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meji さんのレビュー一覧 

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  • 2人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/05/01

    オケ版はアシュケナージ編曲とされているが、実際にはラヴェル編曲にアシュケナージが手を加えたものと考えるべきである。録音はJ・ダンカーリーで会場はキングスウェイホールとくれば、めくるめく超ハイファイ録音を期待したが、スピーカーが出てきた混濁気味のサウンドにがっかりした。尤もこれはエンジニアの問題ではなくアシュケナージによるオーケストレーションに責があると見てよいだろう。アシュケナージの編曲は音量のさらなる拡大を狙ってか、旋律をいくつもの楽器で重ねる傾向があり、おかしなところで打楽器も追加されている。ラヴェルの魔術的なオーケストレーションだけでも十分カラフルかつパワフルなのに、これでは却って音は濁り拡散してしまう。「サミュエル・ゴールデンベルクとシュムイレ」と「リモージュの市場」の間のプロムナードも原曲通り復元しているが、ピアノ原曲では口直しになるこの曲は、オケ版となると冗長さを感じさせ、なぜラヴェルが割愛したのかの理由が、初めて解き明かされた思いだ。また楽器の改変もきわめて凡庸な発想から生まれており、古城をイングリッシュホルンで、ブィドロをホルンで、シュムイレをバイオリンソロに変えるなど聴く前からバレバレだし、カタコンブ前半やキエフの大門の終結部における打楽器の追加に至っては、音楽的センスを疑いたくなるような悪趣味さだ。ピアノソロの方は、原曲の改変を行わない範囲でシンフォニクな響きを目指したもので、特にダイナミクスの振幅が大きくとられている。ただし「グノムス」でのグロテスクさ、「古城」での寂寥感、「ブイドロ」での遠近感、「リモージュの市場」での喧騒、「カタコンブ」での冷気と神秘性、「キエフの大門」での敬虔な祈りといった、曲が持つ独自の雰囲気は全く伝わってこない。この時期のアシュケナージは、既にピアニストとしてのピークを通り越していたのかもしれない。ムーアフットによるデジタル録音も、「超絶技巧練習曲」の時のような「芯の強さ」「腰の粘り」を失い、まるでスタインウェイの骸骨が鳴っているようだ。

    2人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 2人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/05/01

    このディスクを単に「DG録音による気軽な現代吹奏楽集」と侮ってはいけない。ディスクをトレイに載せ最初の音が出た瞬間から、これがとんでもない誤解であることに気付き、聴き進むにつれ、これが究極のデモンストレーションディスクであるという大きな確信に変化していく。尤も最初に録音クレジットを確認してさえいれば、このモンスター級のサウンドが容易に想像つくわけで、プロデューサーはトーマス・モウリー、バランスエンジニアはマーク・オウボールという、録音界の名人同士の一期一会の邂逅によって生みだされた夢のような録音である。ここでモウリーとオウボールは、イーストマン吹奏楽団の高度な演奏技術と一糸乱れぬアンサンブルを、録音会場のシャープなアコースティクとクールなレゾナンス共々、最小限のマイクで空間ごと切り取ってリスナーの前に提供してくれる。原寸大のサウンドステージを俯瞰する広角のパースペクティブは実にスペクタクルであり、個々の楽器は、隣り合う奏者の左右前後の関係が間違いようもない正確さでピンポイントに定位する。そしてバスドラムやティンパニの一撃は地を穿ちリスニングルームをぶるぶると揺らす。三曲はどれも非常に高度なテクニックを要求するシリアスな音楽だが、様々な楽器と多様な奏法が生み出すカラフルな音響は本当に魅力的だ。本ディスクがこれまで巷で優秀録音として取り上げられ称賛された例を筆者は知らないが、ハイファイオーディオ再生に少しでも興味がある人にとっては挑戦し甲斐のある、まさにマストバイの一枚だ。

    2人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 3人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/04/23

    78年の5月から8月にかけてのロンドンでのセッションでバランスエンジニアはK・ウィルキンソン。録音時期が離れているわけではないのに2か所の会場で収録されているが、第1幕と3幕がキングスウェイホール、第2幕がヘンリーウッドホールであることはサウンドを聴けば明らかだ。聴きどころは当然ながらキングスウェイホールで収録された1幕と3幕で、オケの遠近感、パワー感、クリアネスは冒頭から全開で、プッチーニのゴージャスなオーケストレーションの妙を満喫できる。ソリストやコーラスの距離感や音量バランスも完璧で、デッカ伝統のソニックステージがスピーカ後方に原寸大で再現されるのを聴くと、これがウィルキンソンの仕事だと分かってはいても新鮮な驚きを禁じ得ない。アナログ末期の録音だけに機材の性能は完成域に達しており、オケや声楽のミクロディテールも極めてリアルにテープにおさめられており、特に3幕冒頭で、キングスウィホールの肥沃なレゾナンスを伴って打ち鳴らされる、梵鐘を思わす深い鐘の響きは特に聴き手に強い印象を残す。ヘンリーウッドホールでの第二幕は、オケの鳴りが悪く低域のパワーが落ち、音場のトランスペアレンシーも低下するのが残念だ。深読みすれば、第2幕がもっぱらスカルピアの公邸内が舞台となっていることから、レッシーニョがあえてこのようなアコースティックを選択したと考えられなくもないが、ここは素直にキングスウェイホールが他のセッションと重なり使用できなかったと見るべきだろう。もちろん当時の主流であるマルチマイクで録れば、ホールのアコースティクの違いを最小限にすることは容易であったが、ウィルキンソンはここでも最小限のマイクで、サウンドを空間ごと切り取ってくる姿勢を少しも変えてはいない。ただしオケを若干奥に追いやり、その代わりにソリストをクローズアップしこれに、豊かなレゾナンスを加えることで、全曲通しての違和感を最小限に食い止めている。CD鑑賞の際は1幕と2幕との間で十分間をとって脳を耳を休めることで、音響上の違和感の低減を図ることをお薦めする。最後に歌劇場指揮者としての豊富な実力派レッシーニョの指揮は、オケを十分に鳴らし、聞かせどころのツボをわきまえたメリハリある表現で、プッチーニの音楽の魅力を余すところなく引き出している。

    3人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 12人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/04/16

    本アルバムはオーディオファイル必携のデモンストレーションディスクであると同時にプロコフィエフの音楽を愛する全ての人にとってマストバイの素晴らしい全集だ。本全集の価値は次の3つの理由に集約することができる。一つめが、楽器編成から旋律、和声、リズム、ダイナミクスに至る多種多様な音響でオーディオ的な聴きどころ満載のプロコフィエフの交響曲全集であること。二つめが、61年から11年間ウィーンフィルのコンサートマスターを務め、デッカによるゾフィエンザールでのセッションを幾度も経験し、オーケストラ奏者の立場から優秀録音に貢献する演奏とはどうあるべきか知悉し、デッカの録音フィロソフィーに対しても深い理解を持っていた(と思われる)W・ウェラーがプロコフィエフがスコアに記した複雑な音符を丁寧に掬いだしていること。そして三つ目が、アナログ録音が成熟期に入った70年中期に、伝説の名エンジニアK・ウィルキンソン(3、4、5、6番)以下、J・ダンカーリー(2番)、J・ロック(1、7番)といったデッカ録音チームのエースらが、豊かで美しいレゾナンスとブリリアントなアコースティックにより世界最高の音響を誇っていたキングスウェイホールで収録したことである。録音は最も早い74年の1番、7番がロック、続く75年の6番、76年の5番、77年の3番、4番とスキタイ組曲がウィルキンソン、最後の78年のセッションでは2番とロシア序曲をダンカーリーが担当しておりいずれも目も覚めるようなハイファイ録音だが、中でもウィルキンソンとダンカーリーが担当したナンバーは、サウンドステージの広さと、まるで録音会場に居合わせているかのような臨場感において、優秀録音という月並みな表現では賞賛しきれない高みに達している。ウィルキンソンが収録したナンバーは客席からステージを俯瞰するナチュラルなパースペクティブが特徴で、キングスウェイホール一杯に広がるオーケストラを原寸イメージで捉えた広大なサウンドステージや全ての楽器にパンフォーカスされた深い被写体深度と、超微粒子トーンが織りなす濃厚で豊かな階調は、ウィルキンソン録音の真骨頂である。特に左奥彼方から聴こえてくるホルンの、金管楽器の中で最も長い管路が複雑に共鳴することでが生み出される、深くどこか陰のある音色と、ここぞという時の圧倒的なパワーのさく裂をここまで正確にテープに納めたエンジニアは他に居ないし、身体が吹き飛ばすほどの風圧で容赦なくリスナーを襲うバスドラムやテューバの低音の迫力を一度でも経験すると、他のエンジニアによる並みの録音には戻れない。そしてどんなにスコアが混みあい音量が増していっても、すべての楽器のディテールが混濁とは無縁のシャープネスで描かれる様や、楽器間の隙間を抜ってステージ後壁まで見渡すことのできるトランスペアレンシーはウィルキンソンの技量をもってすれば当然のこととはいえ、こうして目の当たりにするとやはり驚きを禁じ得ない。一方ダンカーリーの録音では、リスナー位置がぐっと指揮台に近づきパースペクティブもより広角になる。サウンドステージの左右の広がりはスピーカー間隔を通り越し、リスニングルームの幅一杯まで拡大するが、奥行きは依然として深く、打楽器や金管楽器は遥か遠くから聴こえてくる。一方でその圧倒的なパワー感は少しも失われていないところはさすがだ。またオケのサウンドもウィルキンソンのソリッドな美しさとは若干異なり、シルキーでメロウな側面が際だっており、楽器の上に霞のようにかかったデリケートなリヴァーブも惚れ惚れするほど美しく、人によってはウィルキンソン録音より好ましいと感じるかもしれない。これに対しロックによる録音では、ホールの広さや楽器の遠近感が十分に表出しきれておらず、ダイナミクスのコントロールも大雑把で、全奏部では少し暴力的に響くのが気になるが、これは比較した相手のレベルがあまりに高すぎたためであり、一般の録音から見れば十分水準には達している。ウェラーの指揮は、全体的にゆとりのあるテンポでオケを鳴らし切っており、恣意的なアゴーギグやディナミ−ク操作とは無縁の正統的な解釈と、躍動感溢れるパワフルな演奏は、プロコフィエフの音楽の持つ魅力を十二分に堪能させてくれる。最後にブリリアントクラシックスによるリマスターは、オリジナルテープのサウンドを尊重した(と思われる)丁寧なもので、流行の低域成分のカットがないことが評価できる。廉価盤につき解説書は付かないが、録音データはきちんと掲載されていることに好感がもてる。本全集を手にすると、ゲルギエフによる全集を手放すのになんの躊躇も感じない。

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  • 1人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/03/25

    2006年1月のパッパーノ「トリスタンとイゾルデ」のセッション以後のJ・ダンカーリーの仕事を探していたところ、思わぬレベールで見つけることができた。これはロンドンの聖シラス教会での2006年11月の録音である。CDをトレイに載せ再生ボタンを押すと録音会場の豊かな暗騒音がリスニングルームを満たし、ショパンのマズルカ冒頭の嬰ヘ音が柔らかなタッチで鳴り響いた瞬間から、聴き手はダンカーリーワールドに引き込まれる。ピアノは教会の豊かで美しいレゾナンスを伴いながら適度な距離感で定位するが、低域が心地よく締っているのは、恐らく床が木軸ではなく強固な土間構造であるからかもしれない。クレジットを見るとデイビッド・ヒニットというアシスタントが付いているが、黄金期のDecca録音の伝統を今に受け継ぐ唯一のエンジニアであるダンカーリーの技術を是非とも習得してほしいものだ。ヤブロンスキーの演奏は節度あるロマンティシズムに溢れたもので、タッチの美しさが際立っている。録音、演奏ともに隠れた名盤である。

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  • 3人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/03/24

    名人J・ダンカーリーの録音による上原彩子の第2弾である。ダンカーリーのように演奏会場の空間をまるごと切り取ってくるスタイルの録音においては、録音会場の選定が極めて重要であり、ロンドンの聖ルカ教会でのコンチェルトとヘンリーウッドホールでのソロとでは、ホール音響の差がダイレクトに表れており非常に興味深い。聖ルカ教会は暖色の木質系の響きが特徴で、特にピアノや低弦楽器の胴鳴りが楽器の脚を伝って、木のステージを共鳴させる際の豊かな低域を最大限漏らさずマイクに収める手法はダンカーリーならではであり、いつもながら体験する、録音会場とリスニングルームの境界線が曖昧になる不思議な陶酔感はダンカーリー録音の真骨頂である。これに対しヘンリーウッドホールの音響は少しドライで細身に感じるが、どちらも鳴っている楽器が同一であることが、間違いようがないほど正確に捉えられているのを聴けば、ダンカーリーが到達した孤高の技術に打ちのめされる思いだ。上原のピアノは第一作のグランドソナタの時よりも肩の力が抜け、展覧会の絵では女流らしい細やかな表情付けを見せる。指の廻りや打鍵の正確さは相変わらず完璧で、楽器を鳴らしきっていることに好感が持てる。

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  • 5人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/03/24

    本SACDは先のXRCDと同じ96-24マスターを用いたXR-SACDと呼ぶべきディスクである。しかしマスターは同じでも仕上がりは大きく改善された。XRCDはエッジの立った隈取のきついサウンドで、音場は中央にモノ的に展開し、全奏部では飽和気味でやかましさを感じさせるのに対し、本SACDでは弦はぐっと目が詰んで、金管は伸びやかさと力強さを増し、ティンパニも張りが出てよりライブに近い響きになった。音場はゆったりと左右に広がり、奥行きすら感じさせる。全奏部でDレンジの拡大と分離の向上もXRCDとは全く別物で、フルオーケストラで音量を増して盛り上がる部分の迫力は鳥肌モノである。特に北村源三のトランペットがこんなにも輝かしく響き渡るとは驚きだ。それに関係してかライナーノーツには北村氏へのインタビューが掲載されており、これがなかなか面白い。「当時の演奏は技術は劣るが精神力は上だった」などと自身の演奏の言い訳をするあたりはなんとも微笑ましいし、30年近く経ってもN響のトランペットの技術が少しも向上してない事実を考えると、後輩の関山幸弘を庇っているようでもありこれもまた興味深い。話がそれたが本SACDの音質は、本演奏の文字通り最高峰であるとともに「XRCD24はCDに24bit相当の音を収録する技術である」との件が誇大広告であり、「所詮XRCDとてCDでしかなく、SACDの足元にも及ばない」ことを自ら証明する結果となった。これを機にLIVING-STEREOのXRCDシリーズもSACD化して欲しいものである。

    5人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 2人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/03/21

    SACD録音評。従来ARTと比較して、特に弦楽器の高音域はルカ教会の豊かな残響成分に埋もれがちであったのに対し、今回のSACDではほどよく分離している。本ディスクの影の主役であるゾンダーマンのティンパニは、従来CDがやや浮足立っていたのに対し、SACDではオケとほど良く溶け合っている。またいざというときの迫力もSACDの圧勝で、第2番スケルツォ終結部でのゾンダーマンのパフォーマンスには思わず身震いしてしまう。

    2人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 5人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/03/18

    今度のSACD-SHMの音質は途方もなく素晴らしい。91年オランダプレスCDとの比較だがその差はマスターテープ3世代分は違っているかもしれない。キングスウェイホールを満たしたクレンペラーサウンドのパワフルかつクリアなサウンドを最小限のマイクで忠実に拾い上げたD・ラーターの手腕には本当に敬服するし、このSACDにして初めてこの演奏の凄みを味わい尽くすことができるといえよう。随所に新しい発見が満載で固唾をのんで聴き入っているうちに全曲があっという間に終わってしまった。本ディスクは今回のSACDリマスターシリーズ中最高の出来かもしれない。

    5人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 12人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/03/07

    多くの録音がオルガンの大音量によるレベルオーバーと重低音による混変調歪みを避けるために、オケとオルガンとを別収録しミキシングで逃げるケースが多い。この場合ナチュラルなサウンドの溶け合いと音場とを両立できるエンジニアはざらには居ないし、事実不自然なバランスの録音の方が多いのが現状である。そんな中で、本録音は正真正銘の同時演奏であり、この技術的な難題にエンジニアS・エルザムが果敢にチャレンジし、立派な成果を修めた記録である。非常に残響の多い会場での録音であるが、混濁は無くディテールが失われることも無い。音場は左右の広がり奥行き共に申し分なく、ホールの暗騒音も豊かで、臨場感溢れる優秀録音である。圧巻はオルガンの重低音の迫力で、なんとそのピークは第1楽章後半の静謐なアダージョに現れる。目視でわかるほどぶるぶると激しく振動するサブウーファーにより、
    リスニングルームの壁が大きく揺さぶられる瞬間は実にスリリングだ。CDへのリマスターは可もなく不可もなくといった水準だが、オリジナルマスターテープの音質が本CDのレベルに留まるはずがなく、最新のEMIリマスターSACDの音質を知った者にとってはなんとも歯がゆい限りだ。しかし全く無名の本ディスクにSACD化を望むのは無理な注文であろう。

    12人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 8人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/02/25

    才気に溢れる若きメータの推進力ある指揮ぶりに加え、フィーンフィルの美音と、ソリッドでパンチの効いた目の覚めるようなデッカ録音の3カードが揃った「復活」の代表的な名盤の待ちに待ったSACD化である。録音エンジニアのジェイムズ・ロックはロイ・ウォーレスやウィルキンソン、パリーらの名人の下で研鑽を積み、70年代後半からはデッカのチーフエンジニアとして活躍したが、ミキサーとしての腕は諸先輩には遠く及ばず、音場が窮屈だったり、楽器間のバランスや間接音の溶け合いが不自然であったりと、我々がデッカ録音に期待する平均水準に届かない仕事も多い。例えば、デュトワのモントリオール録音の中にもロックの仕事がいくつかあるが、J・ダンカーリーのサウンドと比べるとその技量の差は一聴瞭然だ。そんなロックの仕事の中で、本録音は彼のベストジョブのひとつに挙げられるハイファイ録音であり、CD時代に入ってもキングのハイパーリマスタリングや本家によるADRM、レジェンズ等で何度もリマスターされてきたが、今回のSACD化は群を抜く高音質である。まず冒頭の低弦の生々しさと力強さに圧倒されるが、これに重なるファゴットの下降音型もしっかりと聴き取れるし、ウィンナオーボエとイングリッシュホルンで奏される主題の、どこか鄙びたメロウな音色も素晴らしい。そしてこれに重なるウィンナホルンの複雑な管共鳴が醸し出す深いコクも味わい深い。続く全奏での下降音型とシンバルの一撃ではゾフィエンザールの空気の振動が、そのままリスニングルームを震わし、スピーカーのトゥィーターから放たれた微粒子が部屋を満たし、壁に吸い込まれて減衰していく様は、マーラーの音楽を聴く醍醐味に満ち溢れている。また終楽章のコラール主題がブラスで奏される部分で聴かれるブレスノイズも極めてリアルだし、復活のコーラスに先立つフルートとトランペットによる夜の森の情景描写も惚れ惚れするほど美しい。尤も、細かいところを言えば、スピーカーの外側まで広がるような音場の広がりが今ひとつであることや、ティンパニが異様に近い箇所があったり、合唱の距離感に違和感を残す等、パリーやウィルキンソンがゾフィエンザール録音で成しえた空間再現性においては歯がゆい部分も残すが、それは無いものねだりといえよう。最後に、本SACD-SHMシリーズでは最近DG音源が増えているが、正直言ってDG録音でオーディオ的に価値のあるものは皆無といってよい。ユニバーサル社には「良い音を極める」という意味において、デッカ録音のさらなるSACD化を期待したいし、デュトワ&モントリオールやシャイー&コンセルトヘボウ等、J・ダンカーリーが収録したディジタル期の優秀録音についても積極的なSACD化を強く望むものである。

    8人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 3人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/02/25

    このSACD、残念ながらLP時から気になっていた全体的な抜けの悪さや、高域でのピーク感、強奏部におけるひずみと硬直感についてはあまり改善されていない。この時期のEMI録音は、本国でのパーカーやエルザムといった本隊精鋭チームによるものと、本録音のように海外支店にまかせきりで本社が全く関与していないと思われるものとの品質差があまりに大きい(大企業においてはよくあることかもしれないが…)。今回のSACD化においても、マスターテープの段階の重大な瑕疵についてはディスクごとに具体的にアナウンスすべきだと考える。

    3人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 13人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/02/25

    本録音はケネス・ウィルキンソンが本拠地キングスウェイホールで収録した無数の優秀録音の中にあっては、どちらかというと目立たない存在であったかもしれない。それは、初出CDやその後のクラシックサウンドの劣悪なリマスターは論外として、96-24リマスターされたオリジナルスにおいてすら、全体的に厚みが不足気味で、高域に若干のピーク感が感じられ、音がほぐれ切らないきらいがあったことが原因であろう。そこに今回の切り札ともいえる最新DSDリマスターSACDの登場であるが、冒頭から聴こえてくる、深い洞窟を思わすキングスウェイホール独特の暗騒音に、このリマスターが十分に信頼できるということを確信させられる。Dレンジ、Fレンジ共にアナログの限界までフラットに伸び、ミクロディテールの解像度と再現性は信じ難い高みに達している。オケの厚みや、サウンドステージの左右奥行き方向への大幅な拡大とトランスペレンシーの改善も目覚ましく、ソロの音像の大きさやオケとのバランス、各楽器のバランスと距離感、直接音とホールトーンとのブレンド感も完璧といってよい。従来気になった高域のピーク感も完全に払拭され、北欧とロシアのコンチェルトが有する冷たい空気感と木質の暖かみをしっかりと聴き手に実感させる。チョンの演奏においても、かすれる寸前の震えるようなppから、ボウイングノイズまでリアルなffに至る幅広いダイナミズムと音色の変化が、無段階にかつ忠実に再現されることで、逃げ場が無いほど体当り的で痛いほどの緊張感に貫かれた表現の中にも、一瞬の安らぎやゆとりも含まれていることが初めて分かった。録音の聴きどころはそれこそ全編に渡って現れるが、特にチャイコフスキーの第一楽章再現部で主題を吹くフルートが、オケの中からふっと浮かびあがる瞬間の正確な定位と立体感、音場の透明感、メロウでスウィートな音色、ホールトーンとの絶妙な溶け合いは、聴き手に麻薬のような陶酔感をもたらすに違いない。今回のSACD化により、本ディスクは音楽的にもオーディオソースとしても究極の一枚としてのゆるぎない位置を改めて確立することになったが、これを可能にしたウィルキンソン録音が有するとてつもないポテンシャルに改めて驚かざるを得ない。ウィルキンソン録音の中には、メータのトゥーランドットやショルティの幻想を初めとする、未だにハイビットリマスターすらされていない、超優秀録音が数多く存在するが、ユニバーサル社にはこれらのSACD化を強く望むものである。最後に本SACD-SHMシリーズも回を重ね、耳の悪くセンスが無い評論家による月並みな賛辞が並べられた解説の代わりに、セッション当時のモノクロ写真が掲載されてるが、これは大いに歓迎したいと思う。

    13人の方が、このレビューに「共感」しています。

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  • 3人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/02/19

    アナログ末期にEMIの名人クリストファー・パーカーが収録した優秀録音が、録音後30数年を経てようやくその全貌を明らかにした。サウンドステージの広がりと奥行き、ホールレゾナンスから判断すると、前半の4曲がアビーロードスタジオで、後半の3曲がキングスウェイホールで収録されたものであろう。当然ながら後者のサウンドが優れるが、前者とて並みの優秀録音を寄せ付けない高みに達している。特筆すべきはスピーカの左右後方に原寸大で広がるサウンドステージの大きさである。指揮者を扇形に囲む分厚い弦楽器、その後方中央に定位する木管群、そしてその後ろ左右に広く展開する金官群と、これらを取り囲むように最後部に定位する無数の打楽器群の位置関係は、間違いようの無い確かさで定位する。特に力強くゴージャスでブリリアントな金管群の響きは、黄金期のEMI録音が放った最後の輝きのようにも感じられる。DレンジとFレンジの伸びは気が遠くなる程であり、海王星のオルガンの最弱音のペダルトーンもぶるぶると部屋を振動させる。オケのトゥッティでも混濁は皆無であり、マルチマイクを駆使しながらもこれだけ自然な音場を聴かせるパーカーの手腕にただただ感心するばかりである。このたびのSACD化によって本ディスクは数ある惑星の優秀録音の最高峰に君臨することになり、J・ダンカーリーが録ったデュトワ盤を肩を並べることのできる唯一の名録音となった。なお、演奏の素晴らしさは折り紙つきであるが、この新しいリマスタリングでさらに凄みと美しさを増したと言えば事足りる。

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  • 6人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2012/02/18

    本録音はミュンヘンのヘルクレスザールで収録され、トーンマイスターはクーベリック録音でお馴染みの名手ハインツ・ヴィルトハーゲンである。しかし従来のCDではヴィルトハーゲン録音の良さが出ておらず、なんとも歯がゆい思いであったが、今回のSACD化で初めてこの録音の真価が明らかになった。ひとつ目はDレンジの大幅な拡大である。ポリーニの演奏がこれほどのダイナミックレンジを有していたとはうかつにも今回初めて認識した。Dレンジの拡大に伴い、演奏における微妙な音量変化もしっかりと聴き分けられるようになった。もうひとつはキンキンしていた高域がしっとりと落ち着いたこと。このような高域成分の音質改善に伴い、機械仕掛けのような無機的な演奏といった印象は随分緩和された。一方でホールの暗騒音や演奏ノイズといった「ライブ感」は相変わらず乏しいし、本来このホールはもっと暖かい響きがするはずだが、この硬質で冷たい響きを聴くとどうしても何か作為的な悪さが行われているように思われてしようがない。とは言っても、ポリーニの演奏とヴィルトハーゲンによる録音は見事にマッチしており、これが良くも悪くも本ディスクの価値を唯一無二のものに高めているように思える。好きではないが凄い演奏だ。

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