春秋社

本 静寂から音楽が生まれる

静寂から音楽が生まれる

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    うーつん  |  東京都  |  不明  |  2019年09月28日

       私個人の考えとして「今、もっとも聴いておくべきピアニスト」の最右翼にいるA.シフ。数回コンサートに行ったことがあるが、どれもグッと心に残っている。    圧巻だったのは2017年、ハイドン・モーツアルト・ベートーヴェン・シューベルトの「最後のソナタ」「最後から2番目のソナタ」を奏するリサイタル。天上から降るかのような美しいピアノの響き、特別なことも訳ありなアクションするわけでもないのに心の奥のにスーッと沁みてくる演奏の妙。しかも休憩なしで!  何でこんなことができるのだろう、といまだに思い出す夜だった。   その秘密の「ほんの少し」が文章によってつまびらかにされたのがこの本だろう。ちなみに本で読めるのはほんの少し。残りの大半は実際にコンサートで体感すべきであろう、チケットを入手できる幸運に恵まれたのならば・・・。     前半の対談(インタビューの質問が少し表面的に見える気がするものの)でも、後半のエッセイ集でも「作曲家と作品に奉仕する」気概と研鑽、そしてそれを支えるための探求にいそしむピアニストの一面を知ることができる。同僚ピアニスト、更に政治や自らの出自・アイデンティティに関する問題に対しても率直な(または辛辣な)意見を表明し、音楽芸術の使徒(そして一人のの人間として)正面を見据えて正道を歩もうとする強烈な意志を感じる。     バッハ作品をペダルなしで弾くことについて、反面教師的に同僚ピアニストの奏法を例に出しつつ根拠を述べるところや、ベートーヴェンのソナタ全集についての所見 −全曲揃えるまでの研鑽の様子、リサイタルに出す際に作曲した順に弾く理由、使うピアノの選定へのこだわり、ライブ録音を行うまでの取り組み方− は実に勉強になった。 こういう思索からあの演奏とディスクが世に問われたと考えるとCDを聴くときも心して聴かねばと考えるほどだ。     発した次の瞬間から無の中に消えていく宿命を持つ音楽という芸術表現においては、それを記憶にとどめられるのはほんの一部かもしれない。この本は、やがて静寂に包まれていく音に想いを馳せ、そして静寂から音楽を紡ぎだしていこうとするアンドラーシュ・シフの人柄、ここまでの道のりと決意表明を知る端緒となることであろう。      最後に付け加えると、このピアニストは我々聴衆にも容赦はない。「コンサートの聴衆のための十戒」と題した一文も載せている。音楽を娯楽的・刹那的に消費するのでなく、ピアニストと共に音楽の探求に対して「共同作業」を求めている。 ここに書いてある我々へのメッセージは大いに共感できる。演奏中にもかかわらず携帯音鳴らしたり(切り方わからないなら家に置いておくかクロークに預けるべき!)、ガサガサ探し物(飴玉?)を始める人、プログラムをバサッと落とす人(眠気に襲われましたか?)、派手にくしゃみする人(せめてハンカチ使うのが最低限のマナー)、音の響きが消え入る前にバチバチ手を鳴らしブラヴォーを叫ぶ闖入者(論外)・・・。  それらがいない状態で、シフに代表されるような匠の手で奏でられた芸術作品を匠と一緒にホールで共有出来たら・・・これほど幸せなことはないだろうと考えながら本を読み終えた。 またしばらくしたらはじめから読み返すだろうと思う。いや、読み返したい、何度でも。

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