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マスター・ヘルシー さんのレビュー一覧 

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     2018/11/06

     自分が最初に聴いたヴェスプロはガーディナー新盤だった。国内盤が店頭に売られていて、何となく購入したわけだ。後で調べるとレコードアカデミー賞大賞を受賞しており、最も理想的な演奏と名高かったことを知ったわけだが…。確かに聴けば教会音楽らしからぬスピード感が溢れていてダイナミックな演奏は現代的で素人でも受け入れやすいものであった。そこから聴き混み、他の名盤を聴きたくなったのであるが、これが大層困難を極まった。なにせ最初に聴いたガーディナー新盤は教会の典礼に従ったものではなく、純粋にモンテヴェルディの曲のみで構成されており、2種類のマニフィカトも収録されているという、言わば完全版であることが原因だったのだ。そのガーディナー新盤を見本にして他の名盤を探そうとしたわけだからなかなか見つかりはしない。結局それに見合うもので見つかったものはシュナイト盤、アレッサンドリーニ盤、最近でレコードアカデミー賞音楽史部門受賞で名高いマレット盤のみ。さらにマレット盤(日本語訳付き)のライナーノーツでマレットの言葉引用で「何より《夕べの祈り》は完璧に仕上げられた作品であり、調整の必要は全くないと、私は確信している。典型的な典礼の習慣と合致させる目的でグレゴリオ聖歌や器楽曲を付け加えることは、私には無駄な(あるいはさらには有害な)ことであると思われる」 もはや他の大半の名盤をディスっているとしか思えないぶった切りの言葉であるが、確かに共感出来る部分はある。目当ての作曲家の曲以外の曲が随所に挿入されていれば違和感があるし、邪魔ですら思ってしまうこともある。しかし、マレットの言葉を全て受け入れるとそれこそマクリーシュ盤、サヴァール盤、クリスティ盤、ヤーコプス盤、ガリード盤等々と超大型の名盤すらも脱落してしまうことになってしまう。それではさすがに勿体ないだろうと思い、典礼的演奏よりの名盤を探そうと思い、手にしたのが本題となるパロット盤である。
     ここからが本題であるが、パロット盤は典礼系の名盤の中では最も有名で規範として名高く、新盤が出る度に比較対象として挙がるほどらしい。さて、実際聴いてみると色々と驚かされることがあった。パロット盤はガーディナー新盤以前に収録されたものであるが、すでにマクリーシュやアレッサンドリーニが取り入れていた合唱の各パートをソリストに担当させること、さらにクリスティが典礼系のヴェスプロでチーマ作曲の器楽曲を取り入れたこと等はすでに時代を先駆けて実践されていたことだ。演奏形態の先駆けのみに腐心されず、演奏自体は静謐かつ荘厳であり、教会音楽らしい神々しい響きに満ちた見事な演奏。演奏が厳かであることからグレゴリオ聖歌やチーマ作曲の器楽曲挿入も全く邪魔にならなかったことがさらに驚き。何よりも美声の女王と讃えられたエマ・カークビーを始めとする超精鋭のソリスト陣の純粋無垢なハーモニーの素晴らしさはアレッサンドリーニ盤をも凌ぐかもしれないほどであった。ついでに収録されている「倫理的・宗教的な森」から抜粋された名曲も素晴らしい。
     このパロット盤のお陰で典礼系のヴェスプロも聴きたくなったことは言うまでもない。さらに倫理的・宗教的な森の全曲収録されているものも欲しくなるぐらいに。さて、次はまだ入手しやすいヤーコプス盤かクリスティ盤を手にしようかと思うところ。

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     2018/10/20

     聖母マリアの夕べの祈りで正確な演奏方法が分からないため、演奏者の作品に対する分析、解釈によって決まるため非常に個性豊かな演奏が綺羅星の如く出てくる。この名盤はモンテヴェルディ生誕450周年記念のためにグロッサが威信をかけて出したことからかなりの気合いが入っている。まずは母体であるラ・コンパーニャ・デル・マドリガーレ。ジュゼッペ・マレット指揮者も歌手として所属しており、ルネサンス時代の声楽曲を取り上げ、賞を取るほどの名盤を出している新進気鋭の精鋭音楽集団。次にマレットの子飼いであるカンティカ・シンフォニア。声楽と器楽の両刀遣いの古楽団体であり、デュファイ等の古の作曲家を知らしめることに貢献したこと等と精力的に活動している。最後に古楽系管打楽器アンサンブルのラ・ピファレスカ。モンテヴェルディのマドリガーレ全巻収録し、名を知らしめたラ・ヴェネクシアーナとカンティカ・シンフォニア両者の最精鋭により結成され、ロベルト・ジーニ盤でも共演を果たしたこともある。そして、それら3組の超精鋭古楽団体と密接な関係を持っている歌手兼指揮者であるジュゼッペ・マレット。まさにグロッサの看板音楽家によるオールスターだ。
     演奏形態として、グレゴリオ聖歌等と典礼に関係する曲の挿入は一切無しのモンテヴェルディ作曲したものだけの構成だ。また、2種類のマニフィカトも収録されている。紹介文で書かれていたようにマレットはとにかく使用楽器、ピッチ、テンポには細心の注意を払っているようだ。それは冒頭の曲からその成果が表れている。とにかく耳障りにならないような柔らかい響き、祈るようなゆったりとしたテンポ。随所に盛り込まれたオルガンの煌びやかな響き、ハープや弦楽の甘い音色等の通奏低音。精鋭歌手陣による透明感溢れる静かな声色。それら全てが融合され、典礼曲に頼らずとも教会音楽の如く静謐な響きを生み出している。同じくロベルト・ジーニ盤もゆったりとしたテンポで演奏されていたが、些か暑苦しい響き(悪い意味ではない)があった。ジーニ盤が筋肉質な修行僧が力強くマリアを讃えているのに対し、マレット盤は清楚な修道女がマリアに静かに祈りを捧げているような趣だ。
     とにかくマレット盤は数々の名盤で「このパートはゆっくりとしたテンポにして欲しかった」と言った不満を見事に解消してくれている。音程やテンポ、楽器配置等の演奏バランスの点で言えば、歴代名盤の中でも随一とも言える。教会音楽としての理想的な響きとも言えるだろう。その代わり、ガーディナー新盤やガリード盤のような迫力には欠けているし、アレッサンドリーニ盤のような突き抜けたような華やかさには一歩劣ってしまう。けれど歴代名盤とは同等かそれ以上の決定盤であることは確かだ。

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