ピアノ作品集 三船優子
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いましゅう | 東京都 | 不明 | 2009年10月26日
最近の現代音楽の演奏の中でも稀にみる、ハイレベルの完成された演奏が楽しめる一枚である。 左右の手にバラバラなリズムと運動を要求する、バーバーのピアノ・ソナタは、譜面をさらうだけでも至難の業であるのに、三舩優子はこの超難曲を、いとも簡素でクリアな構造に仕立て上げ、クラシック音楽をあまり聴いたことのない者にも親しみやすく、わかりやすい音楽に再生させた。 このCDの彼女の演奏では、この複雑な大曲の構成やフレージングの網の目が見事なまでに解きほどかれ、楽譜をざっと追うだけではわからない、無秩序なまでにもつれ交錯した音の羅列がきちんと「秩序」づけられて整理され、リスナーの前に「端正なるソナタ形式」の現代楽曲の形で披露されている。 ともすれば無味乾燥で抽象的、意味不明の演奏に流れてしまいがちな、このソナタの文法構造をここまで鮮明化し浮かび上がらせることに成功した演奏は、おそらく過去のいかなるピアニストのレコーディングにもない、特筆すべきものであろう。 このCDに収められているソナタ以外の作品も、それなりに趣きがあり、次々と交錯する音の洪水の中で一筋、凛とした気品と美しさ、透明感を輝かせている。これらも偏に、奏者の曲のモチーフや構造に対する深い読み込みと、強弱と緩急のバランスを自在に駆使した色づけができなければ、これほどまでの明快なテクスチュアを描き切ることはできない離れ業ばかりである。 一曲一フレーズへの細かい色づけの結果、曲全体の雰囲気も極めて特徴あるものに仕上がっている――『間奏曲』がかもし出す静けさと安らぎ、一瞬の沈黙の深い意味。作品『遠足』の軽快なリズムの裏にある作曲者自身の遊び心や悲哀。 バーバーの音楽は、音の重なりとともに、その間につねに繰り返し現れる「沈黙」の瞬間が、もうひとつの「音」としての実に重要な役割を与えている。まさに「沈黙」も「音」の一種であり「音楽」の不可欠の構成要素であることを、これほど直截的に感じさせてくれるのは、バーバーならではの醍醐味だ。 この作品集は、長年レコーディングの構想を温めてきた、バーバーの演奏にかけては絶対の自信と深い愛着をもつ、三舩優子ならではの快挙であり、本人のデビュー20周年記念を飾るに相応しい記念碑的演奏である。6人の方が、このレビューに「共感」しています。
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