メトロポリタン歌劇場における歴史的公演集〜9つのオペラ全曲 メルヒオール、フラグスタート、ホッター、ヴァルナイ、他(25CD)
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mari夫 | 東京都 | 不明 | 2016年06月07日
「オランダ人」。デッドな音(その分明快ではある)も相俟って、ライナーの指揮はモノクロ時代のアメリカの活劇映画のようにハードボイルドだが、それをバックにホッターとヴァルナイの黄金コンビが理想的な名唱を繰り広げる。ホッターの述懐の深さ、ぐんと遅いテンポのバラードにおけるヴァルナイの憑かれたようなゼンタ。エリックが馬鹿にいい声と思ったらスヴァンホルムとは恐れ入った。スヴェン・ニルソンのダーランも水準を超えている。デッドな音で損をしているのは合唱で、雰囲気と奥行き感に欠けるが、まぁ仕方がないか。 「タンホイザー」。序曲の出だしから少しの思い入れもタメもなく開始するセルだが、チェロの合いの手に力が籠るとどんどん盛り上がり、ヴェヌスブルグも、版が違う(ドレスデン版)のですぐに終ってしまうが、各幕の幕切れはクールなセルとは思えない凄い迫力。ヴィナイのタイトルロールは野太い戦前風の英雄テナーで立派。ハーショウのエリザベットは美声ではないが、出だしから力が入った熱演。珍しい(?)ヴァルナイのヴェヌスとの違いもはっきり。ロンドンのヴォルフラムも後年のような品のない声でなくまずは及第。 「ローエングリン」は、オケが少々寸詰りぎみの音だが、ラインスドルフは、二幕の二人の女声のやりとりの背後のオケとエルザの大聖堂への入場のシーンなどはなかなか切々として聞かせるし、三幕の前奏曲も颯爽としている。メト・デビューして間もないヴァルナイのエルザは若々しいが、勁い声で白鳥の騎士などいなくとも自分で難関を解決しそう。メルヒオールは大分太った姿の写真が興ざめで、かつ遠方からの声が不調を思わせたが、近づいてくるとさすがに凄い。ただ最後の別れは少々泣きすぎで古めかしい。ワルターの最初の「大地の歌」のソロだったトルボルクのオルトルートは期待ほどではない。適役ではないのかも。スヴェドのテルラメントは少々大げさだが悪くない。 「ラインの黄金」は録音は悪くないが、指揮、歌手共にどうということはない。飛び抜けているのはホッターだけ。ドンナーなんか情けない声の田舎芝居だし、アルベリヒも声が出ない。日本人だけの公演だって今ではこれよかずっとうまい。 「ライン」より11年も前の「ワルキューレ」は、鮮明さに欠ける音。ラインスドルフはこれで大分損をしているような気がするが、前年に急死したボダンツキーの代りとしてメトのワグナー路線を背負った彼はまだ30歳前で歌手やオケから軽く見られていたというが、むしろ健闘の部類。メルヒオールのジークムントはさすがに素晴らしく、一幕で父ヴェルゼに呼びかける悲痛な叫びの素晴らしさよ。この威力には抗し難い。マージョリー・ローレンスのジークリンデは、旧式だし特筆する所のない声だが、体当たり的な歌唱でメルヒオールと拮抗している。ブリュンヒルデのフラグスタートはさすがに立派だ。その後のヴァルナイにもニルソンにもないひんやりとした気品と神聖な風格があるが、戦後のものよりさすがに若々しい(ただし録音の関係で高音が割れるのが残念)。ヴォータンのヒューンは聞いたことのない名前だが、当時のメトの看板ワグナー・バリトンだったらしく、アメリカ人だが立派な歌唱。しかし二幕の最後で二人の千両役者が交錯する部分の途中から音が更に貧弱になり(レンジが狭い)、二人のディグニティを弱めているのは残念。この問題は三幕にも継続され、熱演なのに今ひとつもどかしい。しかしそれでも幕切れはやはり感動的。 ボダンスキーの「ジークフリート」はさらに三年前の録音だが、音は「ワルキューレ」よりむしろ聞き易い。この演奏を有名にした山崎浩太郎氏の記述だとリマスターの出来不出来が多いとのことだが、これがどっちなのかは分からないが、メトに保存されていた音源からの復刻という触れ込みでもあり、この年代のライブでこれよりいい音は期待しづらい。ボダンスキーの指揮は、この時代として驚くほどデフォルメがなく、テンポも速めなモダンな演奏で、緊密にして迫力も不足しておらず、今のヤノフスキを思わせる。ロマン的と言うよりむしろザッハリッヒなワグナーだからアメリカで受けたのは良くわかる。歌手陣も充実している。フラグスタート(目覚めのシーンの凄い声!)とメルヒオール(ノートゥングを鍛える二つの歌のますらお振り!けどボダンスキー・カットというか繰り返しの省略で短い。メルヒオール良く納得したなぁ)の千両役者ぶりはいうまでもないが、ホッター以前の名ウォータンであったショルの高貴な歌唱、三幕でそれと渡り合うトールボルクのエルダやラウルケッターのミーメも素晴らしい。例外はハビッヒのアルベリッヒで、いささか情けない声だが、出番少ないのでまぁ許容範囲内。 同じボダンスキーの「神々」は「ジークフリート」より一年しか前ではないのに、原盤の状態が悪かったのか、音が大分悪いのが残念。レンジが狭いというか音がかなり潰れている。ノイズも凄い。許容範囲外と感じる人も少なくないだろう。カットもあって快速の「神々」だが、一幕の二重唱から「ラインの旅」にかけてはそのまま一気に奔流のような盛り上がり。二幕中盤の進行も一気呵成で見事。流れで引っぱるタイプなのかもしれない。音の悪さが恨めしい(葬送行進曲はこの音ではさすがに厳しい)。でも終幕はそれでも感動的だ。ここではブリュンヒルデはフラグスタートではなく、前記ジーグリンデだったローレンスで、同じように体当たり的な歌唱だが、神聖感はないし、自己犠牲ではやはり弱い。メルヒオールは申すまでもなく、無比のジークフリート。死の場面の感慨の深さは彼が不世出のジークフリートであったことを、この音の中でも感じさせる。凄いのはルードヴィッヒ・ホフマンのハーゲンで、フリックをも凌ぐかもしれない憎々しさ。 黄金コンビに加えてボダンスキーがタクトをとる38年の「トリスタン」は比較的珍しい音源らしいが、音自体は明快なもののレンジが狭く、特に低音がでないのが惜しい。演奏は前奏曲(モダンな指揮と思ったらポルタメント続出。三幕のはもっと凄くてメンゲルベルクばり)からして素晴らしいのに。幕が開くとフラグスタートは最初から絶好調。後年のフルトヴェングラー盤よりずっと若々しく力に溢れている。レンジの狭さは女声にはあまり気にならないが、男声のとくに低い所がラッパ吹き込みみたいで、クルヴェナールのヒューンは立派な声(すぎるかも)なのに惜しい。二幕は名高い(?)ボダンツキー・カットが凄いが、不自然に途切れるわけではないし、音楽は白熱を極める。二人の主役はいうまでもなく「神」の歌唱で、ブランツェルのブランゲーネも錦上花を添えている。エマニュエル・リストの得意役マルケ王も立派。 「名歌手」はこの中では録音も新しいだけ良好。ライナーの指揮はメリハリと推進力をもった見事なものだが、前奏曲など結構大きなアゴーギグを多用し、必ずしもザッハリッヒではない(ロマンティックともいえないから、ドラマティックというべきか?)。二幕のロマンティックなところとドタバタのさばきもうまいものだ。三幕の祭典性にも欠けるところはない。歌手は皆優れている。男性中低声部があまり区別がつかない点が難点だが、当時のウィーンでの代表的ザックスだったシェフラーのザックスはうまいし、ロスアンへレスのエーヴァは、多分ドイツのリリック・ソプラノ風にしようというのか常々の彼女とは違う硬質な声の作りでアンサンブルに溶け込んでいるし(でも本当に彼女?)。ホップのワルターもとても良い。名演である。超長文失礼しました。7人の方が、このレビューに「共感」しています。
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フォアグラ | 愛知県 | 不明 | 2013年04月20日
メト正規録音とはどういう意味かよくわからないのだが、確かにこれまで出たワルホール、ダンテ、アーチペル、ナクソス等より音質が向上しているものが多い。演奏はどれも白熱、迫真的なもので(ラインスドルフの指揮のみ情感不足)聴きごたえ充分。とりわけ傑出しているのがライナーの「オランダ人」「マイスタージンガー」、セルの「タンホイザー」、ボダンツキーの「ジークフリート」。ライナーの指揮はこの人の懐の深さを感じずにはおれないし、セルの「タンホイザー」は同作の最高の演奏だと思う。いずれも音質改善で歪がなくなったのはありがたい。ボダンツキーの「トリスタン」は37年盤に比べると演奏、音質とも劣るが、それでもこれだけ灼熱の「トリスタン」はボダンツキー以外になく初登場は感謝。こんなに安いのに豊富な写真入りの解説書がついているのもいいが、これを買う人でワーグナー初体験の人はいないだろうから、あらすじは不要。歌手解説を充実してほしかった。5人の方が、このレビューに「共感」しています。
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トラトラトラ | 佐賀県 | 不明 | 2013年04月13日
パルシファルは入っていない。それ以外は、主要なオペラは網羅されている。音は、素晴らしいと思う。当時の劇場の雰囲気とか熱気が生々しく蘇ってくる。演奏は、大物歌手を中心に据えた演奏であるように思われる。 しかし、指揮者は水準が低いというわけではない。ボダンスキーもウィーンでマーラーの助手をやっていたそうだ。ただ、自分の個性を強引に押し出さない。まずは、大物歌手が前面にでる演奏。それでいて、正当派のしっかりした演奏である。いま、こういうスタイルは絶滅している。それだけに、この体験は、とても新鮮である。8人の方が、このレビューに「共感」しています。
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