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slave さんのレビュー一覧 

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     2024/04/11

    演奏は素晴らしい。ケンプ晩年のファンタジー溢れる演奏である。
    録音は、どうも会場でのステージ上での盗み撮りのようだ。当時としては優秀な盗み撮りの品質だと思う。聴衆の発するノイズが大きく演奏に割り込んでくることがあることと、前プロと後プロの音質が大きく異なることが気にならなければ、演奏そのものは内容・技術ともに素晴らしい。

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     2023/10/05

    ミルシュテインはあまり日本では知られていないのだろう。アウアーの高弟として、エルマン、ハイフェッツ、ミルシュテインはヴァイオリン演奏伝統の系譜としては必ず聴いておきたい演奏家である。この3名のなかでは、ミルシュテインは、造形と解釈と歌い回しの均衡美を崩さないという点では稀有のヴァイオリニストである。それでいて音が美しいのである。
    ヴァイオリン演奏というものは、その音の美しさに耽溺してぐずぐずと歌うか、腕力に任せて弾ききってゆくかという、いずれも楽しい途ではあるものの、そういう情動的な音楽をやることが多いものだと思う。ところが、ミルシュテインは、より冷静で高潔であり、彼の理想は高いものだ。それを「冷たい」とか「そっけない」という聴かれ方をしてしまうのは、彼の真価を見過ごしてしまう聴衆にとって不幸なことだろう。
    この録音の最大の聴き所は、メンデルスゾーンの第一楽章の冒頭の3分目のヴァイオリンの入りからの数秒だ。彼が体を傾けたのだろうか、ヴァイオリンの音がオフマイクになり、会場からの反響音が主体になっている箇所がある。これが彼の「プラチナ・トーン」だ。ヴァイオリン協奏曲は、ソロにマイクを立て、近接録音を行うことが多い。こうすると、2つの点で問題が起こる。第一は、言うまでもなく、本当はずっと小さいはずのヴァイオリンの音が拡大されてしまうこと。第二は、一流の演奏者はホールからの反射音を聞きながら音を作っているのにもかかわらず、その反射音をカットして直接音を収録してしまうことだ。ヴァイオリンのステージ上の音は「ウルフ・トーン」と言って、雑味があり汚く聴こえる。それが客席ではとろけるようなプラチナ・トーンになるのである。ミルシュテインの音は、細身であるが、会場の隅までよく通る音だったと言われている。それが、このCDの件の箇所で聴かれる音である。ミルシュテインの録音を聴くときには、彼の音量のバランスと音質とを補って受け取らなくてはならない。それでも彼の偉大さが分かる録音は少なくない。例えばキャピトル時代のグラズノフやサンサーンスの協奏曲を聴けば、その端正で高貴な造形と青白い情熱が感じられない人はいないだろう。放送録音では、サバタ、あるいはパタネとのブラームスの協奏曲が有名だ。いずれもインテンポ・カンタービレの名手であるイタリアの指揮者とミルシュテインが絶好の組み合わせとなっていることは、ミルシュテインの音楽性を考えると、余りに当然のことに思われる。

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     2023/10/05

    ミルシュテインは、ウクライナ出身のロシア貴族の家系の人物だ。ハイフェッツと同門のアウアーの最後の門下生として知られる。ロシア革命を避けて亡命した。ホロヴィッツのアメリカ・デビューは、ミルシュテインの伴奏者としてのものである。

    このCDは、言うまでもなく、彼の唯一のブラームスの2番のソナタが聴けることに大きい価値がある。第3番は、ホロヴィッツとの正規録音が残っている。

    ミルシュテインは来日したことがないこともあり日本では知名度が低いままに終わった。彼の演奏の特徴は、清潔で高貴な歌い回しと、プラチナ・トーンと言われる美音である。

    パールマンは「彼は古今東西最も音が明瞭・透明なヴァイオリニストだ」とミルシュテインを評しているとのことだ。

    ミルシュテインは、最晩年まで、同じ曲に対して惰性にならないようにフィンガリングを変更し続けたことでも知られる。最後のリサイタルは左手の小指の障害によって延期され、フィンガリングを変更した上で実施された。映像も残っている。

    彼の最盛期の演奏の1つの大きい特徴は指の離れが明確で速いことである。普通の演奏家は、指板を押える力を緩める。しかし、ミルシュテインは、指を跳ね上げる。この動きと切れのあるボウイングの技術が、明晰な歌い回しとフレージングを支えている。

    彼の最良の録音はCAPITOLの1956年録音のグラズノフの協奏曲。次いでTESTAMENTから復刻されているゴルドマルクの協奏曲だろう。

    知的なヴァイオリニストは決して多くない。ミルシュテイン、ミンツ、ハーンと指を折ることになる。ミルシュテインの演奏はポルタメントが多いという人がいるが、それは誤解だ。ポルタメントを行うことはあるが、歌い回しの癖のようなものではない。

    ソニーの創業者の一人である盛田氏がニューヨークで借りた家具付きのアパートメントのオーナーはミルシュテインだったという。その家具の立派さと洗練された趣味を見て、ロシア貴族の家系であることを実感したという回想が書かれていた。

    ミルシュテインの演奏は、高貴であり知的である。
    テノールで言えばアルフレート・クラウスと思えば良い。
    どちらも「別格」と言われる演奏家であるが、ストイックすぎて日本では必ずしも一般的にならなかったことは惜しまれることだ。

    ミルシュテインの復刻は是非続けて欲しい。

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     2023/09/30

    1962ー70年(65,67年は休演)までのバイロイトのトリスタンはベームが指揮している。ベームのこれらの録音も公開して貰いたいと思うが、それはさておき、このブーレーズの録音は貴重だ。
    ブーレーズはバイロイトでは指輪とパルジファルは指揮しているがトリスタンを指揮したことがない。ということは、この録音はブーレーズ生涯唯一のトリスタンの録音なのではないだろうか。
    この録音は、声、オーケストラのバランスなどの諸点で、非常に優れている。演奏は勿論、いつものブーレーズならではの客観的な作曲家としての視点に満ちた演奏である。例えば、「愛の死」でここまでハープが、ライヴ録音ではっきり聴こえる演奏は、この盤くらいのものではないだろうか。スタジオ録音ですら、ハープが聴こえないものがいくらでもある。
    ブーレーズは、ここで、オーケストラと声のバランスはハープによって規定されることを暗に示している。勿論、彼のスタジオ録音ではもっとはっきりとハープが聴こえる。ハープが聴こえるのは、クレンペラーとブーレーズくらいではないだろうか。この1点をとってもこの演奏が他の並みいる凡演を退ける立派なものであることが分かる。N響にも不満はない。

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     2023/09/30

    マゼールのイメージと言えば、「鬼才」「クール」というような単語が浮かぶように思う。私には、彼は長らく捉えどころのない指揮者だった。広いレパートリー、巧みな統率力を備えつつ、数多くのポストを渡り歩く、神童から天才になった人物。だが、彼の専門的なレパートリーは何なのか?バーンスタイン=マーラー、チェリビダッケ=ブルックナーのような特定の作曲家との結びつき、あるいは、小澤=ボストン、カラヤン=BPОのような特定の楽団とのそれもない。
    しかし、最近ようやく分かった気がする。
    甘い物を食べたい、しかし太りたくない、とすればどうするだろう。同じように、クラシック音楽を聴き、しかし、バースタインのような熱狂は疲れるし、チェリビダッケのような集中もやり切れない、カラヤンのような耽美も息苦しいとなると、俄然、指揮者の巨大な自我の押し付けのないマゼールの行き方の意味と価値が分かる。
    「個性を売る」ということのために、音楽本来の姿以上にデフォルメをした演奏に対して、マゼールは一線を画している。彼は拍を整理し、それぞれのパートの分離を明晰に示し、各奏者が歌いやすいように指揮している。その姿は室内楽団のような風景だ。
    このように明晰な演奏家は他にブーレーズ以外はいないだろう。ブーレーズの領分がほぼ20世紀の音楽であるので、客観主義は理解できる。しかし、マゼールはそれ以外の分野でも、客観的、つまり、音楽の造形と響きの美しさで聴かせる。熱狂や興奮を注意深く避けているようである。この演奏方針だとオーケストラ奏者からは好かれるのではないだろうか。
    かくして没後10年を迎える頃に、私のマゼールを巡る長い戸惑いは霧が晴れるように晴れて行った。今は、マゼールの録音を探しては聴いている。
    今回のボックス化は大歓迎だ。Decca,Warner,Telarc,RCA=SONYなどの他、バイロイトでのライヴなどもぜひまとめて欲しいものだし、映像もできるだけ良い条件でまとめて貰いたい。
    マゼールの輝かしい経歴とショーン・コネリーのような癖のある風貌から想像される音楽と、彼が目指した音楽のずれが、長い間、私のマゼールへの理解を阻んでいたのである。
    恐らく、ジャーナリストも、こうした聴衆のギャップを埋めるような適格なインタビューを構成できなかったのだろう。彼が世を去って10年が経とうとしている今、ようやく彼のことが分かった気がする。
    彼にとって不運だったのは、彼のキャリアの晩年にCDの新規録音が全体に減ってしまい、晩年の彼の録音が残らなかったことだ。
    今回のDGのボックスにも、DGから晩年に発売されたニューヨーク・フィルでのライヴは収録されていない。加えて、彼の録音が必ずしもカタログに多く残っていない。
    没後10周年までは、このボックスを楽しもうと思う。

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     2023/09/27

    マゼールは、スタジオ録音では、第二楽章でコルネット(小型のトランペットのような楽器)のソロ・オブリガート付きの初演版を採用していた。
    ウィーン・フィルはクリティカル版を使うのを嫌う楽団だからライヴでは、彼らの慣用版を使用している。

    マゼールは、外見がショーン・コネリーみたいなので、「鬼才」とかと言われてしまうが、バランスのとれた美しい、のびやかな歌い回しと、細部への目配りで、楽曲の魅力を示していると思う。

    演奏会場がデッドなので、やや乾いた感じになるのはいつものこと。
    マゼールの没後10周年では、残された録音やバイエルン放送交響楽団の私家版、テラークなどを整理して再発して貰いたい。

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     2023/09/12

    パート・ソングは概ね4声の無伴奏混成合唱のことでイギリスで盛んな楽曲形式。

    ディーリアスは、晩年、梅毒によって失明し、四肢麻痺となったが、同郷のフェンビー青年の補助をうけて、珠玉の名曲を完成させたという逸話で有名な、イギリスの作曲家。

    作風は、後期ロマン派と印象派の中間のような作風。
    夏の夕べに、幅の広い川に小舟を浮かべて、流されてゆくでもなく、ただよっていると、どこかから、風に乗って歌声が聞こえてくる。

    その歌声は、半音で上がったり、下がったり、どこへ向かってゆくでもない、盛り上がるでもない、始まりも終わりもない、永遠の歌声のよう。

    音楽が、特定の場所を想起させるとすれば、ディーリアスのそれは、イギリス風庭園や、フロリダのオレンジ農園の幅の広い河のほとりだ。

    彼の作品は、黒人のラプソディを想起させる。どこかへ意志的に向かって行くような音楽の対極の、ひたすら美しい時間に浸ることのできる音楽だ。

    以下が収録曲であるが、とりわけ、夏の夜、水の上で歌える、の第一曲は、これを聴かずに死ぬのはもったいない。モーツァルトのアヴェ・ヴェルム・コルプスが好きな人なら必ず、愛することができる曲だろう。

    あなたもあなただけの作曲家、ディーリアスをどうぞ。

    Delius: German Partsongs (6)

    Delius: German Partsongs (6)


    No. 2, Durch den Wald
    No. 1, An den Sonnenschein
    No. 3, Ave Maria
    No. 4, Sonnenscheinlied
    No. 5, Frühlingsanbruch
    No. 6, Her ute skal gildet staa

    Delius: Irmelin, Act I
    Chorus. ”Away, far away to the woods...”

    Delius: Irmelin
    ”Hear a sad and ancient lay...” (Arr. E. Lubin for Choir)

    Delius: A Village Romeo and Juliet, Scene 4

    Wedding Music. ”Lord, before thy mighty will...” (Arr. E. Fenby for Choir and Organ)

    Delius: Appalachia (Variations on an old slave song)
    Variations on an Old Slave Song. Finale. ”Oh, honey, I am going down the river...” (Arr. B. Suchoff for Tenor, Choir and Piano)

    Delius: On Craig Dhu (An impression of nature)

    Delius: Wanderer’s Song

    Delius: Midsummer Song

    Delius: Songs for Children (2)

    Delius: To be sung of a summer night on the water
    No. 1, —*
    No. 2, —

    Delius: Hassan, Act I

    Delius: Hassan, Act II
    ”Today the fools who cahth a cold in summer...”

    Delius: The splendour falls on castle walls

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     2023/08/10

    ムラヴィンスキーは、ソ連の伝説的な幻の指揮者だ。レニングラード・フィルを50年にわたり統率した。ソ連での芸術家は国家に保護され、あるいは搾取される公務員だった。
    このため、ムラヴィンスキーには組織だった「商業」録音というものが存在しない。本人は完璧を求める人だったため、録音を好まなかった(この点が、カルロス・クライバーに似ている)。現代では金のために演奏はしない、と言える人はいないだろう。しかし、貴族出身で、革命で全てを奪われた彼にはそれが言えたのだ。
    そのため、ムラヴィンスキーの公開されている録音は貴重である。国家の保有している音源や画像が多いので、公開については積極的とは言えず、「あの素晴らしい演奏の録音は、CDで再発されていないかな」と探すと、「えええ?あれは40年前の初出の後は再発されていないお宝CDなのか」などということになってしまう。
    ムラヴィンスキーの活動については、それなりに知られており、研究もされていると思うのだが、意外なほどに、ムラヴィンスキーの録音というのは貴重でもあり、大切にもされていない。その意味で、このセットは、そうしたムラヴィンスキーの録音を大切に受け継ごうという貴重なものだ。
    特定のレーベルが音源を所有しているということがないだけに、一度カタログから消えると、手に入らないかもしれない。
    このセットの「膝上録音」は、少なくとも、私には非常に貴重であった。カラヤン最後のブルックナー7番と同様に空間のスペースの使い方が巧みであることが分かる貴重な録音だ。彼方のステージから立体的に音が飛んでくる様子がよく分かり、透明なテクスチャの効果が際立っているのだ。またALT 286の「大阪」録音の未完成は、JVC VDC 1141のApr.30 1978LENINGRADと言われる音源と同一である。ムラヴィンスキーの音源はこのように混乱している。西側の商業録音とは事情が異なることを理解した上であれば、これだけ貴重なセットはお買い得と思う。

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     2023/07/28

    この録音は、カラヤンが計画していたザルツブルク音楽祭での上演の直前に死去したことで、あたかも「死の直前の体調の悪い時に、録音した演奏」であるかのように思われているように思う。

    その思い込みが、ややゆったりとしたテンポ設定にも裏書されて、「集中力の衰えた弛緩した演奏」のような思い込みを誘っているように思う。

    この録音を聴く場合、オーケストラの残響がはっきりと聴きとれるように音量を上げることがポイントだ。こうして聴けば、仮に、カラヤンがテンポを速くとったならば、響きが混濁してしまい、混乱した演奏になってしまったであろうことが分かる。

    この録音の欠点は、歌手とオーケストラの録音のバランスが悪いところだ。歌手はオン・マイクで録音しているので、歌手に合わせて聴くとオーケストラの豊かな残響が聴こえないので、ゆったりとしたテンポが持たなくなってしまうのだ。

    この点に注意をして聴けば、カラヤンはオーケストラの音色の美しさと響きの豊かさを大切にしつつ、このゆったりとしたテンポを基調としながらも、深い劇性を盛り込むことに成功していることが分かる。

    このため、豊かな響き、大きく持続するよく歌うオーケストラ、深い劇性を備えた稀有な名演が記録されている。

    歌手については、ドミンゴの歌唱が立派であると言える。70年代のムーティ、80年代のアバド、そして90年代のカラヤンと、それぞれの録音を残している。アバドとの録音は彼の調子が悪いので、別人かと思うほど。それに比べると、この録音は、あまりに立派過ぎる歌唱ぶりである。

    その結果、アンサンブルが成立していない。この立派過ぎる歌唱に他の歌手が対等に絡めれば、さぞ素晴らしかっただろう。それは、1つには、このテンポでは、息をセーブしなくてはならなかったからでもあろう。彼だけが、しっかりとしたカンタービレを維持しており、カラヤンの意図を忠実に再現していた。さすがと思う。

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     2023/02/19

    ここには、マゼールはいません。
    感動よ、さようなら。

    この演奏は素晴らしい、特筆すべき演奏だ。
    多くの演奏家に、聴衆は「その人ならではの個性的な解釈」というようなものを期待し、ボルテージの上がる演奏や、磨き抜かれた演奏や、爆音の演奏、細部を強調したり、緩急自在の演奏などを求める。

    そして、マゼールの後半生の演奏は、「マゼールはどうしてしまったのか?個性的で隈取りの深い、彼の演奏解釈は蒸発してなくなってしまっているではないか」というような戸惑いと共に語られることが多い。

    多くの聴衆には、彼のごく若い頃の演奏のイメージが強く、その後の彼の変貌が上手く受け止められないのである。

    それは、通常の演奏では、どうやっても、指揮者の存在を感じることが避けられない。なのに、マゼールの演奏だけは、彼の主張や解釈の存在が希薄である。透明なのである。

    ブーレーズの場合と比べれば、ブーレーズは必ず黒板の前に立ち、スコアのあれこれの数学的、楽理的な興味深い諸点について、教授よろしく指摘をしてくれる。

    マゼールは?マゼールは一体どこにいるのか?という、マゼールの後半生は、彼が姿を消し、聴衆と音楽、あるいは聴衆とオーケストラしか存在しないという演奏を確立したことが、実は唯一無二の彼にしかできない功績だったのではないだろうか。

    この演奏はあたかも個々の演奏家が自由に演奏しているかのようだ。指揮者の指示で演奏する場合、どうしても、指揮者に引きずり回されるかのような微妙なタイミングのずれがあちこちに生じるものだが、この演奏では、「これをこのタイミングで謳わせることを、指揮者が指示してできるものなのだろうか?」というような見事な統率、統率を感じさせない統率!を見せる。

    まさに、的もない弓もない、人馬一体の演奏とでもいうべきだろうか。ようやく、私は、長年のマゼールについての疑問を解くことができるようになったように思う。彼独特の解釈は勿論、注意すれば至るところに発見できるのであるが、そうと感じさせない点が、彼の大家であるところだろう。

    マゼールはここにはいない。これみよがしの感動も存在しない。

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     2022/09/27

    録音が悪いという評判を聞いていたので長らく敬遠していたが、今回、MEMORIESの5CDのボックスで聴いてみた。
    私の感想としては、音は非常に良いと思う。マイクは近接気味で各楽器の動きも明瞭に聴きとれる。

    これならもっと早く買っておけばよかったと思う。
    この1960年のウィーンでの演奏会は有名なもので、フィルハーモニア管とのEMIへの全集録音も行った組み合わせであるので、クレンペラーの意思は徹底されているだろうと思う。


    同じMEMORIESのコンセルトヘボウのボックスも、Klemperer Concertgebouw 1947-1961 Live 24 CDに含まれていない録音があるようなので、併せて聴いてみたい。

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     2022/04/23

    録音は年代を考えれば、十分な水準であると思う。バランス、距離、ノイズなどについては問題ない。音量のピークでリミッターがかかる。第3楽章の15:30くらいの箇所で奇妙なオーバー・ラップによる編集があるので、評価を下げた。

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     2021/11/20

    フー・ツォンは、実力の割には評価されなかった演奏家だろう。
    彼の解釈が独特であるところが一因かもしれない。
    音を非常に洗練させて綺麗に仕上げようという感性が東洋的であるということもあるだろうと思う。音楽は音が綺麗であることに価値があるわけではないからだ。

    ともあれ、非常に貴重なセットだ。

    Disc.4の1. ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調 Op.35『葬送行進曲付き』は、既出のSBK 42507に含まれていた音源だろう。このCDには、他に「別れの曲」「雨だれ」ノクターン第4番が含まれていた。

    Disc7は、VDC-1024で出ていたものと曲順まで全く同一である。

    従って、2枚半が初出ということになるが、それでも、この機会に買い直しておく必要がある。

    ツォンの演奏はMERIDIAN以外にも、彼の若い頃の音源がMUZAからLPで発売されていたように思う。こういう演奏家は、なかなか網羅的に出版されることがないので、今回の企画は貴重だ。

    近年、発売開始前に売り切れになるということは稀だろう。
    孤高の芸術家、ツォンらしい最期である。

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     2021/09/15

    ベームのDG「オペラ録音全集」に続く発売である。

    ベームは、カラヤンのおよそ10歳年上で、40歳でドレスデン国立歌劇場の監督になり、その後戦前と戦後にウィーン国立歌劇場の監督を務めた。R・シュトラウスと親交があり、「無口な女」「ダフネ」の世界初演を行い、後者はベームに献呈されている。

    レーベルは、現在Warnerからドレスデン時代を中心とした初期録音のボックスが、続く時代はPhilips/Deccaのボックスが発売されている(される)。このDGのボックスは、それに続く時代のものである。

    ベームが日本に知られるようになったのは、彼のキャリアの後半である。その理由は特定のオーケストラの音楽監督でなかったために、マスコミや招聘会社、レコード会社からは取り上げにくいという事情があったのではないだろうか。当時のカタログの整備の手法は、特定のオーケストラとレーベルとが独占的な契約をして、音楽監督を優先させてレパートリーを整備してゆくからである(当時は、オペラよりは交響曲の方がよく聴かれたという事情も影響しているだろう。ベームはオペラ指揮者である)。

    結果として、ベームは70年代に極端に日本で知名度が上がり、集中して録音をされた演奏家となった。このことと80年代に入り、彼の中心的レパートリーであるR・シュトラウスの評価がマーラーの交響曲に押されたことで、ベームの知名度は下がってしまった。

    加えて、ベームの演奏スタイルが、録音と実演では差があり(これはベーム自身が意図的にそうしているとインタビューで語っている)、結果として、ベームの実演での演奏の姿を、ステージ、録画、ライヴ録音、ラジオなどで接したことがない人には、「つかみどころのない指揮者」というように受け取られているように見える。

    しかし、生前は、ベルリンのカラヤン、ウィーンのベームという分かりやすい図式もメディアによって作られたこともあり、重要な指揮者であった。

    長らく、このような網羅的な発売が望まれており、ようやく実現することになった。このボックスの中で持っていないものは2−3枚ということになるが、この機会に、買うことにした(単売では手に入らないので)。

    ベームの生前の姿をご存じない方はYOUTUBEなどでお確かめになった上で、是非、この機会に購入されることをご検討なさってはどうかと思う。

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  • 11人の方が、このレビューに「共感」しています。
     2021/08/14

    確か、フィリップスのベートーヴェンのソナタ第32番には、グルダの自作wintermeditation(冬の瞑想)という名曲がカップリングされていた筈だ。

    この作品をあえて除外することは考えられないので、曲目の記載のミスか、編集のミスではないだろうか?

    折角の全集なので、ぜひ、収録をお願いしたい。

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