カラヤンよりも41歳も年長のトスカニーニのステレオの確認されている全記録である。トスカニーニはNBC時代の後期、特に速いテンポをもてはやされ、評論家からその程度の指揮者と扱われていた時代がある。特にフルベンファンは冷酷であった。実際はイタリアの作曲家は勿論ドイツ、ロシア、チェコ、アメリカ、フランス物でも大変な名演を残した20世紀最大の指揮者の一人である。引退間際の悲愴とセビリアは特に優れた演奏で、肩の力が抜けながら彼らしい緊張感を維持した非常に含みのある名演である。悲愴の第三楽章のフィナーレ数秒が当時ステレオのデモの為、テープを切られ、それをモノの別録音で補っている。だから商品にならなかった為、長らくお蔵入りであった。ワーグナーも十分な音質でステレオ感が楽しめる。全盛期より力みが抜けて自然な流れの演奏である。ヴェルレクはまさかのステレオ。左右に置いたマイクによるステレオ効果だが、意外とステレオ感があり楽しめる。演奏は正に同曲の極め付きであり、従来モノしかなかったが代表版であり。これがステレオとなると今後他のステレオ録音へ順位で食い込んでいく可能性は十分ある。大変な名演である。結局はトスカニーニとその後継者とも言われたカラヤンが20世紀を年初から1989年まで支えた。そこへドイツ音楽専門家のフルベンが加わり、指揮者全盛期を謳歌した時代であった。1989年はベルリンの壁の崩壊、中国での天安門虐殺事件、更にソ連崩壊の萌芽ができ、昭和から平成に変わり、更にカラヤンが死んだという大変な年であった。そのカラヤンが最も尊敬したトスカニーニのステレオ記録は人類の宝であると思う。強烈にお勧めします。私は戦前含めトスカニーニの全録音をライブを含めほぼすべて収集している筋金入りのファンだが、これは特に素晴らしいです。