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ゆったりん さんのレビュー一覧 

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     2012/11/29

     この商品に対する私の評価だが、6枚のCDに収録されている殆どすべての曲で、演奏、録音とも標準以上、しかも、6枚で約2900円(マルチバイ価格)という低価格なので、コストパフォーマンス抜群、当然評価5であるが、5の中に幅があるとすれば、その中でも最上級に値する。いくつかの作品についてコメントすると、まず、2枚目のブラームスのピアノ作品であるが、作品116,117,118は晩年のブラームスの孤独感、寂寥感がひしひしと感じられる作品で、私の大好きな曲であり、ケンプその他数名の演奏家のCDを所持しているが、それらと比較して、演奏、録音共に数段優れていると感じた。正確なテクニックで、1つ1つの音に思いをこめ、デリケートで多彩な音色の変化と、音の起伏の大きさで、聞き手の感情に訴えかける素晴らしい演奏になっている。作品119は、他の3つとは、かなり趣の異なる作品で、今までは中途半端な印象しかなかったが、グリモーの演奏で始めてその魅力に触れた思いがした。晩年のブラームスは、第4シンフォニー、クラリネット5重奏曲で代表されるように、孤独感、寂寥感が大きな特徴になっている作品が目立つのだが、実際は、それとは異なる面があるのは人間として当然であり、特に、彼の晩年の歌曲、たとえば「ジプシーの歌」などの作品にそれが表れている。これは、若い男女の熱烈な恋の歌だ。作品119は、恋の歌ではないが、人間としての生の喜びを歌ったような曲で、グリモーはこの曲でも他の3曲と同様に、音の1つ1つに思いをこめて、正確なテクニックと多彩な音色の変化で、表情豊かに演奏している。強く心に残る演奏だ。
     次に、R・シュトラウスの「ブルレスケ」である。R・シュトラウスといえば、一連の交響詩の作曲で有名だが、この曲は、彼が自らの作風を確立する前の代表作の1つのようで、おそらく私が生まれて初めて聴く曲だと思う。私には、彼の交響詩は、楽器の編成が大きいだけで、曲そのものは、私の感性に合わず、いままで全く聴く気にならなかった。しかし、この曲は全く違っていた。聴き始めたときから、私の心をゆするものがあり、何回か聴きなおすうちにますます引き込まれるようになった。ティンパニのソロで始まる、全体的に、大変活発でスピード感にあふれた曲で、ピアノがオーケストラやティンパニを相手に、互いに競い合い、応答しあいながらハーモニーを作っていくという感じで、緊張感とスリルに富んだ素晴らしい曲だ。ここでのグリモーは、あの華奢な体型からは想像できないようなエネルギッシュな力強い音と、デリカシーに富む弱音を組み合わせて、オーケストラと共に曲を作り上げている。ブルレスケ(おどけた)というタイトルにふさわしくない、哀愁に満ちたメロディーと情感にあふれた曲で、まさしくベリーグッド。
    クラシック音楽は長い歴史を持つ音楽で、各作曲家及びその主要作品の演奏には、それぞれ模範的とか、名演奏とかという言葉等で表される一種の固定観念のようなものがあるが、グリモーはそれらに妥協することなく、自分の感性を磨き、自分の音楽表現を貫く芯の強さを持っている。それは、独善的で、内容の薄い演奏になる恐れも十分にあるが、グリモーの場合には、大変優れた演奏になっているように思う。6枚のCDに収録された殆どすべての曲に、新鮮さや魅力を感じ、強く惹かれるのは、そこに主な原因があると思う。
    しかし、音楽雑誌などの情報を元に、固定観念のようなものを持って、クラシック音楽に接している者にとっては、グリモーの演奏には、かなり違和感を感じる部分があるのではないかと思う。しかし、そういう人も、一度でいいから頭を真っ白にして、聞いてみてもらいたいと願うCDだ。

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