【インタビュー】ILL-BOSSTINO [THA BLUE HERB] 『ラッパーの一分』

2016年08月24日 (水) 18:00

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昨年12月、年の瀬迫る東京は恵比寿LIQUIDROOM にて THA BLUE HERBが開催したワンマンライブが映像化される。残念ながら私は、このライブに行くことが叶わなかったのだが、今回の映像を観てその事をひどく悔やんだ。逆に言うと、今回のライブDVDは、実際にその場にいなかった者の心をもダイレクトに揺さぶる内容だ。tha BOSSとしてキャリア初のソロアルバムリリースを経たILL-BOSSTINOが、THA BLUE HERBで敢行したツアーファイナル。ソロアルバム収録曲はもちろん、THA BLUE HERBのクラシックスが惜しげもなく投下される。これまでTHA BLUE HERBは、何度となく自身の最高到達点を更新し続けてきたが、今回はそれをケタ違いに更新してきた。ソロ作での経験が、THA BLUE HERBをまた新たな未開の地へ到達させたように思うのだ。
ライブ映像作品『ラッパーの一分』のリリースを控えたILL-BOSSTINOに、今回もインタビューをさせて頂いた。今回で6度目のインタビューとなるのだが、BOSS氏の発する言葉の隅々に、そのライブ・作品に対する信念が宿っていて毎度驚かされる。また一段と深みを増したILL-BOSSTINOの“ラッパーの一分”に触れた気がする。
インタビュー・文:松井剛

今いる場所こそが“未来”


--- 僕は今回のリキッドに、行くことが出来なかったんです。なので、今回この映像で初めて観た事になるんですけど、驚きました。映像を見ているだけでめちゃめちゃ興奮したし、その迫力に見入って呆然とした。ライブ映像でこんなに興奮したのは初めてじゃないかというくらい感動したんです。だから実際、生で見た観客はもっとだったんだろうなと。だからBOSSさんにとってもTHA BLUE HERB史を振り返っても、最強のライブだったんじゃないでしょうか?

まぁ、毎回毎回THA BLUE HERBのライブは最強のつもりでやってるんだけどね(笑)それでも今回は、リリースツアーの最後/時は年末/場所はリキッドルーム/チケットはSold Out/映像を撮っている…いろんな条件が重なっていて、そのどれか一つが欠けても作品まではいってない。そういう意味では特別な夜だったね。

--- 年末というのも条件としては、大きいですよね。

そうだね。お客の解放感が全てだと思う。仕事も休みに入って「ここで楽しまないでいつ楽しむ?」っていう空気が会場には充満してたんで。

--- 僕はこの映像を観させて頂いて、第一幕の終盤「LIVING IN THE FUTURE」(15年)、「未来は俺等の手の中」(03年)、「THE WAY HOPE GOES」(05年)の未来・希望をテーマにした曲の連続が特に凄過ぎて、トばされたというか。BOSSさんの作品の中に、「LIVING IN THE FUTURE」が加わったことはすごく大きかったのではないでしょうか?

自分が今いる場所こそが“未来”だっていう事に対していかに自覚的になれるか。自分たちは“過去”から見た“未来”だと思ってた場所でこうやって生きているわけだからね。「未来は俺等の手の中」「THE WAY HOPE GOES」を作っていた頃は、“現在”から“未来”を見るというスタンスで曲を作っていたと思う。それは、THA BLUE HERBの広がりも、自分の世界観の広がりも含めて、まだまだこれからっていう場所に自分がいたから。「LIVING IN THE FUTURE」になってくると、確実に自分が“未来”にいる。それは、自分には子供はいないけど、仲間の子供たちの存在も含めて、確実に次の世代が存在しているからなんだよね。
「LIVING IN THE FUTURE」で自分が“未来”にいる事を自覚して、「未来は俺等の手の中」にいくと、自分が“過去”に居た場所に立ち戻れる。つまり「LIVING IN THE FUTURE」を作った事から発展して、THA BLUE HERBの曲と組み合わせる事によって、また新たな時間軸を作っていける。そういう意味で、その流れは濃厚な瞬間ではあるよね。

--- 東京のオーディエンスとの歴史も長くなりましたね。

そうだね。一言で東京といってもいろんな地域があるから簡単にはくくれないっていうのはあるんだけど、今は札幌よりも東京でライブをやる数の方が圧倒的に多い。1年に3〜4回、多いときは5~6回っていうのを十数年間続けてきた。札幌は自分が住んでいる街だし、そこで感じるライブの雰囲気っていうのは他のどこにもない特別なもので、僕らの人間的な変化っていうのは、札幌の人たちが一番わかっている。けど、東京のオーディエンスはTHA BLUE HERBの音楽の変化・進化を一番感じてくれている人たちだと思う。

--- MCでも「1年間の成功はこの夜にかかっている」と仰っていましたが、ソロアルバム制作に没頭した2015年は、BOSSさん自身の「ラッパーの一分」を改めて見つめなおした1年でもあったのでは?

確かに2015年はソロアルバム制作にあたって、一人のラッパーとして何が出来るか?っていうのが1年間を通じてやってきた事だったんで、自ずと自分がラッパーであることを特に意識した1年だった事は間違いないね。最近はフリースタイル・バトルが、一つのブームにもなる中で、“ラッパー”っていう存在自体、その言葉のとらえ方自体が多様化している。そんな中、俺自身は“ラッパー”として何をやっていくのか?俺はどういう事を譲れない一線として持って活動しているのか?っていうのをはっきりさせたかったし、DVDのタイトル『ラッパーの一分』には、そういう意図も入っている。

※一分…それ以上は譲る事の出来ない名誉や面目

--- 確かにフリースタイル・バトルの即興で構築していく面白さと、THA BLUE HERBのライブや音源のように、ストイックに作りこまれた世界観は、同じHIP HOPの中で起こっている出来事とはいえ、全く別物ですよね?

フリースタイル・バトルって、ある意味コネも何も必要のないフェアな世界じゃないですか?THA BLUE HERBを始めたばかりの1997年に、この状況だったら俺も参加していたかもなとは思う。でもそこから19年後の世界に俺は現にこうやって生きていて、19年先のHIP HOPをやってる。誰かの落ち度や欠点を突いて自分の優位を証明するというバトルはHIP HOPのスタイルのひとつだって事は否定しない。でもそれは僕のキャリアの中ではイントロに過ぎなかったし、それだけでは絶対にここまで来れていないはずなんだよ。
もしかしたら今から19年後の世界に、フリースタイル・バトルだけを突き詰めて行った人がいるかもしれない。僕が2時間45分かかったことを、たった16小節・即興で言い当てるような天才が現れるかもしれない。そこまで出来るならやってほしいとは思うけど、僕は僕で19年間培ってきた事があって、今もそれを探求してる。だから、フリースタイル・バトル全盛の時代、そういう時代に一人くらい2時間45分のライブをやって、作品として残すヤツがいてもいいんじゃない?っていう感じだよ。こういうHIP HOPもあるぜ、みたいな。どっちがHIP HOPかっていう議論はどうでもいい。

--- 6月のマンスリーリポートの中で言っていた「今も音楽の神秘を追い求めている」という事に尽きますね。

そうだね。バトルであったり、他人様との勝ち負けだけがHIP HOPだと思っているとしたら、まだ入口だ。HIP HOPはもっと深いぜって感じだよ。

もはや優劣をつける勝ち負けではない


--- 成功かどうか、あるいは勝ち負けという表現も使ってらっしゃいましたが、BOSSさんがライブの場での勝ち負けを判断する基準というか。何をもって勝ちなのかという線引きはありますか?

最後にお客がいい顔してるかどうかだね。お客が支払ってくれたお金、このためにとっておいてくれた時間を無駄にしなかった事を俺が実感出来たら勝ちだね。要するに、もはや優劣をつける勝ち負けではないんだよね。

--- これだけのライブを完成させるために、「言葉を筋肉や血管に染み込ませる」という言葉にもあった通り、相当な修練を積み重ねていると思うのですが、それだけやっていても、今回のYOUさん(YOU THE ROCK★)みたいにステージの何者かに食われる時もあるんですよね?あのシーンもノーカットで収録されていることに、すごくリアリティを感じるというか。

そうだね。「ステージの怖さ」「負けの痛み」っていうのは、僕が今まで表現したことがない事だった。僕はある意味負けから始まってはいるけれど、THA BLUE HERBでこの世界にエントリーしてから、でかい負けは一度もないままここまで来てると思ってる。でもYOUはおそらくいろんな痛みを経験してきて、去年の暮れにまた大きな挫折をあの場所で味わったわけで。だから「負けを知っている分だけ、あいつは俺よりも強いかもな」って初めて思った。俺が逆に同じ立場だったらDVDに収録なんて絶対に断る。アーティスト以前に一人の人間の強さを感じた。競技での負けは、多々ある負けの一つなんだけど、彼があの場所で味わった一つの負けっていうのは、重みが違う。取り戻したり、そこを乗り越えるのは…シビアな世界だよね。



--- ライブ中に披露したエピソードの中に、Gang Starrが札幌に来た時の話があったじゃないですか?アフターで。。。って話。(※エピソードはDVDでご確認を)そういうさらけ出すようなエピソードもこれまでは、話すことは無かったですよね?

YOUのあの姿を直前に見たからこそ、そういう自分も出てきたのかもしれないよね。ライブがスタートしてから1時間半は、僕とDJ DYEだけの世界。だから、全て僕らのシナリオで進めていけたんだけど、そこにYOU THE ROCK★が入る事で当然予想していないケミストリーが生まれる。さらにそこにB.I.G. JOEが入って、僕とDYEだけではない世界観を彼が提示する。俺の表現も、やっぱり瞬時にそこから影響を受けるんです。だからあの時間が特別な時間になったんだと思う。

あの瞬間が札幌のHIP HOPの一つの到達点


--- 同じ札幌の同士ともいえるB.I.G. JOEさんと東京で共演するというのは感慨深いものがあったのでは?

そうだね。しかも歌っているのは俺とB.I.G. JOEが過ごしてきた札幌の物語だからね。東京の人が、その物語の中に自分を発見し、何かしら共感してくれてる。俺とB.I.G. JOEは、昔の札幌、凄く閉塞的なところでずっとHIP HOPをやってきた。だから、あの瞬間が札幌のHIP HOPの一つの到達点だとすら思うね。

--- 今回はもう一人、般若さんが出演されています。般若さんもBOSSさんとはやはり違ったタイプの“一分”を持ったラッパーですよね。

そうだね。すごいテクニカルだし、パンクだし。確かにタイプは違うけれど、アティテュードという点において、近いアーティストだと思ってる。般若は、俺の提示したラッパーの一分とは対照的なMCバトルのシーンの中で、しかも一番難しい役割を背負っているわけじゃない?そんな人が、年末の忙しい時期にこっち側にまできて楽曲を披露した。そこに般若の一分を見た気がする。フリースタイルこそが彼にとってのラッパーの一分のように見えるけど、実はライブ・作品にその一分を置いているように俺は思う。般若のフリースタイルはもちろん凄い。それ以前に彼はライブと作品の人。1MCでお客とどう向き合うか、ワンマンでどう表現するか、運営はどうすべきかっていう点において俺らと昭和レコードは近い。お互いに影響されあっていると思ってる。

--- MCバトルのシーンにいながら、あれだけのクオリティのライブと作品を作れる稀有な存在ですよね。

そうだね。そういう人は他にいないよ。俺はライブと作品制作に、持てる時間と労力を全て投入して生きてるけど、般若はそれプラスMCバトルだからね。凄いなと思うよ。

そこには「誰VS誰」っていうのは結局一つもなかった


--- ライブの終了後は、お客さんもいい顔してましたよね。

そうそう。それに尽きるよ。
あの日って面白い日で、新木場STUDIO COASTではUMB決勝があって、渋谷club asiaではAs ONE、MCバトルの中でも注目のイベントが開催されていた。
そんな中、リキッドルームで俺らがやってて、そこには「誰VS誰の勝ち負け」っていうのは結局一つもなかったんだよね。2時間45分のライブはそれ自体が「VS 自分」の大勝負だけどね。何よりそれを楽しんでくれるお客がいてくれて良かった。俺らが19年間やり続けてきた事だけがそこにはあって、そこに価値を見出してくれる人がいてくれるから、俺も自分を信じられるんだと思います。

--- ソロアルバムを完成させて、そしてこのツアーを終えて、次はいよいよTHA BLUE HERBの新たな作品かなと思うのですが。

俺が普段仕事をしているTHA BLUE HERBの事務所は、札幌のアパートの2階で、隣がO.N.Oのスタジオという作りになってる。壁が薄くて音がよく聴こえてくるんだけど、最近はその音に耳を澄ませる事が多くなってきたね。これは俺のビートかなとか。でもまだだね。今年12月までライブびっしりなんで。
まぁ、来年THA BLUE HERBは20周年なんで、そこに向けてなにか面白い事や、面白いプロダクトを作ろうっていう事くらいは考えてるけどね。

--- 楽しみにしています。有難うございました。


作品情報


THA BLUE HERB
『ラッパーの一分』
DVD(トールケース、デジパック仕様)
発売日 : 2016年08月24日(水)
価格 : ¥3,241(税抜)

収録時間: 2時間45分

監督: 川口潤

初回店頭特典
ライブで使用してきたインストのビートジャック音源をスタジオで新録したCD(8曲収録)
※特典は無くなり次第終了となります。ご購入前に必ず商品ページにて特典の有無をご確認下さい。

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ラッパーの一分

DVD

ラッパーの一分

THA BLUE HERB

価格(税込) : ¥3,500

まとめ買い価格(税込) : ¥2,766

発売日: 2016年08月24日



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