--- ご出身は、ノース・ロンドンだそうですが、幼少の頃は、音楽的な面も含めてどのような環境で育ったのでしょうか?
ナッティ ボクが育ったところは、文化的にとてもミックスされた場所だったんだ。ノース・ロンドンというのは基本的に、同じブロックだったり通りだったりに、金持ち、貧困者、黒人、白人・・・色々な人が住んでいるって感じの地域なんだ。実際、想像し難いかもしれないけど、通りひとつ挟んで、弁護士や医者が住んでいるブロックと、ノース・ロンドンでも一番危険な区域が混在してるっていうね。まぁ、そこがいいところでもあって、そういう意味でも、ボク自身は、文化的には多種多様で幅広い影響を受けてるって言ってもいいかもね。
音楽的な部分で言うと・・・例えば、ボクの両親は、ビートルズ、ボブ・ディラン、ピンク・フロイドのような60年代のクラシックをずっと聴いていて、同時にレゲエもよく聴いていたんだ。厳密には、60年代、70年代のロック全般は、父親からの影響で、レゲエ、ソウル、モータウンなんかは、母親からの影響なんじゃないかな。幼い頃はそういった感じだったんだけど、思春期ぐらいになると、ヒップホップ、ガレージ、ジャングル・・・何でも聴くようになったんだ。あと、ジャズなんかもね。
--- 10代の頃は、ヒップホップ・トラックの制作に勤しんでいたそうですね。そういう意味では、ご自身の音楽的バックグラウンドには、ヒップホップから吸収/昇華したものが色濃く反映されていると言えそうでしょうか?
ナッティ う〜ん、それについては、イエスとも言えるし、ノーとも言えるかな。リリックの面から言えば、ボク自身のリリックの書き方っていうのは、ヒップホップ・アーティストからの影響は大きいんだけど、それと同時に、ボブ・ディランやニール・ヤングみたいなフォーク系のアーティストからの影響も大きくて、その両方の要素がバランスよく含まれているって感じだと思っているよ。
逆に、サウンド面では、あまりヒップホップ的な要素は強くないと思うよ。やっぱりボクの音楽っていうのは、コンピューターやサンプリングを駆使したものではなく、生音で、全部アナログで録っているからね。途中でミスをしても、止めずにそのまま録り続けているんだ。ライヴのフィーリングを大事にするためにね。ただやっぱり、リリックの面では、ヒップホップからの影響はすごく大きいけどね。
要するに、ボクの音楽は、レゲエ、フォーク、アフロビート、そして、ヒップホップ。これらの要素がミックスされたものだと思っているんだ。ロンドンでは、ボクらがやっているようなタイプの音楽を「バック・スカンク」って呼んでいるんだ。ロックなんかの「バック・ビート」と、レゲエの「スカンク」とを合わせたって意味でね。
--- 今、お話しに出てきたボブ・ディラン、ニール・ヤングのような、所謂、シンガー・ソングライター系の作品を普段から好んで聴いているのでしょうか?
ナッティ そうだね。シンガー・ソングライターの作品はかなり聴いてるね。「何か意味のあることを言わなければならない」みたいな使命感や責任感を持っている人たちだよね。それから、人がいて、ギターがあって、歌があるっていう、そのシンプルさが何より魅力的で、ボク自身が音楽を始めたきっかけでもあるんだ。今現在のボクの音楽っていうのは、そういったシンプルなシンガー・ソングライター・スタイルに、レゲエやヒップホップの要素をミックスして、新しいスタイルのものを作り上げる。でも、プリンシパル的なところは、オールド・スタイルっていう感じになっているんだ。
--- ちなみに、オールタイム・フェイヴァリット・アルバムを2、3枚挙げるとしたら、どのような作品をセレクトしますか?難しい質問かも知れませんが・・・
ナッティ フェラ・クティ、ニール・ヤング、それから・・・バーニング・スピアかな。彼らのアルバムはどれも最高だよ。いま実は、バーニング・スピアと、もう1組別にヒップホップのアーティストの名前を出そうとしたんだけど、いや、やっぱり違うなぁって(笑)。しかも、バーニング・スピアの名前を出してから、やばい!ボブ・マーリーもあったなって(笑)。とりあえずは、この3組の作品全般だね。
--- ケイト・ナッシュやアデルらとツアーを回っていたそうですね。比較的年齢の近い彼女たちと行動を共にするというのは、ある意味、有意義であったのではないでしょうか?
ナッティ たしかに、彼女たちと世代は一緒なんだけれどね。アデルは、素晴らしい曲が何曲かあるよね。彼女の声は本当にスペシャルだよ。ケイト・ナッシュも、アデルとは少し違ったタイプのシンガーだけど、彼女自身のパーソナリティには特別なものがあるよ。
ただ、彼女たちの楽曲が、自分にインスピレーションを与えてくれるかどうかは全く別の話で、単純に好きではあるけどね。お互いに敬意を払ってはいるものの、自分の音楽観を変えるほどの影響力まではないというか、インスピレーションという部分では、ちょっと違う存在かな。
ボク自身、イギリスにいようがどこにいようが、音楽に対するスタンスは一緒なんだ。要するに、今時のものをそんなに聴いてはいないんだ。地元にいる時でも、流行りものがかかるようなクラブに行くよりは、いつも仲間とつるんでたりって、今時なものとはほとんど無縁なところにいるんだよね。
--- 学校卒業後は、ロンドンのSphereスタジオでエンジニアとして働いていたそうですが、その当時はそちらの道を志していたのでしょうか?
ナッティ そうだね。エンジニアというかプロデューサー志望だったんだけどね。あくまでエンジニアは、他の人の音楽制作の手助けになるっていう部分でやっていたところもあって。仕事で他の人の音楽をサポートして、余った時間で自分の音楽を作ったりして、ある意味、大学に通ってるぐらい、このスタジオで多くのことを学ぶことができたんだ。
--- リー・ペリーのサポート・アクトを務めたこともあるそうですが、その際、同じスタジオ・エンジニア/プロデューサーからパフォーマーへの転身者として、ナッティさんご自身「彼の歩んできた道のりは、今まさにボク自身が進もうとしている道なんだ」とおっしゃっていました。
ナッティ リー・ペリーは、本当にすごいことをやってる人だからね。自分と比較するなんてホントは恐れ多いんだけど・・・ただ、そのコメントっていうのは、リー・ペリー自身の中に「音楽のヴィジョン」というものを感じることができるっていう意味で言ったものだと思うんだ。テクニックや音・曲作り云々のレベルじゃなくてね。
例えば、エンジニア時代なんかもそうだったんだけど、他の人の音楽を聴いてたりすると、音のヴィジョンが見えてきたりすることがあるんだ。その当時は、ミュージシャンに対して、「ああしろ、こうしろ」って指図する立場にいなかったから、そのヴィジョンを伝えることはできなかったんだけどね。
それと、リー・ペリーの実験的なところにもシンパシーを感じているよ。ボク自身も実験的なことをやりたいと常に思っている人間だからね。そういう意味でも、敬意を払っているし、本当に偉大なアーティストのひとりだよ。
--- Sphereスタジオで学んだことというのは、やはり、今回のアルバム『Man Like I』でもしっかり反映することができたと言えそうですよね。
ナッティ 間違いなくそう言えるね。クレイグ・ドッズとジョニー・ダラーとの共同プロデュースになるんだけど、以前にそうしたスタジオ・ワークの経験がなかったら、今回のようなアルバムは制作できなかったと思うよ。スタジオ作業の中で、自分が何をするべきかっていうのが、きちんと分かっていたからね。ボクにとってスタジオは、第2のホームみたいなものなんだ。
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