の差が大きすぎるが、それでも面白いセット。バッハの序曲は昨今のオーセンティックを先取りしたようなテンポ設定が心地よいものの、トリルの扱いが大味で違和感あり。それでもフーガに入ると力感と流れのよさが同居した「リヒター系」のスタイル。と思いきや、第二曲以降は重々しくて、往年の大指揮者のようなバッハになってゆく。モーツァルトの40番も、最近では聴かれなくなった「レガート奏法・充分ヴィブラート」つまり最近の傾向と真逆をゆく演奏で、聴いていて気恥ずかしくなってくるが何となく懐かしくもある。しかも全楽章リピートありなので、大規模シンフォニーのような時間表示になっている。そしてここが面白いのだが、楽章によってそのリピートが不自然に感じられない場合もあり、これは作品というよりも演奏の出来具合によるものと思われる。続くハイドンも45番は佳演。94番は重ったるい… と、演奏の良いものとそうでないものの開きが大きい。室内楽団ということだが、オケのサウンドはそれなりに見事で、重量感さえ感じられるものもある。旧体制下では、小さなオケでも十分な技量を持った人たちが散在していたのだと想像され、自由化以後は有能な音楽家が大都市、メジャーオケに集中し、その代償として地方色豊かなオケが消えてしまったということもある。そんなことも考えさせられたセット。バルシャイは歳晩年、もう確実な棒が振れなくなり、オケに文句ばかりつけていた時期に聴いただけで、CDも自身アレンジのマーラー10番を聴いたのみ。このセットも誰にでも勧めるわけではないが、この価格からすれば色々聴けて面白いし… と思ったので4つ星。

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     2011/04/11

    何よりクルト・トーマスに関心があってこのセットを手にした。聖トーマス教会のカントルとしてバッハから連なる伝統を誇るコーラスだが、クルト・トーマスは1957年からその任にあり、高水準の演奏を続けたが政治的なやり取りの波にもまれ、結局四年間でカントルを辞し西側に移って活動を続けた。東独はこの一件に関してクルト・トーマスの在任の実績を抹消し、当時の記録では前任のラミンからトーマスの後任へとつながっていて、その四年間は空白になっていたという。そしてトーマス在任中に演奏されたマタイ受難曲を放送したNHKの音楽部ディレクターだった成澤玲子女史は「トーマス以後の聖トーマス教会の演奏は無残なものばかりで、却ってクルト・トーマスの偉大さが印象付けらてしまった」と書き残されている。こうした実情を知ってからこのセットを聴いた訳だが、結論から言うと成澤女史の言葉はマトを得ており、クルト・トーマス指揮の三枚を聴いて後、プレーヤーにセットしたマウエルスベルガーの演奏を聴いて仰天、正に天と地ほどの差がある。とにかくトーマス指揮のカンタータは素晴らしい。新カントルは平板でフレージングにも生気が無く、これは下手に古楽奏法を取り入れようとした推移期ゆえか…と思ったが、あまりに薄っぺらでひどいので途中でやめてしまった。更に後のハンス・ヨアヒム・ロッチュの演奏になると録音の技術も向上、またコーラスの基本的テクニックも上達しているらしいのだが、あまりに表面的な美感のみに囚われている嫌いがあり、少なくともトーマス盤に感じられた叫びや表現のコントラストが気迫。ただトーマス指揮のカンタータは独唱カンタータが多く、聖トーマス教会のコーラスそのものの水準には一概に言えない所もある。確かにモテット集はカンタータほど優れた演奏ではなかった。 クルト・トーマスのバッハ演奏にはリヒターに通じる知的さ、音楽に対するひたむきさが具体的に音の勢い、テンポやフレージングに現れている所に特徴があり、その点ではリヒターのバッハ演奏に通ずる。こうしたスタイルでは平板な演奏に終わりかねないが、そうではないことが後任のカントルの演奏との比較ではっきりする。しかし実際にトーマスの演奏に感心した背景の何パーセントかは、上記成澤女史の本などから得た予備知識、それも純粋に音楽上、演奏上の問題ではなく政治的茶番に巻き込まれた不幸な経過を知っていたので、いく分かはひいき的な聴き方があったかもしれない。そして実際演奏の比較に当たってはブラインドテストをした訳ではないのだから、最初から「これがトーマスの指揮だ」という前提で聴いてもいる。しかしそれを踏まえたとしても「トーマス肯定の多くの証言に大いなる確証を持てた」くらいは言ってもよかろう。特にH.プライをソリストに迎えたカンタータ82番は絶世の名演奏。個人的にはリヒターよりも優れているのではないかと思う。かつてこれらの音源は国内ではEMI系から発売されていた。最近出たプライのEMIボックスにも同演奏が収録されているらしい。 こうした貴重な旧東独の音源をリリースしているベルリン・クラシックスだが、似たようなBoxセットをいくつも出して、重複が多くて困る。二つのセットを買ってほとんど同音源…では困るし、明快な意図のリリースを願う。また1950年代に録音されたというクルト・トーマスのバッハの宗教曲、ロ短調ミサなどが復刻されること、カントル在任中の公演ライブがCD化されることを願っている。

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  • 6人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/03/01

    演奏についてはもう様々に語られているので、ここでは既発盤との音質比較。1960年の「パルシファル」はLP時代にはMelodramから登場したものの、Golden MelodramではついにCDリリースされないままだった。代わりにGalaレーベルのディスクで聴くしかなかったが、これはLP起こし…と思えるような33回転スピードの周期ノイズ混じりのCDだった。今回のMyto盤はまったく別物の見事なクオリティで、1960年のバイロイト録音としては十分に水準にあり、初めて聴く方にも既にGala盤をお持ちの方にもMyto盤をお勧めする。クナの「パルシファル」はGM盤及びWalhall盤(57年)で揃えたものの、音のクオリティでは年度により不満を抱かせるものもある。最近は公有期間の経過を待って更に良質な音源でCD化される傾向があるので、56、58年盤あたりを買い直してみようと思い立った。それだけ認識を新たにさせられた今回の60年盤の再発だった。評価は音の改善の度合いに関して。個人的にはクナのバイロイトでの「パルシファル」は59年盤と61年盤に愛着がある。62年のフィリップス盤も不滅の名演奏・名録音であるのに間違いは無いが、クナの61年(だったか)の大病前後での「パルシファル」では与えられる印象に少なからぬ差があるので、勢いと統率力に気合いの(より)こもっていた61年までにステレオで録音されていたら…と思う瞬間もある。いずれにせよ歴史の流れとバイロイトの変転を併せ、クナの圧倒的な「パルシファル」を聴き比べる事ができるなど、何という贅沢。

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  • 4人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/02/20

    ジャケットの表記に少々問題あり。まずこれらは1982年4月に日本で録音され「珠玉のバッハ名曲集」としてLP・CD二枚で出たものからの抜粋。基本的に上記の一枚分が全曲収録され(曲順まで同じ)、それにもう一枚からのイタリア協奏曲がカップリングされたもの。またブゾーニ編の「フーガ」ロ短調とあるのは、有名な「小フーガ」ト短調の表記違いで、全音ピースから出ている高橋悠治の編曲。これはミスタッチさえも美しく聴こえかねない情感のこぼれる様な哀しさが印象的。メロディアからのライセンス再発…というよりもビクターの国内製作、ニコラーエワ来日時の日本録音といった方が適切。演奏は非常にロマンティックで、ペダルの多様、メロディーラインの重視… しかし節度と品格、ドラマティックさが同レベルで存在し、日本人の心情にピッタリと合う(これは指揮者ワルターへの賛辞だが)心地よく美しいバッハ(編曲作品)の数々。日本録音の平均律(上下巻)はちょっと付き合うのがしんどいが、これらの小品は本当に素晴らしい。初出LPで聴いて以来、国内盤CDで愛聴し続けた一枚だった。このRegis盤は1980年録音という表記に疑問を抱きながらも安価なので買ってみたが、結果はやはり既に所有していたものと同一だった。別店では国内盤で二枚とも買えるはずだがHMVでは取り扱われていない。名曲揃いの「珠玉…」が全曲聴けるし、BGMとしても最高なので、愛好家の方にもビギナーにも、美しい音楽を聴きたいというファンにもお勧めする。Regisレーベルでリリースされるにあたり新マスタリングがされているらしいが、オリジナルのビクター国内盤と比べると音のエッジが少し丸くなっているように思うが、これはハイを上げればよい。

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  • 1人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2011/02/18

    ホロヴィッツも没後20年が過ぎた。DGへの移籍、「最後のロマンテイスト」のビデオとLD、モスクワコンサート…といった過程、(今や)歴史をリアルタイムで経験し、その都度新リリースのレコード・CDに注目せざるを得なかった世代にとっては何とも感慨深いセット。こうしたポップなデザインの廉価ボックスにまとめられる様になったのか、と思うと正に隔世の感。このセットで3000円前後だが、これはかつての国内盤CD一枚の価格である。先年出た六枚組より安価だし、DVDとCDのセットに収められていた未公開録音のボーナストラックも収録されており、お買い得である。「アット・ホーム」以外は所有していたが、今回のボックス化で迷わず購入。ソニーの70枚ボックス、EMIのレコーディングと合わせれば正規盤はコンプリートになる。さて演奏そのものはホロヴィッツが好きか苦手かで決まりかねないが、マジックのような、珠の転がるような美音は残念ながら現存のピアニストからは聴けない魅力あふれる独特なもの。音楽作りは時にホロヴィッツ流の誇張や内声の強調、崩し(崩れ?)が耳につく物もあるが、それでもマズルカOp17-4やスクリャービンなど、これで聴き慣れてしまうと他の演奏が生ぬるくしか感じられないほどにホロヴィッツにぴったりと合った曲目もある。あまり評価の高くないモーツァルトの協奏曲も、しかしながら時に忘れがたい瞬間もあり、他では聴けない輝きをちらつかせるユニークな演奏。大体において1950年代にも録音されている曲目(バッハ、ショパンのスケルツォ、スカルラッティ等)は以前の録音の方が腕が立ち、勢いもあって好印象。晩年のDG盤では衰えや散漫さ、誇張が気になる。生涯最後のハンブルク・コンサートは普通。と言うよりも晩年のホロヴィッツはこのボックスで聴ける曲目を、組み合わせを変えて世界中で演奏していたため曲目に新鮮感がないせいもあるかもしれない。新リマスターが施されている訳ではなさそうだが、ブックレット後方にMastered by ベルリナー・スタジオとの表記あり。ざっと聴いた印象では旧盤と目立った違いはなかった。それぞれオリジナル・リリース時のデザインジャケットに収められているが、最初の四枚はLPデザインのもの。単なる感傷かもしれないが、LPジャケットの方がレコードの持つ愛想が良かったように思う。せっかくのホロヴィッツのDGコンプリートなのだから、贅沢を言わせてもらえるならメータとのラフマニノフの協奏曲第三番、ウィーンでのリサイタル、モーツァルト協奏曲23番のセッション、どうせならラスト・ロマンティックやモスクワコンサート、ロンドンコンサートに83年の日本公演(…は契約上ちょっと無理か)などの映像ソフトもまとめて欲しかった。せっかくのラフマニノフの協奏曲がずいぶん長い間入手できなくなっているのが残念。そうなると価格がハネ上がるかもしれないが。

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     2011/01/21

    熱演であることは間違いない。もともとユースオーケストラを指揮・指導することの大好きなアバドだし、アバドが望んだ音楽性とオーケストラのメンバーの熱意・意欲が相乗効果となって、このような大変な力演となったのだろう。ただし世界の名門オーケストラの持つ、細やかな音色や美感という点では必ずしも満足の行くものではなく、音楽の完成度の点で遜色があるとしたら、それはそれと認めなければならない。スキタイ組曲、「ルル」そして悲愴と、これまで期待されながら映像ソフトとしては接することのできなかったアバドの重要なレパートリーを、ようやくその指揮姿とともに聴けるようになったのは有難いが、これがVPOかBPOだったらな…という気がしなくもなかった。しかしそれぞれの作品のクライマックスでは、生き生きとした音の波に呑まれるようで、そうした迫力ではさすがに祝典的な場に相応しい、若い世代の音楽家達ならではのノリと感興の盛り上がりが聴ける。なまじなプロの冷え冷えとした演奏よりはよほど魅力的。スキタイ組曲はCSOとのDG盤以来だが、異様な大編成の豪快な曲でもあり、残念ながらDG盤のサウンドは精緻にまとめられたもので、演奏そのものは見事なのに、スピーカーから聴こえてくる音には今ひとつ迫力が無かった。このDVDはそれらの反証として有利。ルル組曲はLSO、VPOとの録音がともに見事で、第一曲の始まりから惹き入れられる官能美と、むれるような香水の薫香を思わせる音色が聴きものだった。今回のDVDでは何だかテンポが上がった分、あまりにスイスイと流れが良すぎて、期待したほどの感激は無かった。アバドの指揮ぶりもソツがなく、スムースだが味の濃さでは以前の名演より聴き劣りがするような… それに組曲ではルルの「死の叫び」は無い方がいいと思うのだが。悲愴は1970年代録音のVPOのDG盤の清々しい感動よりも更に成熟し、重厚になった音楽作りが聴けるが、個人的にはDG盤の方が好み。ソニー盤は録音がひどかったし、演奏も曖昧な雰囲気だったが、今回のDVDは、最近出たザルツブルクライブのBPOとの演奏とともに、もう一度聴き直してみたい。しかし悲愴の最後も照明を落とすのはどうかな? マーラーの第九のフィナーレならまあ何とか分かる気もするのだが、悲愴にまでこの演出は… と思わなくもない。いずれにせよ重要な曲目のアバドの指揮ぶり、熱く厚い、濃いタイプの演奏がお好きな方には勧められる。興奮度は高いが、感激と興奮とは異なるし、総合評価としては普通。

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     2011/01/20

    新リマスターのベートーヴェンは、伊EMI盤のような鮮烈さは無いものの、逆に安心して聴けるようになったという気がする。ステレオ・プレゼンスも少なめのようで、1984年に国内で最初に出たCD盤の音(の傾向)に戻ったのではないだろうか。その分落ち着きすぎてしまって、一新されたクオリティの音を期待していたファンには「ちょっともの足りない」と思われるかもしれない。伊EMIの音が耳に残っているせいか、今回のベートーヴェンはヴェールをかけられたような、ソフトな印象があるが、本来こういうものだったのかもしれない。ただし第九は各種の国内盤(TOCE-6510)などと比べても曇りがちの音がもどかしく、アンプで相当ハイを挙げなければならない。「足音」部分も微妙に日本盤と差異があるような気がするし、日本盤に聴かれた「足音」と演奏開始の間の編集形跡も聴き取れない。もともとこういうものであったのか、今回のマスタリングの際に修正されたのか… 技術革新が逆に疑問を誘発するのは53年5月末の第九の別演奏登場時と似ている。期待の第七は従来盤とほとんど変わらない。女性の声も処理されて聞こえにくくなったものの、やはりテープには入っていたようだし、無理して処理しなくてもいいのに…という気がした。51年SP録音の皇帝はARTのようだが、51年のSP録音で、ノイズを削るためかやや不自然な音作りで、水蒸気の中に漂うような(伊ウラニア盤的な)膨らんだ残響が少々気になる。これだったら最初のリファレンス盤そのままの、ノイズを残した音の方が好感が持てた。ブラームスの交響曲も明らかな音質改善というよりも、これもまた「安心して聴ける無難な線に落ち着いた」印象。曲によっては別盤CDや、かつてのLPの方がクッキリした音だったような気もする(ちなみに添付のブックレットでブラームスの2〜4番のオケがVPOになっているのは誤植)。新リマスタ以外も、R.シュトラウスは1994年リファレンス盤発売時と同じリマスターで、これは後にART盤として再発、「悲愴」は1993年、おそらくは海外盤で「ベルリンフィル100年記念」のセットや、最近の歴代BPO指揮者セットの中に含まれていたものと同じで、ほどなく国内で発売されるSACDの新復刻とは異なるのでしょう。第三楽章の真ん中あたりでガクンと音量が下がるのはちょっと耳障り。国内盤に期待。リファレンス盤で出ていた「フィデリオ」など、新たに手を加えなくても立派な音がしています。生誕125年を記念するセット登場としては大歓迎、但し何かもうひとつ物足りない気がするのは、せっかくのEMI系の集大成なのだから、いっそのことTestament系や、日本で出るSACD音源(ブルックナーなど)も含めたコンプリートBOXにして欲しかったこと、フランス協会ではすべてLP復刻された49年ブラームスのハイドン変奏曲の別テイクなどの特典が欲しかったこと、「トリスタン」録音時のリハーサルが数分でも残っていないのか、バイロイトの第九の無編集テープがEMIに残っていないのか、従来盤バイロイトとの比較ができるような試みなど、まだまだファンを喜ばせるような可能性があったのに…という気がするため。とにかく久しぶりに海外盤での信頼の於けるフルトヴェングラーのセットが(やっと)出たことに感謝。しかもこの値段。かつては一時に40枚も買い込むなどということは考えられなかった。いい時代になった。嘘か真か(期間)限定盤という声も聴かれるので、ファンなら迷わず購入を勧めます。

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     2011/01/11

    初出時にLPで聴いて以来の、自分にとっては「説得力と存在感のある悲愴」だった。最近長らく聴き返さないままだったが、今になってみると確かに微妙な崩れや、カラヤンの統率能力の衰えが耳につきかねない演奏だと思い始めた… しかしここまでギスギスした響きの演奏だったかな?と国内盤を取り出してみたら、全く違ったソフトなタッチの音が聴こえた。残念ながらカラヤン・ゴールド盤のこの「悲愴」の新マスタリングは失敗例だと思う。演奏から得られる印象がまるで違う。このゴールド盤(OIBP盤か)の過剰とも思える明瞭さが、逆にアンサンブルの甘さや崩れを誇張してしまっている。管楽器をやたらに強調したバランス感も妙だし、これは通常盤で聴いた方がよいのではないだろうか。しかしこれも聴き手の受け取り方・聴き慣れ如何で「フォーカスの甘いものを芸術的だと有り難がっている」という批判も有得る。しかしセンチメンタルな事を言えば、かつてLPで聴き親しんだ感激と印象が、このゴールド盤からは聴き取れなかった…くらいは言わせてもらってもいいのでは? 国内盤では黒田恭一氏が、この演奏から受ける重々しい印象と、対照的にそれほどテンポが遅いわけではない演奏時間との差異を論じておられたが、それも懐かしく思い出される。1976年のDG盤よりははるかにこのVPO盤の方がいいと思う。演奏は4つ星、但しこのゴールド盤の音質は2つ星。

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     2010/12/26

    「バイロイトの第九」に負けず劣らずの魅力・意義・歴史的価値のある天下の名演奏… なのにフルトヴェングラーに比べて板起こし競争などほとんど起こりそうもないが、このトスカニーニのヴェルレクにも「バイロイトの第九」のようにいくつかの疑問点がある。その疑問点を提示してくれた(きっかけとなった)ディスクとしてこの蔵盤は興味深かった。まずこの演奏はヴェルディ没後50年の記念演奏会ライブであり、基本的には一回公演の録音で、レコード化に際してはRCA収録ではなくNBCの放送テープが使用された。しかしただ一回のコンサートゆえに演奏ミスもあった訳で、レコード化に際してゲネプロのテープが編集の素材として使われた。過去の演奏家の名誉は尊重されるべきだが、そのほとんどの演奏ミスはソプラノ独唱によるもので、この難曲の最後のクライマックスに高音を要求される困難なパッセージ、絶妙なアンサンブルと「入り」のタイミングなど、レコードとして繰り返しの聴取には少々耳につくものだった。ネルリは絶対音感がなかったか、おそらくは暗譜で歌ったようで、重要な部分に外れた音を歌い、「入り」を間違えて演奏の混乱を招いている。RCA盤レコードの発売に際しては、これらの耳障りな部分がすべて修正され、今聴けるRCA系のディスクでは最後のア・カペラの部分で明らかに音場感や響きの感触が変わるなど、編集の形跡が聴き取れる。この蔵盤では曲の最後のクライマックスの後でソプラノが「リベラ・メ」の入りを間違えているが、現在のRCA系CDにはそのミスがない。おそらくは複数回に分けて修正されたか、米盤英盤で編集に差があったのだろう。こうした経緯が分かったのは下段に希望したとおり当日のそのままのライブが、しかも偶発ステレオで聴けるようになり、中継されたまま、当日演奏されたままのこの名演奏が聴けるようになったからだった。偶発ステレオのプレスCDによる商業盤化を望みたい。演奏ミスはあっても、この演奏の持つ力と魅力は永遠に色褪せることはない。戦後のトスカニーニに否定的な声もあるが、このヴェルディのレクィエムは絶対的な魅力がある。蔵盤そのものへの評価は下段と同じ。RCAによるますます良好な復刻が出ている以上、以前のLPがそれらを駆逐するほどの良好な音を聴かせるとは思えないし、実際この演奏に対する認識が変わるほどのインパクトはなかった。演奏そのものはもちろん五つ星。

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     2010/10/11

    ブランドとしてのベートーヴェン(をはじめとする交響曲)演奏を確立、繰り返していた時期のライブ演奏で、DGのセッション録音では聴けないコンサートならではの感興とアクシデントも含まれたドキュメント。第七冒頭のオーボエのミスは確かに大変!つられて他楽器が戸惑っているのが聴こえるのもご愛嬌。さてテーリヘンとフォーグラーの確執・対照が話題になっているようだが、確かにこの演奏で聴ける(特に第四)のテーリヘンには時に疑問もある。バカデカイ普門館で、普段とはまるで違う音響効果、打楽器奏者にとって最大のプレッシャーである「出」のタイミングが今ひとつ取り辛かったのが、遅れにつながった可能性もある。しかしだからと言って「フォーグラーの方が上」というのはあまりに短絡的。70年以降のDGセッション録音でフォーグラーが重用されたために、常にティンパニ協奏曲のようなバランスや音質の交響曲録音が増えたが、聴き方によってはフォーグラーの音はあまりに機械的で、他楽器との解け合いよりも、打楽器としてのインパクトのみが先走っている違和感がある。カラヤン/BPO(そしてフォーグラー)のレコードゆえに、こうしたバランスや音作りを「クールだ!」と感じるようになった向きが多いが、放送ライブ系で聴けるフォーグラーには、「テン!」と音程さえ十分に聴こえない、ただの効果音のような下品な響きを聴かせるものも少なくない。それに比べればテーリヘンはあくまでティンパニを旋律楽器として扱っており、決め所も的確に抑えてバランスが良い。1960年代のDG最初のベートーヴェン全集での「第五」、NHKの日本公演DVD、そしてこの77年版の第七(特にフィナーレ)でテーリヘンの至芸が聴ける。川口さんの「証言・フルトヴェングラーかカラヤンか」の中で、共に「フェアさ」を失い、幾分感情論に走っているのが、この対照的なティンパニスト二人である。テーリヘンがフルトヴェングラーの薫陶を受け、作曲や指揮、叙述にも才能を発揮したのに対し、フォーグラーはあくまで打楽器奏者だった。この二人の不仲は有名で、晩年たびたびNHK響にティンパニ奏者として登場したドレスデンのP.ゾンダーマンも「この二人は仲が悪かった、まるで殺し合いだった」と顔をしかめていた。邪推ではあるが、アバドがフォーグラーをルツェルン祝祭オケに呼ぼうとせず、またドキュメンタリー映像の中(田園)で、ティンパニの音量を下げさせているのを見ても、カラヤンに重用されたフォーグラーのプライドと限界が見えるような気がする。 さて、この77年の演奏はエアチェックテープを基にしたと思われる全曲ライブの「全集セット」で出ていたが、このセットでは当時テレビ放送のみだった第五・第六、収録に問題のあった第九は別の機会の演奏で補われていた。しかし音質は正規盤である今回のFM東京盤が各段に優れ、比較の必要もない。カラヤンとしては没後に登場した別の第七に更に優れたものがあったと記憶するので、星四つ。明確にテーリヘンと判断できる第七が聴けたことには大いに感謝。

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     2010/09/04

    CD化への期待大だった高橋悠治のメインストリーム盤「ヘルマ」が、ようやく聴けるようになった。ユニークな試みというべきか、LPのジャケットがそのままコンパクト化され、往時を偲ぶこともできる。初めてこの演奏を聴いた時には、そのあまりの鮮烈さに息を呑み「演奏中に爪が飛ぶ」と高橋自身が本に書いていたのも頷ける、と感じた記憶がある。LPでだったが、後年のデンオン盤と聴き比べて「比較にならない」とまで感じた覚えがあるが、今日では既出のデンオン盤とそれほどの「鮮烈さ」の差異がある訳ではなかったな、と再録音盤の魅力・存在感にも気付かされた。LPを聴く手段がないままここ何年かを過ごしているが、「エヴリアリ」と共に部屋の片隅で大人しくしているメインストリーム盤LPを久々に堪能できた。黛の涅槃も大収穫。東芝盤(同演奏)とは音の傾向が異なる。妙な擬似ステレオ傾向は両盤とも同じで、オーケストラの音が水蒸気の中に漂っている感じだが、東芝盤のテープヒスが目立ちHS2088特有の音の硬さ、音像の小ささ… それゆえのクリアさのかわりに、ここではより軽めのタッチで素直で実直な音が聴ける(多少古びを感じさせるが)。鬼のシュヒターが必死になって棒を振ったという伝説的なN響によるごく初期の涅槃。歴史的価値、演奏史ともに重要なもの。東芝盤が入手難なので、ファンならばとりあえずこのセットを聴かなければ! 当時の現代専門のレーベルにはありがちなことだが、マスターテープ消失のため音源は全てLP板起こしだという。フルトヴェングラーのメロディア盤復刻…などに比べればパチプツノイズもほとんど耳につかず、まず鑑賞には問題はない。しかしNaxosのLP板起こしでオバート・ソーンが聴かせるような「レコードコピーを感じさせない音作り」とまでは行かないようだ。内容は強烈なものとして推薦できる。あの時代の現代作品の演奏には、何とも言えぬ「気概」が実際に音に現われていて心地よさを感じさせる熱演が(東西を問わず)多かった。このアール・ブラウンのセットは内容を見ながらひとつずつオーダーしていきたい。

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     2010/06/20

    国内では二度目のDVD化。最初のリリースの時も思ったが、かつての日本版ビデオでさえ84分あった本編がこのDVDで78分!かなりのホットパートがカットされているのだが、それでもちょっと刈り込みすぎではないだろうか。海外では公開版(82分)そのままとディレクターズカット版が二枚組になったセットが出ているが、オリジナル版(95分)は公開版とはかなり異なった作りになっている。オリジナル版の方がより説明的で、わずかながらストーリーの展開(というよりこれまでの公開版で目にしていた断片的シーンの意味)も理解しやすい。それほど重要でないたるんだシーンも多いし、元々はここまでエゲツない性描写もあったのかと少々呆れもする。これに比べると劇場公開版は、短く刈り込まれた故の凝縮力と緊張感があるが、いかにもイメージビデオ的なものになってしまっている。具体的な物語の動き・展開がほとんどないので、音楽史上のパガニーニを既に知っている人々が、その人間像やエピソードを回想しながら観てゆかねばならない。どこかのサイトにあった「全編ほとんど馬車旅行シーンと脈絡のないホットシーン」というのもあながち外れではないが… ついでにいつもながらのキンスキーの怪演ぶり、パガニーニとのある種の近似性・類似性をその破天荒な生き様と肉慾の表現に見出すこともできるのではないだろうか。こうしたキンスキーの姿・主張をみるとやはり現行の日本版DVDは映画の魅力(…というか意味合い)や特性を削り取られてしまっている。日本版ビデオ84分・ドイツ版DVD82分・ディレクターズカット版95分・この日本版DVD78分。ちなみにディレクターズ版はあくまで特典的なもので、画質もはるかに劣る。二つ星の評価は国内盤DVDに対して。映画自体も、万人に勧められる名画…とは言えないが。

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     2010/05/11

    最初のアリアはなめらかに始まったが、その後は一転してグロテスクとさえ言えるような凄まじい変奏が(最後まで)続く。チェンバロ作品というよりまるでオルガン曲の雰囲気を目指したのかとも思った。重々しいオクターヴ、荘厳ではあるが重ったるいテンポ、ドキリとするような大胆なミスタッチと取りこぼし… 晩年のリヒターの遺産としては重要だが、これはせっかく数々の唯一無二のレコードで普遍的な感動を与えてくれたリヒターの印象を曇らせかねない不思議な記録ではないだろうか。TDKの同シリーズで出ている同じ年のオルガン独奏会は見事な出来なので、リヒターにはオルガンの方が合っていたのかとも考えたり… 一度聴いてものすごく疲れた。決して快い疲れではなかった。付き合うのがしんどかった。研究的な意義意外では、もう当分聴かないだろうと思う。

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